追放された私が辺境で見つけたのは、呪われた王太子(本物)でした

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ある夜、薬草園で作業していた私に、突然背後から腕を掴まれた。

「真実を知りたいなら、都に来い」

ダミアンは強引に私を引っ張り、連れ去ろうとした。その力は強く、抵抗できない。

「やめて!」

私は必死に抵抗した。腕を振りほどこうとするが、ダミアンの力は緩まない。

その時、凄まじい魔力が周囲を包んだ。

空気が震える。風が巻き起こる。鳥たちが一斉に飛び立ち、木々がざわめく。

レオンだった。

レオンの魔力が暴走し、周囲の木々が根こそぎ吹き飛んだ。轟音が響く。土が舞い上がり、視界が霞む。ダミアンは吹き飛ばされて、地面に激しく叩きつけられた。

でも、レオンの魔力は止まらなかった。

黒い霧のような魔力が、レオンの体から溢れ出している。その顔は苦痛に歪み、膝をついた。まるで何かに蝕まれているかのように、苦しんでいる。

「レオン!」

私は恐怖を乗り越えて、レオンに駆け寄った。暴走する魔力が肌を刺す。でも、構わずレオンの手を握った。

瞬間、レオンの魔力が鎮まった。

黒い霧が消え、淡い金色の光が私たちを包む。温かい光だった。レオンの荒い呼吸が、ゆっくりと落ち着いていく。

「......」

レオンは私を見た。苦しそうな、でも安心したような、複雑な表情だった。その目には、涙が浮かんでいた。

「こいつは王家の呪いに蝕まれた欠陥王子だ!」

ダミアンが、地面に倒れたまま叫んだ。顔は土で汚れ、恐怖に歪んでいる。

「魔力が暴走して自滅する運命の!」

「......」

レオンは何も言わなかった。ただ、黙って俯いている。

「レオン殿下、ご無事で何よりです」

セバスチャンが、どこからともなく現れて言った。その声には、明確な安堵があった。

「殿下......?」

私は驚いて、レオンを見た。レオンは深く息を吸い込んだ。そして、ゆっくりと私を見た。

「話す」

レオンは、静かに、でも確かに言った。

「僕は......本物の王太子、レオン・ヴァルトハイムだ」

レオンの告白に、私は言葉を失った。

頭が真っ白になる。王太子? レオンが? 目の前の、薬師のレオンが、王太子?

「王家には呪いがある。激情で魔力が暴走し、最終的に自滅する呪いだ」

レオンは続けた。その声は、いつもの落ち着いた声だったが、僅かに震えていた。

「僕は幼い頃からこの呪いに苦しんできた。感情が高ぶるたびに、魔力が暴走する。何度も死にかけた。でも、古文書で知った。浄化の魔力を持つ者だけが、呪いを解けると」

「浄化の......魔力?」

私は呆然と繰り返した。

「君だ、エステル」

レオンは私の手を、両手で包むように握った。その手は温かく、震えていた。

「君の魔力は微弱じゃない。希少な浄化属性なんだ。でも、浄化には深い信頼と愛情が必要だった。だから......」

「じゃあ、最初から私は......」

私の声が震えた。真実が見えてくる。恐ろしい真実が。

「利用されただけ?」

涙が溢れた。止められない。レオンは苦しそうに顔を歪めた。

「最初はそうだった」

レオンは正直に認めた。その声は、苦痛に満ちていた。

「でも今は違う。君を愛している。心の底から、君を愛している」

涙が止まらなかった。嬉しいのか、悲しいのか、分からなかった。胸が痛い。でも、レオンの目を見ると、そこには嘘がなかった。真剣な、必死な目だった。

「クラウスは僕の従兄弟だ。善意で替え玉を引き受けてくれた。僕が呪いを解く方法を探す間、王太子の役を演じてくれた。でも、呪いの影響を受けて、本来の優しさを失い、君を破棄してしまった」

「呪いの......影響」

すべてが繋がった。パズルのピースが嵌っていく。

「そうだ。黒幕はロザリンデ・フォン・アーデルハイト。前王の愛妾で、母を憎んでいる女だ。母が正妃になったことを恨み、僕に呪いをかけた」

その時、王の兵士たちが到着した。馬の蹄の音、武装した兵士たち。

「ダミアン・クロイツ、詐欺の容疑で逮捕する」

ダミアンは抵抗しようとしたが、すぐに取り押さえられた。鎖で縛られ、地面に押さえつけられる。

「ロザリンデ様に雇われただけだ! 俺は悪くない!」

ダミアンは叫んだ。その声は、哀れなほど弱々しかった。

---

王の使者が、丁寧に全てを説明してくれた。

ロザリンデの陰謀。前王の愛妾として王妃イゾルデを憎み、レオンに呪いをかけたこと。レオンが浄化の鍵となる存在を見つけたことを察知し、婚約破棄を画策したこと。すべては、レオンを破滅させるための計画だったこと。

全てが繋がった。すべての点が線になった。

「レオン......」

私は、震える手で彼の手を握った。

「呪いを解きましょう」

レオンは驚いた顔をした。その目が、大きく見開かれる。

「君は......怒っていないのか?」

「怒ってます」

私は正直に言った。嘘はつけない。

「でも、愛してます」

その言葉に、レオンの目に涙が浮かんだ。その涙が、頬を伝って落ちる。

私は目を閉じて、魔力を集中させた。体の奥底から、温かい光が溢れてくる。それは今まで感じたことのない、強く、優しい力だった。温かい光が私の手から溢れ、レオンを包んでいく。

レオンの体から、黒い霧のような呪いが消えていった。

まるで朝日に照らされた夜霧のように、静かに、でも確実に消えていく。レオンの表情が和らいでいく。苦痛が消え、安らぎが戻ってくる。

「......君が」

レオンは涙を流した。声が震えている。

「僕を救ってくれた」

セバスチャンは、声を上げて号泣していた。

「殿下、エステル様、おめでとうございます! 本当に、本当におめでとうございます!」

ハンカチで何度も目を拭いながら、嬉しそうに泣いている。

---

数日後、私たちは王都へ凱旋した。

民衆が道の両側に並び、花を投げて祝福してくれた。「真の王太子殿下万歳!」「奇跡の王太子妃様万歳!」歓声が響き渡る。

クラウスが、城門で出迎えてくれた。

呪いから解放された彼は、本来の優しさを取り戻していた。その目には、かつての温かさが戻っている。

「エステル様、本当に申し訳ございませんでした」

クラウスは深く、深く頭を下げた。その背中が震えている。

「君を傷つけて......従兄弟を守りたかっただけなのに、僕は......」

「あなたも被害者でした」

私は言った。クラウスは涙を流した。その涙は、後悔と安堵が混ざり合ったものだった。

---

王城でメリッサと継母に会った。

二人は、明らかに取り繕った笑顔で近づいてきた。

「エステル! 姉様として、これからは仲良くしましょう?」

メリッサは媚びるように言った。その声は甘く、でも目は笑っていない。継母も、作ったような愛想笑いを浮かべている。

私は冷静に、はっきりと答えた。

「あなたは私を妹と思ったことなど一度もない。今更取り入ろうとしても無駄です」

メリッサの顔が、見る間に青ざめた。継母も言葉を失い、口をパクパクさせている。周囲の貴族たちがざわめいた。ひそひそと囁き合う声が聞こえる。二人は、貴族社会で立場を失うだろう。

王と王妃は、私を正式に王太子妃として承認してくれた。

「エステル、よく息子を救ってくれた」

王妃イゾルデは、母のように優しく言った。その目には、本物の感謝があった。

「ありがとうございます」

私は深く頭を下げた。


今、私は王城の薬草園でレオンと暮らしている。

辺境の薬草園よりずっと広いが、あの場所での思い出は色褪せない。ここでも、レオンと一緒に薬草を育て、人々のための薬を作っている。

私の薬は国中で人々を救い、「奇跡の王太子妃」と呼ばれるようになった。でも、私はただ、人の役に立ちたいだけだ。

「君と出会えて、僕は本当の自分になれた」

レオンは、薬草園の中で言った。夕日を浴びて、その横顔が優しく輝いている。

「私もです」

私は微笑んだ。心の底から、幸せだった。
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