【R18】薄闇に堕ちる

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薄闇に堕ちる

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 遠く、祝勝会の喧騒が聞こえる。
 一瞬だけ足を止め、士誠シセイはそれに耳を傾けた。
 広間に戻り、仲間たちと酒を酌み交わし続けたい、と思い、それが許されるはずがない、と首を一回横に振る。


「適当なところで抜け出して、私の部屋へ来い。いいな?」
「――はい」


 宴が無礼講の様相を示し始めた頃、手ずから士誠の杯に酒を注ぎながら、元璋ゲンショウが声を潜めて囁いた。
 それへ、静かに頷いて見せたが、士誠は内心は動揺していた。


 羅 元璋。
 まだ四十歳にもならない、若き英雄としてその名を知られている。個人の武勇は当代随一と言われ、士誠も含め、配下では敵う者はいない。それでいて軍略にも明るく、控えている軍師は助言程度しか策を言上できないと嘆くほどの知略を兼ね備えている。
 若々しい猛々しさと、冷静に人を見抜く瞳、そしてどこか天真爛漫な表情。
 誰もが彼に魅了された。
 この方にならば、命を預けることができる。彼が指さす未来を、信じることができる、と。

 士誠もまた、この戦乱の世を平定するのは我が主君だろうと常々思っている。
 どちらかと言えば忠誠心には薄い人間ではあるが、それだけに人を、そして世の情勢を見抜く力は持っていると自負していた。
 だから、主君にとって、有用な部下であり続けよう。
 そう心がけてきた、のだけれど。


 今回の戦で、士誠は大きな手柄を挙げた。偶然ではあるのだが、敵将を討ったのだ。討って、しまった。
 出世はしたいが、実力を示しすぎて主君に叛意を疑われたり、嫉妬でもされたら本末転倒だ。主君以上の手柄を立ててはいけない。そう気を付けていた筈なのに。
 元璋はどう思っただろうか。
 戦の最中も、祝勝会でも、士誠を讃える言葉を掛けてくれたけれども――



「趙 士誠、参りました」
「入れ」

 短い返答に、覚悟を決めて扉を開く。
 どちらかと言えば質素な元璋の私室に、しかし彼の姿はなかった。

「元璋さま……?」
「こちらだ」

 声がするのは、続きの間、要は元璋の寝室だ。そちらに来いと言うのか。
 はて、と士誠は首を傾げた。
 主君には男色の気は一切なかった筈だが。
 更に言えば、士誠も男は遠慮したい。組み伏せられる方なら余計に御免だ。主君に伽を命じられて断れるかどうかはさておき。

「失礼しま、――す」

 不自然に声が途切れたのは、寝室にいるのが主君だけではなかったからだ。
 いつもは結い上げている艶やかな黒髪を下ろして、寝台に横座りしている、美しい女。身に纏っているのは夜着、というには艶めかしい薄絹で、その下の白い肢体を少しも隠していない。豊かな乳房、ほっそりした腰、そして――

「奥方様!? 元璋さま、これは……っ」
「騒ぐな。こちらへ来て扉を閉めよ」

 寝台の傍の椅子で酒杯を傾けていた主君は、動揺する部下にニヤリと笑ってみせた。
 いつもの明るい笑みではなく、獰猛に、そして淫靡に。
 酒杯を置いて、元璋が寝台に上がる。寝台が軋む音に、士誠は思わず震えた。

 一体何が始まるのか。
 恐慌と、期待に。

翠蘭スイラン
「はい、旦那様」

 妻の背後に腰を下ろした元璋は、夜着の上からその体をまさぐり始めた。
 視線を、士誠に固定したまま。

 翠蘭との情交を、士誠に見せつけるつもりなのか。
 ――まさか、主君は気づいていたのだろうか。
 不自然にならない程度に敬意をもって接しはするが、翠蘭を見つめることさえ避けていたというのに。

 ひたすら夫に寄り添う、表情の薄い、人形のような女。
 華奢ながら腰と胸が豊かな、女らしい曲線を描く体、化粧を施さなくても抜けるように白くなめらかな肌、伏せられた長い睫毛、濡れたようにきらめく黒い瞳、ほんの少し厚い、赤い唇。
 ずっと――ずっと。
 一度でいい、一瞬でいい、触れることができたら。
 そう、思っていた。

 許される筈がないと、諦めてもいた。
 一人の武将が複数の愛妾を持つ事もめずらしくないこの時代、元璋は正室である翠蘭以外の女を、絶対に娶ろうとはしなかったし、遠征先でも、娼婦さえ抱きはしない、無類の愛妻家として知られている。
 懸想していることが知られたら、追放されかねないだろう。

「う、……んっ」

 夫の指に乳首を擽られて、女が身を捩る。
 元璋は相変わらず寝台の側に突っ立っている部下を眺めながら、翠蘭の乳房を掴んだ。
 男の手にも余る大きな胸が、やわやわと揉まれて形を変える。

「お前の好きな所を、士誠に教えてやりなさい」
「あ、ぁあっ」

 他人の前で体を暴かれようとしているのに、翠蘭は逆らわない。それどころか、士誠に見えるように少し体をずらして、細い脚を少しだけ開いてみせる。頼りない灯りに浮かび上がる白い脚を、士誠は思わず視線で辿った。ほっそりしているけれども柔らかそうな太もも、少し色づいている脚の付け根、そして、下着をつけていないせいで、紗に透けて見える、黒い茂み。

 男を咥え込むための、カラダ。

 酷い喉の渇きを覚えて、士誠は唾を飲み込む。
 体の中が、灼けるようだ。

 元璋の唇が女の白い首筋を辿り、耳朶を噛んで卑猥に囁く。

「もう下を触って欲しいのか?」
「欲しい、……です……っ、触ってください、お願いです、欲し……いっ」
「いやらしいを声出すじゃないか。ん? 士誠に見られて興奮しているのか?」
「あ、あぁ、んっ、して……ます、興奮、して、わたし……、他のおとこのひとに、ああぁっ」

 遠慮のない男の手が夜着の裾を捲り上げ、秘部を指でなぞった。
 抑えきれない女の声は、嬌声というよりも悲鳴に近い。
 男の太い指が秘部に沈んでいくのを、ただひたすら士誠は見守る。

「は、ぁん、ああっ、旦那様、旦那様ぁ」
「びしょびしょだな」

 元璋の揶揄するような声は、けれど事実の指摘に過ぎなかった。彼の指が動くたびに、かすかに淫らな水音が立つ。
 女は完全に発情して、犯されるのを今か今かと待ち望んでいる。

「指がそんなにイイのか? 翠蘭」
「あ、あっ、あぅ、気持ち、いいです、イイ……ッ、でも、もっと、ぉ、おっきいのを……ください……っ」
「ん?」

 はぐらかすような元璋の笑みに、翠蘭は一瞬、泣きそうな顔をした。

「あ……、お願い、です、旦那様のおっきくて硬いものを……、翠蘭のいやらしい穴に入れて、ぐちゃぐちゃに突いて、もっと気持ちよくしてください……っ」
「ふふっ、いいだろう。ほら、足を開いて。いい子だ、本当に淫乱だな、私の奥方は」
「ん、んぁっ、ああぁっ」

 翠蘭の体が寝台に沈み、大きく足を開く。それを手で更に広げさせて、元璋は陰茎を一気に挿入した。
 女の肢体が苦痛にか快感にか悶える。……いや、快感にだろう、下腹部がわずかに痙攣している。挿入されただけで、女は絶頂に達したようだった。

「ふ……っ、士誠!」
「……! は、はい」

 不意に名前を呼ばれて飛び上がりそうになった。その様子を見て、主君は薄く笑う。
 士誠に見せつけるためだろう、元璋は体を起こしたまま腰を使い始めた。翠蘭の、薄い夜着に包まれたままの乳房がゆさゆさと揺れる。

「上がって来い。ほら、お前も翠蘭を可愛がってやれ」

 元璋はそう言って、翠蘭の夜着を引き裂いた。
 白い乳房と、赤く色づいた乳首が、士誠の目の前に零れ落ちる。

「元璋、さま」
「翠蘭、お前も士誠にちゃんと頼みなさい」
「あ……、趙将軍、お願いです、触って、ください。な、舐めて、噛んで、気持ちよくしてぇ……」
「……ッ」

 涙目で見上げられながらねだられた瞬間、ためらいは吹き飛んだ。
 士誠は恋焦がれていた女のたわわな胸にむしゃぶりついた。
 揺れる乳房を両手で掬い上げ、右の乳首に吸い付く。もう片方の乳首を指で軽く摘まんでやると、悲鳴にも似た声を上げて、女の背中が反り返った。それを抑え込むようにして、更に吸い上げ、こね回し、手のひらで揉む。

「あ、あぅ、気持ちい……、あ、駄目、来る、来ちゃう、私、また……ッ」
「は……っ、いつも以上に締め付けてくる。他の男に乳首をしゃぶられるのがそんなにいいのか、翠蘭!」

 元璋の声には嫉妬の炎が宿っている。
 自ら仕掛けた事だろうに。
 激しい元璋の抽挿に、寝台がギシギシと音を立てた。

「いい、イイッ、気持ちい……っ」
「翠蘭、さま……」

 翠蘭の腕が上がり、士誠の頭を抱きしめた。

「あっああっ、ひぁ……ッ」
「くっ、出すぞ……っ」

 女の脚を更に持ち上げ、元璋は奥まで突き込み、精を吐き出したようだった。
 小刻みに腰を使いながらすべてを放つと、陰茎をずるりと抜く。

「士誠」

 主君の呼ぶ声に、士誠はようやく、女の胸から顔を上げた。
 何故ここに自分が呼ばれたのかは分からないが、許されるのはここまでだろう。
 しかし、士誠の陰茎は張り詰めて、もう収まりがつかない状態だ。せめて、ここで翠蘭の顔を見ながら、自分で処理させてもらえないだろうか。

 翠蘭はまだ快感の余韻の中にいるのか、足を開いたまま、ぼんやりと天井を見上げている。
 その秘部から、とろりとした白い体液が零れ出た。

「何をしている」
「……え、っと」
「まだ翠蘭は満足していない。お前のそれで、もっと可愛がってやれ」
「元璋さま、ですが」
「翠蘭。ちゃんとおねだりしないと、士誠はやらないそうだ」
「あ……っ、趙将軍、どうか私を抱いてください。欲しいの。お願い、挿れて、滅茶苦茶にして……っ」

 それでも主君の奥方を汚す決心はつかず、思わず元璋を振り仰ぐ。
 目を細め、薄い笑みを浮かべた元璋の表情はひどく淫靡で、どこか冷酷に見えた。

「女にここまで言わせて応えぬとは。お前の忠誠心と理性には目を瞠るものがあるが。良い、挿れよ。褒美の一つだと思っていい」
「……く……っ」

 やせ我慢もそこまでだった。
 慌ただしく衣服を脱ぎ捨てると、反り返った陰茎が腹を叩く。
 その長大なものを目にして、女の瞳が輝いた。昼間の貞淑で無口な奥方様とは別人のように、自分で両膝の裏に手を入れ、足を開いて見せる。士誠の目の前で、元璋と激しく交わったくせに、まだ足りないと催促する。
 どんな淫売だって、こんな淫らに男を誘ったりはしないだろう。

 ああ、思考が焼き切れそうだ。

「挿れ、ますよ……ッ」
「あ、あぁ、あ……んっ」

 やや性急に突き入れると、柔らかく濡れた粘膜が陰茎を包み込み、搾り取るようにうねった。
 つい先ほどまで、元璋の大きなものを飲み込んでいたとは思えないほど、内部はきつく士誠に絡みつく。

「うぁ……っ」

 射精しそうになって、歯を食いしばる。流石に、主君と惚れた女に早漏と思われるのは避けたい。が、どれだけ保つか。
 許されないかもしれない、と思いながら覆いかぶさり、唇を重ねた。
 舌を差し込んでみると、翠蘭が口づけに応えた。拒むどころか自ら舌を差し出し、絡めてくる。
 くぐもった嬌声ごと、強く吸いあげた。

「どうだ? 翠蘭。若い男の味は」
「気持ち、いい、あぁ、私、わたし……っ、旦那様以外の人に抱かれて……気持ちよくなってる、あぁ、いい、そこ、そんなに突いたら、また、ああっ」
「ふっ」

 笑い声に、士誠は顔を上げた。元璋は再び酒杯を手に取っている。
 一度射精していることだし、自ら寝台を降りた主君は余裕の笑みを浮かべているのだろう、と思ったのだけれど。
 元璋は、欲望と嫉妬のないまざった、ギラギラとした眼差しを部下と妻に向けていた。寛げたままの下衣からは、少しも萎えていない剛直が天井を向いている。

 欲情している――欲情されている。
 それは、今までに感じたことのない、異常な興奮だった。
 士誠の前で妻を抱いた時、見つめている自分を見て、元璋も同じものを感じただろうか。

 士誠は女の中からいきりたったものを引き抜いた。

「えっ、どうして、いや、嫌です、抜かないでぇっ」

 縋りついてくる女を引きはがし、寝台の上に起き上がった。そして、翠蘭の体を抱え上げる。

「あ、ああぁぁっ」

 身悶える体を背後から抱きしめるようにして、座位で貫いた。結合部が主君に見えるように足を広げさせ、下から突き上げる。正常位とは中を擦る角度が違うのか、翠蘭は甘い泣き声を上げながら腰をうねらせた。

「く、ぅ、っ」

 士誠の唇から、苦鳴にも似た喘ぎ声が洩れる。限界はとうに超えている。もう、保たない。主君の妻は、今まで抱いたどんな女よりも淫らに大胆に、彼を追い上げた。女陰が意思を持っているかのように、的確に士誠の陰茎を愛撫し、射精を促してくる。あまりの快感に、目の前にチカチカと火花が散った。

 ああ、でも、もう少し。もう少しだけ、この快感を味わいたい。肉体的な快楽と、主君夫妻を汚しているという、背徳感と。

「士誠」

 元璋の声が、ひどく近くに聞こえ、知らぬ間に閉じていた目を開けた。
 妻の頬に自らの頬を重ねるようにして、元璋が士誠を覗き込んでいる。更に元璋は妻ごと拘束するように、士誠の背中に腕を回した。

「そのまま、中に出せ」
「し、しかし……っ」
「孕んでも良い。ふふ、私かお前、どちらの子を孕むかな、翠蘭」
「げん、しょう……、様……ッ」
「いい顔だ。さあ、いけ、士誠。我が妻の中で果てよ」
「ふ、うぁ……っ」
「あぁ、ああぁ、趙……、将軍、旦那様ぁっ」

 主君の妻を抱きかかえ、主君に抱きかかえられるようにして、士誠はついに精を解き放った。同時に翠蘭も絶頂に達したのか、がくがくと震えた後、夫に縋りつくようにして脱力する。

「出してもらえたか、良かったな、翠蘭。よし、せっかくの士誠の子種が零れないように栓をしてやろう」
「あ……、はぁ、あ……っ、あああっ、旦那様ッ」

 元璋が士誠の膝から妻の体を抱き取った。そして、そのまま四つん這いにさせると、有無を言わさず剛直を突き立てる。
 流石に翠蘭は哀れな鳴き声を上げた。

「や、あぁ、おねが……、あん、あぁ、休ませて……っ」
「さあ、翠蘭。その可愛いお口で士誠に奉仕しなさい。お前を気持ちよくしてくれたモノだ、感謝してしゃぶるんだ」
「ん、は、はい、ん、ぅっ」
「翠蘭、さま、元璋さま……っ」

 容赦なく後背位で攻め立てる夫の言葉に、妻は従順だった。
 まだ射精の余韻が残る士誠の陰茎が、小さな赤い唇に飲み込まれていく。
 巧みな舌使いで舐めしゃぶられ、吸い上げられると、若い男の雄はたちまち勢いを回復した。

「まだいけるだろう? 士誠。とことん付き合ってもらうぞ」
「――御意」

 士誠は頷いて、女の美しい髪を撫でた。
 地獄まで付き合え、と言われたとしても、頷いただろう。
 既に正常さを手放しつつある思考の隅で、そんなことを考えた。




 細い体で男二人の相手は無理があったのか、元璋と士誠が三回ずつ射精したところで、翠蘭は気を失ってしまった。
 その白い肢体も、寝台も、三人分の体液でひどい有様だ。
 後始末をする気はないのか、元璋はわずかに窓を開けただけで、平然としている。

 狂乱の後の、何とも言えない虚脱感と気まずさを抱えながら、士誠は床に脱ぎ捨てていた自分の服を拾い集め、身に纏っていく。

「……何故、このようなことを」
「ん? 言っただろう、褒美の一種だと。……ああ、いい事を教えてやろうか、士誠。翠蘭は、今夜まで、男は俺しか知らなかった」
「そ、」

 思わず士誠は絶句した。
 複数の男に抱かれたことも、部下に褒美として与えたこともない、と明言して、元璋は軽く笑った。
 明るい笑みを浮かべる主君を、心底恐ろしいと思うのは何故だろうか。

 爽やかと形容してもいい笑顔のまま、元璋はまっすぐに士誠を見据えた。

「手を抜くな、士誠。人に譲るように小賢しく立ち回るのはやめよ。どんな戦功をあげたとしても、私はお前を疑ったり放逐したりはしない」
「……っ」
「次の戦でも、期待している。精励せよ。その時には……」

 元璋の手が、全裸で寝台に沈んでいる妻の髪を撫でる。
 つまり、また、敵将を討つなどの大手柄を挙げたら、寝室に呼んでもらえるということか。
 ――あるいは、他の将軍に翠蘭を抱かせたくなければ、お前が手柄を立てろと。

 ああ、見抜かれている。
 実力はあっても忠誠心には薄く、損得を見通して彼に従っている、士誠の底の浅さを。

「……はい。元璋さまのため……、我が武、我が知、我が命を奉げます」

 床に跪いた。
 この人のために、自分は本当に命を懸けるだろう。
 忠誠心、欲望、善悪、好悪、そんなものを超えて、ただただ、主君が望むとおりに。

 異常だ。分かっている。でも、だからどうだと言うのか。
 もう、駄目だ。趙士誠という人間ごと、この人に絡め取られてしまった。


 ――逃げられない。
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