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第三章「いざ、愛しき人の家へ」
第161話 寛容と決意
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「ここからはすこーし、うちが話すからそうして楽にしてるとええよ」
ニコニコと変わらず嬉しそうな鏡華の瞳はいつの間にか元の暗褐色に戻っていた。
「どうして、うちが怒ったり、嫉妬したりしぃひんのか……理由は簡単。双魔は恰好ええし、素敵やし、優しいから、普通にしてても女の子に好かれてしまうんはしゃーないと思うてるから」
鏡華の意外な発言にイサベルは目を丸くする。話を食卓の椅子に座って静かに聞いていた左文もクスクスと笑っている。
それに気づいた鏡華がサッと頬を染めた。それでも顔は余裕たっぷりと言った感じだ。
「それに、自分が好いた男子があんはんみたいなええ人に好かれるのは誇らしいんよ」
「…………その、伏見君を……双魔君を独占したいとは…………思わないんですか?」
「…………?」
イサベルの当然とも言える問いに鏡華はきょとんと不思議そうな顔をした。
色恋にかかわらず、素晴らしいものは自分の手元に置いて他人との共有を極力避けようとする独占欲が働くのは人間として必定とも言える。鏡華にはそれがないだろうか。
数瞬、イサベルの問いの意味を考えているのかいないのか、不思議そうにしたままだった鏡華はやがて、余裕の滲む表情を作り直した。
「うん、イサベルはんの言うてることは分かるよ?でも、うちはそういうのはあんまりないんよ…………せやねぇ……正妻、なんて気取る気はないけど、双魔が、旦那はんが色んな女の人に求められて、あっちこっちしたとしても、最後にはうちのところに戻って来てくれればいいと思うてるよ。うちは。双魔はうちのもの、うちは双魔のもの。うちは双魔以外のものになる気はないけど、双魔がうちと誰かの共有になるのはええの。相手が心から双魔を愛している人なら」
イサベルの目に映る穏やかに語る鏡華は自分と同年代とは思えないほど、一種の愛の形を悟っているように見えた。
「イサベルはんがどうやって落とされてしもたのか、うちは知らへんけど、きっとうちと同じようなもんやろし……このまま放っておいたら、きっと、もっと同じような子が増えると思うけど、双魔が余所見しようとうちのことも見てくれるんやったらそれでええの……ど?イサベルはんは、沢山の自分以外の女に愛されて、いちいちそれに応える男は嫌?」
「それは…………」
イサベルの脳裏に気怠げで、柔和な笑みを口元に浮かべる双魔がフラッシュバックする。
今、鏡華が言った通りだ、双魔は、自分が認めた者が手を伸ばして来たら、きっとその手を差し出すだろう。
それが、多くの女性を囲う結果に導かれたとして、自分はそれに耐えられるか。その一員として双魔を支えられるのか。
例え、自分の好意が、恋心が、愛が。双魔に拒まれようとも、双魔の望むままにさせてあげたいという覚悟があるのかを自問する。
双魔が自分を受け入れることを前提としながら、拒まれた際のことも考える矛盾を思考に孕んでいるのはそれだけ真剣に悩んでのことだ。
されど、迷いは刹那に弾け飛ぶ。考えるまでもない。切っ掛けが凡庸だと他人に言われようと、自らの生におけるパートナーは双魔しかいないというのはイサベルの決定事項だ。
言葉にする前に、鏡華に真っ直ぐな眼差しを送りながら、首を縦に振った。
「大丈夫です…………私は、何があってもあの人が……双魔君が好きです」
その眼差しを正面から受け止めた鏡華は、まるでお菓子を前にした子供のような満面の笑みを浮かべた。
「うん、それならいいよ…………今のところ双魔はうちだけのものやけど、イサベルはんに貸したるわ!ほほほ、ついでにしっかりと双魔をものにして、双魔のものにされなあかんよ?」
「え?…………その、それはどういう…………」
鏡華の言葉がいまいち理解できなかったイサベルが聞き返すと鏡華の笑みは少し前の悪戯っぽいものに変わった。
「ほほほ、うちには何でもお見通し、言うたよ?お見合いが断れへんかったから、双魔に恋人の振りしてもろうて、ついでにお父上に紹介しよ思ってたんとちゃうの?」
「な、なななな!!??」
何と、梓織に授けられた作戦も見透かされたらしい。
恥ずかしいやら、驚いたやらで何度目か分からないが顔を真っ赤に染め上げて両手を目の前でワタワタと動かすイサベルを見て鏡華はコロコロと楽しそうな笑い声を上げている。
「それで?どうするん?」
「…………や、その………………双魔君を……お借りします…………はい」
「うんうん!それが、ええよ!そしたら、うちとイサベルはんは今からお仲間や。将来、奥の管理はうちがすることになるかもしれんけど、そん時は助けてな?」
「は、はあ…………わ、分かりました」
イサベルは鏡華の言った”奥”の意味が分からなかったが頷いた。鏡華のことは信じられる、。それと、下手に逆らってはいけないような、有無を言わさぬものを感じたからだ。
「じゃ、双魔に戻ってきてもらおうか」
そう言って鏡華は袂からスマートフォンを取り出した。
「ちゃんと、自分で双魔にお願いするんよ?ええ?」
「っ!?…………はい!」
力強く答えたイサベルの濃紺の瞳からは動揺や迷いは消え去り、いつもの強い意志が宿っていた。
ニコニコと変わらず嬉しそうな鏡華の瞳はいつの間にか元の暗褐色に戻っていた。
「どうして、うちが怒ったり、嫉妬したりしぃひんのか……理由は簡単。双魔は恰好ええし、素敵やし、優しいから、普通にしてても女の子に好かれてしまうんはしゃーないと思うてるから」
鏡華の意外な発言にイサベルは目を丸くする。話を食卓の椅子に座って静かに聞いていた左文もクスクスと笑っている。
それに気づいた鏡華がサッと頬を染めた。それでも顔は余裕たっぷりと言った感じだ。
「それに、自分が好いた男子があんはんみたいなええ人に好かれるのは誇らしいんよ」
「…………その、伏見君を……双魔君を独占したいとは…………思わないんですか?」
「…………?」
イサベルの当然とも言える問いに鏡華はきょとんと不思議そうな顔をした。
色恋にかかわらず、素晴らしいものは自分の手元に置いて他人との共有を極力避けようとする独占欲が働くのは人間として必定とも言える。鏡華にはそれがないだろうか。
数瞬、イサベルの問いの意味を考えているのかいないのか、不思議そうにしたままだった鏡華はやがて、余裕の滲む表情を作り直した。
「うん、イサベルはんの言うてることは分かるよ?でも、うちはそういうのはあんまりないんよ…………せやねぇ……正妻、なんて気取る気はないけど、双魔が、旦那はんが色んな女の人に求められて、あっちこっちしたとしても、最後にはうちのところに戻って来てくれればいいと思うてるよ。うちは。双魔はうちのもの、うちは双魔のもの。うちは双魔以外のものになる気はないけど、双魔がうちと誰かの共有になるのはええの。相手が心から双魔を愛している人なら」
イサベルの目に映る穏やかに語る鏡華は自分と同年代とは思えないほど、一種の愛の形を悟っているように見えた。
「イサベルはんがどうやって落とされてしもたのか、うちは知らへんけど、きっとうちと同じようなもんやろし……このまま放っておいたら、きっと、もっと同じような子が増えると思うけど、双魔が余所見しようとうちのことも見てくれるんやったらそれでええの……ど?イサベルはんは、沢山の自分以外の女に愛されて、いちいちそれに応える男は嫌?」
「それは…………」
イサベルの脳裏に気怠げで、柔和な笑みを口元に浮かべる双魔がフラッシュバックする。
今、鏡華が言った通りだ、双魔は、自分が認めた者が手を伸ばして来たら、きっとその手を差し出すだろう。
それが、多くの女性を囲う結果に導かれたとして、自分はそれに耐えられるか。その一員として双魔を支えられるのか。
例え、自分の好意が、恋心が、愛が。双魔に拒まれようとも、双魔の望むままにさせてあげたいという覚悟があるのかを自問する。
双魔が自分を受け入れることを前提としながら、拒まれた際のことも考える矛盾を思考に孕んでいるのはそれだけ真剣に悩んでのことだ。
されど、迷いは刹那に弾け飛ぶ。考えるまでもない。切っ掛けが凡庸だと他人に言われようと、自らの生におけるパートナーは双魔しかいないというのはイサベルの決定事項だ。
言葉にする前に、鏡華に真っ直ぐな眼差しを送りながら、首を縦に振った。
「大丈夫です…………私は、何があってもあの人が……双魔君が好きです」
その眼差しを正面から受け止めた鏡華は、まるでお菓子を前にした子供のような満面の笑みを浮かべた。
「うん、それならいいよ…………今のところ双魔はうちだけのものやけど、イサベルはんに貸したるわ!ほほほ、ついでにしっかりと双魔をものにして、双魔のものにされなあかんよ?」
「え?…………その、それはどういう…………」
鏡華の言葉がいまいち理解できなかったイサベルが聞き返すと鏡華の笑みは少し前の悪戯っぽいものに変わった。
「ほほほ、うちには何でもお見通し、言うたよ?お見合いが断れへんかったから、双魔に恋人の振りしてもろうて、ついでにお父上に紹介しよ思ってたんとちゃうの?」
「な、なななな!!??」
何と、梓織に授けられた作戦も見透かされたらしい。
恥ずかしいやら、驚いたやらで何度目か分からないが顔を真っ赤に染め上げて両手を目の前でワタワタと動かすイサベルを見て鏡華はコロコロと楽しそうな笑い声を上げている。
「それで?どうするん?」
「…………や、その………………双魔君を……お借りします…………はい」
「うんうん!それが、ええよ!そしたら、うちとイサベルはんは今からお仲間や。将来、奥の管理はうちがすることになるかもしれんけど、そん時は助けてな?」
「は、はあ…………わ、分かりました」
イサベルは鏡華の言った”奥”の意味が分からなかったが頷いた。鏡華のことは信じられる、。それと、下手に逆らってはいけないような、有無を言わさぬものを感じたからだ。
「じゃ、双魔に戻ってきてもらおうか」
そう言って鏡華は袂からスマートフォンを取り出した。
「ちゃんと、自分で双魔にお願いするんよ?ええ?」
「っ!?…………はい!」
力強く答えたイサベルの濃紺の瞳からは動揺や迷いは消え去り、いつもの強い意志が宿っていた。
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