廃城の姫

夢底士泳

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廃城の姫

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ひな子はここのところ、湯呑み茶碗を洗わずに、毎日そのまま使っている。
飲んでいるのは水で、氷のあるときは、たくさん入れて笑顔でのむ。

めんどうくさいのだもの。それがひな子の言い分だった。布団からのぞく足を、ぱたぱたと泳ぐように動かして、笑う。つま先はぴんと、バレリーナのように伸びていたので、美しかった。

仕事でおれが何日か帰ってこれないときは、洗ってあげたりも出来ないので、雑菌がひな子の身体に悪さをしないか心配で、ときどき消毒液をコップに吹きかけて拭くように言ってあるので、ベッドの横のテーブルにはひな子用のスプレーがいつも置いてある。それが減っているのを見るたびに、おれは安心する。

ひな子は毎年この季節は、家にいれば朝から晩まで、なにも身に着けずベッドに横たわっている。真夏のアパートの二階で、布団までしっかりとかけて。
布団をなぜかけるのか、暑くないのかときくと、こだわりなのよ、仕方ないでしょう。とだけいった。

たてつけの悪い窓を音を立てて開けて風を入れる。夏の暑さとは、慣れると許し合いながらやっていけると、ひな子と住み始めてから思う。冷房のスイッチは、ひな子かおれか、二人の機嫌が悪いときだけ、微笑とともにいれられる。文明の利器の四角い箱は、機密性の低いこの古いアパートの部屋さえも、少し過ごしやすくなって頭がまわるような空気にしてくれる。

機嫌が悪いとき以外は冷房をつけるのはやめましょう。これは倹約家のひな子の提案だった。
あたしは純くんがいればだいたいご機嫌だし、苦しくないの。お仕事のかえりをまっているときも、だいたいそう。だから、冷房をわざわざつけなくても、やっていられるわ。純くんはどう?
おれは即、それはいい提案だね、と全面同意したし、口許が緩むのを抑えられなかった。別に卑猥な妄想をしたわけではないが、鼻の下までだらしなく伸びてしまい、情けなくて唇をもごもごさせ鼻との距離を適切に保とうとした。
ひな子は強い女で、でもとても弱い。ひな子自体にはっきりと表せる能力や地位があるわけではないし、彼女はもの忘れもひどくどこかぼんやりしているのだが、いつも精神的にどこか先を歩き、俺を導いてくれた。その時の彼女は、とても強い。俺が弱っているときは、立ち上がれと促してくれるし、背中を押してくれる。悲しくない言葉で、心地よい重みだけを残した未来が、おれの前にひろがる。
だから、基本的には、おれはひな子に頭があがらないし、おれたちはひな子の意見が当たり前に優遇され成り立っていた。といっても、ひな子の希望は、だいたい、おれの希望になった。ひな子はおれに、そしてきっと関わりぬけばたいていの男には、自らそうさせる力を持っていて、それは仕方ないどころか、ほだされている気になることすら、おれはいとおしんでいる。
そのひな子に、おれがいればご機嫌で冷房もいらない、なんて言われたら、腰も砕けて崩れ落ちても、仕方ないのだ。


せっかくの休日なので、おれはひな子にケーキを食べさせたかったし、美味しい紅茶の店に連れていきたかった。というより、おれの中では必須事項でもあった。ひな子を養っているのはおれということになるのだが、ひな子がいなければ、おれは毎日仕事に出かけられるかすらわからないし、冷房も毎日必要だっただろう。
キスのためだけの歯磨きを終えてベッドに近づくと、ひな子は寝転んだまま、一心に雑誌を鋏で切り裂いていた。ソファ、箪笥、窓、置物の写真が、形に沿って切り抜かれていく。
「何してるの」
「切ってるの」
こら、とおれは、ひな子の鼻をつつく。本当は、おれの中では、こら、なんて、言える相手じゃあ、ない。でも、おれたちはずっと仲良しで、おれのことを簡単に捨てられるのはひな子のほうだろうけれど、でも、ひな子もおれが好きなのだ。だから、ふざけ合うことが、出来る。
「きょうは、わたしはこれで遊ぶの。とっても楽しいのよ」
「ははあっ、姫、どうか、わたくしめもいれてくださいまし」
ひな子は時折こうして、新しい遊びを思いついて、おれを誘ってくれる。ひな子の奔放で永遠の夢の中で、おれは一緒に、遊泳する、いつも。そしてそれは、ひな子を護り、そのからだを健やかに保つ手伝いをしているおれだけが手にしている、特権なのだ。
おれはすこしわざとらしく、ひざまづいた。
「高円寺に、おいしいケーキ屋さんがあるらしいのです、新婚ホヤホヤの谷口がおしえてくれたのです、調べたらとても良さそうでした。どうでしょう、行きませんか、きょう。夜は、姫のそれでいっしょに遊びましょう」
ええ、とひな子はおれの差し出した手にその手を添えた。シーツで、胸元をきちんと隠して。その姿は、おれの視界で明度が十倍にも増して光ってみえた。
おれはこれからも、ひな子との時間を、買い続ける。対価としては、おれの差し出すものはあまりにもちっぽけだった。ひな子の夢と、ひな子の心に、おれはのまれていたかった。

ケーキ屋さんでは、変わったケーキを食べた。ひな子は結った髪に自分で作った簪をさして、長いスカートを履き優雅に歩き、すらりとした動きでケーキを選んでウエイターに注文した。ケーキを指し示すために伸ばされた長い腕は、猫のようにしなやかに、完璧な動きでまたひな子のもとにかえっていった。おれはひな子を見つめてばかりいて、ひな子もそれを喜んで、会話もあまりなしに溶けるような時間がすぎて長居し、紅茶屋さんにはとうとう連れていけなかった。

その夜は、部屋に虫が出た。ひな子は平然を装っていたが、明らかに恐れていた。自分の髪が腕に触れただけで、身体をびくんと揺らし、自分の全身を確認した。きょうじゅうに退治できなかったら、純くんが仕事にいっているあいだがこわい、といいながら、虫が出ると、どちらが虫かわからなくなる警戒のしかたで逃げ回った。
殺虫剤がまだ用意できていなかったので、退治は一晩かかってしまった。狭い部屋で一匹の虫退治にこれだけ苦労したのは、ひな子の大量の服のおかげといってもよかった。押入れに入り切らず、部屋のすみにうず高く積まれたひな子の服は、いつどこで調達してきているのかわからないけれど、いっしょになって何年目からか、増えていく一方だった。ひな子に事実を話したら絶望するだろうが、ひな子の服の隙間を利用して、虫は小賢しく一晩中おれを翻弄した。
ひな子のことはさきに、ココアとラベンダーの香りで寝かしつけた。朝は徹夜明けのぼさぼさの頭で仕事に行くことになったが、少し誇らしかった。洗面台に髭剃りを落として音を立ててしまい、起きたひな子はおれを見て状況を察し、慌てて身体を濡れタオルで拭いてくれた。寝てないでしょ、ごめんね、と。普段大抵は、すこし偉そうに、ツンとしているのに。そんなことしなくていいんだ。おれはひな子の頭を撫で続けていたくて会社に遅れそうになったが、ひな子に背中を叩かれた。

ひな子は、記事を書く小さな仕事をたまに取ってくるようで、ときおりノートパソコンを開いて作業を少ししていた。作業中はあまりきかないため息をついて、煙草の量もすこし増えていたので心配した。何かお金のかかるほしいものがあるのかときいたけれど、ひな子は、趣味よ、とだけ言って、やめなかった。
月にいちど、部屋の隅の山に見慣れない服が何着か増えていることがあって、それがひな子の給料日と使い道なのだろうと思った。渡している生活費とひな子へのお小遣いで買えるようにも思えたけれど、思うより高価なのかもしれない。なんにせよ、仕事を頑張ってひな子の笑顔をもっとみようと思った。
涼しくなると、くるくると毎日違う服を着ていて、仕事を終えて帰るのがよけいに楽しみだったので、飲みの席には必要最低限しか顔を出せず、ひな子に少し心配された。毎晩帰ってくるのが早すぎるわ、と。でも、その顔は少し嬉しそうだった。可愛くていとしくて、ひな子が見とれていた少し高額なピアスや鞄、食べたがっていたケーキをよく買って帰った。ひな子はその度に、嬉しそうなのか困っているのかわからない反応をしたけれど、とても満足げに笑ってくれた。
でも、あるとき、これからはケーキはひとつで純くんと半分こしたい、と言われたときには、ひな子にしては、男の気持ちをわかっていないなと驚いた。おれはひな子に、まるまるひとつ分のケーキを食べさせてはじめて満足するのであって、二人で食べるケーキをひとつだけ買ってくるなんて、そんな情けないことをするくらいなら、なにも買ってこないほうが、美しいのだ。
ひどい喧嘩をすることもあった。そのときはひな子はおれに、ものすごい剣幕で、わたしは純一さんのことなんてどうでもいいのよ、と吐き捨てることさえあった。喧嘩というか、だいたいはひな子がおれの陥った、後ろ向きで皮肉っぽい思考に怒り、おれは返す言葉が選べなくなりただ黙ってひな子の手を握りごめんとしか言えなくなり、ひな子はそれがまた不愉快のようで苛立っていた。けれど、不思議とひな子から離れたいと思うことはなかった。ひな子はただ真剣に、楽しく幸せな世界で暮らしたいだけで、そこにいられないような悲しい考えをする俺を叱咤激励したいだけなのだとわかっていたし、いつも、急にひな子の口調が変わるときがありそのあとは、いつも希望を語ってくれた。
おれはひな子のことが、いとおしくていとおしくて、たまらなかった。ずっと。



それから数年して、おれはひな子とのマンションの一室をローンで購入した。マンションに住み替えると、一切友達を呼ばなかったひな子が、よく親友を家に招待するようになった。ひな子の親友のーとくに君香さんはひな子を尊敬し溺愛もしていて、おれのことも、ひな子をもっともっとしあわせにしてよね、と少しからかいながら慕ってくれた。


幸せな日々はおそろしくはやく過ぎ、ひな子は四十九になった冬に、体調を崩して入院した。末期の、癌だった。
入院してすぐに、手術を何度かした。肥大化した腫瘍のせいで、胃から先へ食べ物がうまく通らずに、もどしてしまう状態を治すためだった。末期なので、手術で腫瘍が片付けられるわけでは、なかった。
手術のあと、今日のうちは麻酔で多分意識がはっきりしないだろうし、まともな話は出来ませんと、担当の医師から告げられていたので、意識の弱いか細くなったひな子を呆然と見つめていたら、勢いよくひな子の目が開き、起き上がってまるでなにごともなかったかのように、純くん、とこの手に美しい手を添えたので驚いたけれど、安心した。付き添っていた医師は顔を顰めて、ぼんやりしていなさい、身体の力を全部抜きなさいと諭して、ひな子を横たえたあと、すごいなぁ、と狼狽えたように呟いた。
「生真面目というか、神経が細かいというか、奥さんよく無理されているので、気をつけてあげてください」


入院生活にも慣れないうちに、ひな子は死んだ。はじめて、おれとひな子が出会った日に、二度と声をきかせてくれなくなった。よく晴れた春の、午前中だった。ドラマのように担当医が、死亡時刻を淡々と告げた。
最期に遺した言葉は、わたしは世界一しあわせで、傲慢な女です。大好きよ、ありがとう。はっきりと、そう言った。そしてすぐに、おれのもとから、去っていった。
なぜだか、死という喪失感以上に、失恋したような気分まで押し寄せてきた。
看護婦と医師たちは、ひな子の遺体の汗を拭きながら、心底その美しさに驚いたようで、不謹慎かもしれないけれど、と少し笑顔で、きれいだ、と感嘆していた。ひな子は満足げに笑みを浮かべているように見えた。

生きる気力と目的をうしなったおれに、ひな子の親友の君香さんが、自分だってどうしようもなく悲しいだろうに、あんた仕方ないわね、と言いながら、ひとりでは動けもしなくなったおれに、ひな子の死後の色々な手続きまでも手伝ってくれた。
ひな子の口座のある銀行に連絡を入れると、相続関係が確定されるまでの口座凍結がされた。驚いたのは、ひな子の口座に、かなりのお金が入っていたことだった。少しも、ないと思っていた。
病室の荷物を整頓していると、見慣れない封筒が見つかった。ひな子が書いた遺言だった。
わたしが口座にこっそり貯金していたお金は、できれば君香ちゃんにあげて下さい。あなたのものじゃないわよ。
君香さんにみせると、彼女は我慢出来ずにひとしきり泣いたあと、じっとひな子の筆跡を見つめて立ちすくんでいた。そして、ぽつりと、呟いた。
「どういうことだろう」

君香さん夫婦が、協力して何ヶ月もおれのそばにいてくれた。君香さんは、死ぬんじゃないわよ、わたしとひな子について、何十年も話してからじゃなくちゃダメよ、とおれの背中を叩いた。どうにか仕事に行けたのは、後追いを決行せずに生きられたのは、毎晩のようにうちで開かれた、ひな子の親友知人たちとの「ひな子の話をする会」のおかげだった。ひな子についてまだ知れることがある日々は、おれに生きる意味と、恋と愛とを、ひな子の死後もなお継続して与えてくれた。
ひな子の謎の貯金は、ひな子のつたない遺言書どうりに、ほとんど君香さんに渡した。渡すときに、不思議なお金なんだ、これ、とこぼしてしまうと、君香さんはおれを見据えていった。
「ひな子の貯金、たぶん、あなたがひな子の生きてるあいだに病気とかしたときに使うつもりだったんじゃあないかな」
考えたけれど、思考の許容量がオーバーして、言葉は出なかった。君香さんはつづけた。
「ひな子あなたのこととても好きだったから、生きている間は、先立たれたりすることは絶対に嫌だからって、あなたがひな子のぶんって渡していたお金、こっそり貯金していたのよ。でも、自分が先に死ぬのだとわかって、安心して、それならわたしにって。ほとんどわたし、確信持って、そういうことだと思うの、これ」
おれは苦笑した。
「自分が先に死んだあとは、おれなんかどうでもいいもんな。うん、それでいいんだ、ひな子」
そうよ、と、強気なのか悲しいのか、いくつかの感情の入り混じった様子で君香さんは笑った。そして言った。
「あなたそれでも、とても嬉しいでしょう、ひな子の気持ち」
そう、勿論だ。



ひな子の死から数年が経ち、ひな子の話をする集いは、頻繁には開かれなくなった。年相応に皆忙しく、各々の事情を抱えていた。
それでも君香さんとは、よく会って話した。互いに、自分の知らないひな子を知りたがって、話は尽きることがなかった。
あるとき君香さんが、こう提案してきた。
「あのマンションに越す前、ひな子あなたとどこに住んでいたの?わたし、ひな子がよく見て暮らした景色をみたい。良かったら、連れていって」


あの鄙びたアパートがまだ存在するか怪しく思ったが、君香さんを連れていくと、まだなにも変わらずにアパートはそこにあった。あまりにも懐かしくて、おれは君香さんの前で涙を流してしまった。君香さんはおれの背中を優しく叩きながら、でも少し意地悪にこういった。
「こんなところだから、なかなかひな子、わたしを呼ばなかったのねぇ」
そう、ずっと、女王みたいに、お姫様のように凛としたひな子に似合わない、窓のたてつけも悪い、古いアパート。いつも、申し訳ない暮らしをさせている気持ちがしていた。
ーーでも、このアパートは、ひな子といくつも物件の下見をして、最終的にひな子が頑なに、この部屋がいいと選んだのだった。驚いておれは、何度も確認したが、ひな子は理由を言わず、でも頑固に、ここがいいと言い張り続けた。
おれの狭くて不便な家に、文句を言いながらも一緒に住んでくれたひな子と、もう少しだけ広い部屋に住もうとふたりで選んだはじめての部屋。ほかにいくつも、毎月なんとか払えるような家賃の、良い部屋はたくさんあった。でも、ひな子は、ここがいいといって、きかなかったのだ。そうだ、あれは、なぜだろう。
虫だって出たし、下見のときは、なんだかここにいるとかゆい、とまで言い出して、しかめ面をしていたというのに。

ひな子の意図を知りたくて、言い訳のようになってしまうのを承知で、君香さんにひな子が選んだことを話した。君香さんは少し考え込んだあとに、苦笑いをしながら、言った。
「なんとなく、ひな子にはたくさんの理由があったってこと、わかるけれど、ひな子が隠したちょっとした秘密、たくさんあなたにばらしてしまうの、あなたが調子に乗りそうだし、ひな子に悪いしわたしも嫌。勝手に考察して語って、違っても悪いしね」

それから、すこし、アパートでの生活を君香さんに話した。うず高く積まれていた衣装持ちのひな子の服のことだとか、ケーキを買ってくるのはひとつだけにしてと言われたことだとか。仕草ひとつとっても、あまりにも美しかったことだとか。

君香さんは、おれの話をききながら、遠い目をして、ああ、ひな子、と、両手を合わせた。
「ひな子、お疲れ様…ほんとうに」

おれはひな子に苦労をかけすぎただろうか。抱え続けていた思いが、余計重みを持ちおれにのしかかった。出会った頃なんてとくに、おれはなにも出来ない餓鬼だった。ひな子が導いてくれた。いつも、おれに頼るようでいながら、おれの先を歩いていた。そしていまも、ひな子と同じになれるのだから、死ぬのが全く怖くないという特権まで手にしている。ひな子に、おれは与えられてばかりなのだ。
「大丈夫よ、ひな子はあなたをものすごく愛していて、幸せだったの。幸せだってそればかり、わたしに報告してきたわ」
ひな子、ひな子。
「それだけあなたを愛せたから幸せで、あなたもひな子を愛したでしょ、永遠に、ものすごい力でね。でもあの子、サービス精神旺盛なんだから。だいたいなんでもわかりすぎちゃっててね、しかも心配性で。だからたくさん考えて、あなたにたくさんの夢、作って見せてた。」
夢。おれはひな子と夢をみていた。いつも、色々な夢を。その中で、ふたりで、永遠に遊べることが、嬉しくて、幸せで。その夢はいつもひな子が作り、おれに手渡していてくれた気がする。いつも、おれの知らない間に、おれのずっと先を歩くひな子。
「あなたは色んな節目にただ幸せで浮かれていたと思うけど、ひな子はそうじゃなかった。あなたが大切だから、何歩も先に進んでいて、色んな予測と不安も背負ってた。いつまでもあなたが、綺麗なひな子に恋して楽しめたのも、ひな子がそれで幸せだったのも、そのせいで。そういう風にしか、生きられないのよ。そしてそれが、幸せだったのよ」
遣る瀬無い想いも、感謝も、いとしさも、ひな子に直接ききたいのにどうにもならない、幾つもの問いかけもが胸で痛みながら、溢れた。
皮肉にも、君香さんの次の一言で、おれは救われた。

「ひな子の人生はすべて大成功よ、愛したあなたに愛され続けたことも、あなたより先に死ぬっていう意地悪ができたことも含めて、ね」



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