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第2章 空飛ぶ物流改革
第15話 少女の決意
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目を覚ますと、視界の上半分を影が覆っていた。
その向こうから、シャイルの顔がにゅっと逆さま覗き込んでくる。
「プロデューサーさん、起きた?気分はどう?」
そうか、セナの石礫か何かで、一本取られたんだったかな。
景色と感触から察するに、気絶した俺をシャイルが膝枕で介抱してくれている、と。
しかし、この状況は問題だ。アイドルとの過度な接触は良くない。特に21世紀日本に生きるアラサーおじさんとして、女性へのセクハラは生命に関わる禁忌である。
「おっと、いきなり起きちゃダメですよ」
その認識が刷り込まれている俺は慌てて身を起こそうとしたが、他ならぬシャイルの手によって上体を抑えられ、結局元の膝枕に収まった。
「あー、綺麗に一本取られたのは初めてだったな。腕を上げたじゃないか」
状況の気恥ずかしさに気絶させられたばつの悪さも手伝って、慌てて何か話題を探す。すると、シャイルは上機嫌に応えてくれた。
「魔術師相手に至近距離からの不意打ちで、しかも二対一。これで勝てなきゃ、剣士としての顔が立たないですよ」
「それにしたって、少し前なら気絶させられるまではいかなかったと思うんだがな」
「セナもぐんぐん上達してますしね。魔法の発動速度と精度が、以前とは別人のように上手くなってます」
そういえば、シャイルは俺と二人きりの時だけこうやって敬語で話す癖がある。
出会った頃の空気感に戻るのかもしれない。
「そういえば、セナとマリーは?」
「あー、プロデューサー、やっと起きたー!」
「シッ!マリー、こういう時はもう少し様子を見守るものでシカ」
少し離れた岩陰から、セナとマリーが姿を見せた。どうやら付近の偵察に出ていたらしい。
俺が体を起こそうとすると、今度はシャイルも止めなかった。
改めて周りを見回し、例の門扉から少し下がった地点に戻っていることを確認する。
「まあ、起きちまったものは仕方ないでシカ。プロデューサー、マリーに何か言うことがあるんじゃないでシカ?」
「そうだな。マリー、突然あんなことをして、済まなかった」
少女とはいえ、自我を持つ立派な人族だ。
ここは素直に謝るしかないだろう。
「んー、本当はゼッタイ許さないけど、セナちゃんとシャイルお姉さまに免じて許してあげるわ」
「何度言っても『セナお姉さま』とは呼んでくれないでシカねえ」
「セナちゃんはセナちゃんだし」
どうやら二人との、特にセナとの距離は随分縮まったようだ。
「二人とは、ゆっくり話せたか?」
「ゆっくりってほどじゃないけど、少しだけ」
「話す時間なんて、これからいくらでも作ればいいでシカ」
以前は感じられた二人の間の微妙な緊張が、今ではすっかりなくなっている。俺が寝ている間、良い時間を過ごせたようだ。
「そういえば、俺はどれくらい寝てたんだ?ガーゴイル、もう復活してないか?」
後頭部を触ってみるが、たんこぶのようなものは出来ていないし、もちろん痛みもない。セナが癒してくれたのだろう。ただ、何の違和感もないとなると、それなりの時間は経っている気がする。
「2時間ってところかしら。セナとマリーは門の様子を見に行ってくれたのよね?」
「ああ、それなら、さっき新しいガーゴイルが飛んで来てたでシカ」
「あれ、すごい仕組みよね。生殖蜂って言うんだっけ?雑用特化型を使って、最小限のコストで戦力補充できるようにしてるのね」
なるほど、それを観察していたのか。
復活してしまったのならば、もう一度倒さなければならない。もうワンテイク分二人に頑張ってもらい撮り直すか、俺も手伝ってサクっと片付けるかしよう。
「ところでプロデューサー、提案があるのでシカ」
「ん?どうした?」
セナに目で促されて、マリーが頷く。
そして意を決したように、はっきりと言った。
「あたし、アイドルやってみたい。二人と一緒に戦いたい」
……えっ!?いきなり!?
「あ、ああ。それはもちろん、歓迎するぞ」
「おっ、プロデューサーさん、戸惑ってるわね。マリー、チャンスよ。畳みかけなさい」
シャイルが茶化すように言うが、そりゃあいきなりこうも素直に言ってくるとは思ってなかった。もちろん、ありがたい話ではあるが。
「次のガーゴイル戦、私も一緒に戦えないかしら」
「えっ!?いきなり!?」
しまった、つい思ったことがそのまま口に出てしまった。
「いや、さすがにマリーの力では厳しくないか?ゾンビやスケルトンと違って、セナの足止めもできない相手だ。危険すぎる」
「そこは、作戦を練っているでシカ。今回はセナたちを信じてほしいでシカ」
「うーん、しかしだな」
命の危険については、俺が支援すれば何とかならないこともない。まあ、何とかなる範囲か。
「視聴者への紹介はどうするんだ?マリー、オープニングの挨拶とか考えてあるのか?」
「一応、向こうでセナちゃんと練習してきたわ」
「とりあえず俺に見せられるか?」
若干恥ずかしがったものの、そこで見せられた文句と振り付けは、決して悪いものではない。ぎこちなさは残るが、こういうのはいつか良い思い出として見返すネタにもなるだろう。
「んー。ここまで仕上げているなら、まあ良しとするか」
俺がOKを出すと、ほっとしたようにマリーははにかむ。
こういう表情変化こそ映像に残したいんだが、ままならないものだ。
その向こうから、シャイルの顔がにゅっと逆さま覗き込んでくる。
「プロデューサーさん、起きた?気分はどう?」
そうか、セナの石礫か何かで、一本取られたんだったかな。
景色と感触から察するに、気絶した俺をシャイルが膝枕で介抱してくれている、と。
しかし、この状況は問題だ。アイドルとの過度な接触は良くない。特に21世紀日本に生きるアラサーおじさんとして、女性へのセクハラは生命に関わる禁忌である。
「おっと、いきなり起きちゃダメですよ」
その認識が刷り込まれている俺は慌てて身を起こそうとしたが、他ならぬシャイルの手によって上体を抑えられ、結局元の膝枕に収まった。
「あー、綺麗に一本取られたのは初めてだったな。腕を上げたじゃないか」
状況の気恥ずかしさに気絶させられたばつの悪さも手伝って、慌てて何か話題を探す。すると、シャイルは上機嫌に応えてくれた。
「魔術師相手に至近距離からの不意打ちで、しかも二対一。これで勝てなきゃ、剣士としての顔が立たないですよ」
「それにしたって、少し前なら気絶させられるまではいかなかったと思うんだがな」
「セナもぐんぐん上達してますしね。魔法の発動速度と精度が、以前とは別人のように上手くなってます」
そういえば、シャイルは俺と二人きりの時だけこうやって敬語で話す癖がある。
出会った頃の空気感に戻るのかもしれない。
「そういえば、セナとマリーは?」
「あー、プロデューサー、やっと起きたー!」
「シッ!マリー、こういう時はもう少し様子を見守るものでシカ」
少し離れた岩陰から、セナとマリーが姿を見せた。どうやら付近の偵察に出ていたらしい。
俺が体を起こそうとすると、今度はシャイルも止めなかった。
改めて周りを見回し、例の門扉から少し下がった地点に戻っていることを確認する。
「まあ、起きちまったものは仕方ないでシカ。プロデューサー、マリーに何か言うことがあるんじゃないでシカ?」
「そうだな。マリー、突然あんなことをして、済まなかった」
少女とはいえ、自我を持つ立派な人族だ。
ここは素直に謝るしかないだろう。
「んー、本当はゼッタイ許さないけど、セナちゃんとシャイルお姉さまに免じて許してあげるわ」
「何度言っても『セナお姉さま』とは呼んでくれないでシカねえ」
「セナちゃんはセナちゃんだし」
どうやら二人との、特にセナとの距離は随分縮まったようだ。
「二人とは、ゆっくり話せたか?」
「ゆっくりってほどじゃないけど、少しだけ」
「話す時間なんて、これからいくらでも作ればいいでシカ」
以前は感じられた二人の間の微妙な緊張が、今ではすっかりなくなっている。俺が寝ている間、良い時間を過ごせたようだ。
「そういえば、俺はどれくらい寝てたんだ?ガーゴイル、もう復活してないか?」
後頭部を触ってみるが、たんこぶのようなものは出来ていないし、もちろん痛みもない。セナが癒してくれたのだろう。ただ、何の違和感もないとなると、それなりの時間は経っている気がする。
「2時間ってところかしら。セナとマリーは門の様子を見に行ってくれたのよね?」
「ああ、それなら、さっき新しいガーゴイルが飛んで来てたでシカ」
「あれ、すごい仕組みよね。生殖蜂って言うんだっけ?雑用特化型を使って、最小限のコストで戦力補充できるようにしてるのね」
なるほど、それを観察していたのか。
復活してしまったのならば、もう一度倒さなければならない。もうワンテイク分二人に頑張ってもらい撮り直すか、俺も手伝ってサクっと片付けるかしよう。
「ところでプロデューサー、提案があるのでシカ」
「ん?どうした?」
セナに目で促されて、マリーが頷く。
そして意を決したように、はっきりと言った。
「あたし、アイドルやってみたい。二人と一緒に戦いたい」
……えっ!?いきなり!?
「あ、ああ。それはもちろん、歓迎するぞ」
「おっ、プロデューサーさん、戸惑ってるわね。マリー、チャンスよ。畳みかけなさい」
シャイルが茶化すように言うが、そりゃあいきなりこうも素直に言ってくるとは思ってなかった。もちろん、ありがたい話ではあるが。
「次のガーゴイル戦、私も一緒に戦えないかしら」
「えっ!?いきなり!?」
しまった、つい思ったことがそのまま口に出てしまった。
「いや、さすがにマリーの力では厳しくないか?ゾンビやスケルトンと違って、セナの足止めもできない相手だ。危険すぎる」
「そこは、作戦を練っているでシカ。今回はセナたちを信じてほしいでシカ」
「うーん、しかしだな」
命の危険については、俺が支援すれば何とかならないこともない。まあ、何とかなる範囲か。
「視聴者への紹介はどうするんだ?マリー、オープニングの挨拶とか考えてあるのか?」
「一応、向こうでセナちゃんと練習してきたわ」
「とりあえず俺に見せられるか?」
若干恥ずかしがったものの、そこで見せられた文句と振り付けは、決して悪いものではない。ぎこちなさは残るが、こういうのはいつか良い思い出として見返すネタにもなるだろう。
「んー。ここまで仕上げているなら、まあ良しとするか」
俺がOKを出すと、ほっとしたようにマリーははにかむ。
こういう表情変化こそ映像に残したいんだが、ままならないものだ。
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