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3日目 クラブ
3日目
水曜日の朝も、いつもと同じ様にはじまった。
窓の外の大きな入道雲を見ながらピザトーストを食べ、インスタントコーヒーを飲む。
テレビからはいつもと同じ様なニュース。
バス停ではいつもと同じ顔ぶれ。
会社に着いて受付嬢の篠崎陽菜と天気の話をし、同僚の村井と他愛ない会話をする。
相変わらず一日中、気温は高く日射しは刺す様に痛い。
そしていつもと同じ頃に、仕事は終わった。
ただ、今日の俺は会社が引けても部屋には帰らず、ターミナルのバス停から直接、都心から少し離れた運動公園へ向かうバスへ乗り込む。
毎週水曜日は、森の中にある運動公園のテニスクラブに、ありさと通っているのだ。
一旦部屋に戻ると、練習開始の時間には間に合わないのもあるが、俺はスーツのまま、テニスクラブへ行く事にしていた。
スーツフェチのありさは、俺のスーツ姿が大好きらしい。
特に、片手でネクタイを緩める姿に、すごく萌えるという。
休日のデートでスーツを着る事などまずないから、この時くらいはありさ好みのスーツ姿を見せて、ポイントを稼ごうというわけだ。
クラブハウスの更衣室で、いつものTシャツとパンツに着替え、専用ロッカーからラケットやタオルの入ったバッグを取り出し、俺はコートに出る。
仁科ありさは先に来てもう支度を整えていて、何人かの男女に囲まれながら、コートサイドで談笑していた。
胸元にブランドロゴの入った、丈の短いペールラベンダーのテニスウェアが、からだにぴったりフィットしていて、胸の曲線を強調している。ショートパンツのせいで、脚の長さが際立って見える。
傍目からみるありさはスレンダーで身長も高く、ひいき目でなく他のどの女達より、ひときわ存在感があって輝いていた。
周りの男たちはみな、そんなありさの肢体を盗み見て、媚を売っているみたいだったが、彼女は男達の下心に気づく様子もなく、屈託のない微笑みをだれにでも投げかけている。
その光景を見ながら、不意に俺は不安を感じた。
ほんとにありさは、俺の事を愛しているのだろうか?
俺とつき合いながらも、実はこの男達の誰かと、こっそり会っていたりしてるんじゃないだろうか?
俺の事は、ただの遊びじゃないんだろうか?
俺たちはほんとに、結婚するんだろうか?
そんな不安は杞憂でしかないはずだ。
そう思いながらも、こうやってありさが男達に囲まれている所を見たりすると、軽く嫉妬を覚えて、焦ってしまう。
だが、こんなネガティブな感情をありさにぶつけるのは、逆に彼女の愛情を萎えさせるだろう。
だから俺は、できるだけ寛大でいる事にしている。
俺は敢えてありさ達の話の輪へは加わらず、彼女の視界に入る手前のベンチに座り、靴の紐を締め直すポーズをした。
俺を見つけたありさは、ベンチから立ち上がり、男達の間をすり抜けて、こちらへ歩み寄ってきた。
ふふん。
ザマミロ。
ありさはお前らより、俺を選んだんだ。
優越感にひたる一瞬…
俺って意外と性格悪いかも。
「稜哉さん。秋のランキングが発表されたんだって。あなた9位らしいわよ。とうとうベストテンに入ったわね。次のクラブ内トーナメントでもシードされるらしいわ。すごいわね~」
そう言ってありさはぼくに、他の誰にも見せる事のない、愛情と親しみにあふれた微笑みを向けた。
ありさはぼくにだけ、ファーストネームで呼びかける。
『稜哉さん』
ありさのこの、すっかり心を許している様な無防備な微笑みと、少し舌足らずで甘えた様な呼びかけが、恋人である俺と、その他大勢モブキャラの男達との、決定的な違いなのだ。
このテニスクラブではまだ、ふたりの関係をカミングアウトしてはいないが、みんなも俺達の仲は薄々気づいているみたいで、俺とありさが話している間に割って入ってくる、チャレンジャーな男(女もだが)はいない。
いつもの様に、ネットを挟んでみんなで乱打し、コーチから指導を受けながら、各自の課題に沿った練習をして、最後はワンセットマッチのミニゲームを、適当なメンバーと行う。
自分の課題にしていたファーストサーブの確率も、今日はかなり調子がよく、面白い様に決まって、コーチの褒め言葉ももらった。
ミニゲームも絶好調。
自分のサービスゲームを落とす事なく、実力の伯仲した相手のサービスを破り、6-2で快勝した。
テニスが終わるとたいてい、気のあった仲間同士で遅い夕食やカフェに寄る。
会社での人付き合いは、いろんな打算やしがらみがあって慎重になりがちだが、趣味のサークルではそういう利害関係を考えなくていいので、気楽なもんだ。
軽くシャワーを浴びて再びスーツを着込み、キチンとネクタイを締めた俺は、ありさを含めた男女7人くらいのいつもの仲間とつるんで、行きつけにしている近所のファミレスで、しばらくテニスの話や世間話をして、楽しい時間を過ごした。
つづく
水曜日の朝も、いつもと同じ様にはじまった。
窓の外の大きな入道雲を見ながらピザトーストを食べ、インスタントコーヒーを飲む。
テレビからはいつもと同じ様なニュース。
バス停ではいつもと同じ顔ぶれ。
会社に着いて受付嬢の篠崎陽菜と天気の話をし、同僚の村井と他愛ない会話をする。
相変わらず一日中、気温は高く日射しは刺す様に痛い。
そしていつもと同じ頃に、仕事は終わった。
ただ、今日の俺は会社が引けても部屋には帰らず、ターミナルのバス停から直接、都心から少し離れた運動公園へ向かうバスへ乗り込む。
毎週水曜日は、森の中にある運動公園のテニスクラブに、ありさと通っているのだ。
一旦部屋に戻ると、練習開始の時間には間に合わないのもあるが、俺はスーツのまま、テニスクラブへ行く事にしていた。
スーツフェチのありさは、俺のスーツ姿が大好きらしい。
特に、片手でネクタイを緩める姿に、すごく萌えるという。
休日のデートでスーツを着る事などまずないから、この時くらいはありさ好みのスーツ姿を見せて、ポイントを稼ごうというわけだ。
クラブハウスの更衣室で、いつものTシャツとパンツに着替え、専用ロッカーからラケットやタオルの入ったバッグを取り出し、俺はコートに出る。
仁科ありさは先に来てもう支度を整えていて、何人かの男女に囲まれながら、コートサイドで談笑していた。
胸元にブランドロゴの入った、丈の短いペールラベンダーのテニスウェアが、からだにぴったりフィットしていて、胸の曲線を強調している。ショートパンツのせいで、脚の長さが際立って見える。
傍目からみるありさはスレンダーで身長も高く、ひいき目でなく他のどの女達より、ひときわ存在感があって輝いていた。
周りの男たちはみな、そんなありさの肢体を盗み見て、媚を売っているみたいだったが、彼女は男達の下心に気づく様子もなく、屈託のない微笑みをだれにでも投げかけている。
その光景を見ながら、不意に俺は不安を感じた。
ほんとにありさは、俺の事を愛しているのだろうか?
俺とつき合いながらも、実はこの男達の誰かと、こっそり会っていたりしてるんじゃないだろうか?
俺の事は、ただの遊びじゃないんだろうか?
俺たちはほんとに、結婚するんだろうか?
そんな不安は杞憂でしかないはずだ。
そう思いながらも、こうやってありさが男達に囲まれている所を見たりすると、軽く嫉妬を覚えて、焦ってしまう。
だが、こんなネガティブな感情をありさにぶつけるのは、逆に彼女の愛情を萎えさせるだろう。
だから俺は、できるだけ寛大でいる事にしている。
俺は敢えてありさ達の話の輪へは加わらず、彼女の視界に入る手前のベンチに座り、靴の紐を締め直すポーズをした。
俺を見つけたありさは、ベンチから立ち上がり、男達の間をすり抜けて、こちらへ歩み寄ってきた。
ふふん。
ザマミロ。
ありさはお前らより、俺を選んだんだ。
優越感にひたる一瞬…
俺って意外と性格悪いかも。
「稜哉さん。秋のランキングが発表されたんだって。あなた9位らしいわよ。とうとうベストテンに入ったわね。次のクラブ内トーナメントでもシードされるらしいわ。すごいわね~」
そう言ってありさはぼくに、他の誰にも見せる事のない、愛情と親しみにあふれた微笑みを向けた。
ありさはぼくにだけ、ファーストネームで呼びかける。
『稜哉さん』
ありさのこの、すっかり心を許している様な無防備な微笑みと、少し舌足らずで甘えた様な呼びかけが、恋人である俺と、その他大勢モブキャラの男達との、決定的な違いなのだ。
このテニスクラブではまだ、ふたりの関係をカミングアウトしてはいないが、みんなも俺達の仲は薄々気づいているみたいで、俺とありさが話している間に割って入ってくる、チャレンジャーな男(女もだが)はいない。
いつもの様に、ネットを挟んでみんなで乱打し、コーチから指導を受けながら、各自の課題に沿った練習をして、最後はワンセットマッチのミニゲームを、適当なメンバーと行う。
自分の課題にしていたファーストサーブの確率も、今日はかなり調子がよく、面白い様に決まって、コーチの褒め言葉ももらった。
ミニゲームも絶好調。
自分のサービスゲームを落とす事なく、実力の伯仲した相手のサービスを破り、6-2で快勝した。
テニスが終わるとたいてい、気のあった仲間同士で遅い夕食やカフェに寄る。
会社での人付き合いは、いろんな打算やしがらみがあって慎重になりがちだが、趣味のサークルではそういう利害関係を考えなくていいので、気楽なもんだ。
軽くシャワーを浴びて再びスーツを着込み、キチンとネクタイを締めた俺は、ありさを含めた男女7人くらいのいつもの仲間とつるんで、行きつけにしている近所のファミレスで、しばらくテニスの話や世間話をして、楽しい時間を過ごした。
つづく
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