Campus91

茉莉 佳

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14 Summer Vacation

Summer Vacation 13

「あの、藤村さん。今回のバカンスは、ほんとにありがとうございます。費用まで出していただいて」
ふたりの会話に割り込むようで気が引けたけど、わたしはお礼を言った。
「なに。二十歳はたちの誕生日プレゼントがわりだよ」
「ほんとにいいんですか?」
「もちろんだよ」
「あ、ありがとうございます」
「だけど、さつきちゃんは川島君に会いに、わざわざ福岡から出てきたんだろ? それなのに今回は、ふたりの邪魔するようなことしちゃって、悪かったかな」
「そんなことないです。わたし、信州って行ったことなかったし、とってもいい所だって聞いてたから、このサプライズはすごく嬉しかったです」
「そう言ってもらえれば、嬉しいよ」
「それに、この旅行のことがなかったら、星川センセも、川島君を休ませてくれなかったと思うわ」
「はは、そうなんです。藤村さんがこの旅行の計画を立てて下さったおかげで、星川先生も休みをくれたから、ラッキーでした」
川島君は笑いながら答える。みっこもそんな彼を見て、微笑んだ。
「川島君、星川センセのところでこき使われてたものね。今日は久々のオフじゃない?」
「そうなんだよ。特にこの四・五日は、今日の休みのために、普段の倍くらい働いたかな。徹夜もしたし」
「川島君、タフね~。そう言えばおとといのデートでも、さつきをあたしの家の前まで、わざわざ送ってくれたんでしょ?」
「ああ」
「うちに寄っていけばよかったのに」
「まあ… 夜も遅かったし」
「なんなら、泊まっていってもよかったのよ」
「ははは。みっこはすぐにそんな、人をドキッとさせる冗談を言うもんな」
川島君はそう言って笑いながら、手にしていた缶コーヒーを飲み干した。


 バカンスは順調にスケジュールをこなした。
上諏訪駅で『あずさ』9号を降りたわたしたちは、レンタカーに乗り換えて、霧ヶ峰に向かう。
夏の高原の空は、どこまでも抜けるように青く、遠くには富士山も見える。
わたしたちは霧ヶ峰の爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込み、白樺湖のほとりを散歩したり、写真を撮ったりしたあと、美ヶ原高原のビーナスラインを通って、夕方には白馬のオーベルジュ、『トロイメライ』に着いた。

「綺麗なオーベルジュでしょ。雑誌に載ってる写真見て、ここに泊まってみたかったの」
みっこはクルマを降りると、荷物を下ろさないうちからペンションの前庭を、弾むような足どりでまわる。
『トロイメライ』は、屋根にドーマのある二階建ての、ドイツの田舎風のオーベルジュ。
『オーベルジュ』というのは、『宿泊設備を備えたレストラン』のことだと、みっこが説明してくれた。
建物の前に広がる庭は、明るくて綺麗な白樺林になっていて、青々とした芝生のところどころに、真っ白なガーデンテーブルと椅子が並べられ、まるで童話に出てくるような、素敵な景色だった。

“カシャカシャン”
そのとき、固いメカニックな金属音が、静かな森に響いた。
庭の白い椅子にうっとりと座っていたみっこは、その音で振り向く。川島君がみっこを撮ったのか。
「あ、川島君。もっと撮って」
そう言いながらみっこは、軽くポーズをとる。
椅子に腰かけてテーブルに肘をついてみたり、木の幹に手をかけてクルリと回ったり。
真っ白なロングスカートが、ふわりと揺れて、メルヘンティックなバックとよく似合っている。
「さつきもいっしょに撮ろ!」
そう言いながらみっこは、わたしの肩に腕を乗せて、カメラを構える川島君にピースをする。
「いいよいいよ。さつきちゃんもピース!」
そう言いながら、川島君は自分もピースをしながら、シャッターを切った。
「藤村さんも入って下さい。みんなで記念写真撮りましょう」
小さな三脚にカメラをセットしながら、川島君は撮影風景をとなりで眺めていた藤村さんを促した。
「じゃあ、みんなでピースよ。いいわね」
みっこははしゃぎながら、みんなのポーズを決める。
『トロイメライ』の建物をバックに、わたしたち四人はフィルムに収まった。

つづく
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