純製造型錬金術師と黄金の鷹

CEFI

文字の大きさ
3 / 31

3.山中にて

しおりを挟む

 大量の枯れ木を集め終わり、ジークが火を熾した時には、辺りは暗くなっていた。

「あったかい……」

 私は小さな火に手のひらをかざした。
 ここに転移した時は適温だったのに、少し寒さを感じる。
 羽織っている薄手のマントを体に巻き付けると多少ましになった。

「うーん、困ったな……」

 空中を探るような仕草をしたジークが小さく呟く。
 何をしているんだろう?

「何が?」
「アイテムボックスの中は食料が乏しい。水はあるけれど……。今夜は申し訳ないがパン1個ずつだな。明日、何か狩りをしてみよう」
「アイテムボックス!」

 私のアイテムボックス、どうやって開くんだろう?
 と思った瞬間、目の前に半透明の何かが浮かんだ。

「! 開いた」

 イベントをこなした後、倉庫整理せずにログアウトしたから、アイテムボックスには雑多なものが詰め込まれたままだ。素材、イベントアイテム、装備類、特に意味のないドロップアイテムも入っていた。
 容量限界が近いその中に、今とても必要としているものを見つけて、私は声を上げた。

「あっ……あった!」
「え?」
「食料なら割と充実して……うあ、スプーンがない」

 せっかくイベントで交換した、兎のシチューがほかほか湯気を立てているというのに、スプーンがないとか。
 お皿に口を付けて飲めと?
 王族に?
 ありえなーい!

「ないのなら 作ってしまえ ホトトギス。ダテに純製造やってないっての」
「ナナミ?」

 私はアイテムボックスから細工道具を取り出し、焚火用の枯れ木を掴んだ。
 ざっと大きく削った後、先の丸みを出し、サンドペーパーでなめらかに仕上げる。
 ゲームの世界だからか、はたまた夢だからか、あっという間にそれはスプーンの形になった。
 DEX99なめんな。

「はい、スプーンどうぞ! で、これ兎のシチューです、熱いから気を付けて」

 瞬時に作り出されたスプーンを物珍しそうにひっくり返しつつ眺めていたジークは、少し慌てたように皿を受け取り、そこに視線を落とした。
 あれ、嫌いだったかな。シチュー。
 美味しそうだけどな。

「冷めないうちにどうぞ? ってあれか、王族なら毒見が必要? なら私が一口先に――」

 私は自分のスプーンを、ジークの皿に差し入れようとした。
 ……純然たる親切で、ですよ。ジークの分まで食べようと思った訳じゃない。断じて違う。
 だってさ。いくら私が「女神の渡し人」だと認識していたって、初対面は初対面だし。一般人の私と、王侯貴族では、警戒するべき事は違うだろう。毒見を求められたって、これは食べられないと突き返されたって、それは仕方のない事だと思う。

「いや、毒見は必要ないよ。鑑定スキルもあるし」
「あ、そっか、鑑定スキル。なるほど。どうぞ遠慮なく鑑定してから食べてください」
「ありがたくいただこう」

 スキルを使ったのかどうか、私には分からなかったが、ジークはためらいなくシチューを口に運び始めた。
 その姿は――至って普通だった。
 優雅という訳でもなく、粗野という訳でもなく、王侯貴族っぽさは特に感じない。容姿はとてつもなく整ってるけど。

「美味しい……!」

 一口シチューを口に運んで、私は唸った。
 気温が低めなこともあり、温かなシチューは最高に美味しく感じる。
 うう、イベントで交換しておいてよかった。付き合ってくれたルカさん、改めてありがとう。夢の中でも役に立つなんて凄いわ。

 温かなシチューと、柔らかなパンと、ワイン(ジークが持ってた)での夕食を終えたところで、ジークが姿勢を正した。

「とりあえず、この状況を説明しておこう。……本当は極秘事項ではあるんだろうけど、隠しておいても仕方がない。私がここにいるのは、王宮で謀反が発生したからだ」


***

 王族であるジークフリードは、国王の補佐として様々な公務をこなしている。
 特に近衛騎士団の長を務めているため、軍の仕事が多い。……と言えば聞こえがいいが、実際は書類仕事だ。それも、側近が呆れるほど無茶な量が持ち込まれる。
 持ち込まれた装備品購入の書類を手に取って、ジークフリードは眉をひそめた。

「ディート。この申請はおかしくないか?」
「第三小隊ですね。……監査、入れますか?」
「……いや。これはこのまま通す。カールにひそかに追跡させろ。捕縛や阻止はするな。証拠を掴むのを優先」
「かしこまりました」

 緩やかに、この国の規律が緩み始めているのを、痛いほど感じるのはこういう時だ。
 戦乱が終わって五十年ほど。モンスターの跋扈以外はそれなりに平穏な時代がそうさせるのか、――それとも、王の権力に綻びが生じているのか。軍部の腐敗は目に余るようになってきた。不要な装備の発注、横領、癒着、不正な書類。
 どうしたら立て直せるのか、仕事は多いが権力はほとんど任されていないジークフリードには、いまだ見当もつかないままだ。

 ――自分の力でできることをやるしかない。今は。

 ため息をついて書類の精査に戻った時だった。
 乱れた複数の足音を聞いて、ジークフリードは再び顔を上げた。
 ディートリッヒは既に臨戦態勢に入っている。

「兄上、失礼します!」

 ノックもそこそこに執務室へ飛び込んできたのは、二歳年下の弟、ユリウスだった。

「……何事だ」
「謀反です! 兄上、ここは危険です。どうぞ脱出を!」
「謀反?」


 興奮にギラギラと光っているユリウスの目が、笑みを刻んだ。
 それが、すべての答えだった。
 謀反。その首謀者が、あるいは担ぎ上げられたハリボテの首謀者が、ユリウス=ライマー=エーレンフリートだという事が。

「《ワープ・ポータル》」
「殿下!」

 ユリウスの詠唱によって、ジークフリードの足元に転移魔方陣が展開される。
 その、あってはならない光景に、側近もジークフリードも息を飲んだ。王族の執務室には、魔術無効の結界が張られている。発動する筈のないワープ・ポータルが発動した。結界の解除、そんなものが一瞬でできるはずもなく。――何もかもが仕組まれた茶番だった。
 この転移先には、武装した兵士たちが待っているのだろう。

「《転移先書換》!」
「! 貴様――ッ」

 ディートリッヒの詠唱と、ユリウスの声を聞いたのが最後だった。
 転移魔方陣が稼働し、ジークフリードの視界が白一色に塗りつぶされ――


***

「……で、気が付いたらここにいた。なかなか間抜けな話だろう?」
「いや、何て言ったらいいか」

 困惑してその顔を見つめると、ジークは「ごめん」と苦笑した。

「ディート――側近の妨害で、一応は安全な場所に出ることはできた。ただ、咄嗟だったせいか、座標の指定が無茶苦茶で、辺境近くの山に飛ばされたようだ。所持品も少ないし、これは難儀だなと途方に暮れていたら、君が腕の中に落ちてきた」

 穏やかな表情の下に、荒れ狂う感情がちらりと見えた、気がした。

「王宮では今、何がどうなっているだろう。……私、は」
「ジーク……」

 謀反が成功していたなら、何かしらの汚名を着せられているだろう。
 失敗していたなら、たくさんの人がジークを探している筈だ。
 いずれにしても、大変な事態が起こったのにも関わらず、情報が何一つない。それはどれだけ不安な事だろう。

「弱音を吐いている場合じゃないな。とにかく、この山を下りて、一番近くの町へ向かう。状況が許せば、バウマン辺境伯の居城へ。この辺りは少し厄介なモンスターも多い。ナナミ、君も冒険者だから大丈夫だとは思うけれど、十分気を付けて」
「あうっ。……えーと、ですね。ジーク。その件で一つご報告が」
「?」

 私は深呼吸を一つして、告白した。

「ごめんなさい。私、STR1の純製造職なんです……っ」
「ストレングス、いち」
「サブジョブも鍛冶師なので、どこからどう見ても1です」

 つまりはモンスターと遭っても役に立たない可能性が高い。レベルが高めの辺境のモンスターならば更に。
 私が普段狩っているのはトレントが多い。植物系モンスターで、こちらから攻撃しない限り近づいてはこない、ノンアク――ノンアクティブモンスターだ。枝から木材が取れ、葉はキュアポーションの材料に、根からは睡眠薬の材料である粉が精製できるし、核の部分には、様々な効果を持つ魔石がある。捨てるところのないパーフェクトモンスターなのだ。経験値はちょびっとだから、好んで狩るのは錬金術師くらいだけど。

「……初めて見たよ、純製造職の冒険者」

 そうでしょうとも。
 珍獣を見るような目が痛い。

「ハイポーションなら素材もあるし、いくらでも作れますが、……それ以外はほぼ役立たずと考えてもらって大丈夫です」

 自分で言ってて何だか悲しいけれども。
 錬金術師と鍛冶師は、拠点登録した街でならば、『ホーム』が使える。自分だけのスペースで、そこには倉庫、製造設備が揃っている。逆にホーム外ではランクのそう高くないアイテムしか作成することができない。
 錬金術ならハイポーションやキュアポーション、マジックポーションが限界。鍛冶なら製鉄、装飾具、ダガー、弓、矢くらいだろうか。

「あっ、武器の手入れはできますよ。ジークの剣、研いでおきましょうか?」
「……いや、これは」

 ジークは、地面に鞘ごと置いていた剣を掴んだ。少しだけ抜いて見せてくれる。

「触れない方がいい。……分かるかい?」
「え、何、これ。え……気持ち、悪い」

 銘ある剣だろうというのは分かる。鞘や柄の細工も素晴らしく美しい。けれど。
 何と表現したらいいのだろう。
 力の流れが正しくない。
 これを装備したら、持ち主には不運が訪れるだろう――そんな歪みがある。

「呪いだね」
「呪い!?」

 こともなげにジークが言う。
 ……いや、呪われている剣、というのは、良くはないけど、まぁいい。時折聞く話だ。
 でも、わざわざそれを装備している人間はいない。
 間違って装備して解除できなくなってしまったなら、その足で聖職者のところへ駆け込むのが普通だと思う。

 もしかして、ジークは好き好んで呪いを受けているの?
 それ何てドM。
 いや、ドM通り越してやべぇ奴では。

「こらこら。不穏なことを考えないように。不敬罪でしょっぴくよ」
「何モ考エテナドオリマセンガ」
「棒読み。だから、奇妙な解釈はしないように。単に、断れない人物から下賜されたんで持ち歩かない訳にはいかないだけだ」

 王族であるジークに『下賜』できる人間?

「王妃だ。……一応、血縁上は私の母になる」
「王妃――母、って、ジークあなた!」
「ん?」

 ん? じゃない!

「王族の端っこって、嘘じゃない!」
「ああ」

 恐ろしいことに、ジークは軽く笑って言った。

「信じたのか、すまなかった。この国の人間なら、名前を名乗れば分かるからな。――改めて自己紹介しておこう。私はジークフリード=アルノー=エーレンフリート。
エーレンフリートの第一王子だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

追放王子の気ままなクラフト旅

九頭七尾
ファンタジー
前世の記憶を持って生まれたロデス王国の第五王子、セリウス。赤子時代から魔法にのめり込んだ彼は、前世の知識を活かしながら便利な魔道具を次々と作り出していた。しかしそんな彼の存在を脅威に感じた兄の謀略で、僅か十歳のときに王宮から追放されてしまう。「むしろありがたい。世界中をのんびり旅しよう」お陰で自由の身になったセリウスは、様々な魔道具をクラフトしながら気ままな旅を満喫するのだった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...