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14 Summer Vacation
Summer Vacation 3
ちょっと険悪な雰囲気でスタートした今日のデートだったけど、会えない期間の埋め合わせをしてくれるかのように、今日の川島君は、いつもよりやさしかった。
たくさん話をしてくれて、ふだんよりいっそう、愛おしむようにキスをし、愛してくれる。
こうやって、やさしく川島君に抱かれて愛されていると、わたしの怒りも苛立ちも溶けていって、川島君を受け入れている快感だけが、からだの隅々にまで広がって、甘い気持ちになってくる。
そういうのって幸せなことだし、愛情も深まってきて、川島君のわがままも許せる気になってくる。
う~ん。
でも、なんだかずるい気もするなぁ。
こうやって、からだを武器に懐柔するなんて。
だけど、そんな甘いデートも終わり、送ってもらった家の玄関先で、川島くんの赤い『フェスティバ』が走り去るのを見送ってしまうと、余計に淋しさが募ってくる。
今日一日たくさんやさしくされた分、しばらく会えない現実が、重くのしかかってしまう。
別れたばかりなのに、もう会いたい。
でも、これからふたりとも試験期間に入るし、川島君とはしばらく、ゆっくりとは会えそうにない。
せっかく川島君と迎える、はじめての夏休みなのに…
海とか、山とか、川島君といろんな所に、遊びに行きたかったのに…
楽しい思い出がいっぱい作れると思って、ひそかに計画も立てていたのに…
なのに、そんなわたしのことは放ったらかして、川島君はひとりで、自分のしたいことをして、東京なんかに行くなんて…
わたしのことなんて、もう、どうでもいいの?
そりゃ、川島君はカメラマンになるのが夢であり目標で、それを追いかけたいのはわかるけど、犠牲にされるわたしの気持ちは、考えてくれたことがあるの?
入選した写真にしても、わたしとみっこが写っている写真を、断りもなく勝手に使うなんて。
川島君にこんないい加減で、自分勝手な面があったなんて…
あ… いけない!
思考回路がどんどんネガティブになっていってる。
「ま… いいか。去年みたいにみっこと遊ぶかな」
玄関の引き戸をうしろ手で閉めながら、わたしはそんなひとりごとをつぶやいた。
気分はすごく落ち込んでいるんだけど、なんとか気持ちを切り替えて、わたしは川島君抜きの夏休みを過ごす覚悟を決めた。
みっこからその話を聞いたのは、川島君とデートした次の日。講義の合間に寄った、いつもの大学のカフェテリアでだった。
「みっこは夏休みはどうするの? 去年みたいに、またふたりでバカンスしようよ」
「…ん。それなんだけど…」
ペットボトルの『午後の紅茶』を飲みながら、少し言いにくそうに、みっこは切り出した。
「実はあたし… 夏休みの間、東京の家に戻ろうと思ってるの。モデルの仕事もいろいろ入ってきたし、この夏は頑張って仕事して、今までのブランクを取り返そうかなって」
「ええっ? みっこも東京に行っちゃうの?! わたしひとりだけ、取り残されるってこと?」
「どういうこと?」
訝しげに首をかしげるみっこに、わたしは昨日の川島君とのいきさつを話した。
「そう? 川島君、星川センセのとこに来るんだ…」
「そうなのよ。だからみっこまで東京に行っちゃったら、わたしはひとりで『福岡で留守番』ってことになるのよ」
「そりゃ… さつきとはバカンスしたいんだけど… もう仕事入っちゃったから、東京に戻らないと…」
「…」
わたしはみっこのことを『東京に行く』と話すのに、彼女は『東京に戻る』と答える。
みっこはやっぱり、東京の人なんだ。
福岡の大学には、ただ、なにかを探しにやってきただけなんだ。
みっこの探していたものは、やはり、東京にある。
彼女の言葉のなかに、そんなニュアンスを読みとってしまったわたしは、もうそれ以上、なにも言えなかった。
つづく
たくさん話をしてくれて、ふだんよりいっそう、愛おしむようにキスをし、愛してくれる。
こうやって、やさしく川島君に抱かれて愛されていると、わたしの怒りも苛立ちも溶けていって、川島君を受け入れている快感だけが、からだの隅々にまで広がって、甘い気持ちになってくる。
そういうのって幸せなことだし、愛情も深まってきて、川島君のわがままも許せる気になってくる。
う~ん。
でも、なんだかずるい気もするなぁ。
こうやって、からだを武器に懐柔するなんて。
だけど、そんな甘いデートも終わり、送ってもらった家の玄関先で、川島くんの赤い『フェスティバ』が走り去るのを見送ってしまうと、余計に淋しさが募ってくる。
今日一日たくさんやさしくされた分、しばらく会えない現実が、重くのしかかってしまう。
別れたばかりなのに、もう会いたい。
でも、これからふたりとも試験期間に入るし、川島君とはしばらく、ゆっくりとは会えそうにない。
せっかく川島君と迎える、はじめての夏休みなのに…
海とか、山とか、川島君といろんな所に、遊びに行きたかったのに…
楽しい思い出がいっぱい作れると思って、ひそかに計画も立てていたのに…
なのに、そんなわたしのことは放ったらかして、川島君はひとりで、自分のしたいことをして、東京なんかに行くなんて…
わたしのことなんて、もう、どうでもいいの?
そりゃ、川島君はカメラマンになるのが夢であり目標で、それを追いかけたいのはわかるけど、犠牲にされるわたしの気持ちは、考えてくれたことがあるの?
入選した写真にしても、わたしとみっこが写っている写真を、断りもなく勝手に使うなんて。
川島君にこんないい加減で、自分勝手な面があったなんて…
あ… いけない!
思考回路がどんどんネガティブになっていってる。
「ま… いいか。去年みたいにみっこと遊ぶかな」
玄関の引き戸をうしろ手で閉めながら、わたしはそんなひとりごとをつぶやいた。
気分はすごく落ち込んでいるんだけど、なんとか気持ちを切り替えて、わたしは川島君抜きの夏休みを過ごす覚悟を決めた。
みっこからその話を聞いたのは、川島君とデートした次の日。講義の合間に寄った、いつもの大学のカフェテリアでだった。
「みっこは夏休みはどうするの? 去年みたいに、またふたりでバカンスしようよ」
「…ん。それなんだけど…」
ペットボトルの『午後の紅茶』を飲みながら、少し言いにくそうに、みっこは切り出した。
「実はあたし… 夏休みの間、東京の家に戻ろうと思ってるの。モデルの仕事もいろいろ入ってきたし、この夏は頑張って仕事して、今までのブランクを取り返そうかなって」
「ええっ? みっこも東京に行っちゃうの?! わたしひとりだけ、取り残されるってこと?」
「どういうこと?」
訝しげに首をかしげるみっこに、わたしは昨日の川島君とのいきさつを話した。
「そう? 川島君、星川センセのとこに来るんだ…」
「そうなのよ。だからみっこまで東京に行っちゃったら、わたしはひとりで『福岡で留守番』ってことになるのよ」
「そりゃ… さつきとはバカンスしたいんだけど… もう仕事入っちゃったから、東京に戻らないと…」
「…」
わたしはみっこのことを『東京に行く』と話すのに、彼女は『東京に戻る』と答える。
みっこはやっぱり、東京の人なんだ。
福岡の大学には、ただ、なにかを探しにやってきただけなんだ。
みっこの探していたものは、やはり、東京にある。
彼女の言葉のなかに、そんなニュアンスを読みとってしまったわたしは、もうそれ以上、なにも言えなかった。
つづく
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