はりぼてスケバン弐

あさまる

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水掛け論。
どちらが正しいかなど、今話していても結論は出ない。
しかし、それももう終わりだ。


暴動。
動き出した。
黒龍高校へ向け、襲撃が開始されたのだ。

校門。
真正面から向かっていく者達。

裏門。
退路を絶つ者達。

そして、フェンスを強引に登って侵入していく者達もいた。
つまり、校内の生徒達にはもう逃げ道などないというわけであった。


「……あー、早速馬鹿で間抜けな奴さん達来たっすねー。……それじゃあ、皆さん、張り切って行くっすよー!」
そんな様子を見ながら電話をしている者。
丸雄だ。

彼は今、校舎の屋上にいた。
その為、目下の暴挙は手に取るように見えるのだ。

彼の連絡相手。
それは、通話アプリにて繋がっている大半の黒龍高校の生徒達であった。

それぞれが返事をする。
その中に、驚いている者はいなかった。

予定調和。
それは、そんな様子であった。

「……藤柴君、今ちょっと良い?」
丸雄の背後にいた者。
華子だ。
彼女がおろおろとしながら口を開く。

「……え?あ、はいっ、どうぞっす。」
自身の携帯電話を渡す丸雄。

「うん、ありがとう。」
華子の声が震えている。
それだけではない。
身体が少し震えている。

緊張。
目には見えないが、今から話す相手は一人二人ではない。
何十人もいる。
そして、皆が不良だ。

それだけでも華子の負担は大きい。
しかし、その内容がさらに彼女の精神的負担を加速させる。

「……っす。」
何を伝えるのだろう。
わくわくしながら彼女を見守る。

「……えっと、皆……聞こえるかな?これから大変なことが起きるけど……その、く、くれぐれも無理しないでね……!怪我なんかしたら絶対許さないからねっ……!」
変な場所で力んでしまい、声が所々上擦る。
そんな切実な叫びだ。

真っ直ぐな気持ち。
そんなものを皆へぶつける華子。

元々整った顔であった彼女。
それが丸雄のプロデュースにより磨きのかかったものになっていた。
現番長とはいえ、そんな美少女からの本気の心配。

不良。
忌み嫌われる存在。
ネガティブなことを言われることは言われていた。
そんな彼らが、真正面から向き合って言われた思いやりの言葉。
そんなもの、初めてであった。

嬉しさ。
端的に言えば、そんなものが彼らを包んでいた。

士気が上がる。
音割れするスピーカー。
耳をつんざく大声。
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