ENDLESS SUMMER

茉莉 佳

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7日目 ありさの部屋

「今度、稜哉さんの実家に連れていってね」

俺の腕に抱かれて、はだかのままベッドに横たわっていたありさは、照れる様に言った。

「そうだな。俺もそれを考えてたんだ」
「稜哉さんのご両親に、早くご挨拶に伺いたいわ」
「俺も近いうちに、ありさの実家に挨拶に行かないとな」
「すみ酒や結納の日取りも、早く決めなきゃね」
「すみ酒? なんだ、それ?」

ありさはからだを起こし、ローボードの上に置いてあった分厚い結婚情報誌を手に取って、付箋の貼ってあるページを開き、俺に見せた。
『すみ酒』っていうのは福岡地方独特の婚礼の儀式で、結婚の内諾を得た男性側が、『一生添い遂げる』という意志を見せるために、酒一升と大きな天然の鯛を一匹持って、女性の家に挨拶に行く。
これは『一升一鯛』、つまり『一生一代』というげん担ぎという事だ。
そして女性側は、決まった作法に則って、それを受け取り調理して、男性側にふるまうという儀式らしい。
そう言えば以前、結婚特集かなにかのテレビ番組で、取り上げていたな。
面倒くさそうな行事だと、その時は思ったもんだ。

「こんな古くさい事、今さらやるヤツなんて、いないんじゃないか?」
「昔からの決められた儀式は、キチンとしたいわ」
「ありさって、意外と古風なんだな」
「そう? でも、そういうのって『けじめ』だと思うの。結婚ってやっぱり、家と家の繋がりでしょ。自分達だけですむ話じゃないし。お互いの家族や親族にちゃんと認められるためにも、そういう儀式は必要だと思うの」
「まあ、ありさがやりたいって言うなら、ちゃんとやるよ」
「ありがとう、稜哉さん」
「結婚… かぁ」

まあ、古い儀式にこだわるというのは、ありさがキチンとした家庭で育てられてきたという証でもあるか。そんな風に考えながら、俺はありさが差し出した結婚情報誌を、なんの気なしにパラパラとめくった。
所々に、付箋ふせんでチェックが入れてある。
それは結婚式場だったり、ウエディングドレスの写真やブランドだったりしている。
結婚式と新婚生活に期待を膨らませながら、この雑誌を夜ごと眺めているありさの姿を、俺は想像した。
ありさは本気で、俺との結婚を考えてくれてる…
いや、実行に移そうとしてくれてるんだと、はっきり感じ取られる。

「稜哉さん… 結婚、イヤなの?」

少し悲しそうな瞳で、ありさは情報誌を眺めている俺を、訝しげに見つめた。

「そうじゃないよ。ただ、『すみ酒』だの『結納』だの話しをしてると、『俺達結婚するんだな~』って実感が湧いてくるっていうか…」
「そうね。わたし達、ほんとに結婚するのね~」
「ありさは本当に、俺なんかでいいのか?」
「ばか」

軽くたしなめたありさは、やさしくキスをしてくれる。

「稜哉さんがいいの」
「ほんとに?」
「稜哉さんじゃなきゃ、イヤなの」
「ありさ…」
「わたし、幸せよ」

そう言うと、ありさは恥ずかしそうに俺の腕に顔を埋めた。
そんな彼女が、本当に愛しい。

「ありさのウェディングドレス姿、早く見てみたいな」
「これからエステとダイエットしとかなきゃ」
「そのままでも充分綺麗だよ」
「ふふ。わたし、トレーンが長くて、背中にレースアップがついた、ローブデコルテのウェディングドレスが着たいな」
「よくわからないけど、ありさならなんでも似合うよ」
「適当なこと言っちゃって」
「付箋貼ってたページのドレスだろ? スレンダーで背の高いありさなら、こんな凄いドレスでも、きっと着こなせるよ」
「ほんとにそう思ってる?」
「もちろんだよ」
「誓う?」
「ああ、誓うよ。幸せにするよ。一生」

そう耳元でささやきながら、俺はキスをする。
ありさも俺に腕を絡め、受け入れる。
『ありさを好きだ』というこの気持ちを伝えるには、キスだけじゃ足りない。
飽く事もなく、俺はありさを抱きしめ、もう一度、自分の愛のすべてを注ぎ込んだ。

つづく
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