219 / 300
17 しあわせの作り方
しあわせの作り方 10
「お待たせ、みっこ」
彼女は、いた。
さっきまでの場所にいなくて一瞬焦ったけど、最初に会ったときのように、みっこはブランコに座って、わずかに揺らしながら、うつむいていた。
まだ公園にいてくれたことにホッと安心し、できるだけ明るくみっこの側に歩み寄る。
待っている間に、みっこも少しは気分が落ち着いたらしく、わたしに気がつくと立ち上がり、ちょっとぎこちなく、おそるおそるこちらを見返した。
「はい、これ」
わたしはトートバッグを差し出した。
「なあに? これ」
トートバッグを見つめて、みっこは訝しげに訊ねる。
「今日作ったケーキ。これ、みっこにあげる」
「え? いいの? でも…」
「いいのよ、気にしないで。どうせ気晴らしに作ったものだから、みっこが食べてくれると嬉しいから」
「ほんとに? ありがとう。嬉しい」
大事そうにトートバッグを受け取ったみっこは中を覗き込み、その瞬間、花が咲いたように明るい表情になった。
「わあ、美味しそう! すごく綺麗ね!」
「うん。久々の会心作なのよ」
「そんな… ほんとにもらってもいいの?」
「だから、いいんだって」
みっこはちょっと思案するように首をかしげたが、ふと、思いついたように言った。
「ね。ここでいっしょにこのケーキ、食べましょ」
「え? ここで?」
「ええ。会心のケーキだったら、さつきだって食べたいでしょうし。あたしもいっしょに食べたいし」
「でも、フォークとか、お皿とかないし」
「ちょっと待ってて。あそこのコンビニで買って来るから。あ、これ持ってて」
彼女はそう言うと、わたしの返事も待たず、トートバッグをわたしに預けて、煌々とあかりの灯っている公園前のコンビニに、駆けていった。
「はい。お待たせ。せっかくだから『午後の紅茶』も買ってきちゃった。やっぱりケーキにお茶はつきものよね」
コンビニから戻ったみっこは、そう言いながら近くのベンチに座り、トートバッグからケーキケースを大事そうに取り出す。
「なんだかもったいないわね。こんな可愛いケーキを、こんなとこで食べちゃうなんて。ナイフ入れてもいい?」
「もちろん、いいわよ」
クスッと笑いながら、みっこはコンビニで買ってきたプラスチックのナイフでケーキを切り分け、紙のお皿に載せる。
「いただきま~す」
そう言って手を合わせ、彼女はケーキを頬張る。
「ん。おししい! やっぱりさつきは、お菓子づくりの天才ね!」
もぐもぐさせた口に手を当てながら、みっこはわたしのケーキを褒めてくれた。
ナトリウム灯のオレンジ色の光が、みっこを向こうから照らしているので、その表情は影になってよく見えないけど、彼女の声は明るかった。
さっきまではあんなに激しく動揺していた彼女だったけど、ようやくふだんのみっこに戻れたのかな。
だったらいいんだけど。
つづく
彼女は、いた。
さっきまでの場所にいなくて一瞬焦ったけど、最初に会ったときのように、みっこはブランコに座って、わずかに揺らしながら、うつむいていた。
まだ公園にいてくれたことにホッと安心し、できるだけ明るくみっこの側に歩み寄る。
待っている間に、みっこも少しは気分が落ち着いたらしく、わたしに気がつくと立ち上がり、ちょっとぎこちなく、おそるおそるこちらを見返した。
「はい、これ」
わたしはトートバッグを差し出した。
「なあに? これ」
トートバッグを見つめて、みっこは訝しげに訊ねる。
「今日作ったケーキ。これ、みっこにあげる」
「え? いいの? でも…」
「いいのよ、気にしないで。どうせ気晴らしに作ったものだから、みっこが食べてくれると嬉しいから」
「ほんとに? ありがとう。嬉しい」
大事そうにトートバッグを受け取ったみっこは中を覗き込み、その瞬間、花が咲いたように明るい表情になった。
「わあ、美味しそう! すごく綺麗ね!」
「うん。久々の会心作なのよ」
「そんな… ほんとにもらってもいいの?」
「だから、いいんだって」
みっこはちょっと思案するように首をかしげたが、ふと、思いついたように言った。
「ね。ここでいっしょにこのケーキ、食べましょ」
「え? ここで?」
「ええ。会心のケーキだったら、さつきだって食べたいでしょうし。あたしもいっしょに食べたいし」
「でも、フォークとか、お皿とかないし」
「ちょっと待ってて。あそこのコンビニで買って来るから。あ、これ持ってて」
彼女はそう言うと、わたしの返事も待たず、トートバッグをわたしに預けて、煌々とあかりの灯っている公園前のコンビニに、駆けていった。
「はい。お待たせ。せっかくだから『午後の紅茶』も買ってきちゃった。やっぱりケーキにお茶はつきものよね」
コンビニから戻ったみっこは、そう言いながら近くのベンチに座り、トートバッグからケーキケースを大事そうに取り出す。
「なんだかもったいないわね。こんな可愛いケーキを、こんなとこで食べちゃうなんて。ナイフ入れてもいい?」
「もちろん、いいわよ」
クスッと笑いながら、みっこはコンビニで買ってきたプラスチックのナイフでケーキを切り分け、紙のお皿に載せる。
「いただきま~す」
そう言って手を合わせ、彼女はケーキを頬張る。
「ん。おししい! やっぱりさつきは、お菓子づくりの天才ね!」
もぐもぐさせた口に手を当てながら、みっこはわたしのケーキを褒めてくれた。
ナトリウム灯のオレンジ色の光が、みっこを向こうから照らしているので、その表情は影になってよく見えないけど、彼女の声は明るかった。
さっきまではあんなに激しく動揺していた彼女だったけど、ようやくふだんのみっこに戻れたのかな。
だったらいいんだけど。
つづく
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。