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37 海上
翌日、太陽が昇った頃に起き、朝食を食べて陸達は空の旅路についた。
二匹のドラゴンの上に乗った人間が二人、泳ぐように空を駆けていく。
今日も天気が良く、どこまでも空が澄み渡っていた。気分が良さそうにフレイは鼻歌を歌っている。風が心地よく、陸も歌ってしまいそうだった。
「あと少ししたら、海の上に出ます。ここは海風にも警戒しつつ、海から突き出した島々の中を通っていかなければいけません。たまに海獣も顔を出すので、捕まらないように蛇行運転する難所です」
以前別のレースでここを走ったことがある和樹が教えてくれる。実際に目の前には青い海が広がっていた。
「ここはまだ中盤くらいだよな。だったら、順位争いをするよりも、着実にこなしたほうがいいな」
「そうですね。本番では魔術師が大きな輪を出現させて、僕達はその中を順番に通らないとポイントにならない仕様になっていますし……」
陸はフレイを見下ろす。彼もフェルディも陸と和樹の会話を邪魔しないようにゆっくりと進んでくれていた。
「まるで曲芸だな」
陸は肩を竦める。同じことを思っていたようで、和樹もふにゃりと笑った。
「フレイは直線に強いから、得意なところでがんばろう。だから、とりあえずここはミスをしないことを第一にしよう」
ぽんぽん、とフレイの首筋辺りを撫でる。あえて弱点としてこの場で指摘はしないが、フレイはテクニカルな飛行が苦手だった。
納得しているようで、フレイは了解、とだけ返してきた。
「逆にフェルディは細かい動きが得意ですし、ここで差をつけられればいいんだけど……」
伺うように和樹はフェルディの顔を覗き込もうとする。
「もちろん。任せておいてくれ」
フェルディはどっしりと構えて返した。途端にフレイが不満げに陸を見る。
陸は念の為に釘を差しておいた。
「……フレイ、もし変に突っ走って俺が気を失ったら、その場でリタイアになるんだからな?」
フレイは再び正面を向いた。
「別に何も言っていない」
わかりやすい相棒に陸は苦笑を漏らす。
「大丈夫だ。ここで差が出来ても、この後に平坦区間がある。そこではどれだけ早く進めるかが全てだ。フレイはこここそが得意なところだろう? そこで巻き返そう」
陸の言葉にフレイは得意げに羽を羽ばたかせる。納得したのだろう。
隣で和樹がパチパチと目を瞬かせながら二人の会話を聞いていた。けれどあえて何も言わず再び正面を向く。小島がたくさん浮かぶ光景が見えてきた。
まるで瀬戸内海のようだな、と陸は考える。あそこを船で行った時も途中に様々な小島が現れた。違うのは島の大きさだろうか。
海で削られたらしい島々は縦に長く、横に短い。高度制限がある中では確かに避けて進まなければいけなくなるのだろう。
細かい角度調整は苦手なので、フレイの速度が下がっている。
逆にフェルディは方向転換が得意なのか、すいすいと島々の間をぬって進んでいく。
彼は遠くを見ながら予測して動くのが上手い。逆にフレイは目の前のことに集中するあまり、二手、三手先のことに気が回らないようだった。
その分できる限り陸が手綱で方向を示すが、フレイのスピードがブレるので中々思うようには進まない。フェルディと和樹の領域に至るにはまだまだ時間がかかるのかもしれない、と内心で焦った。
それはフレイも同様だったようで、羽の動きが大げさになりつつあり、彼の焦燥が感じられる。
ぽん、ぽんと陸はフレイの背中を軽く叩く。お前の武器はそこではない、と伝わっていればいいのだが。
陸は長年マラソンを続けてきた。フルマラソンを走る時に特に意識しているのが、自分の勝負どころを見失わないということだった。坂道を走れるランナーが必ずしも平坦も強いとは限らない。同様に、逃げ切り型のランナーもいれば、最後にスピードを上げるタイプもいる。
重要なのは、最終的に一番にゴールテープを切れるかどうかだ。
そのためには、自分の得意な場所で勝負をしかけろ。そう教わってきた。
海の区間は予想外に長く、忍耐が要求されるコースだった。特に、少し前で難なくスイスイ進んでいくフェルディ達ペアがいるから余計落ち着かないのだろう。
本番では他にもっと大勢のドラゴンがいる。当日もっとこまめに声掛けをする必要があるな、と考えた。
ふいに前方を進んでいたフェルディの方から歌声が聞こえる。和樹が歌い始めたのだろう。
「……こういうタイミングで歌われたら、やっぱすこし焦るな」
拗ねたようなフレイの声がする。この距離なら和樹達に声は届いていないだろう。
「そうだな……。相手がますます進んでいく。特に、フェルディからしたら和樹の歌はブースターだから……」
ぴとり、と陸はフレイの背中に自分の体をくっつける。
「とにかく今は自分にできることをきっちりとしろ。気になるんだったらあえて遅れて声が聞こえないところまでいっても構わない。ここを抜けたらフレイの舞台だ」
己の言葉が目の前のドラゴンの全身にいきわたるようにと念を込めながらひとつひとつしっかりと吐き出す。
フレイは少しスピードを弱め、着実に一つ一つの島を避けて飛ぶようになった。
そうして、フェルディ達から遅れつつも無事に海の区間を脱出できた。
今ではフェルディの体は小さくなり、豆粒ほどにしか見えない。
「よくやった! よく耐えたな! えらい! これからお前の見せ場だ。全力で追いかけるぞ」
言葉とともに陸は手綱で前進するようにと指示を飛ばす。
「まかせろ!」
フレイはばさりと羽を羽ばたかせると風に乗りぐんぐん進んでいく。陸は顔を下げ、しがみつくように上半身を倒した。こうすることで空気抵抗が少なくなり、フレイにかかる負担も下がる。
実際、たった数秒でフレイはフェルディに追いついてしまった。
「わぁ……! 前回よりももっと速くなっているんですね」
すぐに陸たちが追いついてきたからか、和樹は目を丸くして賞賛してきた。フェルディは面白くなさそうにフレイを睨んでいる。
陸は苦笑してフレイの首筋を撫でた。
「日々の練習の賜物だよな」
フレイは嬉しそうにコクリと頷く。半年前はこれほどの速さで飛んでいたら今頃は息を切らしていたのに、今では涼しい顔をしている。
陸の練習メニューが功を奏しているのだろう。
和樹が声を張り上げる。
「陸さんが先程おっしゃっていた通り、これから二日目のゴールまでは平坦区間が続きます。あと二時間ほどずっと直線ですね」
なるほど、と陸は頷く。
であれば、最初の一時間半は六割位の速さで走り、残り三十分に全てをかけたほうがいいだろう。
「本番想定で走ってみていいか?」
和樹に問いかける。もちろん、と彼は頷いた。
「何なら、模擬戦をしてみますか? フェルディとフレイさんで」
フレイの方を見ると、彼は望むところだとでも言いたげにフェルディに好戦的な視線を送っていた。対するフェルディはフレイなど意に返した様子無く前を向いて飛び続けている。
「いいな。じゃあ、今からスタートするか」
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