30 / 50
【風弦の契約編】
第28話 僕の娘
しおりを挟む「どうやら、エンページリングは無事に召喚できたみたいだねぇ」
離れた位置で今までの話を聞いていた大老が、ゆっくりと巡とカーヤの方へ拍手をしながら近寄ってきた。
「これであとはそのリングに魔珠石を埋め込めば、颯とカーヤ・エヴェル・トラーラは正式な契約者になれるってわけ」
大老は飄々とそう巡に伝える。
「まじゅせき?…ってなんですか?」
巡は大老に問いかける。
「魔珠石ってのはね、ほら。そのリングをよく見てごらん」
そう言われ、巡は左手薬指のリングに目線を落とす。
見ると、銀のリングには何かをはめ込むための窪みのようなものがあった。
大老は巡のリングを指差す。
「その窪みに、僕の魔法と君たちの魔力を合わせ生成した石、魔珠石を入れ込んでそのリングは完成するんだよ。それが正真正銘の魔導志と魔法術士との契約の証になるんだ」
大老はそう言った後にニヤリと笑って続ける。
「それと、夫婦の証としても、ねっ?」
―ねっ?じゃねぇよ…。大老様ももちろん知ってただろうし、それだったら教えてくれてもよかったじゃんか…。
「まぁ、確かに教えてあげてもよかったんだけどねー。なんか颯の驚いた顔が見たくってさぁ。ははは」
大老はそう言って笑った。
「…えっ?あれ?」
―俺、今声に出してたか?
頭の中でそう考える巡に、大老は答える。
「いや、声には出てないよ。ただ、心の中ぐらい読めるからさ。だから嘘つきなんかは一発でわかるんだよね。あっ、ちなみにさっきの地下での僕の設問に一つでも嘘をついていたら、颯の体から皮と骨とそれから内蔵を消し去って、ただの肉の塊になってもらう予定だったんだ」
「っ!!!!????」
突然の大老の衝撃発言に巡は驚きを隠せなかった。
しかし、大老は穏やかな様子で巡の肩にポンと手を置く。
「でも、颯はあの場で、嘘一つ無く真っ直ぐに僕に答えてくれた。だから、契約を認めたんだ。僕はね、魔法氏達はみんな僕の娘だと思っているんだ。それを契約だからといって嫁に出すのは本来、身を斬られるような想いなんだよ。親心っていうのかな。だからさ、嘘をつくような半端者には容赦しないことにしてるのさ。ははは」
そういう大老の顔を見ながら、あの場で調子のいいことを言わないで本当に良かったと、巡は心から思った。
「おっと。いつまでも喋っていてもしょうがないね。さっそく魔珠石をリングに入れようか」
そう言って大老は、巡とカーヤの頭に手をかざす。
「いいかい?僕が呪文を唱え終わったら、ゆっくりと目を閉じて頭の中で『風』をイメージするんだ。薫り、温度、音、強さ、影響。なんでもいい。できるだけ具体的に頭の中に思い浮かべて。いいね?」
「「はいっ」」
巡とカーヤは合わせて返事をする。
「それじゃ、はじめるよ」
大老は目を閉じ、一度深呼吸をした。
「應實將滿 傳壽觸處區 隱刄粹醫歸 繼經墮號」
大老が小難しい呪文を唱え終わり、カーヤと巡はゆっくりと目を閉じた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる