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●現場確認 ~ 時間通りに帰りましょう。

●現場確認 ~ 時間通りに帰りましょう

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カナタたちは、トウリョの荷馬車にのって鑑定人の店まで来た。

今日持ってきた【赤炎石】は一箱。ちょうど男性一人が一抱えできるくらいの箱だ。

鑑定にだすのはだいたい二日に一度くらい、とのことだ。

貴重な石のためそんなに多く取れるものでもないが、取れたらなるべく早くに鑑定にだす決まりとなっている。

箱は厳重に封がされている。規定では、採掘人から鑑定人の手に渡るまでに、他に異物が混入しないように、厳重に封をすることとなっている。



「ジャジーさん、こんちは。石もってきたぜ。」

店は薄暗く、受付のカウンターがあるだけで、他は特に何もない。

トウリョの声をきいて、店の奥から初老の小柄な老人がでてきた。

ジャジーと呼ばれた老人はトウリョがカウンターの上に置いた箱を慣れた様子で受け取った。

そして受け取ると同時に、トウリョに、これまた厳重に封をされた封筒を手渡し、箱をかかえて無言で奥に消えていった。



「これで、鑑定依頼は終了だ。」

そういってトウリョは店の外に出た。

あまりにもあっさりしているので、少し拍子抜けした感はあるが、こうした頻繁に行う手続きは次第にこのようにあっさりとなるのは納得である。

「ちなみに、さっきもらった封筒はこの前に依頼した石の鑑定結果だ。こんな感じで、新しく鑑定を依頼する石と引き換えに、前回の鑑定結果をもらう、という感じだな。」

「なるほど、ちなみに今もらった鑑定結果を見せてもらうことはできますか?」

「ああ、いいぜ。」

そう言って、トウリョは先ほど渡された封筒の封を開けた。

中には領主の確認印が押された鑑定結果が入っていた。

優良な石と粗悪な石の割合が、6:4となっている。

「6:4、またかよ。」

そういって、トウリョは大きなため息をついた。



「ちなみに、トウリョさんは、今回のこの石の出荷量の減少については、だれが怪しいと踏んでいますか?」

カナタは小声でトウリョの意見を聞いてみた。

「オレはな、鑑定人と領主がつるんでいるんだと思うんだよ。」

トウリョが同じく小声で返してきた。

「よく考えてみろよ、オレがここで石を出してそれを鑑定するのは鑑定人だろ。で、そのあと確認するのが領主だよ。言ってみれば、質を決めるのは、鑑定人と領主のさじ加減だよな。そうなると必然的にこの二人が怪しい、ということだろ。」

「なるほど。筋の通った推測です。」

「ただ、証拠がない。だからオレたちは奴らの言いなりになるしかない、ってことだよ。」

トウリョはあがいても仕方ない、という様子で両手を挙げて、少し大げさにポーズをとった。



カナタたちとトウリョはその場で別れた。



すると、カナタたちの脇に、見た目を派手に装飾した馬車が止まった。

「おや、コネクト君じゃないか。」

馬車の窓から、小太りでいかにも派手好きな男が顔をだした。

「ガメツ様。お久しぶりです。」

コネクトはその男の顔をみるやいなや、片膝をついて挨拶した。

ガメツと言われた男、そう、このカワサの領主であり、今回の件に関わっている一人である。

おそらく、鑑定結果の確認と承認をするために、鑑定人の店に訪れたのであろう。



「なに?また石の出荷量の調査?」

「ハイ、さようでございます。」

少し嫌味を含んだ質問に対して、コネクトは淡々と丁寧に返事をした。

「そっかー、ボクも困っているんだよね。なんかボクが石をくすねているんじゃないかって色々いわれて。調査ちゃんと頼むね。」

そう言い残して、ガメツの乗った馬車はその場を後にした。



「コネクトさん、あれが、領主のガメツさんですか?」

少し顔が険しくなっているコネクトに対して、カナタが問いかけた。

「ええ、そうです。」

コネクトは自らの表情が険しくなっているのを気づいてか、いつもの笑顔に無理やり戻し、カナタに向き直った。

「あの方の言葉からもわかるように、当事者意識の低い方ですね。今回の石の出荷量の減少については、本来であれば領主のガメツ様に調査報告義務があるのですが、それを全く行わない。挙句の果て自らは関係ない、というあの態度ですよ。」

コネクトはほとほと呆れ果てた、という表情をした。



ただ、幸いにもこれで今回の調査に関係する人間がすべて出そろったことになった。

「カナタさん、感触はどうですか?」

今まで、一歩下がってあまり発言をしていなかった、オオトリがカナタに聞いてきた。

「まだ、なんとも言えないですね。情報が足りなすぎます。でも流れは把握したので、ポイントはわかったかもしれません。」

カナタは右手を口に当てながら少しうつむき加減で答えた。

(ポイントはやはりあの無口な鑑定人のジャジーさんだ。あの人が不正をしているかどうかは別にして、あの人に解決のヒントがあるかと。)

カナタは絶対的な根拠はないが、そのように感じた。

「カナタさん、もう17時になりますので、今日はもうこれくらいにして、調査は明日以降にしませんか?」

オオトリの言葉に、改めてあたりを見回してみると、もうすでに日が落ち始めていた。

勤務時間は8~17時なので、ちょうどよい時間だ。

カナタはオオトリに対して大きくうなずいた。

「コネクトさん、では改めて伺います。それで次回までにお願いしたいことが一つあります。」

そう言って、去り際にカナタはコネクトに一つの依頼をした。



カナタとオオトリの二人きりになったところ、帰還の方法を教えてもらうこととした。

例のごとく、マイページからの手続きとなる。無駄に声を張り上げる必要はない。

もうオオトリに弄ばれることはない。カナタは学習した。

「カナタさん、今日の調査方法はさすが、という感じでしたよ。まず初めに情報の収集に徹し、余分な先入観で判断せずに、冷静に対応していたかと。さすが私が見込んだだけあります。」

持ち上げすぎではないか、と思ったが、オオトリの誉め言葉に、カナタは悪い気はしなかった。

確かに、オオトリの指摘したことを意識して調査していたのだが、それをちゃんと評価してくれたことはありがたい。

また、カナタとしては、オオトリが変にしゃしゃり出ることなく、カナタの一任してくれていたことにも感謝だった。

「では、この流れで、仮契約ではなく、当社と正式に契約しませんか?」

オオトリがどこから取り出したのかわからないが、契約書を出してきた。

それをカナタは無言で握りつぶした。

「明日は、実際の採掘現場に行って、二日後の明後日に、ちょっと大きな仕掛けをしようと思いますので、よろしくお願いします。」

「ほほう、面白そうですね。」

カナタとオオトリは、悪そうな顔をして肩を揺らしながら笑った。

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