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診療中
朝8時10分。
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朝8:10。
カランカランッ。
接骨院のドアベルが元気良く音を立てる。
「おはようさん。今日も花壇の花が綺麗だねぇ」
近所に住む斉藤の婆さんだ。
「斎藤さん、おはようございます。
今回も『まつり』の女将さんが植えてくれたんです」
接骨院の外には小さな花壇があり、白やピンクの小さな花が咲いている。
これらは院長が植えているわけではなく、接骨院に隣接した居酒屋『まつり』の女将さんが植えてくれている。
開院時に「せっかく花壇があるなら枝豆でも育ててみようかな」などと夢を膨らませていたが、『まつり』の女将さんが開院祝いという形で花を植えてくれ、それ以来、お隣さんが花を植え続けてくれていた。
感謝してもしきれない。
ただ、いつも花の名前がわからない。
「あそこの女将さん花好きだからねぇ」
そう言うと斎藤の婆さんは、院内のスリッパに履き替え、ズリズリ踵を引きずりながら診療ベッドへ向かい、慣れたように仰向けに寝た。
「膝の調子はいかがですか?」
院長はいつものように斎藤の婆さんの左膝の動きを確認する。
「歩く時の痛みはだいぶ減ったんだけどねぇ。階段を降りる時はまだ痛むよ」
「そうですか。それでは、今日も施術の前に膝を温めますね。」
院長は、斎藤の婆さんの左膝にホットパックを巻き付け、機械のスイッチを入れる。
斎藤の婆さんの左膝はもともと変形性膝関節症を患っており、膝の内側が少し変形していた。
当然、歩けば痛みが生じ、最近ではあまり出かけていなかったらしく、太ももの筋力が低下していた。
そんなおり、自宅の階段を降りた際に自身の体重を支えるのに耐えられず左膝を捻ってしまい、この接骨院に通い始めたのだ。
院長は、斎藤の婆さんの左膝を温めている間に、「失礼します」と声をかけ、左足の裏を触り始めた。
やっぱり足裏の筋が張っている。
膝に痛みや、変形がある場合、歩行時、足裏の負担を大きくしてしまう。その為、通常より足裏の筋が緊張し、そのことにより更に膝への負担を増大させてしまう。
したがって、膝の治療を行う際には、膝から下の筋肉や関節へのアプローチも忘れてはならない。
足裏をほぐし、足首をゆっくり大きく無理のない範囲で回していく、次いでふくらはぎや脛の前の筋肉をほぐす。
ピーッピーッ。
膝から下の施術が終わるタイミングで、ホットパック治療器が音を立てた。
「それじゃあ、膝の施術をしていきますね。」
斎藤の婆さんの膝からホットパックを取り払い、膝裏に枕を置き、膝が軽く曲がる姿勢にする。
ゆっくり太ももの筋肉をこねるようにほぐしていく。
「最近は歩く時間増えましたか?以前に比べると少し筋肉がついたかもしれませんね。」
「わかるかい?院長に言われた通り、痛くない程度に公園を散歩してるんだよ」
院長の問いかけに嬉しそうに頷く。
「この接骨院は朝早くからやっているからねぇ。終わったら散歩するのにちょうどいい時間なんだよ」
この言葉に対し、院長はニッコリ笑う。
太ももの筋肉をほぐし終わり、両手でしっかり優しく左足を抱え、膝の関節をゆっくりと曲げ伸ばしをしていく。
十数回この動作を繰り返した。
「今度はもう少し大きく動かしていきますので、痛みが出たらすぐに声をかけてくださいね?」
先ほどより可動域を広げて動かしてゆく。
「ここまで動かすと少し痛むねぇ」
痛む角度で少し止め、ゆっくり伸ばす。
この動作も数回繰り返す。
「ご自身で膝の運動をする際にも『少し痛いな』と感じるくらいまで動かしてください。ただし、無理はなさらないで下さいね。」
すべての施術を終え、最後に左膝の可動域を確認する。
先程より可動域が広がっている。
「斉藤さん、今日はこれで終了です。お疲れ様でした。」
「院長、今日もお世話様だったねぇ。しかし、身体っていうのは日々の積み重ねが大事なんだねぇ。怪我をして改めて感じるよ」
斉藤の婆さんはベッドから起き上がり帰り支度をしながら続ける。
「毎日コツコツと身体を使ってれば、丈夫になる。明日の自分に対する贈り物みたいなもんだねぇ」
会計を終え、財布を手提げ袋にしまいな、靴に履きかえる。
「この時間のここはとても空いているから助かるねぇ。このまま公園でも散歩してから帰るよ。また明後日にでも同じ時間に来るさね」
「お散歩無理なさらないようお気を付けて。お大事にどうぞ。」
斎藤の婆さんを見送り、院長は自身の鞄から缶コーヒーを取り出し、蓋を開ける。
カコッ。
誰もいない院内に乾いた音が鳴り響い後に、かすかな香りが鼻に広がる。
待合室に掛けられた時計をチラッと見る。
朝8:40。
「・・・喜ばれているし、いいか。」
缶コーヒーを一啜りした後、院長はラジオのスイッチを入れ、『診療中』と書かれた看板をドアに掛ける。
東新町立花接骨院の開院時間は、
朝9時である。
カランカランッ。
接骨院のドアベルが元気良く音を立てる。
「おはようさん。今日も花壇の花が綺麗だねぇ」
近所に住む斉藤の婆さんだ。
「斎藤さん、おはようございます。
今回も『まつり』の女将さんが植えてくれたんです」
接骨院の外には小さな花壇があり、白やピンクの小さな花が咲いている。
これらは院長が植えているわけではなく、接骨院に隣接した居酒屋『まつり』の女将さんが植えてくれている。
開院時に「せっかく花壇があるなら枝豆でも育ててみようかな」などと夢を膨らませていたが、『まつり』の女将さんが開院祝いという形で花を植えてくれ、それ以来、お隣さんが花を植え続けてくれていた。
感謝してもしきれない。
ただ、いつも花の名前がわからない。
「あそこの女将さん花好きだからねぇ」
そう言うと斎藤の婆さんは、院内のスリッパに履き替え、ズリズリ踵を引きずりながら診療ベッドへ向かい、慣れたように仰向けに寝た。
「膝の調子はいかがですか?」
院長はいつものように斎藤の婆さんの左膝の動きを確認する。
「歩く時の痛みはだいぶ減ったんだけどねぇ。階段を降りる時はまだ痛むよ」
「そうですか。それでは、今日も施術の前に膝を温めますね。」
院長は、斎藤の婆さんの左膝にホットパックを巻き付け、機械のスイッチを入れる。
斎藤の婆さんの左膝はもともと変形性膝関節症を患っており、膝の内側が少し変形していた。
当然、歩けば痛みが生じ、最近ではあまり出かけていなかったらしく、太ももの筋力が低下していた。
そんなおり、自宅の階段を降りた際に自身の体重を支えるのに耐えられず左膝を捻ってしまい、この接骨院に通い始めたのだ。
院長は、斎藤の婆さんの左膝を温めている間に、「失礼します」と声をかけ、左足の裏を触り始めた。
やっぱり足裏の筋が張っている。
膝に痛みや、変形がある場合、歩行時、足裏の負担を大きくしてしまう。その為、通常より足裏の筋が緊張し、そのことにより更に膝への負担を増大させてしまう。
したがって、膝の治療を行う際には、膝から下の筋肉や関節へのアプローチも忘れてはならない。
足裏をほぐし、足首をゆっくり大きく無理のない範囲で回していく、次いでふくらはぎや脛の前の筋肉をほぐす。
ピーッピーッ。
膝から下の施術が終わるタイミングで、ホットパック治療器が音を立てた。
「それじゃあ、膝の施術をしていきますね。」
斎藤の婆さんの膝からホットパックを取り払い、膝裏に枕を置き、膝が軽く曲がる姿勢にする。
ゆっくり太ももの筋肉をこねるようにほぐしていく。
「最近は歩く時間増えましたか?以前に比べると少し筋肉がついたかもしれませんね。」
「わかるかい?院長に言われた通り、痛くない程度に公園を散歩してるんだよ」
院長の問いかけに嬉しそうに頷く。
「この接骨院は朝早くからやっているからねぇ。終わったら散歩するのにちょうどいい時間なんだよ」
この言葉に対し、院長はニッコリ笑う。
太ももの筋肉をほぐし終わり、両手でしっかり優しく左足を抱え、膝の関節をゆっくりと曲げ伸ばしをしていく。
十数回この動作を繰り返した。
「今度はもう少し大きく動かしていきますので、痛みが出たらすぐに声をかけてくださいね?」
先ほどより可動域を広げて動かしてゆく。
「ここまで動かすと少し痛むねぇ」
痛む角度で少し止め、ゆっくり伸ばす。
この動作も数回繰り返す。
「ご自身で膝の運動をする際にも『少し痛いな』と感じるくらいまで動かしてください。ただし、無理はなさらないで下さいね。」
すべての施術を終え、最後に左膝の可動域を確認する。
先程より可動域が広がっている。
「斉藤さん、今日はこれで終了です。お疲れ様でした。」
「院長、今日もお世話様だったねぇ。しかし、身体っていうのは日々の積み重ねが大事なんだねぇ。怪我をして改めて感じるよ」
斉藤の婆さんはベッドから起き上がり帰り支度をしながら続ける。
「毎日コツコツと身体を使ってれば、丈夫になる。明日の自分に対する贈り物みたいなもんだねぇ」
会計を終え、財布を手提げ袋にしまいな、靴に履きかえる。
「この時間のここはとても空いているから助かるねぇ。このまま公園でも散歩してから帰るよ。また明後日にでも同じ時間に来るさね」
「お散歩無理なさらないようお気を付けて。お大事にどうぞ。」
斎藤の婆さんを見送り、院長は自身の鞄から缶コーヒーを取り出し、蓋を開ける。
カコッ。
誰もいない院内に乾いた音が鳴り響い後に、かすかな香りが鼻に広がる。
待合室に掛けられた時計をチラッと見る。
朝8:40。
「・・・喜ばれているし、いいか。」
缶コーヒーを一啜りした後、院長はラジオのスイッチを入れ、『診療中』と書かれた看板をドアに掛ける。
東新町立花接骨院の開院時間は、
朝9時である。
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