調香師見習いを追放されましたが、実は超希少スキルの使い手でした ~人の本性を暴く香水で、私を陥れた異母妹に復讐します~

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第二章

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地下への階段を降りていくと、別世界が広がっていた。
松明の明かりに照らされた石造りの空間。そこには、表の世界では見られない様々な店が軒を連ねていた。

「ここは自由市場」

レオンが説明する。

「貴族の縛りも、ギルドの規則もない。実力だけが評価される場所だ」

鍛冶屋、錬金術師、占い師、そして――調香師。

「おお、レオンの兄貴!」

陽気な声と共に、小太りの中年男性が駆け寄ってきた。

「これは珍しい。お嬢ちゃんを連れてくるなんて」
「ジャック、こいつを預かってくれないか。【魂香創成】の使い手だ」

ジャックの表情が変わった。

「本物か? そいつは......」

彼は私の手を取り、爪や指の状態を確認した。

「調合で作った傷跡、香料で染まった皮膚。こりゃあ、相当の使い手だ」

ジャックは満足そうに頷いた。

「ただし、うちの工房を任せるには試験が必要だ。【魂香創成】が本物かどうか、確かめさせてもらう」

ジャックは棚から様々な香料を取り出した。

「『憎悪』の香りを作ってみな」

憎悪の香り。
普通の調香師なら、苦い香料や刺激的な素材を組み合わせるだろう。でも、私の【魂香創成】なら――。

目を閉じて、意識を集中させる。
憎悪とは何か。それは愛情の裏返し。期待の残骸。信頼の墓標。

私は香料を選び始めた。
まず、薔薇の精油。愛の象徴。次に、枯れた百合の花粉。純潔の終わり。そして、焦げた蜂蜜。甘美な記憶の燃えかす。

調合を進めるうちに、自然と手が動いた。これは、私がヴェルディ家で感じていた感情そのものだった。

完成した香水を、ジャックの前に差し出した。

彼が蓋を開けた瞬間、工房の空気が変わった。

「こいつは......!」

ジャックの顔が一気に青ざめた。

「本物だぜ。レオンの兄貴。まさしく憎悪の香りだ。こんなの、普通の調香師には絶対に作れない」

レオンが満足そうに頷いた。

「だから連れてきた」

ジャックは私の肩を叩いた。

「合格だ。今日から、ここがお前の工房だ」

初めて、自分の才能を認めてもらえた。
涙がこみ上げてきた。

「ありがとうございます......」
「礼はいらねえ。これからよろしく頼むぜ、リリアーナ」

その夜、私は工房の片隅で眠った。
固い床だったが、不思議と安心できた。
ここには、私を認めてくれる人たちがいる。
そして――復讐の機会を、待つことにした。

* * *

三日後、私はジャックの試験に合格し、工房の一角を借りることができた。
その日の夕方、レオンが緊急の知らせを持ってきた。

「セシリアが、王太子の婚約者候補に選ばれた」

血の気が引いた。

「でも、なぜ彼女が......」
「お前を陥れた功績、というわけだ」

レオンは苦々しく言った。

「ヴェルディ家は『問題児を排除し、家名を守った』として王宮の覚えがめでたい。その褒美に、セシリアが候補者リストに加えられた」

拳を握りしめる。セシリアは、私を踏み台にして昇っていくのだ。

「さらに、セシリアの側近が裏市場に接触してきた」

レオンは一枚の紙を取り出した。

「選定会で使う特別な香水の依頼だ。報酬は金貨千枚」
「受けるんですか?」
「それを、お前が決めろ」

レオンは私を真っ直ぐ見た。

「これは復讐の機会だ。だが、リスクも高い。選定会で何かあれば、お前はまた追われる身になる」

私は香油の小瓶を取り出した。
セシリアの本性が詰まった、この小瓶。

「私、受けます」
「なぜ? 復讐か?」
「それだけじゃないと思うんです」

私は顔を上げた。

「真実を明らかにしたいんです。セシリアの本当の姿を、皆に見せたい」

レオンは長い間、私を見つめていた。

「......いいだろう。ただし条件がある」
「条件?」
「俺も同行する。お前一人では危険すぎる」

そう言って、レオンは微かに笑った。

「それに、面白そうだからな」

選定会の三日前。
私たちは綿密な準備を進めていた。

「まず、選定会の流れを確認する」

レオンが羊皮紙を広げた。

「午前中に候補者が集合。午後から王太子との面会が始まり、夕方に最終選考。その間、候補者たちは自由時間がある」
「その自由時間に、香水を渡すんですか?」
「いや、もっと前だ」

ジャックが口を挟んだ。

「セシリアの側近から聞いた話じゃ、当日の朝、身支度の時に使いたいそうだ。第一印象で王太子を魅了するつもりらしい」

私は調合台の前に座った。

「なら、時間はたっぷりある。完璧なものを作らないと」
「リリアーナ」

レオンが真剣な表情で言った。

「お前が作ろうとしているのは、人の本性を暴く香水だ。これは諸刃の剣だぞ」
「分かっています」

私は小瓶――セシリアの本性が入った香油――を取り出した。

「でも、これは必要なことです。彼女の本当の姿を、王太子に見せなければ」
「王太子アルベルト殿下は、聡明な方だと聞く」

ジャックが腕を組んだ。

「だが、魔法や特殊なスキルには疎いらしい。香水の効果に気づいてくれるかどうか......」
「大丈夫です」

私は自信を持って言った。

「【魂香創成】で作った香水は、本人以外の誰の目にも――いえ、鼻にも分かるはずです」

調合を始める。
まず、ダマスクローズの精油。愛と美の象徴。
次に、白檀の粉末。神聖さと高貴さの象徴。
そして――セシリアの本性を、一滴。

通常、これらは調和して美しい香りを生む。
けれど、【魂香創成】の力を込めることで、時間差で反応が起きる。

最初は甘美な香り。けれど三十分後、体温と反応して本性が露わになる。

「『真実の薔薇』......完成です」

金色に輝く液体を、小瓶に詰める。

レオンが瓶を手に取り、光に透かして見た。

「見た目は完璧だな。高級品そのものだ」
「ええ。セシリアは必ず使います」

私は微笑んだ。

「彼女は、自分が一番美しく見える香水しか受け入れませんから」
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