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16 Double Game
Double Game 6
「さつきが羨ましいな」
みっこは『午後の紅茶』を飲み干して、ため息混じりにつぶやいた。
「え? どうして?」
「自分がいちばん好きな人に、好かれてて」
「そう言うのって、なんだかみっこらしくないね」
「そう?」
「だって、みっこのことを好きになってくれる人って、たくさんいるじゃない」
そう言いながらわたしの脳裏には、藤村さんと川島君の影がかすった。
「だけど、さつきの場合は、だれにためらうことなく、『川島君が好き』って言えるじゃない」
「そっか。みっこはだれにも言わないのよね」
「…怖いの」
「怖い?」
「好きになっちゃいけない人なんだって、わかってるんだけど、もう、理性じゃ抑えられなくて…
なにかのきっかけで、感情が突っ走ってしまったときのことを考えると…」
「最近、その人とは会ったの?」
「…ん」
みっこはしばらく、考えるように口を噤んでいたが、おもむろにうなずいた。だけど、それを否定するかのように、首を振る。
「でも、もう会いたくない」
「ほんとに? それでも会いたいんでしょ?」
「…」
みっこはやっぱり黙っていた。
そのまま、どうにもならないもどかしさを込めるように、『ふう』と、ため息をつく。
「あたしって、バカよね。やっと直樹さんへの想いから抜け出したと思ったら、今度はとんでもない『ぬかるみ』に、足を突っ込んじゃった」
「見込みはないの?」
「ないの…」
そう言ってしばらくして、みっこはつけ足すように言った。
「もしあったとしても、そのときは、相手の女を裏切ることになる。それがいちばん悲しい」
「…」
もしかして…
それは、わたしのことを、遠回しに言ってるの?
みっこと川島君がつきあうのは、わたしを裏切りだって…
そうだとしたら、彼女はどんな気持ちを込めて、それを本人に話してるんだろう?
いっしょにその『ぬかるみ』に、引きずり込みたいとか?
まさか… ね。
今までの言動からみて、みっこは『その人』のことを、どうこうするつもりは、ないみたい。
だけど、理性じゃ抑えられない、『好き』という感情が、次第に森田美湖の心を強く支配していくのが、切々と伝わってくる。
もし、なにかのきっかけで、みっこの理性の箍がはずれたりしたら、わたしたちはそれこそまとめて『ぬかるみ』にはまり込んでしまいそう。
だからわたしは、『みっこが好きな人は藤村さん』という希望を、どうしても捨てきれない。
彼女が藤村さんを好きでいる限り、わたしと川島君が直接、みっこの『ぬかるみ』に引きずり込まれることは、ないと思うから。
う~ん…
いつからわたし、こんな自分勝手な考え方、するようになっちゃったんだろ?
イヤだな。
そんなとりとめのないことを考えていたとき、さっきから向こうで、みっこを見ながら話していた女の子のグループがこちらへやってきて、彼女に声をかけてきた。
「森田美湖さんでしょ!? すみません、サインして下さぁい」
「きゃ~っ! やっぱり近くで見ると、すっごい美人!」
「肌きれい! 睫毛とかも長くて瞳もぱっちりしてて、お人形さんみたい!」
「スタイルいい! 顔小さいし、髪なんかもつやっつや! やっぱりモデルさんって、わたしたちとは根本的に、人種が違うのね」
「いくらぐらい稼いでいるんですか? 芸能人の知り合いとか、いますか?」
「ファッションショーなんかで着た服って、もらえるんですか? どんなブランドの服、持ってますか?」
そんな質問を浴びせてくる女の子たちに、みっこは絵に描いたような素敵な微笑みを見せながら、丁寧に受け答えしている。
彼女のそういう、『作られた笑顔』って、わたしはもう長いこと見てなかったな。
わたしにとってみっこは、『人種が違う』女の子なんかじゃなく、自分と同じように、恋に傷つき、悩む、ひとりの女の子。
だけど、『モデル』という肩書きが、彼女に特別な存在であるように、求めてしまう。
女の子たちはみんな、憧れと羨望の眼差しでみっこの美貌を見るけれど、彼女の内面を見ようとするわけじゃない。
そういうのって、わたしに理解できるはずもないんだけど、当人にとっては、やっぱり虚しいことかもしれない。
つづく
みっこは『午後の紅茶』を飲み干して、ため息混じりにつぶやいた。
「え? どうして?」
「自分がいちばん好きな人に、好かれてて」
「そう言うのって、なんだかみっこらしくないね」
「そう?」
「だって、みっこのことを好きになってくれる人って、たくさんいるじゃない」
そう言いながらわたしの脳裏には、藤村さんと川島君の影がかすった。
「だけど、さつきの場合は、だれにためらうことなく、『川島君が好き』って言えるじゃない」
「そっか。みっこはだれにも言わないのよね」
「…怖いの」
「怖い?」
「好きになっちゃいけない人なんだって、わかってるんだけど、もう、理性じゃ抑えられなくて…
なにかのきっかけで、感情が突っ走ってしまったときのことを考えると…」
「最近、その人とは会ったの?」
「…ん」
みっこはしばらく、考えるように口を噤んでいたが、おもむろにうなずいた。だけど、それを否定するかのように、首を振る。
「でも、もう会いたくない」
「ほんとに? それでも会いたいんでしょ?」
「…」
みっこはやっぱり黙っていた。
そのまま、どうにもならないもどかしさを込めるように、『ふう』と、ため息をつく。
「あたしって、バカよね。やっと直樹さんへの想いから抜け出したと思ったら、今度はとんでもない『ぬかるみ』に、足を突っ込んじゃった」
「見込みはないの?」
「ないの…」
そう言ってしばらくして、みっこはつけ足すように言った。
「もしあったとしても、そのときは、相手の女を裏切ることになる。それがいちばん悲しい」
「…」
もしかして…
それは、わたしのことを、遠回しに言ってるの?
みっこと川島君がつきあうのは、わたしを裏切りだって…
そうだとしたら、彼女はどんな気持ちを込めて、それを本人に話してるんだろう?
いっしょにその『ぬかるみ』に、引きずり込みたいとか?
まさか… ね。
今までの言動からみて、みっこは『その人』のことを、どうこうするつもりは、ないみたい。
だけど、理性じゃ抑えられない、『好き』という感情が、次第に森田美湖の心を強く支配していくのが、切々と伝わってくる。
もし、なにかのきっかけで、みっこの理性の箍がはずれたりしたら、わたしたちはそれこそまとめて『ぬかるみ』にはまり込んでしまいそう。
だからわたしは、『みっこが好きな人は藤村さん』という希望を、どうしても捨てきれない。
彼女が藤村さんを好きでいる限り、わたしと川島君が直接、みっこの『ぬかるみ』に引きずり込まれることは、ないと思うから。
う~ん…
いつからわたし、こんな自分勝手な考え方、するようになっちゃったんだろ?
イヤだな。
そんなとりとめのないことを考えていたとき、さっきから向こうで、みっこを見ながら話していた女の子のグループがこちらへやってきて、彼女に声をかけてきた。
「森田美湖さんでしょ!? すみません、サインして下さぁい」
「きゃ~っ! やっぱり近くで見ると、すっごい美人!」
「肌きれい! 睫毛とかも長くて瞳もぱっちりしてて、お人形さんみたい!」
「スタイルいい! 顔小さいし、髪なんかもつやっつや! やっぱりモデルさんって、わたしたちとは根本的に、人種が違うのね」
「いくらぐらい稼いでいるんですか? 芸能人の知り合いとか、いますか?」
「ファッションショーなんかで着た服って、もらえるんですか? どんなブランドの服、持ってますか?」
そんな質問を浴びせてくる女の子たちに、みっこは絵に描いたような素敵な微笑みを見せながら、丁寧に受け答えしている。
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わたしにとってみっこは、『人種が違う』女の子なんかじゃなく、自分と同じように、恋に傷つき、悩む、ひとりの女の子。
だけど、『モデル』という肩書きが、彼女に特別な存在であるように、求めてしまう。
女の子たちはみんな、憧れと羨望の眼差しでみっこの美貌を見るけれど、彼女の内面を見ようとするわけじゃない。
そういうのって、わたしに理解できるはずもないんだけど、当人にとっては、やっぱり虚しいことかもしれない。
つづく
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