181 / 300
14 Summer Vacation
Summer Vacation 15
美味しいワインとディナーを楽しみながら、わたしたちは時間も忘れて話し込んだ。
藤村さんやみっこ、川島君の仕事の様子や裏話を聞いたり、わたしたちの学校でのできごとなんかを話しているうちに、もうすっかり夜も更けてしまい、結局ワインボトルも二本空けてすっかりご機嫌になって、わたしたちは部屋に引き上げることにした。
『トロイメライ』での部屋割りは、男女別。
二階へ上がって、それぞれの部屋に入るとき、わたしはつい、となりの部屋の扉を開ける川島君を、目で追ってしまった。
こんな素敵なオーベルジュなんだから、やっぱり川島君とふたりっきりで、甘い夜を過ごしたかったな。
もう何週間もわたしたち、ちゃんとしたふたりっきりのデートをしてないんだもの。
「ふふ。ほんとは川島君と、いっしょの部屋がいいんでしょ?」
ツインルームにわたしのあとから入ってきたみっこは、後ろ手でドアをパタンと閉めながら、からかうように言った。
「べっ… 別に、そんなことないけど…」
「うそ。部屋に入る川島君のこと、すがるような目で見てたわよ」
「う… うん」
「そうよね~。やっぱりそうしたいわよね…」
「そりゃ、まあ…」
「いいわよ。じゃあ、川島君に言って、部屋を替わってもらうわ」
「え? みっこはそれでいいの?」
「まぁね。いたいけな子羊ちゃんは、狼の巣で眠ることになるけどね」
そう言いながら、みっこはウィンクする。
「子羊って… みっこのこと?」
「あら? なんか『意外』って顔してる。まあ、あたしは子羊ってキャラじゃないかな」
「そ、そんなこと…」
そう返しながら、わたしは別のことを考えていた。
みっこはわたしをからかっているだけなの?
それとも、藤村さんといっしょになるきっかけを、作ろうとしているの?
もし、みっこが藤村さんを好きで、いっしょの夜を過ごしたいのなら、わたしも協力してもいいけど、そうじゃないなら、どうリアクションすればいいんだろ?
「ねえみっこ。モルディブの帰りにみっこ、『好きな人ができちゃったみたい』って言ってたでしょ。あれはそのあと、どうなったの?」
とうとう聞いてしまった。
ずっと意識的に避けていた、その話題。
お酒が入って、饒舌になっちゃったかな?
「なんとなく聞きにくかったんだけど、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない? わたし、絶対に人に言ったりしないし、みっこの力になれるのなら、なんでもするから」
「ん…」
今まで機嫌よく、滑舌がよかったみっこは、わたしがその話を口にしたとたん、貝のようにおし黙ってしまった。フランス窓の桟に手をかけて、外の真っ暗な林に視線を移す。
ああ…
わたしはこういうみっこを、もう一年以上見てきた。
彼女がこうして黙って遠くに視線をやるのって、自分のなかのなにかと、葛藤しているときなんだ。
「…なにも考えないで会うことなんか、できなかった」
長い沈黙のあと、みっこはようやく、重たい口を開いた。
「え?」
「彼と会うと、どうしても相手の女のことが気になるの。それが、辛い」
「相手のひとって…」
「だからもう、会いたくない」
わたしの言葉を遮るように、みっこはかぶりを振りながら言う。
「あきらめるつもり? その人のこと」
みっこはコクリと頷く。
だけど、すぐに顔を上げ、わたしの視線から目を逸らすように、首を横に振った。
「でも、やっぱり。ダメみたい」
「ダメって…」
「会う度に、好きになっていく。この気持ち、止められない」
「みっこ…」
「ん」
「その人って、だれなの?」
「…」
「…藤村さん?」
少しの沈黙を挟んでわたしがそう訊くと、みっこは一瞬、ハッと瞳を見開いたが、否定も肯定もしなかった。
つづく
藤村さんやみっこ、川島君の仕事の様子や裏話を聞いたり、わたしたちの学校でのできごとなんかを話しているうちに、もうすっかり夜も更けてしまい、結局ワインボトルも二本空けてすっかりご機嫌になって、わたしたちは部屋に引き上げることにした。
『トロイメライ』での部屋割りは、男女別。
二階へ上がって、それぞれの部屋に入るとき、わたしはつい、となりの部屋の扉を開ける川島君を、目で追ってしまった。
こんな素敵なオーベルジュなんだから、やっぱり川島君とふたりっきりで、甘い夜を過ごしたかったな。
もう何週間もわたしたち、ちゃんとしたふたりっきりのデートをしてないんだもの。
「ふふ。ほんとは川島君と、いっしょの部屋がいいんでしょ?」
ツインルームにわたしのあとから入ってきたみっこは、後ろ手でドアをパタンと閉めながら、からかうように言った。
「べっ… 別に、そんなことないけど…」
「うそ。部屋に入る川島君のこと、すがるような目で見てたわよ」
「う… うん」
「そうよね~。やっぱりそうしたいわよね…」
「そりゃ、まあ…」
「いいわよ。じゃあ、川島君に言って、部屋を替わってもらうわ」
「え? みっこはそれでいいの?」
「まぁね。いたいけな子羊ちゃんは、狼の巣で眠ることになるけどね」
そう言いながら、みっこはウィンクする。
「子羊って… みっこのこと?」
「あら? なんか『意外』って顔してる。まあ、あたしは子羊ってキャラじゃないかな」
「そ、そんなこと…」
そう返しながら、わたしは別のことを考えていた。
みっこはわたしをからかっているだけなの?
それとも、藤村さんといっしょになるきっかけを、作ろうとしているの?
もし、みっこが藤村さんを好きで、いっしょの夜を過ごしたいのなら、わたしも協力してもいいけど、そうじゃないなら、どうリアクションすればいいんだろ?
「ねえみっこ。モルディブの帰りにみっこ、『好きな人ができちゃったみたい』って言ってたでしょ。あれはそのあと、どうなったの?」
とうとう聞いてしまった。
ずっと意識的に避けていた、その話題。
お酒が入って、饒舌になっちゃったかな?
「なんとなく聞きにくかったんだけど、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない? わたし、絶対に人に言ったりしないし、みっこの力になれるのなら、なんでもするから」
「ん…」
今まで機嫌よく、滑舌がよかったみっこは、わたしがその話を口にしたとたん、貝のようにおし黙ってしまった。フランス窓の桟に手をかけて、外の真っ暗な林に視線を移す。
ああ…
わたしはこういうみっこを、もう一年以上見てきた。
彼女がこうして黙って遠くに視線をやるのって、自分のなかのなにかと、葛藤しているときなんだ。
「…なにも考えないで会うことなんか、できなかった」
長い沈黙のあと、みっこはようやく、重たい口を開いた。
「え?」
「彼と会うと、どうしても相手の女のことが気になるの。それが、辛い」
「相手のひとって…」
「だからもう、会いたくない」
わたしの言葉を遮るように、みっこはかぶりを振りながら言う。
「あきらめるつもり? その人のこと」
みっこはコクリと頷く。
だけど、すぐに顔を上げ、わたしの視線から目を逸らすように、首を横に振った。
「でも、やっぱり。ダメみたい」
「ダメって…」
「会う度に、好きになっていく。この気持ち、止められない」
「みっこ…」
「ん」
「その人って、だれなの?」
「…」
「…藤村さん?」
少しの沈黙を挟んでわたしがそう訊くと、みっこは一瞬、ハッと瞳を見開いたが、否定も肯定もしなかった。
つづく
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
Emerald
藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。
叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。
自分にとっては完全に新しい場所。
しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。
仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。
〜main cast〜
結城美咲(Yuki Misaki)
黒瀬 悠(Kurose Haruka)
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。
ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。