人斬り異世界冒険譚

黒百合 - クロユリ -

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第2話 ゴブリンスウォーム

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二人でギルドを出て、近くの森を探索する。
エリイが言うには此処にゴブリンの集落があるとのこと。
しかし、何処にも集落のようなものは見当たらない。
――否、あった。
二人の目の前に、木で作られた粗末な小屋のような建物があったのだ。
入口付近に居る見張りと思われる男に、エリイが話しかける。
すると男は嫌な顔をしながら答えた。
恐らく、よそ者は入れたくないという意思表示だろう。
エリイが事情を話すと、男は二人を中に入れた。
中は薄暗く、所々に血痕が付着していた。
しかし、ゴブリンの姿は見えない。
代わりにいたのは数人の人間の死体だった。
(これは酷い……。彼女には酷な光景――)
美利は死体を見ながら内心そう思ったが、口に出すことは無かった。
しかしエリイの顔を見るに、特に何も思ってい無さそうで、肝の据わり方に驚かされた。
すると奥の方から一匹の醜悪な小鬼が現れる。
手に持っている棍棒を見れば、これがゴブリンだと一目瞭然だった。
更に後ろから二匹。
エリイが美利に指示を出す。
美利は刀を抜き放ち、一気に駆ける。
知能が無い分、単調な動きだ。
「……温い」
即座に2匹斬り捨てると、エリイが小さく悲鳴を上げた。
「……どうされました?」
「いやぁ、ミトリ、凄い怖い顔……」
美利はそう言われ、自分の顔を触ってみる。
別にいつも通りの表情だと思うのだが、エリイの怯えようは尋常ではない。
まるで化物でも見るかのような目で美利を見ている。
そして美利は気づく。
(あぁ、素の私が出ていたのかも知れませんね……)
斬ること、殺すことが愉しくて仕方が無い、残虐非道な人斬りの性格が……。
「すみませんでした。ですが、私はこの程度ですよ」
「そうみたいだね。ま、これから一緒に頑張ろう!」
「えぇ」
こうして、初めての討伐依頼は完了した。
「ねぇ、ミトリ」
「はい」
「貴方のその武器、変わった形をしてるわね?」
「刀のことですか?」
「かたな? 聞いた事無い武器ね」
美利はエリイと出会って数日が経っていた。
この世界では珍しい日本刀を持ち歩いている為、彼女が疑問を抱くのは当然のことだった。
美利自身、異世界から来たと説明するべきか迷ったが、信じてもらえるか分からない上に下手なことは言わない方が良いと思い、黙っていることにした。
「それにしても、ミトリ強いのね。初心者って基本的にゴブリン相手でも怖気づいてしまうものなのに」
「いえ、それほどでも」
「前は何をしていたの?」
(人を斬り殺すことが愉しくて、夜な夜な人を斬り殺して歩いていた――なんて、言えるわけがありませんね)
「剣を扱う道場で修行をしていました。ですが、今はもう辞めてしまいまして……」
「そうなんだ。何で辞めちゃったの?」
「色々とあって、ですね……」
美利は嘘は言っていない。
だが、本当のことも話していない。
「それより、エリイ。今日の依頼ですが――」
「た、大変だぁ!!!」
突然、ギルド内に一人の男が飛び込んでくる。
どうやらただ事では無い様子だ。
受付のお姉さんが慌てている。
エリイは美利にここで待つように言うと、男の話を聞く為に外に出て行った。
少し時間が経った後、エリイが戻ってくる。
彼女の表情は、どこか暗いものだった。
美利は心配になり、声を掛けようとする。
しかしその前に、エリイは口を開いた。
――ゴブリンの大群が現れた。
エリイの言葉を聞いて、美利は耳を疑う。
「ゴブリンの群れであればそれ程騒ぐことでは無いと思いますが、その慌てぶりはゴブリンの群れに起因した何かがあるようですね」
「えっ!?」
美利の発言に、エリイは驚く。
「どうしました?」
「ミトリ、ゴブリンの群れを見たことがあるの?」
「いいえ、見たことはありません。しかし、想像はつきます」
「……そう」
エリイは納得し、そして美利の言う「ゴブリンの群れに起因した何か」について説明する。
「実は、ゴブリンの群れ、ゴブリンスウォーム(goblin swarm)と呼ばれるものの中に上位種であるゴブリンジェネラルが居るみたいなの」
「上位種?」
「ゴブリンが仲間を喰らい成長し続け、更に進化をする魔物が居るんだけど――」
「成程。それがゴブリンジェネラルと言うことですか」
「そう。しかも、ゴブリンの群れは100体以上。いくらDランクの私達でも厳しいものがあるわ」
ゴブリンスウォームを相手にするのはまずCランクの冒険者が挑むもの。
その中でゴブリンジェネラルはBランク冒険者が複数人で相手をするものである。
つまり、今の二人では荷が重いということだ。
だが、美利にとっては違った。
彼女は日こそ浅いけれども既に何度も修羅場や死線を潜り抜けてきた。
今更、百体のゴブリンなど恐るるに足りない存在だ。
寧ろ、退屈凌ぎになるかと期待している。
そんなことを思っていると、エリイが美利の手を取る。
「取り敢えず、先方は他の冒険者達に任せて、私達は後方で待機してよう? 寧ろ、今回の依頼参加しない方が良いよ」
「……そうですね。エリイ、今日は大人しくしましょう」
そう言って二人は宿屋へ戻る。

今日は町の外に出られないから町中を見て回る休暇にしようと言う事になった。
しかし、美利の姿は当然町中には無かった。
(依頼ではなく、目の前に偶々現れたゴブリンを狩る分には問題が無いでしょう……)
既に返り血を多量に浴び、2,30体のゴブリンを凶刃で屠る美利は更に奥へと進んでいく。
今の美利は愉しいが、物足りなさを感じていた。
(もっと沢山、居ればいいのですが……)
そう思いながら、美利は更に森の奥へ進んでいった。
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