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プロローグ 〜魔王の娘とモンスター育成〜
魔王の娘、キスをする
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「まぁ、怒りはしないさ。心配はしたけれどな、本当は倒れたりしなければ話しかけるつもりもなかった」
「それは、どうしてですの?」
「頑張ってるやつを邪魔するつもりはないだけだよ。俺だって無理はしたし、無茶もしてきた。なんども頑張る必要なんてないなんて怒られたよ」
「だったらわたくしにも、怒るべきではないのですか」
「無理をするまで頑張る必要は確かにない。体調管理だって仕事のうちの一つだ。だからセーラは間違った」
「で、ですよね」
彼女が顔を俯かせる。頭のお団子までもがどこか元気を失っているように見えて、俺はフッと息だけで笑いを漏らす。
「だけど、まだ間違っただけなんだ。一度間違うのは誰だってあることだよ。だから、次からどうするか、それを考えるべきなんだ」
「ですが、何度やってもわたくしは失敗ばかり」
「さっきは途中まで成功していただろ、体調が優れていれば、きっとうまくいってたさ」
「ですがそんなの机上の空論ですわ!」
彼女の声は先ほどと違って大きくなる。それは真に迫るものであり、セーラの弱い面、そのものであった。
そして、その頬は赤く燃え上がっていた。
「それでも、そう言ってくださるウォレンは優しいですのね」
「そんなことないさ、似た経験をしたことあるだけだよ」
「それでも、いつもわたくしを救ってくださります」
セーラの赤い瞳が俺の瞳を真っすぐととらえる。
そのガラス玉のような大きな瞳は、何かを決意したみたいに、輝いて見えた。
「だからわたくしに、何ができるか考えておりましたの。ねぇ、ウォレン。目を閉じてくれないかしら」
「……なんでだ?」
「私なりに考えてみたの。ウォレンの役に立つ方法」
「セーラはラビーニャの命を救ってくれた。それだけで充分だよ」
「でも――――」
そう言いかけたところで、彼女は口を閉ざす。
ゆっくりと首を横に振る彼女は小さな声で、「こんなの言い訳ですわ」と呟いた。
「違いますわ、そんなことを抜きにして、今、私がウォレンの役に立ちたいの」
「だが、牧場の仕事は何をしなくても回っている。 そんなに頑張る必要なんてないんじゃないのか? 少しずつだけど、魔力の制御だって出来てきているんだろ?」
その問いにセーラはにっこりとほほ笑んで見せる。焚火に照らされた彼女の影は大きく、そしてそれは少しの稲光を放っていた。
間違いなく、魔法の反応である。
何をするつもりだと聞く前に、セーラは言葉を紡ぎ始める。
「えぇ、そうですね。だから、これはわたくしの我儘なのですわ。それにウォレンの眼に私を――――」
「それってどういう……」
「覆いつくせ、『幻影(ミラージュ)』」
「おい、いったい何を?」
それは幻覚魔法であった。一瞬にして俺の視界は真っ白になり、何も見えなくなってしまう。俺は動揺して、身構えようとするが、あの時のような殺気は感じられない。だから、何の抵抗もせずに彼女が近づくのを許した。
空気の揺れと、絹の擦れる音、彼女が目の前まで来ているのがわかっていた。そして、次の瞬間には、俺の頬は彼女の手で掴まれる。何も見えない視界の中、彼女の冷たい指先だけがリアルに、鮮明に、はっきりと伝わっていた。
その感触に、あんぐりと空いていた俺の口は締まってしまう。
とても近いところから吐息のする音がした。
その距離感は俺の心臓を高鳴らせる。きっと顔だって真っ赤だ。
そんな誰にも見せていない無防備な顔を、俺は彼女に見せてしまっている。
それに加えて、意識しないうちに、唇に柔らかいものが当たるのを感じた。
霧は晴れる。俺の眼は開いている。
だけれども、そんなことなど関係なく、俺は今、何が起こっているのかを知っていた。
顔に当たる空気の熱さ、体温、止まらない心臓の音。
視界は、赤に染まっていた。
つまるところ、セーラと俺はキスをしていたのだった。
刹那、脳内に声が響き渡る。
『婚姻契約の強化により、スキル<魔王の娘>の加護が発動しました。新たな技能、『名づけ(ネームド)」』、『繁殖強化』が解放されました』
「それは、どうしてですの?」
「頑張ってるやつを邪魔するつもりはないだけだよ。俺だって無理はしたし、無茶もしてきた。なんども頑張る必要なんてないなんて怒られたよ」
「だったらわたくしにも、怒るべきではないのですか」
「無理をするまで頑張る必要は確かにない。体調管理だって仕事のうちの一つだ。だからセーラは間違った」
「で、ですよね」
彼女が顔を俯かせる。頭のお団子までもがどこか元気を失っているように見えて、俺はフッと息だけで笑いを漏らす。
「だけど、まだ間違っただけなんだ。一度間違うのは誰だってあることだよ。だから、次からどうするか、それを考えるべきなんだ」
「ですが、何度やってもわたくしは失敗ばかり」
「さっきは途中まで成功していただろ、体調が優れていれば、きっとうまくいってたさ」
「ですがそんなの机上の空論ですわ!」
彼女の声は先ほどと違って大きくなる。それは真に迫るものであり、セーラの弱い面、そのものであった。
そして、その頬は赤く燃え上がっていた。
「それでも、そう言ってくださるウォレンは優しいですのね」
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「それでも、いつもわたくしを救ってくださります」
セーラの赤い瞳が俺の瞳を真っすぐととらえる。
そのガラス玉のような大きな瞳は、何かを決意したみたいに、輝いて見えた。
「だからわたくしに、何ができるか考えておりましたの。ねぇ、ウォレン。目を閉じてくれないかしら」
「……なんでだ?」
「私なりに考えてみたの。ウォレンの役に立つ方法」
「セーラはラビーニャの命を救ってくれた。それだけで充分だよ」
「でも――――」
そう言いかけたところで、彼女は口を閉ざす。
ゆっくりと首を横に振る彼女は小さな声で、「こんなの言い訳ですわ」と呟いた。
「違いますわ、そんなことを抜きにして、今、私がウォレンの役に立ちたいの」
「だが、牧場の仕事は何をしなくても回っている。 そんなに頑張る必要なんてないんじゃないのか? 少しずつだけど、魔力の制御だって出来てきているんだろ?」
その問いにセーラはにっこりとほほ笑んで見せる。焚火に照らされた彼女の影は大きく、そしてそれは少しの稲光を放っていた。
間違いなく、魔法の反応である。
何をするつもりだと聞く前に、セーラは言葉を紡ぎ始める。
「えぇ、そうですね。だから、これはわたくしの我儘なのですわ。それにウォレンの眼に私を――――」
「それってどういう……」
「覆いつくせ、『幻影(ミラージュ)』」
「おい、いったい何を?」
それは幻覚魔法であった。一瞬にして俺の視界は真っ白になり、何も見えなくなってしまう。俺は動揺して、身構えようとするが、あの時のような殺気は感じられない。だから、何の抵抗もせずに彼女が近づくのを許した。
空気の揺れと、絹の擦れる音、彼女が目の前まで来ているのがわかっていた。そして、次の瞬間には、俺の頬は彼女の手で掴まれる。何も見えない視界の中、彼女の冷たい指先だけがリアルに、鮮明に、はっきりと伝わっていた。
その感触に、あんぐりと空いていた俺の口は締まってしまう。
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そんな誰にも見せていない無防備な顔を、俺は彼女に見せてしまっている。
それに加えて、意識しないうちに、唇に柔らかいものが当たるのを感じた。
霧は晴れる。俺の眼は開いている。
だけれども、そんなことなど関係なく、俺は今、何が起こっているのかを知っていた。
顔に当たる空気の熱さ、体温、止まらない心臓の音。
視界は、赤に染まっていた。
つまるところ、セーラと俺はキスをしていたのだった。
刹那、脳内に声が響き渡る。
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