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14 Summer Vacation
Summer Vacation 21
東京での最後の朝。
川島君はまだベッドのなかで、はだかでまどろんでいる。
今日はいつものように、新宿の星川先生のスタジオで仕事らしい。
わたしもとなりでなにも着ずに眠っていたけど、朝の支度をしてあげようと思い、先に起きてショーツをはいてエプロンだけを羽織り、冷蔵庫のなかを覗いてみた。どこかのコンビニかスーパーで買った材料があったので、それを使って、手早く朝食を作る。
「さつきちゃん、もう起きてたのか?」
「あ。川島君、おはよう。今起こそうと思ってたのよ。もうすぐごはんができるから。冷蔵庫のなかのもの、勝手に使っちゃった」
「え? いいよ。嬉しいな」
そう言って川島君はベッドから起き出し、レンジの前でフライパンを持っているわたしを、うしろから抱きしめた。
「はだかエプロンって、さつきちゃん、すごくエロい」
「もうっ。川島君のエッチ」
「はは。ムラムラしてくるよ」
耳元でささやいた川島君は、エプロンの上から胸の先を探り当てると、指でつまんで揉む。
「あん… 料理ができないじゃない」
「そんなのはいいよ」
「仕事に遅れるわよぉ」
「大丈夫」
ほとんどできあがったスクランブルエッグの入ったフライパンの火を止めた川島君は、背中越しにキスをしてくると、そのままうなじに唇を這わせる。
グイッと押しつけた下半身は、もうすっかり固くなっていた。
もうっ。朝から元気なんだから。
でも、こういうのって、なんだかいいな。
好きな人と迎える朝って、幸せ。
昨夜は充分に愛されていたのもあって、わたしの心もからだも、上機嫌だった。
そのまま朝エッチをしてしまい、やっぱり時間がなくなって、ごはんを大急ぎで食べて、川島君はあたふたと出勤の準備をする。わたしもいっしょに出られるよう、急いで支度を整えた。
「もう、川島君。 全然大丈夫じゃないじゃない」
「ごめんな、最後の朝だってのに、バタバタで」
「ううん、いいの。気持ちよかったし」
「さつきちゃんは午後の新幹線で帰るんだろ? 見送りに行けなくてごめんな」
「大丈夫。みっこが来てくれるし。川島君もお仕事頑張ってね」
「ああ」
「今度東京に来たときには、ディズニーランドとか行きたいな。今回は行けなかったから」
「あ… ちょっと待ってて」
川島君はそう言って、思い出したように机の引き出しから、リボンのかかった小さな箱を取り出し,わたしに差し出した。
「誕生日おめでとう。遅くなっちゃったけど、これ、プレゼント」
「え? ありがとう!」
「さ。もう行かなきゃ」
「あん。ちょっとだけ見ていい?」
「ん… いいけど、あまり時間がないよ」
「ちょっとだけ」
そう言いながら、わたしはプレゼントの包装を解いた。
なかから出てきたのは…
ミッキーマウスの万年筆。
「…」
「可愛かったから、思わず買ってしまったんだ」
「…」
「やっぱり小説家には、万年筆が似合うよな。どうかな?」
「…川島君。これ… もしかして、ディズニーランドで買ったとか?」
「あ… ああ」
「ひとりで行ったわけじゃ、ないんでしょ?」
「え? あっ。こっちの友だちと行ったんだよ」
「…」
「ご、ごめん。さつきちゃんがディズニーランドに行きたいってわかっていれば、信州じゃなく、そっちにしたし、友だちとも行かなかったんだけど… ほんとにごめん!」
わたしの顔色が変わったのを見て、川島君は素早くフォローに出たけど、そんな彼の言い訳は、全然耳に入ってこなかった。
わたしが思ったことは、たったひとつ。
『みっこが行ったディズニーランドに、川島君も行っている』
その事実だけだった。
「さつきちゃん。怒ったのか?」
「…」
「ごめんな。今度東京に来たときは、絶対行こうな」
「…」
「さつきちゃん?」
「もういい!」
こんな会話は、さっさと打ち切りたい。
考えたくもない。
だけど、この小さな事件は、わたしの心のなかに、大きなシコリになって、残りそう。
ディズニーランドへは川島君といっしょに行きたいと思っていたから、彼が他の人と行ったのは、すごくイヤ。
例え、その『友だち』とやらが、男の人だったとしても、だ。
それにディズニーランドって、ふつう、男の人同士で行くような所じゃないよね?
わたしの直感どおり、その『友だち』が、森田美湖だったとしたら…
長かったサマー・バケイションの最後の最後。
東京駅のプラットホームでみっこが見送るなか、わたしはとっても大きな、ほんとうに厄介な、終わらない宿題を、心のなかにしまい込んで、東京の街をあとにした。
END
10th Jul. 2011
24th Apr.2020 改稿
川島君はまだベッドのなかで、はだかでまどろんでいる。
今日はいつものように、新宿の星川先生のスタジオで仕事らしい。
わたしもとなりでなにも着ずに眠っていたけど、朝の支度をしてあげようと思い、先に起きてショーツをはいてエプロンだけを羽織り、冷蔵庫のなかを覗いてみた。どこかのコンビニかスーパーで買った材料があったので、それを使って、手早く朝食を作る。
「さつきちゃん、もう起きてたのか?」
「あ。川島君、おはよう。今起こそうと思ってたのよ。もうすぐごはんができるから。冷蔵庫のなかのもの、勝手に使っちゃった」
「え? いいよ。嬉しいな」
そう言って川島君はベッドから起き出し、レンジの前でフライパンを持っているわたしを、うしろから抱きしめた。
「はだかエプロンって、さつきちゃん、すごくエロい」
「もうっ。川島君のエッチ」
「はは。ムラムラしてくるよ」
耳元でささやいた川島君は、エプロンの上から胸の先を探り当てると、指でつまんで揉む。
「あん… 料理ができないじゃない」
「そんなのはいいよ」
「仕事に遅れるわよぉ」
「大丈夫」
ほとんどできあがったスクランブルエッグの入ったフライパンの火を止めた川島君は、背中越しにキスをしてくると、そのままうなじに唇を這わせる。
グイッと押しつけた下半身は、もうすっかり固くなっていた。
もうっ。朝から元気なんだから。
でも、こういうのって、なんだかいいな。
好きな人と迎える朝って、幸せ。
昨夜は充分に愛されていたのもあって、わたしの心もからだも、上機嫌だった。
そのまま朝エッチをしてしまい、やっぱり時間がなくなって、ごはんを大急ぎで食べて、川島君はあたふたと出勤の準備をする。わたしもいっしょに出られるよう、急いで支度を整えた。
「もう、川島君。 全然大丈夫じゃないじゃない」
「ごめんな、最後の朝だってのに、バタバタで」
「ううん、いいの。気持ちよかったし」
「さつきちゃんは午後の新幹線で帰るんだろ? 見送りに行けなくてごめんな」
「大丈夫。みっこが来てくれるし。川島君もお仕事頑張ってね」
「ああ」
「今度東京に来たときには、ディズニーランドとか行きたいな。今回は行けなかったから」
「あ… ちょっと待ってて」
川島君はそう言って、思い出したように机の引き出しから、リボンのかかった小さな箱を取り出し,わたしに差し出した。
「誕生日おめでとう。遅くなっちゃったけど、これ、プレゼント」
「え? ありがとう!」
「さ。もう行かなきゃ」
「あん。ちょっとだけ見ていい?」
「ん… いいけど、あまり時間がないよ」
「ちょっとだけ」
そう言いながら、わたしはプレゼントの包装を解いた。
なかから出てきたのは…
ミッキーマウスの万年筆。
「…」
「可愛かったから、思わず買ってしまったんだ」
「…」
「やっぱり小説家には、万年筆が似合うよな。どうかな?」
「…川島君。これ… もしかして、ディズニーランドで買ったとか?」
「あ… ああ」
「ひとりで行ったわけじゃ、ないんでしょ?」
「え? あっ。こっちの友だちと行ったんだよ」
「…」
「ご、ごめん。さつきちゃんがディズニーランドに行きたいってわかっていれば、信州じゃなく、そっちにしたし、友だちとも行かなかったんだけど… ほんとにごめん!」
わたしの顔色が変わったのを見て、川島君は素早くフォローに出たけど、そんな彼の言い訳は、全然耳に入ってこなかった。
わたしが思ったことは、たったひとつ。
『みっこが行ったディズニーランドに、川島君も行っている』
その事実だけだった。
「さつきちゃん。怒ったのか?」
「…」
「ごめんな。今度東京に来たときは、絶対行こうな」
「…」
「さつきちゃん?」
「もういい!」
こんな会話は、さっさと打ち切りたい。
考えたくもない。
だけど、この小さな事件は、わたしの心のなかに、大きなシコリになって、残りそう。
ディズニーランドへは川島君といっしょに行きたいと思っていたから、彼が他の人と行ったのは、すごくイヤ。
例え、その『友だち』とやらが、男の人だったとしても、だ。
それにディズニーランドって、ふつう、男の人同士で行くような所じゃないよね?
わたしの直感どおり、その『友だち』が、森田美湖だったとしたら…
長かったサマー・バケイションの最後の最後。
東京駅のプラットホームでみっこが見送るなか、わたしはとっても大きな、ほんとうに厄介な、終わらない宿題を、心のなかにしまい込んで、東京の街をあとにした。
END
10th Jul. 2011
24th Apr.2020 改稿
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