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膕館啻

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今までよりも多くの人が落ちてしまった。その後に篠宮に呼び出される。いつかのように、屋上へ向かった。
「篠宮、ごめん待ったか」
「……大丈夫」
校庭に目線を向けたままだ。なんとなく隣で、同じように下を見る。
「あの方法だと、気に入らない奴を自由に消すことができるだろ。だから一方的に森下が狙われてしまうと思ったんだ。少々強引で、手荒な方法を使ってしまったかもしれないが」
「いや助かったよ。一人だったらすぐに消されてた……ここまで残ってることもなかったかもしれない。……どうした? 何かまだ問題があるのか」
「今回のことで、俺と森下はクラスにとって敵になってしまった。疑われるのは俺一人で良かったのに。お前まで巻き込んでしまった」
「別にお前が悪いんじゃないだろ。証拠もないのに勝手に決めつけている方が悪いに決まってる」
そう言っても表情が晴れることはない。目はどこか遠くを見ている。
「俺は……青山に疑われていた。そのせいで竹内は落とされることになってしまった。俺を疑っている奴の、疑念を敵視に変えてしまった。人からどう思われようと気にしたことはなかったけど……嫌われるというのは、なかなかキツいことなのかもしれない」
「篠宮……」
確かに転校生だったり、色々と外れた思考や行動をしているから、怪しむ気持ちも分からなくないが……そんなことをする奴じゃない。
「やってないことを決めつけられるのって悔しいよな。その後ろで本当の裏切り者がほくそ笑んでたりしたら……許せない。俺は篠宮を信じる。だからお前も俺を信じろ。これで容疑者は一人減ったな」
そっと横顔を盗み見ると、僅かに目が濡れている気がする。
「……俺はお前を落とさせはしない」
「お、俺もできるだけ頑張るよ。何もできないかもしれないけど」
「森下……」
「ん?」
「……俺とお前は、その……友達と呼んでもいいのか」
「えっ……ああ、友達だろ」
「……そうか。ありがとう……」
泣きそうだった表情は晴れて、なにか吹っ切れたような顔をしていた。



〔出席番号  番〕
思わず笑ってしまう。こんな滑稽なことがあるか。
君は非常に残念だよ。だって、とっても薄っぺらだから。知ってる? 寡黙キャラっていうのは、特別な才能がないとダメなんだよ。君の頭の良さは普通だし、全力で運動しているところは見たことがない。他のところに秀でたものがあるのかな?
まぁそんなものどうでもいいよ。君はバカだ。単独行動が多すぎる。ジョーカーの部屋に簡単に入っていくのも、ワザとなの?
君の後を追ってみて、いくつか分かったことがある。
学校内に仕掛けられたカメラは、あちらという単語しか聞こえてはいないけど、そこに繋がっているらしい。この状況によくある事といったら、カメラの向こう側で趣味の悪い人たちが自分達を観察しているのかな? それで誰が残るかに賭ける遊びをしている? ……自分の頭も大概だな。
そしてあの箱だ。落ちる前に脱落者に伝えていること。ジョーカーはまるで愛しい我が子、出来の良い生徒を褒める時の先生のような笑顔を浮かべて、彼らに囁いている。
「この先には素晴らしい世界が広がっています。……大丈夫。待っているのは死でも恐怖でもない……そこは誰にでも優しい、あなたが必要とされる世界ですよ」
本当だろうか。適当なことを言っている可能性もある。でもこの言葉を聞いた彼らは素直に、むしろ望むように落ちていく。
それを確かめに行くのも良いかと思っている。でも脱落者として落ちるのはプライドが傷つくどころじゃない。なんであんな奴らに、いらない人間と認定されなきゃいけないんだ。どうせ、ああお前ならそうだよなと、そう思うんだろう。いくら楽園が待っていようと、完全に気分が良くはならない。もう負け犬だと蔑まれて見られるのは、耐えられない。あぁ、あいつらの目でも潰してやりたいな……。それさえなくなれば、ちょっとマシになるんじゃないか。
コナゴナになったカメラを見て思う。こんな武器……何がご褒美だよ。捨ててる奴も出てきているじゃないか。まぁそのおかげでこんな事ができるんだけど。こうする事で、あのスカシ野郎の歪んだ顔が見れる。なかなか良いものだ。彼のことは嫌いではない、弱くて可哀想だから……。怒った顔なんてキュートとさえ言ってあげるよ……気持ち悪い。これじゃあのオカマ野郎と変わらないか。ちょっと違うんだよねぇ、僕は人が屈服した姿が好きなんだ。彼が地面に額を擦り付けて、許しを請う姿なんかたまらないだろうなぁ……できれば全員にやらせたいよ。
僕がしたこと、ジョーカーは怒るかな? それとも分からない犯人に困ってくれるかな? 見つけたら褒めてくれるかな? そしたら僕のこと認め……違う! 
壁を殴る。ぴしりと窓が軋む音がした。
僕が上だと認めさせるんだろう? あいつらが従っている相手。ご主人様……だっけ? その人に話したら、良い待遇にしてくれないだろうか一生困らないような……あいつらに靴の裏を舐めさせるみたいな……。
「アハハ……」
やっぱり自分の頭も随分くだらないみたいだ。それでもその姿を想像すると笑えてくる。楽しいと感じる。いざとなったら全員を出し抜いて、僕は裏切り者さんを超えた状態で、ここを出してもらおう。
ねぇ……篠宮? 困ってるんだろ? 自分の想定していない事が起きて。
スヤスヤ寝てるバカな委員長の横に体を倒した。こいつのところにもメールは来てたのに、無視したのかな。どこに入れたかは知らないけど。
「森下か……」
何故か篠宮が目にかけている相手だ。違うだろ、お前が気にするのはこっちだろ。それともなんだ……僕のことに気づいていないだけか? それともまだ僕の知らない何かが? いや、馬鹿なだけだろう。
携帯のスクリーンに自分の顔が映った。
「本物の裏切り者さん……だって」
溢れそうな笑いを毛布で押さえる。クック……クスクス……。
「はぁーあ、くだらなーい……」
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