魔剣少女と契約した低血圧系魔術師、実は  の生まれ変わりでした?魔導学園で学生と講師を両立しながら何とか生きていこうと思います。

精神感応4

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第三章「反魂香」

第22話 持ち込まれた事件

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 「まあ、座れよ」

 双魔はテレビの前のソファーに腰掛けると向かいに座るように勧める。剣兎は勧められるがままに腰掛けた。そしてティルフィングも双魔の膝にちょこんと腰掛ける。

 「随分仲良しのようだね」

 その様子を見て剣兎が可笑しそうに笑った。

 「ほっとけ」

 それを聞いて双魔はバツが悪そうに顔をしかめた。

 「お待たせしました。お茶をご用意しましたのでどうぞ」

 キッチンから出てきた左文が緑茶の入った湯呑を双魔と剣兎の前に置く。

 二人は湯呑を持つとお茶を一啜りし一息ついた。寒風に冷やされた身体が芯から温まっていく。

 「……で、何の用で来たんだ?」

 双魔は湯呑を置くと剣兎に問いかけた。

 「そうだね、そろそろ本題に入ろうか」

 剣兎も湯呑を置いた。

 「まあ、そうは言ってもこっちに来た当初の目的はもう済んでいるんだけどね」

 剣兎は笑ってそう言った。

 「なんだよ、その当初の目的ってのは」

 双魔が聞き返すと剣兎は双魔とティルフィングに向かって手を向けた。

 「君たちさ。ティルフィング殿は遺物だろう?しかも神話級の。何日か前にブリタニアから情報が入ってきたんだ”ブリタニアにおいて日本人が神話級遺物と契約した”ってね。伝説級までなら現地の部下に任せるけど神話級ともなるとそうもいかなくてね……」

 剣兎はそこで一旦話を切ると再び湯呑を手に取ってお茶を啜った。

 「取り敢えずこっちに向かう予定だった政府の飛行機に飛び乗ったらテイクオフの直前に君のところの学園長、ヴォーダン殿が直々に連絡をくださってね。契約したのは双魔だっていうじゃないか。君なら安心だから次に会う機会にでも帰ろうとしたんだけどね……まあ、しばらく休暇も貰ってないし少しブリタニア観光でも楽しもうと思って遥々日本からやってきたってわけさ。いやー、序列一位の大魔術師と話すのなんか初めてだったから緊張したよ」

 一通り話すと剣兎はカラカラと笑って見せた。

 「……まあ、なんか面倒掛けたみたいで悪かったな……それはそれとしてサボりの口実にされるいい気分じゃないぞ」

 双魔はジト目で剣兎を見ながらお茶を啜る。先程から静かに話を聞いているティルフィングは双魔と剣兎を交互に見ながら左文がお茶と一緒に持ってきた煎餅を齧っている。

 「いやいや、双魔の心配はしていなかったけど遺物との相性は心配してたんだ。かろうじて契約はしたものの絶望的に不仲なコンビもいたりするからね」

 さっきの楽しそうな笑い声から一変して今度は乾いた笑い声を発した。目も笑っていない。恐らく部下にそういう問題児がいるのだろう。

 「まあ、それはいいとしてティルフィング殿」

 「む?」

 呼ばれたティルフィングは煎餅を口にしたまま剣兎の方を見る。

 「ティルフィング殿から見て双魔はどうかな?」

 「おい、やめろよ……」

 予想外の質問に双魔は狼狽える。が、それに構わずティルフィングは答える。

 「我はソーマと契約出来て良かったと思うぞ?我は記憶喪失とか言うやつらしくてな、前の契約者のことは分からないし、そもそもいたのかも知らん。しかし双魔と契約してからは心の奥の何かが温かいのだ。これはきっと良いことなのだろう。違うか?」

 ティルフィングの言葉を聞いて双魔は嬉しいやら恥ずかしいやらでしどろもどろと言った風だが剣兎はそれを聞いて満足げに頷いた。

 「それは良かった。安心したよ……これからは双魔のことを頼んだよ」

 穏やかな表情でそう言った。そこには年下の友人を思っての友情があった。

 「うむ、我に任せるがよい!それに……」

 「それに?」

 「双魔は美味しいものをたくさん食べさせてくれるからな!」

 ティルフィングが自慢げに放ったこの言葉に剣兎は一瞬、ポカンとしたがすぐに噴出した。

 「……ップ、アッハッハッハ!双魔、もしかして君は神話級の遺物を餌付けしているのかい?いやー!そりゃあいい!傑作だ!」

 「……」

 剣兎は腹を抱えてヒーヒー言いながら開いているんだか閉じているのか分からない目から涙を流している。

 双魔は照れるのを隠すように顔をしかめてこめかみをグリグリとする。

 「で、”当初の目的”が俺たちの状況の確認だったってことはここに来るまでに別の問題が起きたってことだろ?」

 双魔を語気を強目に言った。

 それを聞いて剣兎はハンカチを取り出して涙を拭きながら姿勢を正した。

 「いやー、笑った笑った。こんなに笑ったのは久しぶりだよ!で、双魔の言う通りだよ。ちょっと相談したいことがあってね。っとその前に」

 剣兎はスーツの内ポケットに手を突っ込んだ。

 「ティルフィング殿、こんなもので申し訳ないけどお近づきの印だ」

 スーツから出した物をティルフィングに差し出した。剣兎の手には双魔もよく見たことがある山吹色の小箱が乗っていた。

 「む、ハヤト。これはなんだ?」

 「ティルフィング、これはキャラメルと言って甘い菓子だ」

 双魔が手短に教えてやる。

 「おおー。そうなのか!ハヤトよ、有難く受け取るぞ!」

 「どうぞ召し上がれ」

 ティルフィングは小箱を受け取ると早速一粒キャラメルを取り出し、銀紙をはがして口に含んだ。

 「うむ、これは美味だ!」

 双魔は満面の笑みを浮かべるティルフィングの頭を優しくなでた。くすぐったそうにしているティルフィングから目を放し剣兎に向き合う。そこには魔術師《・・・》としての風歌剣兎がいた。

 「本題に入ろうか」

 一転真剣な表情になった剣兎に双魔も一魔術師として構える。

 「まず、これを見て欲しい」

 剣兎は再び内ポケットに手を入れると四枚の写真を取り出して双魔に手渡した。

 写真にはそれぞれ人相の悪い男が写っている。

 「……これは?」

 一枚ずつ確認が済むと剣兎に目を移して尋ねた。

 「……彼らは”黒匪団《こくひだん》”。国際指名手配されている中国の過激派窃盗団だ。少数精鋭で依頼に応じて盗み、殺し、テロの扇動、何でもこなす魔術犯罪グループだよ。知ってるかい?」

 「まあ、名前ぐらいは聞いたことがある」

 各国のメディアでも幾度か取り上げられたことがありその名は双魔も目にしたことがあった。

 「…………はあ、双魔とティルフィング殿の情報が入る前までうちの課で扱っていたんだ。”日本に密入国した”という情報があってね。その件は部下に任せてこっちに来たんだけど飛行機の中で連絡が来てね。”連中が全員揃って九州近海でボートに乗っているのが発見された”ってね」

 「全員か」

 「そう、全員だ。しかも奇妙なことに誰一人生きているけれど死んでいるような状態なんだ。目を開けたまま糸の切れたマリオネットのような状態らしい。生命活動は問題ないみたいだけど植物人間状態だ。尋問もできやしない……はあ」

 そう言うと剣兎はまた深々とため息をついた。

 「入国してきた目的は分からないってことか。まあ、その辺はどうにかなるだろう?」

「勿論。そこは”他の家”に協力してもらって目下調査中だ。問題は……”彼らは既に仕事は済ませていた”という点さ」

剣兎の言う”他の家”とは大日本皇国の陰陽道を司る土御門宗家の分家たる十二の家を指している。剣兎は若いながらその内の一家、風歌一門の当主と言う立場でもある。

 「どういうことだ?」

 「双魔は”香《こう》の島《しま》”って知ってるかい?」

 「……ああ。一回親父に連れられて船から見たことがあったな。朝鮮半島との魔導骨董品とかの取引してる群島にある島だろ?あそこがどうしたんだ?」

 双魔の記憶にあるその島は遠くから微かに赤い鳥居が確認できるくらいのどこにでもあるような島だ。

 「実はその島には”とある物”が祀られていたというか、隠されていたみたいなんだけどね。現地の魔術師に確認させたら島の奥の社に何者かが立ち入った痕跡が僅かに残されていてモノはなくなっていたんだ。状況からみて犯人は十中八九黒匪団なんだけれどボートにはそれがなかった。恐らくクライアントに引き渡した後だったんだろうけど……」

 「で、その依頼主がブリタニアに入国したって情報が入ってきたってところか?」

 「ご名答。まあ、まだ確定ではないんだけどね」

 剣兎は湯呑に残っていたお茶を一気に飲み干した。

 「左文字殿、申し訳ないがお代わりをいただけますか?」

 「はい、かしこまりました」

 剣兎が言うと左文が急須を持ってパタパタとやってきて剣兎の湯呑にお茶を注ぐ。

 「坊ちゃまはいかがいたしますか?」

 「ん、俺はいい」

 「かしこまりました」

 左文が戻っていくと双魔は話をもとにも戻す。

 「取り敢えず、盗まれた物ってのは何なんだ?」

 そう聞くと剣兎は腕を組んで難しい顔をして見せる。

 「うーん……そこが頭の痛いところなんだよね。盗まれたのは”反魂香《はんごんこう》”さ」

 「っ!?」
 その単語に双魔は驚きの余り言葉を失った。剣兎は湯気の立つお茶を一啜りする。

 「”反魂香”ってあの前漢の武帝の逸話の反魂香か!?」

「そうだよ。どうやら遣唐使が持ち込んだものが島に祀られていたらしいんだ。朝廷に依頼して調べてもらったら裏も取れたよ……」

 リビングに沈黙が訪れる。事態がよく分かっていないティルフィングだけがキャラメルを口の中で転がしながら首を傾げた。
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