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【風弦の契約編】

第參囘 False Memorys

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 童侍瑯と少女は旧明厳村跡地での最後の夕食を食べていた。今日は森で捕らえた野兎と猪を使った鍋料理だ。夕食中も二人の会話が途切れることはない。仲睦まじく話す姿はまさにおしどり夫婦といった様子だ。

 夕食を終えた二人は村を回り、この村との別れを惜しんだ。ここは二人が出遭った場所であり、二人が8年間ともに過ごしてきた場所である。思い出がいたるところに溢れている。思い出話が尽きるはずもない。

 しばらくして、童侍瑯は静かに涙を流す。思い出したのだ。

 8年前の出来事。村の人たちが突然こと。自分を置いてどこかへ行ってしまったこと。悲しみに暮れ、泣き喚いた6歳の記憶。当時、そんな傷心の童侍瑯のそばに寄り添い支えてくれたのがこの少女であること。

 童侍瑯は涙を拭い、小さく笑って、何も言わずに少女を抱きしめる。力強く。少女もそれに応えるかのように童侍瑯の背中に手を回す。月明りだけが照らす少年少女。その姿は妖しくもあり、そして美しかった。




 


















 次に二人が向かう先は、少女の生まれた土地。少女が6歳までを過ごした街だ。

 二人は固く手を握り合う。少女がおもむろに右手を前に出し人差し指を空へ向ける。童侍瑯は目を閉じる。

 「怨羽零渡おんぱれーど

 少女がそう言って人差し指を下に向けると、二人は鈍い光に包まれその場から姿を消した。

 これで、この旧明厳村跡地には正真正銘、誰もいなくなり無人の廃村と化したのだった。



























 「着いたよ。目を開けて」

 少女のその言葉に童侍瑯は目を開いた。飛び込んできた光景は、物心がついた頃から山に囲まれた小さな村での情景しか知らない童侍瑯にとっては驚きの連続だった。

 高いビル、赤い鉄塔、眩いばかりの街灯、行きかう多くの人々。すべてが初めて目にするものばかりだ。

 「どう?童侍瑯。ここが私の生まれた街よ」

 少女は笑いながらそう語りかける。

 「…なんだか、すごく嬉しいよ」

 「そう?そう言ってもらえると私も連れてきた甲斐があるわ」

 少女がそう言うと童侍瑯が首を振る。

 「いいや。ここに来れたのはもちろん嬉しい。でもそれ以上に君が、こんな素敵な世界を捨ててまで僕に遭いに来てくれたことがとっても嬉しいんだよ」

 童侍瑯は少女の目をまっすぐ見た。二人は笑いあった。

























 まずは住むところを決めなくてはならない。しかし、それには困らない。適当な家を選んで家主とその家族の記憶を変えればそれで家は手に入る。生きていくために必要な最低限のお金も同様の方法で不自由はしない。



 


 しばらく歩いて、二人は住宅街に入り手頃な家を見つけた。外からドアのカギを魔法で開け、中に入る。リビングでは父親と母親、まだ1歳ほどの子供が家族団欒を楽しんでいた。突然侵入してきた少年少女に父親は当然怒鳴り近づいてきた、母親は子を抱きかかえ部屋の隅に逃げる。しかしそんなことは魔導士と魔法少女の前では何の意味もなかった。

 少女は指をパチンと鳴らす。父親と母親、子供の3人は指の音が鳴った瞬間、時が止まったように動かなくなった。そして少女はこう言った。

 「この家はもともと私たちの家。あなた方に貸していただけ。今私たちは帰ってきた。家具や荷物はそのままに速やかに退場しなくてはならない。また、家を貸していた代金として毎月一定額私の元へお金を持ってくること。以上を新たな記憶として上書きする。それでは」

 言い終わると、父親たちは時が動き出したかのように喋りだす。

 「…ぉ、おおぉ家主さん!お戻りになったんですね。いやぁ~この度はこんな立派なご自宅を使わせていただいてありがとうございました。すぐに退去しますね!」

 父親はそう言って、玄関の方へ向かう。母親も童侍瑯と少女に頭を下げ、子供を抱いたまま父親の後を追う。玄関で父親と母親が、ありがとうございましたと童侍瑯と少女に深々と頭を下げた。子供だけはずっと泣くのをやめなかった。そして、ドアが閉まり家の中は童侍瑯と少女の二人だけになった。










 「こんな家に住めるなんて考えたこともなかったな」

 童侍瑯はソファに座りながら言う。

 「そうね。早々に住むところが決まってよかったわ」

 少女は冷蔵庫から冷えたお茶を取り出し童侍瑯のグラスへ注ぐ。

 「これでしばらくは静かに暮らせそうだね」

 童侍瑯がそう言ったが。


























 「童侍瑯、実はね…。お願いがあるの」

 少女は唐突に語りだした。

















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