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14 Summer Vacation
Summer Vacation 18
「…行こうか? さつきちゃん」
「え? ええ」
先にわれに帰った川島君は、そう言ってわたしを促すと、財布のなかから私鉄の回数券を取り出し、わたしに一枚渡してくれた。
みっこが消えていった改札と反対側の私鉄の改札を通って、わたしたちは出発待ちの電車が並んでいるプラットホームに出た。
「まったく… みっこって、いつだってひとりで、なんでも決めちゃうわよね」
夜になっても乗客の多い準急のドアに立って、わたしは川島君に話しかけた。
「わたしたちに気を遣ってくれるのは嬉しいけど、『邪魔者』だなんて。なんだか気を回しすぎてるみたいで、みっこに無理させてるみたい。
そう思わない? 川島君」
「え? ああ。そうだな」
ぼんやり外の景色を眺めていた川島君は、気のない様子で生返事をした。なにか他のことを考えているみたい。
「なに考えてるの?」
「…別に」
「なんか変」
「そうかな? いつもと同じだけど」
ううん。同じじゃない。
いつもの川島君なら、わたしの話を虚ろに聞いているなんてことは、ない。
川島君はいったい、なにを考えてるのかしら?
さっき、みっこが改札を抜けようとしたとき、川島君は思わず彼女を呼び止めた。みっこになにか、言いたいことでもあったみたい。
そう言えば…
『あたしはJRだけど、川島君家は小田急でしょ』
みっこは川島君が、小田急線沿いに住んでいることを知っていた。今度の旅行では、みっこと川島君の間で、そんな話はしなかったはず。
それに…
川島くんのみっこへの呼び方。
どうしてわたしは今まで、このことに気がつかなかったんだろう。
「川島君。『みっこ』って、呼び捨てにするのね」
「え? そうだっけ? さつきちゃんがそう呼ぶのをずっと聞かされてたから、移ったんだろ」
そんなことは気にもとめず、川島君は外のビル街の夜景を見つめたまま、ぶっきらぼうに答えた。
ううん。そんなことない。
今思い返せば、川島君は今度の旅行で、みっこと会ったときから、森田美湖のことを『みっこ』って呼んでいた。東京に行く前までは、確かに『みっこちゃん』って呼んでいたのに…
「川島君。みっこと… なにかあったの?」
「なにかって?」
「だから。なにか、よ」
「別に… なにもないよ」
「ほんとに?」
「…ああ」
「でも、仕事のときとかに、会ったんでしょ? みっこと」
「まあ、会ったけど」
「そのときとか、なにもなかった? 正直に言ってよ」
「さつきちゃんは、ぼくを疑ってるのか?」
「…そ、そんなこと」
思いもしなかった川島君の苛ついたような口調に、わたしはびっくりして肩がすくんで、思わず口を噤んでしまう。
今まで川島君がわたしに、こんな風に苛立ちを見せたことなんて、なかった。
いったいどうしちゃったの?
東京に行ってる間に変わった、川島君の森田美湖への呼び方の裏にある、妄想じゃない事実を知ってしまうのが怖くて、わたしはそれ以上、みっこのことは追求できなかった。
新宿から30分ほどのところにある、『百合ケ丘』という小さな駅で、わたしたちは電車を降りた。
「都心からは少し離れてるのね。神奈川県になってたわ」
なにか話題を探さなきゃと思い、電柱の標識を見ながら、わたしは川島君に言った。
「都内は家賃が高くてね」
「そう…」
「…」
「でも、ここなら便利ね。新宿にも電車一本で行けるし」
「まあね」
「東京も、暑いね」
「そうだな」
「…」
「…」
川島君は、自分からはなにもしゃべらない。
わたしももう、なにをしゃべっていいか、わからない。
ポツポツと街灯のともった夜の歩道を、わたしたちは言葉少なに歩いた。
つづく
「え? ええ」
先にわれに帰った川島君は、そう言ってわたしを促すと、財布のなかから私鉄の回数券を取り出し、わたしに一枚渡してくれた。
みっこが消えていった改札と反対側の私鉄の改札を通って、わたしたちは出発待ちの電車が並んでいるプラットホームに出た。
「まったく… みっこって、いつだってひとりで、なんでも決めちゃうわよね」
夜になっても乗客の多い準急のドアに立って、わたしは川島君に話しかけた。
「わたしたちに気を遣ってくれるのは嬉しいけど、『邪魔者』だなんて。なんだか気を回しすぎてるみたいで、みっこに無理させてるみたい。
そう思わない? 川島君」
「え? ああ。そうだな」
ぼんやり外の景色を眺めていた川島君は、気のない様子で生返事をした。なにか他のことを考えているみたい。
「なに考えてるの?」
「…別に」
「なんか変」
「そうかな? いつもと同じだけど」
ううん。同じじゃない。
いつもの川島君なら、わたしの話を虚ろに聞いているなんてことは、ない。
川島君はいったい、なにを考えてるのかしら?
さっき、みっこが改札を抜けようとしたとき、川島君は思わず彼女を呼び止めた。みっこになにか、言いたいことでもあったみたい。
そう言えば…
『あたしはJRだけど、川島君家は小田急でしょ』
みっこは川島君が、小田急線沿いに住んでいることを知っていた。今度の旅行では、みっこと川島君の間で、そんな話はしなかったはず。
それに…
川島くんのみっこへの呼び方。
どうしてわたしは今まで、このことに気がつかなかったんだろう。
「川島君。『みっこ』って、呼び捨てにするのね」
「え? そうだっけ? さつきちゃんがそう呼ぶのをずっと聞かされてたから、移ったんだろ」
そんなことは気にもとめず、川島君は外のビル街の夜景を見つめたまま、ぶっきらぼうに答えた。
ううん。そんなことない。
今思い返せば、川島君は今度の旅行で、みっこと会ったときから、森田美湖のことを『みっこ』って呼んでいた。東京に行く前までは、確かに『みっこちゃん』って呼んでいたのに…
「川島君。みっこと… なにかあったの?」
「なにかって?」
「だから。なにか、よ」
「別に… なにもないよ」
「ほんとに?」
「…ああ」
「でも、仕事のときとかに、会ったんでしょ? みっこと」
「まあ、会ったけど」
「そのときとか、なにもなかった? 正直に言ってよ」
「さつきちゃんは、ぼくを疑ってるのか?」
「…そ、そんなこと」
思いもしなかった川島君の苛ついたような口調に、わたしはびっくりして肩がすくんで、思わず口を噤んでしまう。
今まで川島君がわたしに、こんな風に苛立ちを見せたことなんて、なかった。
いったいどうしちゃったの?
東京に行ってる間に変わった、川島君の森田美湖への呼び方の裏にある、妄想じゃない事実を知ってしまうのが怖くて、わたしはそれ以上、みっこのことは追求できなかった。
新宿から30分ほどのところにある、『百合ケ丘』という小さな駅で、わたしたちは電車を降りた。
「都心からは少し離れてるのね。神奈川県になってたわ」
なにか話題を探さなきゃと思い、電柱の標識を見ながら、わたしは川島君に言った。
「都内は家賃が高くてね」
「そう…」
「…」
「でも、ここなら便利ね。新宿にも電車一本で行けるし」
「まあね」
「東京も、暑いね」
「そうだな」
「…」
「…」
川島君は、自分からはなにもしゃべらない。
わたしももう、なにをしゃべっていいか、わからない。
ポツポツと街灯のともった夜の歩道を、わたしたちは言葉少なに歩いた。
つづく
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