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プロローグ 〜魔王の娘とモンスター育成〜
無能冒険者、驚く
しおりを挟む「魔物たちの力が一部、ウォレンの体に流れ込んでいるのですわ」
「魔物の力が俺に?」
「ええ、それが魔王の血の力」
「しかし、そんなことなら配下になるのはデメリットしかないのか?」
「いいえ、これは相互に作用しますのよ。 魔物の力がウォレンに捧げられるのと同じように、ウォレンの力が魔物たちに流れ込みます」
「それに加えて、この場所が魔力スポットとなっていることなど魔物たちは本能で気づいておりますわ」
「……なるほどな」
俺の体が軽いのは間違いなく、今朝に配下を増やしたせいだった。
このまま配下が増えていくとしたら、力の使い方を覚えないといけないな。セーラに対して顔が立たなくなる。
それに力を持ったからと言ってそれにおぼれてしまうのも避けなくていけない。
セーラは魔法陣を浮かべたままの瞳で俺を見つめる。
そして、何かを悟ったようにうんうんと頷いた。
「魔物育成の技能の恩恵も捨てられませんしね」
「さらに成長するのか、あいつら」
そういえば魔物鑑定でゴブたろうやポチ太を見たときレベルというものが表示されていた。
スキルに熟練度のレベルがあるのは周知の事実ではあったが、魔物にまでレベルがあるのは本当なのだったな。
鑑定スキルにまつわる噂話ぐらいとしか思っていなかった。
試しに俺は魔物鑑定の技能をゴブたろうに使ってみた。
セーラもまた、同じように青の魔法陣を通して彼を見つめる。
「『魔物鑑定』、うわ……」
「やはり成長に補正がかかっておりますわね」
二人から見つめられて照れ臭そうにするゴブたろう。しかしそこには、間違いなく前とは違う数字が示されていたのだった。
――――――――――――
『ゴブたろう』<牧場ゴブリンリーダー:Lv.17>
HP:120/180
SP:45/45
ATK:55
DEF:37
SPD:51
INT:45
LUK:30
スキル<畜産作業>
習得技能
・魔物調教
・牧場施設建築
・雑務
・ゴブリン念話
ここから先はレベルにより制限されている
――――――――――――
前からレベルが二ほど上がっているな。それに加えて、ステータスの向上だな。
唯一変わりないのは習得技能のところだけか。
「なぁ、普通一回の立ち合いだけでこれくらい上がるものなんだよな」
「まさか、そんなことがあると思ってまして?」
で、ですよねー。
呆れた顔をしてこちらを見るセーラに対して、俺は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
ここまで成長するのが早いとそのうち反乱してくる奴なんかも出てきそうだな。
舐められないように俺も鍛えないといけないな……。
「そうだ、訓練場ができたことだし、セーラにもできることが増えたな」
「そ、それはなんですの?」
「魔法の練習だよ」
そう言うと、彼女の赤い髪と赤い瞳に反して、顔が青ざめていった。
どうやら苦手意識を持っているらしい。
だけれども、魔法を使うたびに森を破壊されてはたまったものじゃない。
だから、俺は彼女が何か言おうとしているのを遮ったのだ。
「あっ、あの、わたくしは――――」
「今日からは全員で修行だな、魔物達もいることだし相手には不足ないぞ」
こうして、俺たちの修行の日々が始まった。
牧場の運営のほうはゴブリンたちに任せ、飼料用の農場は虫系のモンスターに任せられる。見張りや見周りはハイウェアウルフたちが持ち前の嗅覚や足の速さで行ってくれていた。
手先の器用なリザードマン系には内職の仕事、飼料作りや建物修繕、改築を頼んでいる。
そして、日替わりで空いた魔物たちを相手に俺たちは訓練場にて特訓を行うのだった。
俺はひたすら魔物たちと手合わせを行い、戦闘の立ち回りや身体能力の向上を伸ばすことにしていた。
狼、昆虫、リザードマン、どれも一癖も二癖もある魔物達である。特にバラエティに富んでいたのが昆虫系の魔物であった。
蜘蛛型の魔物は糸を吐き、拘束や足止めなどが得意である。その糸に捕まってしまえば身動きが封じられてしまい、餌となってしまう。
そしてカマキリのような魔物はその象徴たる鎌の鋭さが問題である。もちろん手合わせの時には加減しているのだろうが、それでも触れただけで皮膚は裂け、血が噴き出してしまうのだ。
この一週間でできた切り傷の数はちょっと数えきれない。
一匹相手の立ち合いに慣れたら、今度は数を増やし、種類を増やした。
最終的には狼系、リザードマン系、昆虫種という今いる配下のオールスター対俺なんて言う状況になっているのだから、少しは俺も鍛えられたということだろう。
そして何よりも、極楽鳥とポチ太の強さには目を見張った。
彼らは気が向いたときに訓練場に赴いて、俺の相手をしてくれるのだが、その動きについていくだけで精いっぱいであり、彼らを打ち負かすことはできなかったのである。
ポチ太は高位の魔物であるから仕方ないとして、極楽鳥のほうはいったい全体なんであんなに強いのだろうか。
魔物鑑定の技能で暴いてやろうと思ったのだが、極楽鳥はそれを察知して逃げていく始末である。
その力の謎は謎のままである。
そして、ラビーニャは剣聖スキルの熟練度を上げることに努めていた。
始めは的を相手に技を何度も繰り出し、それを体に覚えさせる。
慣れてくると、俺と同じように立ち合いメインで訓練をしていたのだが、すぐに一体相手では敵がなくなり、今は複数相手との戦闘について訓練している。
どうやら彼女は戦闘の才能があったみたいで、複数の戦いももうすぐクリアしてしまうだろう。
俺が十年ほどかけて覚えた立ち回りをすぐに追い抜こうとしているのであるから恐ろしい。
兄としては、彼女が強くなることは自衛できるという意味も含めて嬉しい。だが、危ないことに首を突っ込めるようになったとも考えられるので、少し複雑な気持ちである。
それと、ラビーニャはスキルのレベルが上がるたびに料理の時短が増えるのでうれしいとも言っていた。それもまた、俺を複雑な気持ちにさせる。
最後にセーラだが――――
「どうしてうまくいきませんの」
地面に倒れ込み、そんな言葉を漏らすぐらいに上手くいっていなかった。
どうやら、彼女持つ魔力適正のスキルと小威力の魔法の相性が良くないらしく、丁度いい具合で魔法を放てないのであった。
結果、超初級の魔法と、超ド級魔法しか使えないというのが現在の彼女である。
夕飯を食べた後も、ふらふらとどこかに出ていき、ちょっとしてから爆音を轟かせる。
夜な夜な、魔法の練習を行っているらしく、次に日には訓練場の整備から、というのがルーティーンに含まれているぐらいであった。
しかし、日に日にやつれていくセーラを見て、俺は心配に思う。
いくら魔力が常人よりも多いからと言って毎日毎日酷使していれば体力だって持たなくなる。球速は誰だって必要なのだ。
だけれども、セーラはそれを削って修行を行っているのだ。
このまま放置していればいつか倒れてしまうのが目に見えている。
だから、俺はこの日、こっそりと後をつけることにしたのだった。
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