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第二部『京の乙女と年の瀬捜査網』エピローグ
第125話 仮面の奥の思惑
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黄昏時の斜陽が大きなガラス戸から差し込む部屋、終わることも始まることもない場所にある部屋で、仮面を着けた何者かが優雅にワイングラスを揺らしていた。
緩やかなローブに身を包み、男か女かも定かではない。
金で彩られた豪奢ながら落ち着きのある椅子にゆったりと腰掛け、外の雲海を静かに眺める。
緋色に染まる空間に年代物の蓄音機が駆動し、穏やかなクラシックが鳴り響く。
「…………」
グラスに口をつけてワインを口にする。
丸みを帯びたグラスの中で波立つワインは白にもかかわらず、緋色に当てられてロゼワインのように見えるのが面白い。
仮面の君がそう思い、微かに口元に笑みを浮かべた時だった。
机の前の空間が揺らめき、蜃気楼のように一人の少女が音もなく現れた。
純白のドレスを身に纏った蒼い少女。双魔たちの前に現れた少女だ。
「…………申し訳ありません………ご主人様」
少女は白いつば広の帽子を胸の前でギュッと両手で握りしめ、しゅんとして見るからに落ち込んだ様子で俯いた。
「……………………」
”ご主人様”、そう呼ばれた仮面の君はくるりと椅子を回して少女と向き合った。
仮面の奥の表情は読み取れない。
「…………いい、お前はよくやってくれたからね」
透き通った声で、仮面の君は少女に許しを与えた。それを聞いた少女は尚も不安そうな表情を浮かべていたが、仮面の奥から向けられる眼差しが穏やかなことに気付いたのか、すぐにホッとした安心感溢れる笑みを浮かべた。
「例のものは受け取ってきたのだろう?」
「はい!もちろんです!こちらですわ!」
少女が路地裏で山縣から受け取っていた小箱を机の上に置いた。
仮面の君はサテンの手袋に包まれたその細く長い指で小箱を手に取った。
丁寧に小箱の蓋を開けて、中に入っていた針を一本手に取り、目を細めて、確かめるように見ると、再び針を箱に戻して、蓋を閉めた。
「フム…………うん、間違いない。本当は本人が来てくれるのが最善だったのだが…………もしもを言っても仕方ない…………あの者は十分役に立った」
蒼き少女は仮面の君の呟きを聞いて、首を傾げている。
「ああ、もういい。疲れただろう?少し休むといい」
「かしこまりました……失礼いたしますわ」
「そうだ、少し待ちなさい」
仮面の君は何かを思い出したかのように頭を揺らすと少女を呼び止めた。
「はい、なんでしょうか?」
もう一度、首を傾げた少女に、仮面の君は掌を差し向ける。
すると、少女の背後から黒い靄が染み出てきて、掌に吸い込まれて消えていった。
「うん、これでいい。では、下がっていい」
「はい、失礼いたしますわ」
仮面の君にそう言われた少女は、ドレスの両裾を摘まんで丁寧に一礼すると、今度こそ現れた時と同じように空気に溶けるように部屋を去った。
「……………………」
部屋には再び仮面の君一人きりになる。グラスを手に取り、口をつけた瞬間、蓄音機からシンバルの音が鳴り響き、曲調が激しく、軽やかなものに変わった。
グラスを傾けて、陽光と同じ緋色に染まった液体を喉に流し込む。
「なかなか…………思う通りにはいかないものだ…………フフフフ…………」
口元に笑みを浮かべて、机上に置かれたチェス盤に控える兵士の駒を一つ、指で弾いて倒した。
緩やかなローブに身を包み、男か女かも定かではない。
金で彩られた豪奢ながら落ち着きのある椅子にゆったりと腰掛け、外の雲海を静かに眺める。
緋色に染まる空間に年代物の蓄音機が駆動し、穏やかなクラシックが鳴り響く。
「…………」
グラスに口をつけてワインを口にする。
丸みを帯びたグラスの中で波立つワインは白にもかかわらず、緋色に当てられてロゼワインのように見えるのが面白い。
仮面の君がそう思い、微かに口元に笑みを浮かべた時だった。
机の前の空間が揺らめき、蜃気楼のように一人の少女が音もなく現れた。
純白のドレスを身に纏った蒼い少女。双魔たちの前に現れた少女だ。
「…………申し訳ありません………ご主人様」
少女は白いつば広の帽子を胸の前でギュッと両手で握りしめ、しゅんとして見るからに落ち込んだ様子で俯いた。
「……………………」
”ご主人様”、そう呼ばれた仮面の君はくるりと椅子を回して少女と向き合った。
仮面の奥の表情は読み取れない。
「…………いい、お前はよくやってくれたからね」
透き通った声で、仮面の君は少女に許しを与えた。それを聞いた少女は尚も不安そうな表情を浮かべていたが、仮面の奥から向けられる眼差しが穏やかなことに気付いたのか、すぐにホッとした安心感溢れる笑みを浮かべた。
「例のものは受け取ってきたのだろう?」
「はい!もちろんです!こちらですわ!」
少女が路地裏で山縣から受け取っていた小箱を机の上に置いた。
仮面の君はサテンの手袋に包まれたその細く長い指で小箱を手に取った。
丁寧に小箱の蓋を開けて、中に入っていた針を一本手に取り、目を細めて、確かめるように見ると、再び針を箱に戻して、蓋を閉めた。
「フム…………うん、間違いない。本当は本人が来てくれるのが最善だったのだが…………もしもを言っても仕方ない…………あの者は十分役に立った」
蒼き少女は仮面の君の呟きを聞いて、首を傾げている。
「ああ、もういい。疲れただろう?少し休むといい」
「かしこまりました……失礼いたしますわ」
「そうだ、少し待ちなさい」
仮面の君は何かを思い出したかのように頭を揺らすと少女を呼び止めた。
「はい、なんでしょうか?」
もう一度、首を傾げた少女に、仮面の君は掌を差し向ける。
すると、少女の背後から黒い靄が染み出てきて、掌に吸い込まれて消えていった。
「うん、これでいい。では、下がっていい」
「はい、失礼いたしますわ」
仮面の君にそう言われた少女は、ドレスの両裾を摘まんで丁寧に一礼すると、今度こそ現れた時と同じように空気に溶けるように部屋を去った。
「……………………」
部屋には再び仮面の君一人きりになる。グラスを手に取り、口をつけた瞬間、蓄音機からシンバルの音が鳴り響き、曲調が激しく、軽やかなものに変わった。
グラスを傾けて、陽光と同じ緋色に染まった液体を喉に流し込む。
「なかなか…………思う通りにはいかないものだ…………フフフフ…………」
口元に笑みを浮かべて、机上に置かれたチェス盤に控える兵士の駒を一つ、指で弾いて倒した。
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