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30日目 実家
「俺達、実家の両親の家に、挨拶に行くんじゃなかったのか?」
「え? ええ。今度、稜哉さんの実家に連れてってもらおうって、思っていたけど…」
「だったらすぐ行こう。今から行こう!」
「えっ? い、今から?」
「まだ2時過ぎだ。今から特急に乗れば、夕方までには実家に着くから!」
「そんな急に… 稜哉さんのご両親へのおみやげも、なにも買ってないのに」
「おみやげなんていい。さあ、行こう」
「ちょ… 稜哉さん。待って!」
食事もそこそこに、俺はありさを急かし、席を立った。
とにかく、なにか行動しなければ。
今の、まるで再生中のレコードが飛んで、同じ場所を何度も何度も繰り返し演奏している様な、このおかしなループを、なんとかして破らねば。
本能的にそう感じて、俺は戸惑っているありさの腕を掴み、博多駅のコンコースへ強引に連れていった。
幸い、日田方面へ行く特急『ゆふいんの森5号』が、14時36分に出発する予定だった。
ありさの分と2枚切符を買い、まだ状況をよく呑み込めていない彼女を引っ張ってホームへ上がり、俺は出発間際の特急に乗り込もうとした。
「強引なのね、稜哉さん。やっぱりなにかおかしいわ」
ホームの売店で、とりあえず実家へのみやげのお菓子を買いながら、ありさは不満そうにつぶやく。
「ごめん。どうしても気になる事があって」
「気になる事?」
「とにかく、俺の実家に行けば、少しはなにがどうなってるか、わかる気がするんだ」
「ん~… よくわかんないけど、まあいいわ」
諦めた様にありさはおとなしく列車に乗り込み、席に座った。
少し安心して、しかし、胸騒ぎを抑えられないまま、俺は窓の外の景色に目をやった。
博多駅を定刻に出発した列車は、軽快なディーゼル音を響かせながら、福岡の市街地を一路南へ下っていく。
窓の外では、強烈な夏の日射しにくっきりと深い影を刻んだビル群が、俺の後ろへと流れていく。
その遥か向こうに、あの化け物の様な巨大な入道雲が、じっと動かずに居座っていた。
なにも喋らず、俺はその景色を眺めていた。
ありさはまだ機嫌が悪いのか、黙ったままショップで貰ってきたカタログを見たり、スマホをいじったりしている。久留米を出た列車は鹿児島本線と分かれて久大本線へ入り、次第にあたりは農村の風景へと変わっていき、博多から2時間足らずで俺の故郷の日田駅へ到着した。
「なんだか、変なお天気ね」
日田駅のホームに降り立ったありさは、そう言って俺の腕にしがみついた。
俺も空を見上げる。
さっきまで快晴で、抜ける程に青かった空は、今は暗く曇り、陰鬱で重たい雲が立ちこめて、少し肌寒いくらいだった。
俺は福岡市の方角に目をやった。
厚い雲に阻まれてどんよりと霞み、例の入道雲があるのかどうか、ここからじゃわからない。
駅前からタクシーに乗り、市街地を抜けて筑後川沿いに10分ほど走った所に、俺の実家はある。
低い石垣に周りを囲まれ、母屋の隣に納屋のある寄せ棟造りの、昔ながらの『農家』という感じの建物だ。
石垣から玄関までは空き地になっていて、ここで農具の手入れをしたり、干し柿を作ったりと、いろんな作業をする場所にもなっている。
タクシーが家の入口に着いた時、その庭で数人の男女が、立ち話をしているのが見えた。
俺とありさはタクシーを降り、そちらに歩み寄る。
そこにいたのは、俺の母と叔父、近所のおじさんやおばさん達だった。
俺が来た事にも気づかず、みな話しに夢中になっている様だ。
「それで… 新しいニュースは入ってきたとね?」
「回線が寸断されとるとかで、インターネットは繋がらんし、テレビもよう写らん。どのチャンネルもまだ状況をよく掴めとらんらしい」
「放送局なんか、もうなくなっとるんじゃなかか?」
「防災無線も全然役に立っとらんしなぁ」
「わしんとこの息子も、ジェイアラートで非常召集受けて、消防署に出動したとよ。そのうちなにか教えてくれるかもしれん」
………なんの事だ?
いったいなにを、熱心に話してるんだ?
つづく
「え? ええ。今度、稜哉さんの実家に連れてってもらおうって、思っていたけど…」
「だったらすぐ行こう。今から行こう!」
「えっ? い、今から?」
「まだ2時過ぎだ。今から特急に乗れば、夕方までには実家に着くから!」
「そんな急に… 稜哉さんのご両親へのおみやげも、なにも買ってないのに」
「おみやげなんていい。さあ、行こう」
「ちょ… 稜哉さん。待って!」
食事もそこそこに、俺はありさを急かし、席を立った。
とにかく、なにか行動しなければ。
今の、まるで再生中のレコードが飛んで、同じ場所を何度も何度も繰り返し演奏している様な、このおかしなループを、なんとかして破らねば。
本能的にそう感じて、俺は戸惑っているありさの腕を掴み、博多駅のコンコースへ強引に連れていった。
幸い、日田方面へ行く特急『ゆふいんの森5号』が、14時36分に出発する予定だった。
ありさの分と2枚切符を買い、まだ状況をよく呑み込めていない彼女を引っ張ってホームへ上がり、俺は出発間際の特急に乗り込もうとした。
「強引なのね、稜哉さん。やっぱりなにかおかしいわ」
ホームの売店で、とりあえず実家へのみやげのお菓子を買いながら、ありさは不満そうにつぶやく。
「ごめん。どうしても気になる事があって」
「気になる事?」
「とにかく、俺の実家に行けば、少しはなにがどうなってるか、わかる気がするんだ」
「ん~… よくわかんないけど、まあいいわ」
諦めた様にありさはおとなしく列車に乗り込み、席に座った。
少し安心して、しかし、胸騒ぎを抑えられないまま、俺は窓の外の景色に目をやった。
博多駅を定刻に出発した列車は、軽快なディーゼル音を響かせながら、福岡の市街地を一路南へ下っていく。
窓の外では、強烈な夏の日射しにくっきりと深い影を刻んだビル群が、俺の後ろへと流れていく。
その遥か向こうに、あの化け物の様な巨大な入道雲が、じっと動かずに居座っていた。
なにも喋らず、俺はその景色を眺めていた。
ありさはまだ機嫌が悪いのか、黙ったままショップで貰ってきたカタログを見たり、スマホをいじったりしている。久留米を出た列車は鹿児島本線と分かれて久大本線へ入り、次第にあたりは農村の風景へと変わっていき、博多から2時間足らずで俺の故郷の日田駅へ到着した。
「なんだか、変なお天気ね」
日田駅のホームに降り立ったありさは、そう言って俺の腕にしがみついた。
俺も空を見上げる。
さっきまで快晴で、抜ける程に青かった空は、今は暗く曇り、陰鬱で重たい雲が立ちこめて、少し肌寒いくらいだった。
俺は福岡市の方角に目をやった。
厚い雲に阻まれてどんよりと霞み、例の入道雲があるのかどうか、ここからじゃわからない。
駅前からタクシーに乗り、市街地を抜けて筑後川沿いに10分ほど走った所に、俺の実家はある。
低い石垣に周りを囲まれ、母屋の隣に納屋のある寄せ棟造りの、昔ながらの『農家』という感じの建物だ。
石垣から玄関までは空き地になっていて、ここで農具の手入れをしたり、干し柿を作ったりと、いろんな作業をする場所にもなっている。
タクシーが家の入口に着いた時、その庭で数人の男女が、立ち話をしているのが見えた。
俺とありさはタクシーを降り、そちらに歩み寄る。
そこにいたのは、俺の母と叔父、近所のおじさんやおばさん達だった。
俺が来た事にも気づかず、みな話しに夢中になっている様だ。
「それで… 新しいニュースは入ってきたとね?」
「回線が寸断されとるとかで、インターネットは繋がらんし、テレビもよう写らん。どのチャンネルもまだ状況をよく掴めとらんらしい」
「放送局なんか、もうなくなっとるんじゃなかか?」
「防災無線も全然役に立っとらんしなぁ」
「わしんとこの息子も、ジェイアラートで非常召集受けて、消防署に出動したとよ。そのうちなにか教えてくれるかもしれん」
………なんの事だ?
いったいなにを、熱心に話してるんだ?
つづく
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