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14 Summer Vacation
Summer Vacation 12
旅行の朝、わたしたちが新宿西口で落ちあったのは、通勤ラッシュがようやく終わった、9時半頃だった。
わたしと川島くんに、みっこと藤村さん。
この顔ぶれってなんだか、ダブルデートみたい。
不意にわたしは去年の、みんなでディスコに行ったときのことを思い出した。
あのときもそんな風に思ったけど、少なくとも芳賀さんより藤村さんの方が、みっこにはお似合いな気がする。
「おはよう、川島君」
「おはよう。みっこ」
「やあおはよう。二十歳の誕生日おめでとう、さつきちゃん」
「藤村さん、ありがとうございます」
朝の挨拶を終えたあと、わたしたちは新宿駅のホームへ移動した。
藤村さんの計画では、新宿10時発の特急『あずさ』9号で上諏訪まで行き、そこでレンタカーを借りて、霧ヶ峰から美ヶ原高原をドライブ。その日は白馬のオーベルジュに泊まって、次の日は上高地に移動。上高地のホテルに宿泊して、一日のんびりと過ごしたあと、松本を通って帰ってくるというものだった。
予定としては少なめだったけど、『避暑地のバカンスで、スケジュールを詰め込むのは野暮』なんて、みっこが例の調子で言うので、こういうまったりしたスケジュールになった。
新宿を定時に出発した『あずさ9号』は、中央本線を快調に西へ走る。
「わぁ~。富士山って、静岡側から見るのと山梨側から見るのじゃ、全然感じが違うのね」
『あずさ』の車窓を流れる富士山に目をやり、わたしはペットボトルのお茶を飲みながら言った。
「ほんと。高いだけでなんだか普通の山だな。そう言えば、どんな絵でも写真でも、富士山って海側から見たものしかないような気がするな」
となりに座っている川島君も、からだを乗り出しながら外の景色を見る。
そんなわたしたちを微笑みながら見た藤村さんは、しみじみと言った。
「そうだよな。花びらが散ったあとの桜とか、山梨側の富士山とか、綺麗なものや有名なものでも、見せたくはない、見たいくはない側面があるものだよ」
「あら、文哉さん。それって山梨の人に失礼よ。どこから見ても富士山は富士山でしょ。それに『花びらが散ったあとの桜』だなんて、昔のフォークソングの歌詞のもじり?」
「相変わらずつっこみが厳しいなぁ、みっこちゃんは。フォークはぼくの青春だったからね。『かぐや姫』や『風』の音楽は、人生の悲哀に寄り添ってくれた、空気みたいなものだったよ」
「さすが、おじさんの蘊蓄は奥が深いわね」
「みっこちゃんの毒舌も、根が深いよ」
「ふふ。でもあたしも、その頃のフォークソングって、好きよ。なんだか素朴で切なくて、ほのぼのしてて」
「みっこちゃんみたいな若い女の子でも、そう感じてくれるなんて、嬉しいなぁ」
「そうよね。このなかじゃ藤村さんだけが世代が違うものね。あたしたちとおじさんとじゃ、話が合うかなぁ」
「ひどいなみっこちゃん。確かにぼくは引率の先生みたいだけど、あまりのけ者にしないでほしいな」
「うそうそ。文哉さんは大事なスポンサーだから、ちゃんとかまってあげるわよ」
「また、みっこちゃんは。ははは」
藤村さんとみっこは、そんなやりとりをしながら笑いあっている。この遠慮ないやりとりは、モルディブのときそのまま。
だけど、わたしの前に並んで座るふたりを見ていると、今は『歳の離れた兄妹』とか『親子』じゃなくて、なんとなく『恋人同士』に見えたりするのは、やっぱりあんな光景を目にしてしまったからかなぁ。
今度のプチバカンスにしても、ほんとはみっこと藤村さんが旅行に行きたいだけで、わたしはそのダシに使われたんじゃないか、なんて、勘ぐってしまう。
今回の旅行でも、モルティブみたいなことが起こるのかしら?
やだ。
わたしったら、また、さっきからつまんない妄想ばかりしてる。
この旅行はみんなからの好意なんだもの。
楽しまなくちゃね。
つづく
わたしと川島くんに、みっこと藤村さん。
この顔ぶれってなんだか、ダブルデートみたい。
不意にわたしは去年の、みんなでディスコに行ったときのことを思い出した。
あのときもそんな風に思ったけど、少なくとも芳賀さんより藤村さんの方が、みっこにはお似合いな気がする。
「おはよう、川島君」
「おはよう。みっこ」
「やあおはよう。二十歳の誕生日おめでとう、さつきちゃん」
「藤村さん、ありがとうございます」
朝の挨拶を終えたあと、わたしたちは新宿駅のホームへ移動した。
藤村さんの計画では、新宿10時発の特急『あずさ』9号で上諏訪まで行き、そこでレンタカーを借りて、霧ヶ峰から美ヶ原高原をドライブ。その日は白馬のオーベルジュに泊まって、次の日は上高地に移動。上高地のホテルに宿泊して、一日のんびりと過ごしたあと、松本を通って帰ってくるというものだった。
予定としては少なめだったけど、『避暑地のバカンスで、スケジュールを詰め込むのは野暮』なんて、みっこが例の調子で言うので、こういうまったりしたスケジュールになった。
新宿を定時に出発した『あずさ9号』は、中央本線を快調に西へ走る。
「わぁ~。富士山って、静岡側から見るのと山梨側から見るのじゃ、全然感じが違うのね」
『あずさ』の車窓を流れる富士山に目をやり、わたしはペットボトルのお茶を飲みながら言った。
「ほんと。高いだけでなんだか普通の山だな。そう言えば、どんな絵でも写真でも、富士山って海側から見たものしかないような気がするな」
となりに座っている川島君も、からだを乗り出しながら外の景色を見る。
そんなわたしたちを微笑みながら見た藤村さんは、しみじみと言った。
「そうだよな。花びらが散ったあとの桜とか、山梨側の富士山とか、綺麗なものや有名なものでも、見せたくはない、見たいくはない側面があるものだよ」
「あら、文哉さん。それって山梨の人に失礼よ。どこから見ても富士山は富士山でしょ。それに『花びらが散ったあとの桜』だなんて、昔のフォークソングの歌詞のもじり?」
「相変わらずつっこみが厳しいなぁ、みっこちゃんは。フォークはぼくの青春だったからね。『かぐや姫』や『風』の音楽は、人生の悲哀に寄り添ってくれた、空気みたいなものだったよ」
「さすが、おじさんの蘊蓄は奥が深いわね」
「みっこちゃんの毒舌も、根が深いよ」
「ふふ。でもあたしも、その頃のフォークソングって、好きよ。なんだか素朴で切なくて、ほのぼのしてて」
「みっこちゃんみたいな若い女の子でも、そう感じてくれるなんて、嬉しいなぁ」
「そうよね。このなかじゃ藤村さんだけが世代が違うものね。あたしたちとおじさんとじゃ、話が合うかなぁ」
「ひどいなみっこちゃん。確かにぼくは引率の先生みたいだけど、あまりのけ者にしないでほしいな」
「うそうそ。文哉さんは大事なスポンサーだから、ちゃんとかまってあげるわよ」
「また、みっこちゃんは。ははは」
藤村さんとみっこは、そんなやりとりをしながら笑いあっている。この遠慮ないやりとりは、モルディブのときそのまま。
だけど、わたしの前に並んで座るふたりを見ていると、今は『歳の離れた兄妹』とか『親子』じゃなくて、なんとなく『恋人同士』に見えたりするのは、やっぱりあんな光景を目にしてしまったからかなぁ。
今度のプチバカンスにしても、ほんとはみっこと藤村さんが旅行に行きたいだけで、わたしはそのダシに使われたんじゃないか、なんて、勘ぐってしまう。
今回の旅行でも、モルティブみたいなことが起こるのかしら?
やだ。
わたしったら、また、さっきからつまんない妄想ばかりしてる。
この旅行はみんなからの好意なんだもの。
楽しまなくちゃね。
つづく
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