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14 Summer Vacation
Summer Vacation 10
みっこは相変わらず、『好きになった人』の話題を、口にする気配がない。
確かに藤村さんとの恋愛は、いわゆる『不倫』で、それは堂々と人に言えることじゃないだろうけど、せめてわたしにくらいには、話してくれてもよさそうなもの。
もちろん、わたしじゃなんの力にもなれないけど、人に話すことでみっこの気持ちが少しは楽になるのなら、打ち明けてほしい。
だけど、わたしの方からあんまり追求してしまうと、モルディブで彼女と藤村さんの密会を見たことが、みっこにバレてしまうかもしれない。そう思ってわたしは口を噤み、他の話題を探した。
「そういえばみっこ。東京で、川島君と会った?」
さりげなく切り出したつもりの話題も、やっぱり今いちばんわたしが気にしていることだった。
みっこと川島君を見送ってからの一ヶ月、わたしの頭のなかで、ふたりは何度も会ってデートをし、キスや、それ以上のことさえすることがあった。
もちろんそれは、わたしのただの『妄想』。
でも、そんな妄想を繰り返すうちに、現実との区別が曖昧になってしまい、みっこや川島君に対して、わたしは不信感を抱いてしまっていた。
わたしの言葉にみっこは、『意外』というように、一瞬瞳をかすかに見開いた。
「川島君? 会ったわよ」
「仕事で?」
「もちろんよ。星川センセのところで働いてるんだから、当然会うわよ」
「それで… どうなの?」
「どうって… 川島君、相変わらずキビキビと動き回っていたわよ」
「そう…」
「ふふ。センセ、川島君には、厳しく怒ってたわ」
「えっ? 川島君、怒られてるの? なにかヘマしたの?」
「星川センセ、すごく期待してるみたい」
「どういうこと?」
「星川センセはね、みどころがあると思った人には、とっても細かく、厳しく教えるのよ。『鉄は熱いうちに打て』が、センセのポリシーだから」
「へぇ~。あんなやさしそうで、いつもニコニコしてる先生が? なんか信じられない」
「星川センセって、物腰はすっごく柔らかいけど、ほんとは硬派なのよ。でも川島君もそれに耐えて、よく頑張ってるわ。尊敬しちゃう」
「尊敬、か…」
「いいわねさつき。あんな人が彼氏で」
そう言いながら、みっこはニッコリ微笑んだ。
みっこが川島君のことを、そんな風に言ってくれるのは嬉しいけど、わたしは心のどこかで、別の意味を探っていた。
去年、川島君との恋をみっこに相談していたときのこと。
彼女は『友だちでいたいのなら、あなたの気持ちは完璧に隠しておいた方がいい。その上で、チャンスを待つてば』なんて、アドバイスしてくれた。
それがみっこの、恋愛のポリシー。
もし今、みっこが川島君への恋心を完璧に隠して、『ただの友だち』として振る舞っているとしたら。
その上で、川島君と親しくなるチャンスを待っているのだとしたら…
う~ん…
なんだか妄想がひどくなってるなぁ。
みっこに会えて、安心できたというのに…
最近のわたしたちの友情は、川島君が関わると、ギクシャクしてしまうみたい。
ううん、そうじゃない。
春に三人で由布院にバカンスに行って以来、わたしがみっこに対して、川島君のことでコンプレックスを抱くようになってしまったからなんだ。
そりゃみっこには、出会ったときから漠然とコンプレックス持っていたけど、三人で会うようになって、それが具体的になってきた気がする。
川島君はわたしのことを、『いちばん好き』って言ってくれるし、みっこも川島君のことは、ふつうに喋っている。なにも不安に思うことはないはずなのに、やっぱりわたしのコンプレックスは、拭いきれない。
だから、みっこにも川島君にも、答えが怖くて、なにも訊くことができない。
なんだか落ち込むなぁ…
つづく
確かに藤村さんとの恋愛は、いわゆる『不倫』で、それは堂々と人に言えることじゃないだろうけど、せめてわたしにくらいには、話してくれてもよさそうなもの。
もちろん、わたしじゃなんの力にもなれないけど、人に話すことでみっこの気持ちが少しは楽になるのなら、打ち明けてほしい。
だけど、わたしの方からあんまり追求してしまうと、モルディブで彼女と藤村さんの密会を見たことが、みっこにバレてしまうかもしれない。そう思ってわたしは口を噤み、他の話題を探した。
「そういえばみっこ。東京で、川島君と会った?」
さりげなく切り出したつもりの話題も、やっぱり今いちばんわたしが気にしていることだった。
みっこと川島君を見送ってからの一ヶ月、わたしの頭のなかで、ふたりは何度も会ってデートをし、キスや、それ以上のことさえすることがあった。
もちろんそれは、わたしのただの『妄想』。
でも、そんな妄想を繰り返すうちに、現実との区別が曖昧になってしまい、みっこや川島君に対して、わたしは不信感を抱いてしまっていた。
わたしの言葉にみっこは、『意外』というように、一瞬瞳をかすかに見開いた。
「川島君? 会ったわよ」
「仕事で?」
「もちろんよ。星川センセのところで働いてるんだから、当然会うわよ」
「それで… どうなの?」
「どうって… 川島君、相変わらずキビキビと動き回っていたわよ」
「そう…」
「ふふ。センセ、川島君には、厳しく怒ってたわ」
「えっ? 川島君、怒られてるの? なにかヘマしたの?」
「星川センセ、すごく期待してるみたい」
「どういうこと?」
「星川センセはね、みどころがあると思った人には、とっても細かく、厳しく教えるのよ。『鉄は熱いうちに打て』が、センセのポリシーだから」
「へぇ~。あんなやさしそうで、いつもニコニコしてる先生が? なんか信じられない」
「星川センセって、物腰はすっごく柔らかいけど、ほんとは硬派なのよ。でも川島君もそれに耐えて、よく頑張ってるわ。尊敬しちゃう」
「尊敬、か…」
「いいわねさつき。あんな人が彼氏で」
そう言いながら、みっこはニッコリ微笑んだ。
みっこが川島君のことを、そんな風に言ってくれるのは嬉しいけど、わたしは心のどこかで、別の意味を探っていた。
去年、川島君との恋をみっこに相談していたときのこと。
彼女は『友だちでいたいのなら、あなたの気持ちは完璧に隠しておいた方がいい。その上で、チャンスを待つてば』なんて、アドバイスしてくれた。
それがみっこの、恋愛のポリシー。
もし今、みっこが川島君への恋心を完璧に隠して、『ただの友だち』として振る舞っているとしたら。
その上で、川島君と親しくなるチャンスを待っているのだとしたら…
う~ん…
なんだか妄想がひどくなってるなぁ。
みっこに会えて、安心できたというのに…
最近のわたしたちの友情は、川島君が関わると、ギクシャクしてしまうみたい。
ううん、そうじゃない。
春に三人で由布院にバカンスに行って以来、わたしがみっこに対して、川島君のことでコンプレックスを抱くようになってしまったからなんだ。
そりゃみっこには、出会ったときから漠然とコンプレックス持っていたけど、三人で会うようになって、それが具体的になってきた気がする。
川島君はわたしのことを、『いちばん好き』って言ってくれるし、みっこも川島君のことは、ふつうに喋っている。なにも不安に思うことはないはずなのに、やっぱりわたしのコンプレックスは、拭いきれない。
だから、みっこにも川島君にも、答えが怖くて、なにも訊くことができない。
なんだか落ち込むなぁ…
つづく
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