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第二章「様子のおかしい傀儡姫」
第144話 二人の通学路
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「別に鏡華まで早く出る必要はないんだぞ…………」
時刻は八時半を過ぎた頃、双魔はティルフィングを連れて学園への並木道を歩いていた。
「ほほほ……、ええやないの。うちはうちの好きなようにしてるだけなんやから」
隣ではきっちりと真新しい制服を着こなした鏡華が楽しそうに歩いている。
その後ろでは浄玻璃鏡がいつものように眼を閉じたままふよふよと宙に浮いている。
前触れなく転校してきて、半ば押しかけ女房の如く家に押しかけてきた鏡華だが、たった二日か三日ほどで生活になれたのか、興味深そうにハシーシュの講義を聴いて、それが終わるとクラスの女子たちとどこかに出掛けているようだった。
そして、朝は必ず双魔と登校したいらしい。双魔としてはついこの間ティルフィングと登校し始めた時期に注目を集めてしまったのでまた同じようなことになるのが嫌なのだが、鏡華にしたいと言われては無下にも出来ない。
それに、本人の自覚はまだあまりないが双魔は遺物科評議会の副議長になったのだ。以前とは扱いが変わって当然だ。
サリヴェン=ベーオウルフとの決着も謎が多いままだったが何故か好意的に取られている。
最早、双魔は学園の中心の一角と言っては過言ではなかった。
そんな、人物に年明け早々婚約者の存在が判明し、しかも転入してきたのだ。
人間は面白いものに喰いつき、それを心の糧にして生きる存在だ。
並木道を進むにつれて学園の生徒が増えていく。その大多数が双魔と鏡華に視線を送り、ひそひそと話している。
相変わらず気分が良くはない。鏡華はどう感じているのか。嫌な思いはしていないのかが気になったが、直接聞くのも何となく憚られた。
「…………」
聞くにも聞けず、胸の中がもやもやとしてどうしようもない。横目で鏡華の様子を観察する。
「…………」
何か話すことはないがニコニコとして機嫌が良さそうだ。
「…………」
そのまま、何となしに見続けていると鏡華の視線がこちらに向いた。
「……なぁに?双魔。うちの顔、なんかついてるの?」
「ん、そんなことはない」
ふいっと双魔は露骨に逸らした。このまま見ていると顔が熱くなってきそうだった。
「フフフ……わかってるよ。うちのこと心配してくれてるんやろ?うちは大丈夫。何かあっても頼りになる旦那はんがおるさかい……な?」
「…………旦那はやめろ……その、人もいる」
「……っ!……あらぁ…………うちとしたことが…………」
周りの視線に気づいていつの間にか距離を縮めてきていた鏡華がパッと離れた。
顔が火照ったのかパタパタと手の平で風を送っている。
「……………………」
「……………………」
沈黙が訪れる。こういう状態になった時、ティルフィングが何か無邪気なことを言って空気を解してくれればいいのだが、今日のティルフィングはサロンでの集まりがよっぽど楽しみなのか笑顔で身体を小刻みに左右に揺らすばかりで家を出てから一言も話さないのだ。
そのまま、沈黙が続きながらも足は進む。やがて、学園の正門が見えてきて潜り抜けるころには熱くなっていた顔も寒さで大分冷えていた。顔色も普通の状態に戻っているはずだ。
そして、広場に通りかかった時だった。
「おーい!伏見くーん!」
どこかから双魔を呼ぶ声が聞こえた。この時間から実に元気な声だ。
「…………?」
声の聞こえた方を見てみるとすぐに声の主が見つかった。
梓織と愛元、アメリアの三人組がカフェのテラス席にいるのが見えた。
(…………この、寒いのにテラスで何してんだか…………)
正直少し面倒だと思ったが無視するわけにもいかない。それに鏡華を紹介するにも丁度、いいかもしれない。
双魔は呆れながらも、足を三人娘の方へと向けるのだった。
時刻は八時半を過ぎた頃、双魔はティルフィングを連れて学園への並木道を歩いていた。
「ほほほ……、ええやないの。うちはうちの好きなようにしてるだけなんやから」
隣ではきっちりと真新しい制服を着こなした鏡華が楽しそうに歩いている。
その後ろでは浄玻璃鏡がいつものように眼を閉じたままふよふよと宙に浮いている。
前触れなく転校してきて、半ば押しかけ女房の如く家に押しかけてきた鏡華だが、たった二日か三日ほどで生活になれたのか、興味深そうにハシーシュの講義を聴いて、それが終わるとクラスの女子たちとどこかに出掛けているようだった。
そして、朝は必ず双魔と登校したいらしい。双魔としてはついこの間ティルフィングと登校し始めた時期に注目を集めてしまったのでまた同じようなことになるのが嫌なのだが、鏡華にしたいと言われては無下にも出来ない。
それに、本人の自覚はまだあまりないが双魔は遺物科評議会の副議長になったのだ。以前とは扱いが変わって当然だ。
サリヴェン=ベーオウルフとの決着も謎が多いままだったが何故か好意的に取られている。
最早、双魔は学園の中心の一角と言っては過言ではなかった。
そんな、人物に年明け早々婚約者の存在が判明し、しかも転入してきたのだ。
人間は面白いものに喰いつき、それを心の糧にして生きる存在だ。
並木道を進むにつれて学園の生徒が増えていく。その大多数が双魔と鏡華に視線を送り、ひそひそと話している。
相変わらず気分が良くはない。鏡華はどう感じているのか。嫌な思いはしていないのかが気になったが、直接聞くのも何となく憚られた。
「…………」
聞くにも聞けず、胸の中がもやもやとしてどうしようもない。横目で鏡華の様子を観察する。
「…………」
何か話すことはないがニコニコとして機嫌が良さそうだ。
「…………」
そのまま、何となしに見続けていると鏡華の視線がこちらに向いた。
「……なぁに?双魔。うちの顔、なんかついてるの?」
「ん、そんなことはない」
ふいっと双魔は露骨に逸らした。このまま見ていると顔が熱くなってきそうだった。
「フフフ……わかってるよ。うちのこと心配してくれてるんやろ?うちは大丈夫。何かあっても頼りになる旦那はんがおるさかい……な?」
「…………旦那はやめろ……その、人もいる」
「……っ!……あらぁ…………うちとしたことが…………」
周りの視線に気づいていつの間にか距離を縮めてきていた鏡華がパッと離れた。
顔が火照ったのかパタパタと手の平で風を送っている。
「……………………」
「……………………」
沈黙が訪れる。こういう状態になった時、ティルフィングが何か無邪気なことを言って空気を解してくれればいいのだが、今日のティルフィングはサロンでの集まりがよっぽど楽しみなのか笑顔で身体を小刻みに左右に揺らすばかりで家を出てから一言も話さないのだ。
そのまま、沈黙が続きながらも足は進む。やがて、学園の正門が見えてきて潜り抜けるころには熱くなっていた顔も寒さで大分冷えていた。顔色も普通の状態に戻っているはずだ。
そして、広場に通りかかった時だった。
「おーい!伏見くーん!」
どこかから双魔を呼ぶ声が聞こえた。この時間から実に元気な声だ。
「…………?」
声の聞こえた方を見てみるとすぐに声の主が見つかった。
梓織と愛元、アメリアの三人組がカフェのテラス席にいるのが見えた。
(…………この、寒いのにテラスで何してんだか…………)
正直少し面倒だと思ったが無視するわけにもいかない。それに鏡華を紹介するにも丁度、いいかもしれない。
双魔は呆れながらも、足を三人娘の方へと向けるのだった。
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