いいパートナーでいます。君への恋心に蓋をして。

箱根ハコ

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38 模擬戦



 陸も快諾する。フレイの緊張が背中から伝わってきた。

「はい! ……では、はじめ!」

 和樹の掛け声とともに、両者とも少しスピードをあげる。

 本番ではこのあたりでもまだ周囲にはある程度ドラゴンがいるだろうから、すいすいと避けていけるフェルディは有利だろう。帰ったらそのあたりも練習させたほうがいいな、と考えた。

 フレイの速さが加速する。

「おい、フレイ、今はまだ七割程度の力でいい。温存しておけ。そして、俺が合図を送ったら全速力だ」

「は? このくらいでも五割くらいだけど……」

 戸惑ったようなフレイの声に目を瞬かせる。練習の成果だろうか。少し離れたところで和樹もこちらを凝視していた。

「わかった。じゃあ、六割位にあげろ。そうして、しばらくそのままの速度をキープするんだ」

 またも、ぐん、とフレイの速度があがる。
 少し離れたところで和樹の歌声が聞こえてきた。フレイはまるで避けるように距離を置く。かなり離れて隣に並んだので、彼らの声はほぼ聞こえなくなった。

「……和樹くんの歌声、苦手なのか?」

 尋ねると、フレイはコクリと一度頷いた。

「なんか、焦る……。あと、歌詞の意味がわかんなくて考えちゃうんだよな。黄色いセンスイカン? とか、ルーシーがダイヤモンド持って空に浮かんでるとか……」

 どちらも日本で有名な洋楽の歌詞である。最初聞いた時は渋い趣味をしていると思ったが、音楽が好きな和樹なら知っていても不思議はない。前の世界で聞いていた時は英語で聞こえていたから、歌詞の意味はあまり考えなかったが、こちらで自動翻訳された歌詞を聞いてみたらたしかに戸惑う歌詞かもしれないな、と陸は苦笑した。

「まぁ、俺は結構好きだけど……、あれがフェルディのブースターだと考えると焦るよな」

 マラソンの際に脳内で音楽が流れると言う人もいるらしい。長距離を走っている間に、ライダーが歌を歌ってくれているのは気晴らしになっていいだろう。

 けれど、フレイには相性が悪いようだ。

 彼はライダーなら誰でもいいと思っているところがありそうだったが、やはりライダーでも個性のある人間だから、相性もあるのだろう。

 だとしたら、自分とフレイの相性はどんなものなのだろう。
 背中の鱗を眺める。つやつやと太陽の光を跳ね返して輝いていた。

 ああやって陸が和樹のところに行くのを嫌がるくらいだし、気に入ってくれてはいるのだろう。けれど、己はフレイに勝利を与えられるのだろうか。

 横目でフェルディを見る。

 彼は和樹の歌を聞きながらも、ご満悦で羽ばたいていた。この二人の相性の良さをうらやましいと思ってしまった。
 そうして暫くの間の持久走が終わる。

「そろそろ仕掛けるぞ」

 地図と方位磁針、時計を見て陸が告げる。見るとフェルディは少し後ろを走行していた。

「待ちくたびれたぜ!」

 長い間、じんわりと飛び続けた割にはフレイには疲れが見えなかった。
 陸は手綱を両手で持ち、前かがみになる。速さの衝撃に備える覚悟ができてから、合図を送った。

「よし! 行け! フレイ、思い切り暴れろ!」

 陸が言い終わるか終わらないかのうちに、風を切る音がする。
 ぐんぐん周囲の景色が溶けて背後へ引っ張られていく。風が白くなって見えるような錯覚がした。
 少し離れたところにいる和樹が、ちらりとこちらを見る。けれど彼らはまだ仕掛ける気がないようで、ペースを早めたものの、追いかけてはこなかった。

「今のうちにどんどん引き離すぞ! そのまま持ちこたえろ」

 返事をする代わりにフレイは速度を上げて応える。
 本気の彼の走りは練習のたびに速くなっていっている。最近では、陸は気を失わないように己を保つので精一杯になりつつある。
 ふいに、気配がして振り返るとフェルディ達も加速して迫ってきていた。

「来てるぞ! そのまま前進し続けろ!」 
 自分たちが成長したぶん、他の人たちも成長する。
 フェルディが徐々に距離を詰めてくる。そうして、隣に並ばれた。
 フレイが焦ったようにさらに速度を上げる。

「そうだ! お前なら出来る! もっと前へ! 前へ! こんなもんじゃないだろう!?」

 大声でフレイを鼓舞する。そのたびに彼の速度が徐々にあがっていっている気がした。
 相変わらず和樹の歌声が聞こえる。こんな速さでも歌えるのか、と彼の喉に驚いた。
 けれど、やはり速度があるぶん難しいようで、徐々に歌が途切れがちになる。

「フレイ! あと時間にして五分前後だ。その間なら全力でいけるだろう!?」

「おぅ……!」

 けれど疲労が徐々に出てきて羽の振れが鈍くなる。

「動きが落ちてる! あと四分半! 頑張れ! お前なら出来る! これまでたくさん練習してきただろ!」

 陸の声かけで、フレイの動きに再び精彩が戻ってきた。

「よし! 流石フレイ! あと三分!」

 けれどフェルディも負けていない。少し離れたところから徐々に距離を詰めてきていた。
 ゴール地点であるミリアの街並みが見えてくる。
 条例により、特別なレース期間を除き、街の上空にドラゴンが飛んできたら魔術師に撃ち落とされるらしい。

「和樹君! あそこの丘の上にある大きな木! あれがゴールでいいかい!?」

 大声で前方に生えている木を指差す。和樹はハンドサインで了解と返してきた。
 目の端にフェルディが映る。和樹は体を伏せ空気抵抗を減らすのに注力していた。もはや歌を歌う余力はないようだった。
 正直陸も声を出すのが辛い。
 けれど、あと少しというところでフェルディの尻尾が見えてしまった。

「フレイ!  羽を動かせ! お前ならできる! 頑張れ!」

 陸の声がけとともに、フレイが更に速度を増す。

 ザシュ、と二匹がほぼ同時に巨木の上を通り過ぎ、巻きおこった風に葉っぱが舞った。

 審判のいない場所ではどちらが勝ったかを明確に決められない。

 その後しばらく空を舞い続けたドラゴン達はゆるく旋回をして、街の外にある発着場へと着陸したのだった。
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