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16 Double Game
Double Game 8
金曜の夜は九州文化センターでの、いつもの小説講座の日。
ここに通いはじめてもう1年になるが、今日の講座では、前回の小説コンクールの発表がある。
わたしはだれよりも早く文化センターに着き、連絡箱に入っている新しい会報に、今回の小説コンクールの結果が載っているのを見て、金賞から順に、ドキドキしながら目を通した。
『金 賞 該当者なし
銀 賞 該当者なし
銅 賞 該当者なし
佳 作 松本 妙子
川島 祐二
鹿野いつみ
最終選考に残った人 … 』
真っ先に佳作のなかの『川島祐二』の名前が、わたしの目に飛び込んできた。
だけど、わたしの名前は、佳作はおろか、最終選考にさえ、載っていない。
『わたし、落ちてる… 川島君にも、抜かれた!』
…信じられない。
今度の作品は、前のより、よく書けたつもりだったのに…
川島君のより、よっぽどおもしろいって、思ってたのに…
今まで最終選考にはずっと残っていたから、落ちるわけないって、思っていたのに…
どうして川島君ばかり、夢がかなうの?
どうして川島君ばっかり、自分がやりたい道を、すんなり歩いていくことができるの?
信じられない!
このショックのおかげで、その日の小説講座の講義は、まったくの上の空だった。
講義が終わって、川島君から『紅茶貴族』に誘われたときも、なにかと理由をつけて、断わってしまった。
だって、わたしは川島君に、小説コンクールで負けたコンプレックスでいっぱいで、こんな気分のまま彼と話をしても、楽しくないに決まっているから。
だけど、いっしょに帰っていると、やっぱりお茶しに寄ろうという話になって、わたしたちは帰り道に通りかかった、適当な喫茶店に入った。
最悪な喫茶店。
注文したレモンティは紅茶のソーサーが汚れていて、カップには市販のティーパックが入ったまんまになっている。
お茶もぬるくて香りが抜けてて、安っぽいブレンドの味しかしない。
ウエイトレスは無愛想だし、店内の装飾も支離滅裂で野暮ったく、センスのかけらもない。
「今月の会報の小説コンクールの結果、見た?」
ぬるい紅茶をすすりながら、わたしは言うか言うまいか悩んだ挙げ句、ようやく小説コンクールのことを、自分から話題にした。
「ああ。見たよ」
「おめでとう」
「…まさか、ぼくの小説が佳作に入るなんて。きっと審査員のツボにハマったんだろうな」
「はは。そうかもね」
「さつきちゃんは、残念だったな」
わたしはドキリとした。
自分で切り出したものの、今はあんまり、わたしの小説の話題には、触れてほしくない。
「今回のさつきちゃんの小説、読ませてもらっただろ」
「…ええ」
「最近のさつきちゃん、なんだかピリピリしてて、余裕がないよな」
「え?」
「小説にもそれが出てるんじゃないか?
以前みたいな『客観性』っていうか、ちょっと上から全体を眺めている視点っていうか。
そういう、登場人物たちの感情の変化を、客観的に受け止める余裕が、今度の小説にはなかった気がするよ」
「…」
カップを持つ手が震えた。
どうして川島君から、そんな風に言われなきゃいけないの?
『ピリピリしてる』って、そうさせた原因は、あなたにあるんじゃない。
つづく
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