Campus91

茉莉 佳

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17 しあわせの作り方

しあわせの作り方 4

あの頃は楽しかった。
片想いと思っていた間は、確かに辛かったけど、こうして川島君と恋人同士になってしまうと、それらはみ~んな、つきあいはじめるまでのプロローグみたいで、どれも素敵なできごとに感じられる。

焼き上がったスポンジケーキを見つめながら、わたしはそうやって、もう変わることのない過去の綺麗な思い出を、何度も何度も思い出の宝箱から取り出しては、眺めて浸っていた。
人間って、辛いことがあると、過去のよかった記憶にすがりたくなるのかもしれない。

あれから1年…

わたしはどう変わったんだろう?
幸運にも、川島君とは恋人同士になれた。
みっことも、いろんなことを話せる、心からの親友になれた。
だけど、今のわたしはあの頃に持っていた、些細なできごとに対する感動… デリカシーを、失くしてしまった気がする。
川島君と『おとなの階段』を登って、愛されることに慣れてしまったわたしは、そんな彼の気持ちを逆手にとって、ずいぶんワガママを言うようになった。
あんなに大好きでたまらなかった川島君を、自分のワガママで振り回し、時には彼に対して、不満を持つことさえある。
こうして過去を振り返ってみると、いろんな大切なものを、わたしはあちこちに置き忘れてきてるような気がする。

わたしはこの一年で、たくさんの大事なものを失くしてしまったの?
それ以上に、もっと大切なものを、本当に手に入れることができているの?

川島君は、雑誌のフォトコンテストで金賞をとり、夏休みには東京で、一流の写真家のもとでバイトをして、偉いカメラマンの先生からも評価されて、小説コンクールでも佳作に入って、一歩一歩確実に、自分の夢を実現している。
みっこも、藍沢さんへの想いを吹っ切り、アルディア化粧品のキャンペーンガールをはじめとして、テレビや雑誌で、モデルとして活躍しはじめている。
ふたりはどんどん先に進んでいく。
わたしはいつも立ち止まり、こうやって過去を振り返って、思い出に浸ってばかり。
なんだかふたりに、置いていかれてるような気がする。
このままなにもしないでいると、川島君もみっこも、どんどんわたしから遠ざかってしまう。
だけどわたしには、どうしていいのかわからない。
出口が見えない。

「ふふ」

冷めてきたスポンジケーキを前にして、わたしは思い出し笑いをしてしまった。
そういえば、去年のみっこが、ちょうどこんな感じだったな。

『あたし… 今はまだ、なんにも見えない』

そう言って彼女は、心を閉ざしてしまい、ずいぶんわたしを悩ませた。
今のわたしって、あの頃のみっこと同じ気持ちなのかなぁ?

それはまるで螺旋階段。
終わらないゲームのよう。
前に見た景色を、こうやってまた繰り返し、眺めている。



 そんなことをとりとめもなく考えているうちに、ケーキに塗るクリームやトッピングのフルーツがないことに気がつく。このままじゃあ、いつまでたってもケーキづくりは進まない。仕方ないので、スポンジの熱がとれる間に、近所のスーパーにでも買い物に行こうと、わたしは外出の支度をした。

RRRRR… RRRRR… RR…

玄関に出たとたん、目の前の電話が鳴った。
仕方なく受話器をとる。

「はい。弥生ですけど」
「あ。さつき?」

電話は森田美湖からだった。

つづく
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