はりぼてスケバン弐

あさまる

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金額が表示されるレジ。
それを見て、華子はふと、思い出したことがあった。

そうだ。
小テストの褒美を与えなければならない。
自身の財布を取り出す華子。

彼の分まで出そう。
それを褒美として今後の励みにしてもらおう。
今の彼女は、そんな気持ちでいた。
しかし、それは彼に止められる。

「……え?藤柴君?」

「ここは俺が払うっす。」

「いや、さっきのご褒美を……。」

「駄目っす、姐さん!」
一切引く気がない丸雄。
ふんすと鼻息荒く言う。

「何で駄目なの?ちょうど良くない?」
ちょうど良い。
これで先ほどの言葉を精算出来るなら良いだろう。

「駄目ったら駄目っす!格好つけさせて下さいっす!……店員さん、これで!」
バン!
レジへ勢い良く叩きつけられる1万円札。


結果。
強引な彼の支払いにより、この場は収まった。

店外へ出る。
示しがつかないという意味だったのだろう。
いそいそと財布を取り出し、自身の分だけでも払おうとする華子。
しかし、丸雄は断固としてそれを拒否した。

「その……ありがと。ご馳走様。」

「いえいえー、美味しかったっすね。」

「うん。」

「また来たいっすね。」

「うん、そうだね。」

「この後、どうするんっすか?」

「うーん、そうだなぁ……。」

このままウィンドウショッピングをしても良い気分だ。
しかし、何とかその欲を抑え、図書館へ丸雄と戻ろうとする。
当然、丸雄の返答は決まっていた。


「嫌っす!もう今日は勉強終わり!終わりっす!」

「駄目!戻るよ!」
丸雄の腕を掴み、モール内から出ていこうとする。
しかし、彼は抵抗している。

「戻らないっす!今の俺は大樹!屋久杉も真っ青な大木っす!地面に滅茶苦茶根っこが生えてここからは動かないっす!」

「何言ってるの!?もう!恥ずかしいから止めてよ!」

全く動かない。
小柄とはいえ、彼も黒龍高校の男子だ。
華奢な華子がいくら全力を行使してもピクリとも動かない。


このままでは疲れるだけだ。
何か別の切り口で攻めなければ駄目だろう。

思考。
今日の午前のことを振り返る。

これだ。
これがある。

今この状況を打開する為の案が、彼女の脳内に浮かぶ。
しかし、それはここを切り抜けると同時に多大なリスクを背負うこととなる。

そうこうしている内に、野次馬が集まって来てしまった。
早く行動しなければならない。
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