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14 Summer Vacation
Summer Vacation 7
「やあ、いらっしゃい」
あたりを眺めていると、太くて張りのある低い声がして、リビングルームの扉から初老の紳士が現れた。
きっと、みっこのパパだわ。
そう感じたのは、その人がいつか見た写真と同じ人物だったのと、余裕のある落ち着いた仕草が、この洋館に馴染んでいたからだった。
「あ。は、はじめまして。弥生さつきと申します」
「さつきさん、だね。大学ではみっこがすっかりお世話になっているようで、どうもありがとう」
「い、いえ… 世話になってるのはわたしの方で。ロ… ロケとかにも連れていってもらったりして、いろいろありがとうございます」
なんだか緊張して、声がうわずってしまう。
だってみっこパパって、まるで校長先生みたいな貫禄を醸し出しているんだもの。
「さつきぃ~。お礼ならパパにじゃなく、あたしに言ってよ~。パパはなんにもしてないんだから~」
キッチンからひょいと顔を出して、みっこがわたしに明るく言う。
わたしの緊張を察してくれたのかもしれないけど、おかげで少し、気持ちがほぐれたみたい。
「はは。ご覧のとおり、みっこはわがままな子でね。さつきさんにもずいぶん迷惑かけたんじゃないかな?」
「そんなことないです。みっこと… 美湖さんといると、いつもドキドキワクワクさせられて、大学生活もとっても楽しくしてもらってます」
「ドキドキワクワク? わたしなんかどちらかというと、みっこには『ハラハラひやひや』させられることが多いなぁ」
「あ。わたしも結構、ハラハラすることもあります。美湖さんの行動には。でもそこがスリリングっていうか、楽しいですけど」
「あはははは。いつも呼んでいるように、『みっこ』でいいよ」
そう言ってみっこパパは愉快そうに笑った。
『大陸的』と表現したいような、包容力があって、大きな微笑み。
みっこを膝に抱いていた写真のように、大きく人を見守れそうな感じがして、安心できる。
「あ。これ」
福岡からおみやげを持ってきていたのを思い出し、わたしは手に持っていた紙袋をみっこパパに差し出した。
「つまらないものですけど、みなさんで召しあがって下さい」
「おや。ありがとうさつきさん。気を遣ってもらって、すまないねぇ」
そう言ってみっこパパは、『福砂屋』のカステラの入った紙袋を受け取る。
「あら? 『辛子明太子』じゃないのね? 福岡のお土産っていえば、『明太子』ってイメージがあるんだけど」
テーブルにお皿を並べながら、みっこがおみやげの包みを見て言った。
「明太子は夏場は痛みやすいから、日持ちのするカステラにしてみたの」
「『福砂屋』のカステラだね。わたしは長崎に行くと、必ず買って帰るんだよ。旨いんだよね、この底についたザラメの砂糖が。ほんとうにありがとう」
「パパ、カステラ好きだもんね」
「福岡は気候も穏やかだし、おいしい食べ物がたくさんあって、いい所ですねぇ。フグやクジラがふつうのスーパーで買えるのには、びっくりしましたよ。豚骨ラーメンも美味しいし」
「パパ、相変わらず食いしんぼなのね。そんなだからこのおなかが引っ込まないのよ」
そう茶化して、みっこはパパのおなかをポンとたたく。
みっことパパとは、ほんとに仲いいんだな。
みっこママとの間には、ちょっとピリピリしたものを感じるけど、それは仲が悪いってわけじゃなく、むしろ『師弟関係』か『ライバル関係』って風に感じられる。
つづく
あたりを眺めていると、太くて張りのある低い声がして、リビングルームの扉から初老の紳士が現れた。
きっと、みっこのパパだわ。
そう感じたのは、その人がいつか見た写真と同じ人物だったのと、余裕のある落ち着いた仕草が、この洋館に馴染んでいたからだった。
「あ。は、はじめまして。弥生さつきと申します」
「さつきさん、だね。大学ではみっこがすっかりお世話になっているようで、どうもありがとう」
「い、いえ… 世話になってるのはわたしの方で。ロ… ロケとかにも連れていってもらったりして、いろいろありがとうございます」
なんだか緊張して、声がうわずってしまう。
だってみっこパパって、まるで校長先生みたいな貫禄を醸し出しているんだもの。
「さつきぃ~。お礼ならパパにじゃなく、あたしに言ってよ~。パパはなんにもしてないんだから~」
キッチンからひょいと顔を出して、みっこがわたしに明るく言う。
わたしの緊張を察してくれたのかもしれないけど、おかげで少し、気持ちがほぐれたみたい。
「はは。ご覧のとおり、みっこはわがままな子でね。さつきさんにもずいぶん迷惑かけたんじゃないかな?」
「そんなことないです。みっこと… 美湖さんといると、いつもドキドキワクワクさせられて、大学生活もとっても楽しくしてもらってます」
「ドキドキワクワク? わたしなんかどちらかというと、みっこには『ハラハラひやひや』させられることが多いなぁ」
「あ。わたしも結構、ハラハラすることもあります。美湖さんの行動には。でもそこがスリリングっていうか、楽しいですけど」
「あはははは。いつも呼んでいるように、『みっこ』でいいよ」
そう言ってみっこパパは愉快そうに笑った。
『大陸的』と表現したいような、包容力があって、大きな微笑み。
みっこを膝に抱いていた写真のように、大きく人を見守れそうな感じがして、安心できる。
「あ。これ」
福岡からおみやげを持ってきていたのを思い出し、わたしは手に持っていた紙袋をみっこパパに差し出した。
「つまらないものですけど、みなさんで召しあがって下さい」
「おや。ありがとうさつきさん。気を遣ってもらって、すまないねぇ」
そう言ってみっこパパは、『福砂屋』のカステラの入った紙袋を受け取る。
「あら? 『辛子明太子』じゃないのね? 福岡のお土産っていえば、『明太子』ってイメージがあるんだけど」
テーブルにお皿を並べながら、みっこがおみやげの包みを見て言った。
「明太子は夏場は痛みやすいから、日持ちのするカステラにしてみたの」
「『福砂屋』のカステラだね。わたしは長崎に行くと、必ず買って帰るんだよ。旨いんだよね、この底についたザラメの砂糖が。ほんとうにありがとう」
「パパ、カステラ好きだもんね」
「福岡は気候も穏やかだし、おいしい食べ物がたくさんあって、いい所ですねぇ。フグやクジラがふつうのスーパーで買えるのには、びっくりしましたよ。豚骨ラーメンも美味しいし」
「パパ、相変わらず食いしんぼなのね。そんなだからこのおなかが引っ込まないのよ」
そう茶化して、みっこはパパのおなかをポンとたたく。
みっことパパとは、ほんとに仲いいんだな。
みっこママとの間には、ちょっとピリピリしたものを感じるけど、それは仲が悪いってわけじゃなく、むしろ『師弟関係』か『ライバル関係』って風に感じられる。
つづく
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