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18 Rip Stick ~After side
Rip Stick 24
「なんとか家につけたね」
緊張が解けたように胸をなでおろし、藤村さんは言った。
それでもまだ不安があるのか、川島君がおずおずと尋ねる。
「ほんとにこれで、よかったんでしょうか?」
「まあ、ベターな選択だろう。スキャンダルは防ぎたいからね」
「その男たちも、未遂で逃げていったんでしょ?」
確認するように、星川先生が訊く。
「ええ」
「じゃあ警察に通報しても、みっこちゃんにとって、いいことはひとつもないわね」
「ぼくも、そう思います」
「頬と手を擦りむいたくらいで、怪我も思ったより軽いみたいだし、不幸中の幸いだな」
みっこの状態を観察した藤村さんだったが、すぐに悔しさを滲ませるような口調でつぶやいた。
「…にしても悔しいな、泣き寝入りなんて。川島君、そいつらをぶちのめしてくれればよかったのに」
「二・三発はぶん殴ってやったけど… ぼくも悔しいです」
「でも川島君、機転がきくわね。感心したわ」
「いえ… ぼくがもっと早く、みっこを見つけられたら…」
「川島君が自分を責める必要はないわよ」
「みっこちゃん…」
みっこの側に寄り添った藤村さんは、彼女の頬を撫でる。怯えるようにピクリと反応して、みっこは藤村さんをじっと見つめていたが、無言のまま目を伏せた。
「今日はゆっくりと眠りなさい。あとのことはぼくたちの方でなんとかしてあげる。なにも心配ないからね」
「…ありがとうございます」
消え入るような声で応え、みっこは川島君のカーディガンに顔を埋めた。
藤村さんはしばらくみっこの顔を心配そうに見ていたが、こちらを振り向くと、申し訳なさそうに言った。
「ふたりともまだ、みっこちゃんの側に、いてあげられるかい?」
「は、はい」
「みっこの側にいてやりたいのはやまやまなんだけど、明日はどうしても外せない仕事があって、ぼくたちはもう引き上げなきゃいけないけど…」
「大丈夫です藤村さん。あとのことはぼくたちに任せて下さい」
「すまないな、川島君。なにかあったらすぐに連絡をくれよ」
「はい」
「さつきちゃんも、みっこのことをくれぐれも頼むわね」
「は、はい」
星川先生の言葉に、わたしもうなずいて答える。
今は…
そう答えるしかない。
「シャワー、浴びる?」
藤村さんたちが帰ってしまうとと、改めて川島君は訊いた。みっこは小さくうなずく。
「さつきちゃん。みっこにシャワー浴びさせてやって」
「え? ええ…」
「いい… ひとりで入れる」
かぶりを振って、みっこは断った。
「そう? じゃあ、飲みたいものとか、ある?」
「…ココア」
「わかった」
みっこがバスルームに入っていくのを見届けると、川島君はわたしに指図する。
「悪いけどさつきちゃんは、みっこの服を出してやって。ぼくはちょっと牛乳を買ってくるから」
そう言って川島君は部屋を出ていったが、5分もたたないうちに戻ってくると、キッチンでココアを温めた。
「みっこ。着替え、ここに置いとくね」
「…」
すりガラス越しにみっこに声をかけたが、返事はなく、バスルームからはシャワーの音が聞こえてくるだけだった。
部屋から適当に見繕ってきた服を、わたしはそっと洗面台に置いて、バスルームを出た。
「…」
みっこが戻ってくるまで、わたしと川島君はなにも喋らなかった。
凍りついたような、沈黙の時間が過ぎる。
みっこがシャワーを浴び終えるまで、時計の長針は半周も動いていなかったが、わたしには長い長い時間に感じられた。
つづく
緊張が解けたように胸をなでおろし、藤村さんは言った。
それでもまだ不安があるのか、川島君がおずおずと尋ねる。
「ほんとにこれで、よかったんでしょうか?」
「まあ、ベターな選択だろう。スキャンダルは防ぎたいからね」
「その男たちも、未遂で逃げていったんでしょ?」
確認するように、星川先生が訊く。
「ええ」
「じゃあ警察に通報しても、みっこちゃんにとって、いいことはひとつもないわね」
「ぼくも、そう思います」
「頬と手を擦りむいたくらいで、怪我も思ったより軽いみたいだし、不幸中の幸いだな」
みっこの状態を観察した藤村さんだったが、すぐに悔しさを滲ませるような口調でつぶやいた。
「…にしても悔しいな、泣き寝入りなんて。川島君、そいつらをぶちのめしてくれればよかったのに」
「二・三発はぶん殴ってやったけど… ぼくも悔しいです」
「でも川島君、機転がきくわね。感心したわ」
「いえ… ぼくがもっと早く、みっこを見つけられたら…」
「川島君が自分を責める必要はないわよ」
「みっこちゃん…」
みっこの側に寄り添った藤村さんは、彼女の頬を撫でる。怯えるようにピクリと反応して、みっこは藤村さんをじっと見つめていたが、無言のまま目を伏せた。
「今日はゆっくりと眠りなさい。あとのことはぼくたちの方でなんとかしてあげる。なにも心配ないからね」
「…ありがとうございます」
消え入るような声で応え、みっこは川島君のカーディガンに顔を埋めた。
藤村さんはしばらくみっこの顔を心配そうに見ていたが、こちらを振り向くと、申し訳なさそうに言った。
「ふたりともまだ、みっこちゃんの側に、いてあげられるかい?」
「は、はい」
「みっこの側にいてやりたいのはやまやまなんだけど、明日はどうしても外せない仕事があって、ぼくたちはもう引き上げなきゃいけないけど…」
「大丈夫です藤村さん。あとのことはぼくたちに任せて下さい」
「すまないな、川島君。なにかあったらすぐに連絡をくれよ」
「はい」
「さつきちゃんも、みっこのことをくれぐれも頼むわね」
「は、はい」
星川先生の言葉に、わたしもうなずいて答える。
今は…
そう答えるしかない。
「シャワー、浴びる?」
藤村さんたちが帰ってしまうとと、改めて川島君は訊いた。みっこは小さくうなずく。
「さつきちゃん。みっこにシャワー浴びさせてやって」
「え? ええ…」
「いい… ひとりで入れる」
かぶりを振って、みっこは断った。
「そう? じゃあ、飲みたいものとか、ある?」
「…ココア」
「わかった」
みっこがバスルームに入っていくのを見届けると、川島君はわたしに指図する。
「悪いけどさつきちゃんは、みっこの服を出してやって。ぼくはちょっと牛乳を買ってくるから」
そう言って川島君は部屋を出ていったが、5分もたたないうちに戻ってくると、キッチンでココアを温めた。
「みっこ。着替え、ここに置いとくね」
「…」
すりガラス越しにみっこに声をかけたが、返事はなく、バスルームからはシャワーの音が聞こえてくるだけだった。
部屋から適当に見繕ってきた服を、わたしはそっと洗面台に置いて、バスルームを出た。
「…」
みっこが戻ってくるまで、わたしと川島君はなにも喋らなかった。
凍りついたような、沈黙の時間が過ぎる。
みっこがシャワーを浴び終えるまで、時計の長針は半周も動いていなかったが、わたしには長い長い時間に感じられた。
つづく
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