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【風弦の契約編】

第28話 僕の娘

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 「どうやら、エンページリングは無事に召喚できたみたいだねぇ」





 離れた位置で今までの話を聞いていた大老が、ゆっくりと巡とカーヤの方へ拍手をしながら近寄ってきた。





 「これであとはそのリングに魔珠石まじゅせきを埋め込めば、颯とカーヤ・エヴェル・トラーラは正式な契約者になれるってわけ」





 大老は飄々とそう巡に伝える。



 「まじゅせき?…ってなんですか?」





 巡は大老に問いかける。




 「魔珠石ってのはね、ほら。そのリングをよく見てごらん」




 そう言われ、巡は左手薬指のリングに目線を落とす。


 見ると、銀のリングには何かをはめ込むための窪みのようなものがあった。

 大老は巡のリングを指差す。





 「その窪みに、僕の魔法と君たちの魔力を合わせ生成した石、魔珠石を入れ込んでそのリングは完成するんだよ。それが正真正銘の魔導志と魔法術士との契約の証になるんだ」




 大老はそう言った後にニヤリと笑って続ける。





 「それと、としても、ねっ?」


 



 ―ねっ?じゃねぇよ…。大老様ももちろん知ってただろうし、それだったら教えてくれてもよかったじゃんか…。









 「まぁ、確かに教えてあげてもよかったんだけどねー。なんか颯の驚いた顔が見たくってさぁ。ははは」






 大老はそう言って笑った。






 「…えっ?あれ?」







 ―俺、今声に出してたか?




 頭の中でそう考える巡に、大老は答える。







 「いや、声には出てないよ。ただ、心の中ぐらい読めるからさ。だから嘘つきなんかは一発でわかるんだよね。あっ、ちなみにさっきの地下での僕の設問に一つでも嘘をついていたら、颯の体から皮と骨とそれから内蔵を消し去って、ただの肉の塊になってもらう予定だったんだ」






 「っ!!!!????」







 突然の大老の衝撃発言に巡は驚きを隠せなかった。


 しかし、大老は穏やかな様子で巡の肩にポンと手を置く。



 「でも、颯はあの場で、嘘一つ無く真っ直ぐに僕に答えてくれた。だから、契約を認めたんだ。僕はね、魔法氏達はみんな僕の娘だと思っているんだ。それを契約だからといって嫁に出すのは本来、身を斬られるような想いなんだよ。親心っていうのかな。だからさ、嘘をつくような半端者には容赦しないことにしてるのさ。ははは」




 そういう大老の顔を見ながら、あの場で調子のいいことを言わないで本当に良かったと、巡は心から思った。






























 「おっと。いつまでも喋っていてもしょうがないね。さっそく魔珠石をリングに入れようか」







 そう言って大老は、巡とカーヤの頭に手をかざす。





 「いいかい?僕が呪文を唱え終わったら、ゆっくりと目を閉じて頭の中で『風』をイメージするんだ。薫り、温度、音、強さ、影響。なんでもいい。できるだけ具体的に頭の中に思い浮かべて。いいね?」



 「「はいっ」」





 巡とカーヤは合わせて返事をする。








 「それじゃ、はじめるよ」






 大老は目を閉じ、一度深呼吸をした。












 「應實將滿おうじつしょうまん 傳壽觸處區でんじゅしょくしょく 隱刄粹醫歸おんじんすいいき 繼經墮號けいけいだごう






 大老が小難しい呪文を唱え終わり、カーヤと巡はゆっくりと目を閉じた。




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