いいパートナーでいます。君への恋心に蓋をして。

箱根ハコ

文字の大きさ
39 / 72

37 海上



 翌日、太陽が昇った頃に起き、朝食を食べて陸達は空の旅路についた。
 二匹のドラゴンの上に乗った人間が二人、泳ぐように空を駆けていく。

 今日も天気が良く、どこまでも空が澄み渡っていた。気分が良さそうにフレイは鼻歌を歌っている。風が心地よく、陸も歌ってしまいそうだった。

「あと少ししたら、海の上に出ます。ここは海風にも警戒しつつ、海から突き出した島々の中を通っていかなければいけません。たまに海獣も顔を出すので、捕まらないように蛇行運転する難所です」

 以前別のレースでここを走ったことがある和樹が教えてくれる。実際に目の前には青い海が広がっていた。

「ここはまだ中盤くらいだよな。だったら、順位争いをするよりも、着実にこなしたほうがいいな」

「そうですね。本番では魔術師が大きな輪を出現させて、僕達はその中を順番に通らないとポイントにならない仕様になっていますし……」

 陸はフレイを見下ろす。彼もフェルディも陸と和樹の会話を邪魔しないようにゆっくりと進んでくれていた。

「まるで曲芸だな」

 陸は肩を竦める。同じことを思っていたようで、和樹もふにゃりと笑った。

「フレイは直線に強いから、得意なところでがんばろう。だから、とりあえずここはミスをしないことを第一にしよう」

 ぽんぽん、とフレイの首筋辺りを撫でる。あえて弱点としてこの場で指摘はしないが、フレイはテクニカルな飛行が苦手だった。
納得しているようで、フレイは了解、とだけ返してきた。

「逆にフェルディは細かい動きが得意ですし、ここで差をつけられればいいんだけど……」

 伺うように和樹はフェルディの顔を覗き込もうとする。

「もちろん。任せておいてくれ」

 フェルディはどっしりと構えて返した。途端にフレイが不満げに陸を見る。
 陸は念の為に釘を差しておいた。

「……フレイ、もし変に突っ走って俺が気を失ったら、その場でリタイアになるんだからな?」

 フレイは再び正面を向いた。

「別に何も言っていない」

 わかりやすい相棒に陸は苦笑を漏らす。

「大丈夫だ。ここで差が出来ても、この後に平坦区間がある。そこではどれだけ早く進めるかが全てだ。フレイはこここそが得意なところだろう? そこで巻き返そう」

 陸の言葉にフレイは得意げに羽を羽ばたかせる。納得したのだろう。

 隣で和樹がパチパチと目を瞬かせながら二人の会話を聞いていた。けれどあえて何も言わず再び正面を向く。小島がたくさん浮かぶ光景が見えてきた。

 まるで瀬戸内海のようだな、と陸は考える。あそこを船で行った時も途中に様々な小島が現れた。違うのは島の大きさだろうか。

 海で削られたらしい島々は縦に長く、横に短い。高度制限がある中では確かに避けて進まなければいけなくなるのだろう。

 細かい角度調整は苦手なので、フレイの速度が下がっている。

 逆にフェルディは方向転換が得意なのか、すいすいと島々の間をぬって進んでいく。

 彼は遠くを見ながら予測して動くのが上手い。逆にフレイは目の前のことに集中するあまり、二手、三手先のことに気が回らないようだった。

 その分できる限り陸が手綱で方向を示すが、フレイのスピードがブレるので中々思うようには進まない。フェルディと和樹の領域に至るにはまだまだ時間がかかるのかもしれない、と内心で焦った。

 それはフレイも同様だったようで、羽の動きが大げさになりつつあり、彼の焦燥が感じられる。

 ぽん、ぽんと陸はフレイの背中を軽く叩く。お前の武器はそこではない、と伝わっていればいいのだが。

 陸は長年マラソンを続けてきた。フルマラソンを走る時に特に意識しているのが、自分の勝負どころを見失わないということだった。坂道を走れるランナーが必ずしも平坦も強いとは限らない。同様に、逃げ切り型のランナーもいれば、最後にスピードを上げるタイプもいる。

 重要なのは、最終的に一番にゴールテープを切れるかどうかだ。

 そのためには、自分の得意な場所で勝負をしかけろ。そう教わってきた。

 海の区間は予想外に長く、忍耐が要求されるコースだった。特に、少し前で難なくスイスイ進んでいくフェルディ達ペアがいるから余計落ち着かないのだろう。

 本番では他にもっと大勢のドラゴンがいる。当日もっとこまめに声掛けをする必要があるな、と考えた。

 ふいに前方を進んでいたフェルディの方から歌声が聞こえる。和樹が歌い始めたのだろう。

「……こういうタイミングで歌われたら、やっぱすこし焦るな」

 拗ねたようなフレイの声がする。この距離なら和樹達に声は届いていないだろう。

「そうだな……。相手がますます進んでいく。特に、フェルディからしたら和樹の歌はブースターだから……」

 ぴとり、と陸はフレイの背中に自分の体をくっつける。

「とにかく今は自分にできることをきっちりとしろ。気になるんだったらあえて遅れて声が聞こえないところまでいっても構わない。ここを抜けたらフレイの舞台だ」

 己の言葉が目の前のドラゴンの全身にいきわたるようにと念を込めながらひとつひとつしっかりと吐き出す。
 フレイは少しスピードを弱め、着実に一つ一つの島を避けて飛ぶようになった。
 そうして、フェルディ達から遅れつつも無事に海の区間を脱出できた。
 今ではフェルディの体は小さくなり、豆粒ほどにしか見えない。

「よくやった! よく耐えたな! えらい! これからお前の見せ場だ。全力で追いかけるぞ」

 言葉とともに陸は手綱で前進するようにと指示を飛ばす。

「まかせろ!」

 フレイはばさりと羽を羽ばたかせると風に乗りぐんぐん進んでいく。陸は顔を下げ、しがみつくように上半身を倒した。こうすることで空気抵抗が少なくなり、フレイにかかる負担も下がる。
 実際、たった数秒でフレイはフェルディに追いついてしまった。

「わぁ……! 前回よりももっと速くなっているんですね」

すぐに陸たちが追いついてきたからか、和樹は目を丸くして賞賛してきた。フェルディは面白くなさそうにフレイを睨んでいる。
 陸は苦笑してフレイの首筋を撫でた。

「日々の練習の賜物だよな」

 フレイは嬉しそうにコクリと頷く。半年前はこれほどの速さで飛んでいたら今頃は息を切らしていたのに、今では涼しい顔をしている。
 陸の練習メニューが功を奏しているのだろう。
 和樹が声を張り上げる。

「陸さんが先程おっしゃっていた通り、これから二日目のゴールまでは平坦区間が続きます。あと二時間ほどずっと直線ですね」

 なるほど、と陸は頷く。
 であれば、最初の一時間半は六割位の速さで走り、残り三十分に全てをかけたほうがいいだろう。

「本番想定で走ってみていいか?」

 和樹に問いかける。もちろん、と彼は頷いた。

「何なら、模擬戦をしてみますか? フェルディとフレイさんで」

 フレイの方を見ると、彼は望むところだとでも言いたげにフェルディに好戦的な視線を送っていた。対するフェルディはフレイなど意に返した様子無く前を向いて飛び続けている。

「いいな。じゃあ、今からスタートするか」
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー

エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。 生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。 それでも唯々諾々と家のために従った。 そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。 父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。 ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。 僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。 不定期更新です。 以前少し投稿したものを設定変更しました。 ジャンルを恋愛からBLに変更しました。 また後で変更とかあるかも。 完結しました。

不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました

織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻! だったら離婚したい! ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。 お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。 本編61話まで 番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。 ※細目キャラが好きなので書いてます。    多くの方に読んでいただき嬉しいです。  コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。    

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。