11 / 21
7日目 ありさの部屋
「今度、稜哉さんの実家に連れていってね」
俺の腕に抱かれて、はだかのままベッドに横たわっていたありさは、照れる様に言った。
「そうだな。俺もそれを考えてたんだ」
「稜哉さんのご両親に、早くご挨拶に伺いたいわ」
「俺も近いうちに、ありさの実家に挨拶に行かないとな」
「すみ酒や結納の日取りも、早く決めなきゃね」
「すみ酒? なんだ、それ?」
ありさはからだを起こし、ローボードの上に置いてあった分厚い結婚情報誌を手に取って、付箋の貼ってあるページを開き、俺に見せた。
『すみ酒』っていうのは福岡地方独特の婚礼の儀式で、結婚の内諾を得た男性側が、『一生添い遂げる』という意志を見せるために、酒一升と大きな天然の鯛を一匹持って、女性の家に挨拶に行く。
これは『一升一鯛』、つまり『一生一代』という験担ぎという事だ。
そして女性側は、決まった作法に則って、それを受け取り調理して、男性側にふるまうという儀式らしい。
そう言えば以前、結婚特集かなにかのテレビ番組で、取り上げていたな。
面倒くさそうな行事だと、その時は思ったもんだ。
「こんな古くさい事、今さらやるヤツなんて、いないんじゃないか?」
「昔からの決められた儀式は、キチンとしたいわ」
「ありさって、意外と古風なんだな」
「そう? でも、そういうのって『けじめ』だと思うの。結婚ってやっぱり、家と家の繋がりでしょ。自分達だけですむ話じゃないし。お互いの家族や親族にちゃんと認められるためにも、そういう儀式は必要だと思うの」
「まあ、ありさがやりたいって言うなら、ちゃんとやるよ」
「ありがとう、稜哉さん」
「結婚… かぁ」
まあ、古い儀式にこだわるというのは、ありさがキチンとした家庭で育てられてきたという証でもあるか。そんな風に考えながら、俺はありさが差し出した結婚情報誌を、なんの気なしにパラパラとめくった。
所々に、付箋でチェックが入れてある。
それは結婚式場だったり、ウエディングドレスの写真やブランドだったりしている。
結婚式と新婚生活に期待を膨らませながら、この雑誌を夜ごと眺めているありさの姿を、俺は想像した。
ありさは本気で、俺との結婚を考えてくれてる…
いや、実行に移そうとしてくれてるんだと、はっきり感じ取られる。
「稜哉さん… 結婚、イヤなの?」
少し悲しそうな瞳で、ありさは情報誌を眺めている俺を、訝しげに見つめた。
「そうじゃないよ。ただ、『すみ酒』だの『結納』だの話しをしてると、『俺達結婚するんだな~』って実感が湧いてくるっていうか…」
「そうね。わたし達、ほんとに結婚するのね~」
「ありさは本当に、俺なんかでいいのか?」
「ばか」
軽くたしなめたありさは、やさしくキスをしてくれる。
「稜哉さんがいいの」
「ほんとに?」
「稜哉さんじゃなきゃ、イヤなの」
「ありさ…」
「わたし、幸せよ」
そう言うと、ありさは恥ずかしそうに俺の腕に顔を埋めた。
そんな彼女が、本当に愛しい。
「ありさのウェディングドレス姿、早く見てみたいな」
「これからエステとダイエットしとかなきゃ」
「そのままでも充分綺麗だよ」
「ふふ。わたし、トレーンが長くて、背中にレースアップがついた、ローブデコルテのウェディングドレスが着たいな」
「よくわからないけど、ありさならなんでも似合うよ」
「適当なこと言っちゃって」
「付箋貼ってたページのドレスだろ? スレンダーで背の高いありさなら、こんな凄いドレスでも、きっと着こなせるよ」
「ほんとにそう思ってる?」
「もちろんだよ」
「誓う?」
「ああ、誓うよ。幸せにするよ。一生」
そう耳元でささやきながら、俺はキスをする。
ありさも俺に腕を絡め、受け入れる。
『ありさを好きだ』というこの気持ちを伝えるには、キスだけじゃ足りない。
飽く事もなく、俺はありさを抱きしめ、もう一度、自分の愛のすべてを注ぎ込んだ。
つづく
俺の腕に抱かれて、はだかのままベッドに横たわっていたありさは、照れる様に言った。
「そうだな。俺もそれを考えてたんだ」
「稜哉さんのご両親に、早くご挨拶に伺いたいわ」
「俺も近いうちに、ありさの実家に挨拶に行かないとな」
「すみ酒や結納の日取りも、早く決めなきゃね」
「すみ酒? なんだ、それ?」
ありさはからだを起こし、ローボードの上に置いてあった分厚い結婚情報誌を手に取って、付箋の貼ってあるページを開き、俺に見せた。
『すみ酒』っていうのは福岡地方独特の婚礼の儀式で、結婚の内諾を得た男性側が、『一生添い遂げる』という意志を見せるために、酒一升と大きな天然の鯛を一匹持って、女性の家に挨拶に行く。
これは『一升一鯛』、つまり『一生一代』という験担ぎという事だ。
そして女性側は、決まった作法に則って、それを受け取り調理して、男性側にふるまうという儀式らしい。
そう言えば以前、結婚特集かなにかのテレビ番組で、取り上げていたな。
面倒くさそうな行事だと、その時は思ったもんだ。
「こんな古くさい事、今さらやるヤツなんて、いないんじゃないか?」
「昔からの決められた儀式は、キチンとしたいわ」
「ありさって、意外と古風なんだな」
「そう? でも、そういうのって『けじめ』だと思うの。結婚ってやっぱり、家と家の繋がりでしょ。自分達だけですむ話じゃないし。お互いの家族や親族にちゃんと認められるためにも、そういう儀式は必要だと思うの」
「まあ、ありさがやりたいって言うなら、ちゃんとやるよ」
「ありがとう、稜哉さん」
「結婚… かぁ」
まあ、古い儀式にこだわるというのは、ありさがキチンとした家庭で育てられてきたという証でもあるか。そんな風に考えながら、俺はありさが差し出した結婚情報誌を、なんの気なしにパラパラとめくった。
所々に、付箋でチェックが入れてある。
それは結婚式場だったり、ウエディングドレスの写真やブランドだったりしている。
結婚式と新婚生活に期待を膨らませながら、この雑誌を夜ごと眺めているありさの姿を、俺は想像した。
ありさは本気で、俺との結婚を考えてくれてる…
いや、実行に移そうとしてくれてるんだと、はっきり感じ取られる。
「稜哉さん… 結婚、イヤなの?」
少し悲しそうな瞳で、ありさは情報誌を眺めている俺を、訝しげに見つめた。
「そうじゃないよ。ただ、『すみ酒』だの『結納』だの話しをしてると、『俺達結婚するんだな~』って実感が湧いてくるっていうか…」
「そうね。わたし達、ほんとに結婚するのね~」
「ありさは本当に、俺なんかでいいのか?」
「ばか」
軽くたしなめたありさは、やさしくキスをしてくれる。
「稜哉さんがいいの」
「ほんとに?」
「稜哉さんじゃなきゃ、イヤなの」
「ありさ…」
「わたし、幸せよ」
そう言うと、ありさは恥ずかしそうに俺の腕に顔を埋めた。
そんな彼女が、本当に愛しい。
「ありさのウェディングドレス姿、早く見てみたいな」
「これからエステとダイエットしとかなきゃ」
「そのままでも充分綺麗だよ」
「ふふ。わたし、トレーンが長くて、背中にレースアップがついた、ローブデコルテのウェディングドレスが着たいな」
「よくわからないけど、ありさならなんでも似合うよ」
「適当なこと言っちゃって」
「付箋貼ってたページのドレスだろ? スレンダーで背の高いありさなら、こんな凄いドレスでも、きっと着こなせるよ」
「ほんとにそう思ってる?」
「もちろんだよ」
「誓う?」
「ああ、誓うよ。幸せにするよ。一生」
そう耳元でささやきながら、俺はキスをする。
ありさも俺に腕を絡め、受け入れる。
『ありさを好きだ』というこの気持ちを伝えるには、キスだけじゃ足りない。
飽く事もなく、俺はありさを抱きしめ、もう一度、自分の愛のすべてを注ぎ込んだ。
つづく
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?