【完結】錬金術ギルドを追放された私、王太子妃を救ったら二人のイケメンに溺愛されてギルド長になりました

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第七章

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その時、扉が開いた。
「おっと、お熱いところ悪いが」
フランソワが、いつもの優雅な笑みで入ってきた。でもその目は、笑っていない。
エリックが苛立たしげに振り返る。
「今度は何だ。邪魔をするな」
「邪魔? これは重要な報告だぞ」
フランソワは真剣な表情になった。
「セバスチャンの居場所が分かった。王宮の密偵からの報告だ」
私は息を呑んだ。
「どこに......?」
「旧市街の廃教会。昔、魔導師団が使っていた場所だ。そこに潜んでいるらしい」
私は二人を見回した。
決めた。
「行きましょう」
「「ダメだ」」
二人の声が、完璧に重なった。
「クロエは待っていろ」
「そうだ。君が行く必要はない」
エリックが険しい顔で言う。
「俺とフランソワで片をつける」
「その通り。君は安全な場所で――」
私は首を横に振った。
「私が行かなければ、被害が広がります」
「クロエ――」
「セバスチャンの標的は私です。私が行かなければ、彼は無関係な人々を襲うかもしれない」
それは本当だった。セバスチャンは追い詰められている。何をするか分からない。
「だからこそ、お前を危険に晒すわけには――」
私はエリックの言葉を遮った。
「それに」
深呼吸して、今まで隠していた真実を告げる決意をした。
「私にしか、彼を止められません」
二人が、疑問の目で私を見た。
「どういう意味だ?」
「私の『秘められし過去の欠片』は、読み取るだけの能力じゃありません」
手にした小瓶を、二人に見せた。
「どういうことだ?」
フランソワが真剣な顔で聞く。
「物質に新たな記憶を刻印することもできるんです。つまり――」
私は小瓶を掲げた。透明な液体が、微かに光っている。
「これに、セバスチャンの魔力を封じる『記憶』を刻印しました。彼にこれを飲ませれば、一定時間、魔法が使えなくなります」
二人は驚いた顔で私を見た。
沈黙。
長い、長い沈黙。
「いつから......そんな力を?」
エリックが、ようやく口を開いた。
「生まれつきです」
私は正直に答えた。
「でも、この力を知られたら、私は道具として利用される。王族に、貴族に、あらゆる権力者に。だから隠していました。ギルドでも、誰にも言わなかった」
「それを......今、俺たちに明かすのか?」
フランソワが、静かに聞いた。
「はい」
私は二人を見つめた。
「お二人なら、信じられるから」
またも沈黙。
やがて、エリックが深いため息をついた。
「......分かった。だが、俺も同行する」
「私もだ」
フランソワも頷いた。
「君を一人にはしない。それに――」
フランソワが剣の柄に手を置いた。
「セバスチャンには、個人的に言いたいことがある」



三人で、廃教会に向かった。
旧市街は薄暗く、人通りもまばらだった。夕暮れの光が、崩れかけた建物に長い影を落としている。
「この先だ」
フランソワが指差す先に、尖塔を持つ古い教会が見えた。窓ガラスは割れ、蔦が壁を這っている。かつては美しかったであろう建物が、今は廃墟と化していた。
廃教会は不気味な静寂に包まれていた。
「罠かもしれない」
エリックが警戒しながら言う。その手には、すでに氷の結晶が浮かんでいる。いつでも魔術を発動できる準備だ。
「当然、罠だろうな」
フランソワも剣を抜いている。
「だが、それでも行くしかない」
私は二人の後ろで、懐の小瓶を確認した。これが、唯一の切り札。
重い扉を開けると、ギィ......と不気味な音がした。
中は薄暗く、埃っぽい。かつての祭壇には、蝋燭の明かりだけが揺れている。
その時、嘲笑が響いた。
「よく来たな、クロエ・フォンテーヌ」
祭壇の前に、セバスチャンが立っていた。黒いローブを纏い、深紅の瞳が妖しく光っている。その周りには、十人ほどの黒衣の魔術師たちが控えていた。
「予想通り、お前は来た。正義感に溢れた愚か者として」
「セバスチャン」
私は一歩前に出た。エリックが私の腕を掴もうとしたが、振りほどく。
「もう終わりです。大人しく投降してください」
「投降?」
セバスチャンが笑った。狂気を孕んだ、不快な笑い声。
「お前を殺して、私は再起する。王宮を襲撃し、無能な王族を一掃する。今度こそ、この腐った王国を――」
「もうやめてください」
私は彼の言葉を遮った。
「なぜそこまで王位に執着するんですか? 権力が欲しいだけなんですか?」
「愚問だな」
セバスチャンの目が、憎悪に燃えている。
「力ある者が上に立つ。それが道理だ。血統など、何の意味もない。真に力ある者――つまり私が王になるべきなのだ」
「違います」
私は首を振った。
「本当に力がある人は、その力を誰かのために使います。弱い人を守るために、困っている人を助けるために。自分のためだけに使う人は、ただの暴君です」
「綺麗事を!」
セバスチャンが右手を振り上げた。
瞬間、黒い炎が生まれた。禍々しい、生命を焼き尽くす炎。それが私に向かって飛んでくる。
「危ない!」
エリックが私の前に立ち、氷の壁を作った。黒炎と氷がぶつかり、激しい蒸気が立ち上る。
「クロエは下がっていろ!」
「でも――」
「彼の言う通りだ」
フランソワも私の前に立った。その剣に、魔法の光が宿る。
「ここは俺たちに任せて。君は最後の切り札を温存しろ」
「たまには意見が合うな、ノルドストローム」
「ふん。今だけだ」
二人は互いに頷き合い、セバスチャンの部下たちに向かって駆け出した。
エリックの氷雪の魔術が、黒衣の魔術師たちを次々と凍らせていく。フランソワの剣が、優雅な軌跡を描きながら敵を薙ぎ払う。
その戦いぶりは、まさに一流だった。
でも――
「二人とも、危ない!」
セバスチャンが強大な魔法を発動させた。教会全体が揺れ、天井から石が崩れ落ちてくる。
エリックが氷の盾で防ぐが、その隙に黒衣の魔術師が彼を襲う。
フランソワが剣でそれを防ぐが、今度は別の魔術師が炎を放つ。
このままでは――
私は決意した。
隙を見て、セバスチャンに近づこうとした。祭壇の影を伝い、音を立てないように。
小瓶を握りしめる。手が汗で滑りそうだ。
あと少し。あと数メートル――
しかし――
「甘いな」
背後から、声がした。
振り返る暇もなかった。セバスチャンの魔法が私を捉えた。体が宙に浮き、見えない力で締め付けられる。
「うっ......!」
息ができない。首を絞められているような苦しさ。
「お前のような小娘が、私に忍び寄れると思ったか? 魔力の流れで、すべてお見通しだ」
セバスチャンが嘲笑う。私の体が、さらに高く持ち上げられる。
「クロエ!」
エリックとフランソワが叫んだ。でも、部下たちに阻まれて近づけない。
「さあ、死ね。お前の命で、私の復讐が始まる」
セバスチャンの手が、ゆっくりと握りしめられていく。それに合わせて、見えない力が私を締め上げる。
苦しい。意識が遠のいていく。
でも――
まだ、終わらない。
私は必死に手を伸ばし、懐の小瓶を取り出した。握力が弱くなっていく。でも、何とか――
投げた。
小瓶が、セバスチャンに向かって飛んでいく。
セバスチャンは余裕の笑みでそれを避けようとした。魔法で軌道を逸らそうとする。
でも――
私も魔力を込めた。『秘められし過去の欠片』の力を。小瓶に刻印した「必ず標的に届く」という記憶を、今、発動させる。
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