委員長はかわいいものに癒されたい!

武田花梨

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4.桐ケ谷の正体は……

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 クラスの中で、あたしだけが知っている桐ケ谷の笑顔かもしれないんだ。
 また、こんな表情で笑ってほしい。笑顔が見たい。
「委員長? いらなかった?」
 心配そうな顔で、桐ケ谷があたしを見ていた。
 いけない。心が乱れて無言になってしまった。
「欲しいけど! ダメだよ、これからプロになろうっていうなら、ちゃんとお金とらないと!」
「やだ」
「やだぁ!?」
 ここで拒否されるとは思わなかった!
「だって……」
 桐ケ谷は、手のひらのマスコットたちを愛おしそうにみつめた。
「ずっとひとりで作ってきて、はずかしいからだれにも見せられずに、でも自分を信じて作品を作ってきたんだ」
 そして、顔をあげてあたしを見つめる。
 ニカっと、白い歯を見せて笑った。
「はじめて俺の作品を見せた人からこんなにほめられるなんて、そんなにうれしいことある? だから、受け取ってほしい」
 今まで、桐ケ谷のこんな笑顔、みたことない。
 世界が、にじいろに変わる。
 にじいろの世界に、桐ケ谷が輝いて立っている。
「どした? 委員長。今日体調悪い?」
 桐ケ谷の言葉に、あたしは我を取り戻す。
「な、なんでもない! ありがとう!」
 桐ケ谷から、クラゲのマスコットを受け取る。
 ほわっとやわらかくてあたたかくて。かわいらしいクラゲが、あたしの手のひらの上でほほえんでいる。
「大事にするね」
 それにしても……びっくりした。世界がにじいろに光った。
 それだけじゃない。心臓がどきどきして、体があつくて。
 自分が、自分じゃないみたい。 
「それにしても驚きだな、まさか委員長が応援してくれるとは」
「え、まぁ……」
 どうしよう、ぬいぐるみのあむちゃんのこと、言っておいた方がいいかな……。
 いや、今言うのはやめておこう。いつか、言えばいい。
 今日は……もうひとつのひみつを伝えよう。
 あむちゃんのことは、まだ言いたくない。でも、桐ケ谷のひみつを知っているのに、あたしのことはなにも伝えないのは、平等じゃない気がして。
「桐ケ谷がひみつを教えてくれたから言うけど……」
 あたしは、桐ケ谷に向かって指を一本立てた。
「あたしのことを、委員長って呼ばないこと」
「……なんで? それがひみつ?」
 桐ケ谷は、不思議そうに首を傾げた。
「あたし、委員長って肩書きに少し疲れたんだ」
 視界の端で、おばあちゃんがはっとした。あむちゃんにしか言ったことがない、あたしのひみつ。
「ふぅん。わかったよ陽乃葉」
 突然下の名前呼び捨てで、あたしはおもわず吹き出した。
「いや、苗字でいいんだけど……」
「だって、委員長の苗字覚えてないし……」
 桐ケ谷は、おばあちゃんをちらっと見た。さっきおばあちゃんに「陽乃葉ちゃん」呼ばれていたから、そのまま言っただけか。
「それに、委員長のことはクラスのヤツも先生も委員長としか呼ばな……あぁ、そういうことか」
 そこでようやく、桐ケ谷は「委員長の肩書きに疲れた」の意味を理解してくれたらしい。
「じゃ、せめてサンとかチャンとかつけてくれても……」
「そっちが俺のことを「桐ケ谷」って呼び捨てしてるのに?」
「……わかった、陽乃葉でいいよ」
 なんか、桐ケ谷がニヤニヤしはじめたのであたしは諦めた。あたしが照れているのがおもしろいんだろうね。くやしい!
 おばあちゃんの顔をちらりと見ると、ほほえましい様子であたしたちを見ていた。
「おばあちゃん、今の話はお母さんたちにはナイショだからね!」
「もちろんだよ。でもね陽乃葉ちゃん、つらいことがあったら、おばあちゃんに言うんだよ」
 おばあちゃんは深刻そうな顔をしながら、あたしの右手をとった。
 あ、やば。おばあちゃんに心配かけさせちゃった……。
「陽乃葉、俺にも言うんだよ」
 桐ケ谷がなぜか便乗して、あたしの左手をにぎってきた。
 手が! 桐ケ谷の手、大きいな……この手でマスコットを作るんだな。
 って感心してる場合じゃない。そんなふうに手を握られたら……。
「や、やめてよ!」
 桐ケ谷はあいかわらずへらへらして、あたしの反応を楽しんでいた。
 顔が赤くなっていると自分でもわかる。心臓がどきどきして、なかなか鳴りやまない。
 桐ケ谷はくすくす笑いながら、あたしの手を離した。
「でも、ほんとうにつらいことがあったら言えよ。口はかたいから」
「かたいっていうか、だれともしゃべらないだけじゃない」
 桐ケ谷は、あははと声に出して笑った。
 なんだ、声を出して笑うんじゃん。
 この短い時間で、桐ケ谷の思いもよらない一面を見てしまった。

 『にじいろ』に置かれることになったマスコットたち。
 桐ケ谷が作ったことは伏せられて、販売することになった。
 そして、クラゲのマスコットはあたしの元に来た。
 持ち運びができるサイズだから、外ではこのクラゲのマスコットに癒してもらおう。
 名前は、まだない。
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