Campus91

茉莉 佳

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20 Lucky Lips

Lucky Lips 3

「さつき。かけない?」
そう言ってわたしにベンチを勧めたみっこは、自分から先に座る。わたしも黙って、みっこのとなりに腰を降ろした。

そのまましばらく、わたしたちはなにも話さなかった。
みっこはただ、ひざの上に手を置いたまま、少し伏せ目気味にして黙っていた。
わたしもなにも話さなかった。
ただ、目の前を通り過ぎる旅行者たちを、ぼんやりと眺めているだけ。
スーツの上にコートを着込んだ、ビジネスマン風の男の人。
若い女の子のグループが、はしゃぎながら目の前を過ぎる。
吹き抜けの空港の高い窓からは、12月の明るい日射しが差し込んできて、ロビーの所々に、真っ白な陽だまりを作っている。
そこを横切る人たちは、一瞬、光のシルエットになって、白く透きとおっていく。

「…あたしね」
長い沈黙のあと、ようやくみっこが口を開いた。

「東京に帰ることにしたの」

ひとことそう言うと、みっこはまたひざの上で両手を組み、顔を少しかしげて彼方かなたの景色を見つめ、まるでなにかを思い出しているような、遠い目をした。

「…そう」
無関心を装ったような返事をしたけど、わたしは動揺した。

みっこがいなくなる?
どうして?
わたしのせい?

いろんなことを訊いてみたかったけど、昨日と同じように唇が凍りつき、わたしはなにも言葉を発することができない。

みっこと最後に電話で話した日。
あの日の記憶が、わたしを縛っていた。

あれだけみっこのことを罵って、絶交宣言までしておいて、自分から口をきくのは、なんだかみっともないし、恥ずかしい。
みっこに別れを告げたのは、わたしの方。

『みっこみたいにワガママで嘘つきで、親友の彼氏でも狙うような女。友だちなんかできないわよ!』
って、引導を渡したのは、わたし。
そんなつまらない、とるに足らないとわかっているプライドと見栄に、わたしはがんじがらめにされていた。

みっこはそんなわたしに構わず、話を続けた。
「大学にはもう、退学届を出したの。だから今のあたし、もう、さつきと同じ、西蘭女子大生じゃなくなっちゃった」
「…」
「仕事も順調になってきたし、向こうのアクターズスクールに入って、本格的に演劇の勉強もはじめたし、これからはモデルとして、そして女優として、バリバリ頑張っていくつもり」
「…よかったじゃない」
「ありがとう」
「…」
「さつきにはこの2年近く、本当によくしてもらった。あたし、心からお礼を言いたかったの」
「別に… そんなの、いいけど…」
「あたし、今でもときどき、思い出すの」
「…なにを?」
「去年の春。あなたとはじめて会った日のことを」
「…」
「入学式のときも、そのあと、学科に分かれてのオリエンテーションのときも、あなたはわたしのとなりで、熱心に教授たちの話を聞いていた。
これといった目的もないまま進学してきて、なんとなくそこにいるだけの他の女の子たちと違って、あなたは生き生きとした目をしていた。
そんなあなたを見て、あたし、『この人きっと、ほんとにやりたいことがあって、この学校に来てるんだろな』って感じて、とっても羨ましかったの」
「…」
「ふつうの新入生なら、期待と不安の入り交じった気持ちで、新生活を迎えるんだろうけど、あの頃のあたしには絶望しかなくて、大学生活も乾燥した、全然無意味な日々の繰り返しになるとしか、思えなかった」
「…」
「そんなあたしを救ってくれたのが、あなただったの」
「…」

そこまで言って、彼女は黙り込んだ。
そして、過ぎ去った遠い日々のことを、ひとつひとつ憶い出しているかのように、静かに瞳を閉じて、物思いに耽っている。
出会った頃の話をするみっこにつられて、わたしもあの日のこと…
西蘭女子大の入学式の日の景色が、心のなかに浮かんできた。

つづく
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