227 / 300
18 Rip Stick ~before side
Rip Stick 6
「ぶっちゃけ、最初に誘われたとき、かなり悩んだのよ」
「悩んだ? なにを?」
「川島君はさつきの彼氏だし、あたしは、文哉さんのことが好きでしょ。こういう言い方って失礼かもしれないけど、『変なことになったら困るな』って、最初に誘われたとき、ちょっと思ったの。でも、そんな心配全然なかったわ」
「…」
「あなたたちって、『離れていても、お互いを思いあってるんだな』って実感できたのが、川島君と長崎に行ったときの、あたしのいちばんの収穫だったかもね」
「…」
「ふふ。それだけ言いたくて、こんなところにきちゃった。さ。リハがはじまるから、もう行きましょ!」
みっこはそう言って素早く立ち上がると、パンパンとスカートについた草切れを払った。だけどわたしはいろんな思いが交錯して、胸が熱くなって、なかなか動きだせない。
『仲直りしたら?』
とか言うような押しつけがましいことを、直接言わないだけに、みっこがわたしと川島君のことを、ほんとに気にかけてくれていると、心から感じる。
そして、わたしたちが上手くいくことを、心から望んでくれている。
なんだか恥ずかしい。
そんなみっこを、ずっと疑っていて。
『あたしが好きなのは… 文哉さん』
って先週の夜、みっこから告白されても、心のどこかで、『みっこは嘘をついているんじゃないか?』とか、『ほんとは川島君が好きなのを、隠してるんじゃないか』って、疑ったりもしていたけど、それはわたしの思い違いだった。
『相手の女を裏切ることになる。それがいちばん悲しい』
だなんて、ボカした言い方するもんだから、てっきりわたしは、自分のことを遠回しに言われているんだと、勘ぐっていた。
でも、そうじゃなかったんだ。
「みっこ。ごめんね… ありがとう」
丘の小径を先に下りていくみっこに、わたしは急ぎ足で追いつき、背中から声をかけた。
彼女は少し歩をゆるめたものの、立ち止まろうとはせず、
「…いいの」
と、わたしの顔も見ずに、ようやく聞きとれるくらいのか細い声で、応えた。
「みっこ… どうしたの?」
「ん? 別に… なんでもないわよ」
彼女は振り向きもせず、丘を下る。その背中は気のせいか、なんだか淋しげ。
わたしは気になって、みっこのとなりに並ぶと、彼女の顔をのぞきこんだ。
「みっこ?」
彼女はチラッとわたしを見返し、繕うように微笑む。
「あたしには、『モデル』っていう、大好きなお仕事があるから。それで幸せなのよ」
そう言ったみっこは、『さ、早く』とわたしを促し、アリーナへ向かった。
…そうか。
みっこは自分の恋の辛さをまぎらせるのに、精一杯なんだな。
そう言えばあの夜も、みっこは言っていた。
『もう会うまい、って心に決めるんだけど、それでも会えない苦しさの方が辛くて、他のなにでもその気持ちは埋められない』
って。
あの夜、わたしの作ったケーキを食べながら、ポロポロと涙をこぼした彼女だった。
今日のみっこは、そんなことなどまるでなかったかのようだけど、今でも笑顔の裏には、『埋められない』気持ちがくすぶっているに違いない。
そんな報われない恋をしているみっこに、わたしと川島君のことが、羨ましく映るのも、当然のこと。
それなのにわたしは、ささいなことで川島君に当たったりして、なんて心が狭いんだろ。
そう。
ささいなことよね。
きっと…
川島君はわたしのことを愛してくれて、とっても大事に思ってくれているんだから、ふたりにとって重要な問題があるのなら、いつかはキチンと話してくれるわよね。
わたしは川島君が話してくれるのを、待っていればいいのよね。
そう考えれば、少しは気持ちを切り替えられるかもしれない。
みっこには感謝しなくちゃ。
つづく
「悩んだ? なにを?」
「川島君はさつきの彼氏だし、あたしは、文哉さんのことが好きでしょ。こういう言い方って失礼かもしれないけど、『変なことになったら困るな』って、最初に誘われたとき、ちょっと思ったの。でも、そんな心配全然なかったわ」
「…」
「あなたたちって、『離れていても、お互いを思いあってるんだな』って実感できたのが、川島君と長崎に行ったときの、あたしのいちばんの収穫だったかもね」
「…」
「ふふ。それだけ言いたくて、こんなところにきちゃった。さ。リハがはじまるから、もう行きましょ!」
みっこはそう言って素早く立ち上がると、パンパンとスカートについた草切れを払った。だけどわたしはいろんな思いが交錯して、胸が熱くなって、なかなか動きだせない。
『仲直りしたら?』
とか言うような押しつけがましいことを、直接言わないだけに、みっこがわたしと川島君のことを、ほんとに気にかけてくれていると、心から感じる。
そして、わたしたちが上手くいくことを、心から望んでくれている。
なんだか恥ずかしい。
そんなみっこを、ずっと疑っていて。
『あたしが好きなのは… 文哉さん』
って先週の夜、みっこから告白されても、心のどこかで、『みっこは嘘をついているんじゃないか?』とか、『ほんとは川島君が好きなのを、隠してるんじゃないか』って、疑ったりもしていたけど、それはわたしの思い違いだった。
『相手の女を裏切ることになる。それがいちばん悲しい』
だなんて、ボカした言い方するもんだから、てっきりわたしは、自分のことを遠回しに言われているんだと、勘ぐっていた。
でも、そうじゃなかったんだ。
「みっこ。ごめんね… ありがとう」
丘の小径を先に下りていくみっこに、わたしは急ぎ足で追いつき、背中から声をかけた。
彼女は少し歩をゆるめたものの、立ち止まろうとはせず、
「…いいの」
と、わたしの顔も見ずに、ようやく聞きとれるくらいのか細い声で、応えた。
「みっこ… どうしたの?」
「ん? 別に… なんでもないわよ」
彼女は振り向きもせず、丘を下る。その背中は気のせいか、なんだか淋しげ。
わたしは気になって、みっこのとなりに並ぶと、彼女の顔をのぞきこんだ。
「みっこ?」
彼女はチラッとわたしを見返し、繕うように微笑む。
「あたしには、『モデル』っていう、大好きなお仕事があるから。それで幸せなのよ」
そう言ったみっこは、『さ、早く』とわたしを促し、アリーナへ向かった。
…そうか。
みっこは自分の恋の辛さをまぎらせるのに、精一杯なんだな。
そう言えばあの夜も、みっこは言っていた。
『もう会うまい、って心に決めるんだけど、それでも会えない苦しさの方が辛くて、他のなにでもその気持ちは埋められない』
って。
あの夜、わたしの作ったケーキを食べながら、ポロポロと涙をこぼした彼女だった。
今日のみっこは、そんなことなどまるでなかったかのようだけど、今でも笑顔の裏には、『埋められない』気持ちがくすぶっているに違いない。
そんな報われない恋をしているみっこに、わたしと川島君のことが、羨ましく映るのも、当然のこと。
それなのにわたしは、ささいなことで川島君に当たったりして、なんて心が狭いんだろ。
そう。
ささいなことよね。
きっと…
川島君はわたしのことを愛してくれて、とっても大事に思ってくれているんだから、ふたりにとって重要な問題があるのなら、いつかはキチンと話してくれるわよね。
わたしは川島君が話してくれるのを、待っていればいいのよね。
そう考えれば、少しは気持ちを切り替えられるかもしれない。
みっこには感謝しなくちゃ。
つづく
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
Emerald
藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。
叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。
自分にとっては完全に新しい場所。
しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。
仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。
〜main cast〜
結城美咲(Yuki Misaki)
黒瀬 悠(Kurose Haruka)
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。
ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。