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両親
気持ちの良い秋晴れの午後、俺は初めて利用する路線の初めて降りる駅に着いた。雰囲気の良い、閑静な住宅街と言われている駅だ。
「あっ大野くん」
駅の改札を出ると、斉木さんがすぐに声をかけてくれた。斉木さんは本当に"近所に来た"という感じで小さなスマホポーチだけを提げているのが新鮮だった。毎度思うのだが、こうやって待ち合わせをして会うのと大学で会うのとは緊張感が少し違う。ましてや今日は斉木さんのご両親に会うのだ。そんなに感情を乱されないタイプの俺でもちょっとは心臓が速くなる。
「良い天気だね。おうちこっちなんだ。行こっか」
そんな俺の緊張を解くような笑顔で斉木さんは自宅方向を指差した。
土曜日の昼下がり、駅前の通りは明るい雰囲気で賑わっている。あからさまな高級住宅街、といった派手な雰囲気ではないものの、歩く人々の様子や立ち並ぶ住宅の雰囲気を見て誰でも簡単に住めるような地域ではないんだろうなと感じる。
いくつか角を曲がってしばらく歩いて行くと現れた「斉木」の表札。斉木さんが「ここだよ」と自宅を指差した。俺は、門の外から見える外観を下から上まで見渡して呟いた。
「東京で庭付きの戸建て……」
「運とタイミングが良かっただけだってさ」
斉木さんは笑って簡単に言うが、綺麗に手入れされた庭とシャッター付きの車庫に格納されているピカピカの国産車は、経済的、精神的ゆとりがないと得られない物だ。
「門前払いを喰らわなきゃいいけど…」
苦笑して冗談めいて言ったものの、半分くらいは本気で。斉木さんはそんな俺の言葉に笑いながらどんどん玄関の方へ進み、鍵を開けてドアを開いた。
「ねー!大野くん連れてきたよー!」
あっけらかんとした斉木さんの声が家の中に響く。するとすぐに、おそらくリビングの方のドアが開いた。俺は口をぎゅっと結んで電車の中で反芻していた挨拶の言葉を脳内から引っ張り出す。
「あっ、大野くんね、こんにちは。はじめまして、里香の母です。どうぞあがってあがって」
出てきた斉木さんの母親はやはり斉木さんの母だけあって着飾っているわけではないのに自然体で綺麗だった。おまけにかなりさっぱりしているような話し方だったので、俺はほんの少しだけ安心をした。だけど、何もこちらが挨拶をする間もなくリビングへ促されたので思っていたのと違うことに若干の焦りも感じる。
リビングに入ると、斉木さんの父がダイニングテーブルに座っていたが、俺を一瞥すると席を立つ。父親は話に聞いて想像した通り、少し古風というか、鋭い目をした厳しい昔ながらのお父さん、というような雰囲気だった。
「大野くんだね。どうも里香の父です」
厳しい顔つきとは対照的に柔らかく響く声でそう言うと、軽くお辞儀をした。
「あ、と、大野陽斗です。里香さんと同じ学科で、夏休み頃からお付き合いさせていただいています」
電車の中で脳内で繰り返し練習した長い長い挨拶をして手土産を手渡すと、妙な達成感にほっとしてしまう。椅子に座るよう言われて斉木さんのお父さんの前に座る。斉木さんのお母さんも、にこにこしながらお父さんの隣に座った。
「私、お茶淹れてくるね。大野くん、緑茶で大丈夫?」
「あ、うん。ありがとう」
斉木さんの両親と俺の3人での空気は最初こそかなり緊張感が走っていたが、主に斉木さんのお母さんの方から大学の話や地元の話、趣味の話など質問されて少しずつ緊張も和らいできた。
「はい、お茶どうぞ」
しばらくして斉木さんは茶托付きでお茶を運んできてそれぞれの目の前に置き、斉木さん自身も俺の隣に座った。どうやら斉木さんもちょっと緊張しているようで、そわそわしながらなかなか話を切り出せずにいる。
とりあえず、斉木さんの誕生日に一緒に過ごしたいという用件を言わないと、と思い俺が口を開こうとする。と、その時。
「は~~~~~」
大きなため息が前方から聞こえてきた。見ると、お父さんが力が抜けたように軽く項垂れていた。
その様子に俺も斉木さんもぽかんとして何も言えずにいると、お母さんがくすくすとお父さんの方を見て笑う。そして、項垂れたお父さんがぱっと顔を上げて俺に向かって言った。
「大野くん!!本当にありがとう!!」
「へ……?」
お父さんは、なんだったらもう泣いてしまうのではないかと思うような顔つきで。隣のお母さんはさっきよりもはっきりと笑い声をあげた。上手く言葉にならないお父さんの言葉を代弁するように今度はお母さんが口を開いた。
「まさかねぇ、里香が彼氏を連れてくる日が来るなんてねぇ…。私もお父さんもすっごく嬉しくって」
その言葉に斉木さんはすぐさま「なんでぇ!?」と突っ込む。お父さんはもともとそんなに口数の多い人ではないのだろう、お母さんの方から話が続いた。
「里香から男の子の気配が全くないからずっと心配してたの。小さい頃は元気よく外で男の子と遊び回ってたのに、ある時急に引きこもって本ばかり読み出して…。せっかく大学生なんて一番楽しい時期なのに毎日予定も入れずに家に真っ直ぐ帰ってくるばっかりだし。これはもう孫の顔を見るどころか花嫁姿を見ることもないのかもね、なんてお父さんとよく話したりして」
「えぇ~!?そんな失礼な…!」
「でもそうじゃない。うちの娘は結婚せずに仕事一筋のタイプになるのかな、一体誰に似たのかしらってずっと思ってたんだから」
そう言って、お母さんがちらりとお父さんの方を見ると、お父さんはバツが悪そうに笑った。
「そんなこと思われてたんだぁ…。なんだ、じゃあ夜遅くまで遊んでくれば良かった」
ご両親の有難い言葉と、いつもの調子に戻った斉木さんのおかげで俺も緊張が解かれ、自然に笑いが溢れる。そしてようやくお父さんがゆっくりと話し始めた。
「まぁ今の時代、そういう生き方もあるから親がどうこう言うつもりもなかったけどなぁ…。逆に変なアプリで変な男に引っかかって騙されたりするくらいなら、独り身の方がいいかくらいに思ってたんだよ。だから本当に大野くんみたいな人が里香を選んでくれて、嬉しいし安心したよ」
鋭い目つきと手厳しさを物語る口元をもつお父さんだが、笑うと周りの空気がふんわりと柔らかくなるのがわかる。
(ああ、斉木さんのお父さんだなあ)
ぼんやりとそんなことを考える。
「あ、それでね、この間も言ってた来週の誕生日のことなんだけど…」
斉木さんが本題に入ろうとしてはっとした。ここは俺の口からきちんと伝えたかったから、急いで俺は斉木さんの後に続こうとした。ところが。
「うん、いいんじゃない。ね、お父さん」
お母さんは簡単な調子でにこやかに笑いながらお父さんに同意を求めた。さすがにお父さんは即答で前向きな返事はしなかったものの「里香の好きなように過ごしなさい」とゆっくりと言った。
斉木さんの顔は分かりやすくきらきらする。
「わ~良かった!ちなみにね、前の日から大野くんの家に泊まってもいい?」
それがどういうことなのかあんまり気にしていないのか、斉木さんらしい能天気な言葉に、お父さんは一瞬言葉を詰まらせるものの縦に首を振った。
「ここで断ったら、お父さん、里香に嫌われちゃうかもしれないもんね~」
お母さんの言葉に斉木さんは面白そうに笑い、お父さんは冗談ぽくため息をついた。
これで、挨拶もできたし許可も下りたし、何の後ろめたさもなく堂々と斉木さんと誕生日を祝うことができそうだ、そう思って胸を撫で下ろす。と、ガールズトーク好きらしいお母さんが、前のめりに話を切り出してきた。
「ねぇねぇ、大野くんは里香のどんなところが良かったの?」
「お母さん!やめてそういうの鬱陶しいから!」
お決まりといえばお決まりの展開だ。斉木さんは恥ずかしそうにお母さんを止めに入るが、俺はむしろちゃんと伝えたくて。斉木さんとの関係を今後もずっと大切にしていきたいと思っている、その思いを信用してもらいたかったから。
「えと、斉木さんって何でも器用にこなしていてすごく大人っぽくてよくできる人だななんて思ってたんですけど、関わっていくうちに意外と不器用なところとか幼いところとかもあって、そういうところが素敵だなって思いました。あとは自分の世界や好きなものをしっかりもっているので、芯があってブレない子なんだろうなって思います。自分自身が抱えている課題からも逃げようとせず、少しずつでも前に進もうとするひたむきさも人として尊敬しますし、僕に対して誠実に向き合ってくれてるのも……」
「大野くん……もう、やめよう……」
あれもこれもと口を突いて出てくる言葉は止まることを知らず。何ともなしに喋り続けていると、顔を真っ赤にした斉木さんが俺の腕をゆすって声をあげた。
「あ、ごめん」
そんな素直な反応してくれるところも可愛くて好きだなって思ったけど、口には出さずに笑う。お母さんはとても楽しそうににこにこしながら俺らのやり取りを見て、お父さんは感慨深げな眼差しを斉木さんに向けていた。
「里香、良い人に会えてよかったね」
お母さんが最後にそう言うと、斉木さんは満足気に大きく頷いた。
それからしばらく4人で談笑し、すっかり打ち解けた頃にお母さんはお父さんに目配せをしてから言った。
「お母さんたち、しばらく出かけてくるから里香の部屋にあがって2人で過ごしたら?」
いきなりの提案に斉木さんも俺も顔を見合わせて驚く。何と言ったらいいのかわからずに言葉を探していると、お母さんは時計を見て言った。
「んーとそうねぇ、吉祥寺で買い物して久しぶりにお父さんとお茶でもしてくるから4時間くらいはご自由にどうぞ」
にっこりと笑うお母さんは、とっても楽しそうだ。お父さんはというと、お母さんの言うことに従うしかないといった調子で押し黙っている。
「あ…えっと、じゃあ大野くん、部屋来る…?」
予想外の流れにどうしたら良いかわからない斉木さんだったが、それなら、という感じで俺に声をかけた。俺は「じゃ、お邪魔します」と簡単に言うと席を立って改めて両親に頭を下げてお礼を言った。
リビングのドアを開けて出ようとした瞬間、一段と楽しそうなお母さんの声が響く。
「大野くん、まだ学生だからちゃんとそこのところはお願いね」
「~~~お母さん!!!」
さすがの斉木さんも意味を理解すると顔を赤くして、からかってくるお母さんを可愛く睨んだ。
「あっ大野くん」
駅の改札を出ると、斉木さんがすぐに声をかけてくれた。斉木さんは本当に"近所に来た"という感じで小さなスマホポーチだけを提げているのが新鮮だった。毎度思うのだが、こうやって待ち合わせをして会うのと大学で会うのとは緊張感が少し違う。ましてや今日は斉木さんのご両親に会うのだ。そんなに感情を乱されないタイプの俺でもちょっとは心臓が速くなる。
「良い天気だね。おうちこっちなんだ。行こっか」
そんな俺の緊張を解くような笑顔で斉木さんは自宅方向を指差した。
土曜日の昼下がり、駅前の通りは明るい雰囲気で賑わっている。あからさまな高級住宅街、といった派手な雰囲気ではないものの、歩く人々の様子や立ち並ぶ住宅の雰囲気を見て誰でも簡単に住めるような地域ではないんだろうなと感じる。
いくつか角を曲がってしばらく歩いて行くと現れた「斉木」の表札。斉木さんが「ここだよ」と自宅を指差した。俺は、門の外から見える外観を下から上まで見渡して呟いた。
「東京で庭付きの戸建て……」
「運とタイミングが良かっただけだってさ」
斉木さんは笑って簡単に言うが、綺麗に手入れされた庭とシャッター付きの車庫に格納されているピカピカの国産車は、経済的、精神的ゆとりがないと得られない物だ。
「門前払いを喰らわなきゃいいけど…」
苦笑して冗談めいて言ったものの、半分くらいは本気で。斉木さんはそんな俺の言葉に笑いながらどんどん玄関の方へ進み、鍵を開けてドアを開いた。
「ねー!大野くん連れてきたよー!」
あっけらかんとした斉木さんの声が家の中に響く。するとすぐに、おそらくリビングの方のドアが開いた。俺は口をぎゅっと結んで電車の中で反芻していた挨拶の言葉を脳内から引っ張り出す。
「あっ、大野くんね、こんにちは。はじめまして、里香の母です。どうぞあがってあがって」
出てきた斉木さんの母親はやはり斉木さんの母だけあって着飾っているわけではないのに自然体で綺麗だった。おまけにかなりさっぱりしているような話し方だったので、俺はほんの少しだけ安心をした。だけど、何もこちらが挨拶をする間もなくリビングへ促されたので思っていたのと違うことに若干の焦りも感じる。
リビングに入ると、斉木さんの父がダイニングテーブルに座っていたが、俺を一瞥すると席を立つ。父親は話に聞いて想像した通り、少し古風というか、鋭い目をした厳しい昔ながらのお父さん、というような雰囲気だった。
「大野くんだね。どうも里香の父です」
厳しい顔つきとは対照的に柔らかく響く声でそう言うと、軽くお辞儀をした。
「あ、と、大野陽斗です。里香さんと同じ学科で、夏休み頃からお付き合いさせていただいています」
電車の中で脳内で繰り返し練習した長い長い挨拶をして手土産を手渡すと、妙な達成感にほっとしてしまう。椅子に座るよう言われて斉木さんのお父さんの前に座る。斉木さんのお母さんも、にこにこしながらお父さんの隣に座った。
「私、お茶淹れてくるね。大野くん、緑茶で大丈夫?」
「あ、うん。ありがとう」
斉木さんの両親と俺の3人での空気は最初こそかなり緊張感が走っていたが、主に斉木さんのお母さんの方から大学の話や地元の話、趣味の話など質問されて少しずつ緊張も和らいできた。
「はい、お茶どうぞ」
しばらくして斉木さんは茶托付きでお茶を運んできてそれぞれの目の前に置き、斉木さん自身も俺の隣に座った。どうやら斉木さんもちょっと緊張しているようで、そわそわしながらなかなか話を切り出せずにいる。
とりあえず、斉木さんの誕生日に一緒に過ごしたいという用件を言わないと、と思い俺が口を開こうとする。と、その時。
「は~~~~~」
大きなため息が前方から聞こえてきた。見ると、お父さんが力が抜けたように軽く項垂れていた。
その様子に俺も斉木さんもぽかんとして何も言えずにいると、お母さんがくすくすとお父さんの方を見て笑う。そして、項垂れたお父さんがぱっと顔を上げて俺に向かって言った。
「大野くん!!本当にありがとう!!」
「へ……?」
お父さんは、なんだったらもう泣いてしまうのではないかと思うような顔つきで。隣のお母さんはさっきよりもはっきりと笑い声をあげた。上手く言葉にならないお父さんの言葉を代弁するように今度はお母さんが口を開いた。
「まさかねぇ、里香が彼氏を連れてくる日が来るなんてねぇ…。私もお父さんもすっごく嬉しくって」
その言葉に斉木さんはすぐさま「なんでぇ!?」と突っ込む。お父さんはもともとそんなに口数の多い人ではないのだろう、お母さんの方から話が続いた。
「里香から男の子の気配が全くないからずっと心配してたの。小さい頃は元気よく外で男の子と遊び回ってたのに、ある時急に引きこもって本ばかり読み出して…。せっかく大学生なんて一番楽しい時期なのに毎日予定も入れずに家に真っ直ぐ帰ってくるばっかりだし。これはもう孫の顔を見るどころか花嫁姿を見ることもないのかもね、なんてお父さんとよく話したりして」
「えぇ~!?そんな失礼な…!」
「でもそうじゃない。うちの娘は結婚せずに仕事一筋のタイプになるのかな、一体誰に似たのかしらってずっと思ってたんだから」
そう言って、お母さんがちらりとお父さんの方を見ると、お父さんはバツが悪そうに笑った。
「そんなこと思われてたんだぁ…。なんだ、じゃあ夜遅くまで遊んでくれば良かった」
ご両親の有難い言葉と、いつもの調子に戻った斉木さんのおかげで俺も緊張が解かれ、自然に笑いが溢れる。そしてようやくお父さんがゆっくりと話し始めた。
「まぁ今の時代、そういう生き方もあるから親がどうこう言うつもりもなかったけどなぁ…。逆に変なアプリで変な男に引っかかって騙されたりするくらいなら、独り身の方がいいかくらいに思ってたんだよ。だから本当に大野くんみたいな人が里香を選んでくれて、嬉しいし安心したよ」
鋭い目つきと手厳しさを物語る口元をもつお父さんだが、笑うと周りの空気がふんわりと柔らかくなるのがわかる。
(ああ、斉木さんのお父さんだなあ)
ぼんやりとそんなことを考える。
「あ、それでね、この間も言ってた来週の誕生日のことなんだけど…」
斉木さんが本題に入ろうとしてはっとした。ここは俺の口からきちんと伝えたかったから、急いで俺は斉木さんの後に続こうとした。ところが。
「うん、いいんじゃない。ね、お父さん」
お母さんは簡単な調子でにこやかに笑いながらお父さんに同意を求めた。さすがにお父さんは即答で前向きな返事はしなかったものの「里香の好きなように過ごしなさい」とゆっくりと言った。
斉木さんの顔は分かりやすくきらきらする。
「わ~良かった!ちなみにね、前の日から大野くんの家に泊まってもいい?」
それがどういうことなのかあんまり気にしていないのか、斉木さんらしい能天気な言葉に、お父さんは一瞬言葉を詰まらせるものの縦に首を振った。
「ここで断ったら、お父さん、里香に嫌われちゃうかもしれないもんね~」
お母さんの言葉に斉木さんは面白そうに笑い、お父さんは冗談ぽくため息をついた。
これで、挨拶もできたし許可も下りたし、何の後ろめたさもなく堂々と斉木さんと誕生日を祝うことができそうだ、そう思って胸を撫で下ろす。と、ガールズトーク好きらしいお母さんが、前のめりに話を切り出してきた。
「ねぇねぇ、大野くんは里香のどんなところが良かったの?」
「お母さん!やめてそういうの鬱陶しいから!」
お決まりといえばお決まりの展開だ。斉木さんは恥ずかしそうにお母さんを止めに入るが、俺はむしろちゃんと伝えたくて。斉木さんとの関係を今後もずっと大切にしていきたいと思っている、その思いを信用してもらいたかったから。
「えと、斉木さんって何でも器用にこなしていてすごく大人っぽくてよくできる人だななんて思ってたんですけど、関わっていくうちに意外と不器用なところとか幼いところとかもあって、そういうところが素敵だなって思いました。あとは自分の世界や好きなものをしっかりもっているので、芯があってブレない子なんだろうなって思います。自分自身が抱えている課題からも逃げようとせず、少しずつでも前に進もうとするひたむきさも人として尊敬しますし、僕に対して誠実に向き合ってくれてるのも……」
「大野くん……もう、やめよう……」
あれもこれもと口を突いて出てくる言葉は止まることを知らず。何ともなしに喋り続けていると、顔を真っ赤にした斉木さんが俺の腕をゆすって声をあげた。
「あ、ごめん」
そんな素直な反応してくれるところも可愛くて好きだなって思ったけど、口には出さずに笑う。お母さんはとても楽しそうににこにこしながら俺らのやり取りを見て、お父さんは感慨深げな眼差しを斉木さんに向けていた。
「里香、良い人に会えてよかったね」
お母さんが最後にそう言うと、斉木さんは満足気に大きく頷いた。
それからしばらく4人で談笑し、すっかり打ち解けた頃にお母さんはお父さんに目配せをしてから言った。
「お母さんたち、しばらく出かけてくるから里香の部屋にあがって2人で過ごしたら?」
いきなりの提案に斉木さんも俺も顔を見合わせて驚く。何と言ったらいいのかわからずに言葉を探していると、お母さんは時計を見て言った。
「んーとそうねぇ、吉祥寺で買い物して久しぶりにお父さんとお茶でもしてくるから4時間くらいはご自由にどうぞ」
にっこりと笑うお母さんは、とっても楽しそうだ。お父さんはというと、お母さんの言うことに従うしかないといった調子で押し黙っている。
「あ…えっと、じゃあ大野くん、部屋来る…?」
予想外の流れにどうしたら良いかわからない斉木さんだったが、それなら、という感じで俺に声をかけた。俺は「じゃ、お邪魔します」と簡単に言うと席を立って改めて両親に頭を下げてお礼を言った。
リビングのドアを開けて出ようとした瞬間、一段と楽しそうなお母さんの声が響く。
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