178 / 268
第五章「お見合いの行方」
第177話 決行前夜の電話
しおりを挟む
いよいよやって来たお見合いの日、空は晴れ渡り風も少なく、極めて好天だった。
ただ、気温は嫌に低くテムズ川の水面は凍りつき、船の行き来はないようだった。
陽が昇って数時間後の午前十時半過ぎ、ウエストミンスター寺院の傍の細い路地を一人の少年が歩いていた。
今日の主役の片割れと言って差し支えない人物、我らが伏見双魔だった。
(……昨日はあの騒ぎが気になって余り眠れなかったからな……少し頭が痛い…………)
「…………ふぁぁ……ぁふ…………」
あくびを噛み潰し、フラフラとした足取りで歩いている一方、身だしなみは完璧と言っていいほど整っていた。
皺ひとつないワイシャツにスラックス、ベストを着込みスーツを羽織りぴっしりときめている。
トレードマークの黒と銀の入り混じった髪も普段とは違いぼさぼさではなく、整髪剤でオールバックに整えられて、表情を差し引けばかなり凛々しい。
正装の方が良いだろうと言う見立てから外套には魔術科のローブを選んだ。
「…………約束は十一時前だったか……少し急ぐか」
双魔は首を左右に軽くひねり、こめかみを親指でグリグリと刺激すると背筋をしゃんと伸ばしてスタスタと約束の場所まで足を早めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
言い方はあまりよろしくないがお見合いを台無しにするため、恋人を演じることを了承した際に詳しいことは改めて連絡すると言っていたイサベルは、約束通り一度、時間や場所を書いたメッセージを送ってくれた。のだが、昨晩、そのイサベルから電話が掛かってきたのだ。
その時、双魔はいつもより早めに風呂を済ませ、丁度、着替えて脱衣所を出たところだった。
バスタオルで頭をガシガシと拭きながらリビングにやってくると食卓の上に置いておいたスマートフォンが明滅して着信を知らせていた。
画面を見ると開けてきた相手はイサベルだった。
「もしもし?」
『あ、双魔君、こんばんは』
電話の向こうからはもちろんイサベルの声が聞こえてくるのだが、何やら慌てているような、申し訳なさそうな感じの声だった。
「ん、こんばんは……何かあったのか?」
『そのことなんだけど…………』
「明日はなくなったとかだったりするか?」
『い、いえ……そう言うことではないのだけど……その、お父様は明日到着する予定だったのだけど』
「何だ?早く着いたのか?」
『え、ええ……その、すっかり明日私の結婚相手が決まると思ってるみたいで…………愛娘とゆっくりと二人で話したいとか言って……』
双魔の脳裏には以前、両親と合った時に酔っ払った母が「双ちゃんも、いつかはお嫁さんのものになっちゃうのね……そんなの嫌―!」と訳の分からない駄々をこねられた記憶が蘇る。
世の中の親と言うのは得てして子煩悩な者が多いようだ。
イサベルの父の気持ちは最もだろう。
「まあ、それは仕方ないな……それで?」
『その、お見合い相手には既に伝えたらしいんだけど、場所がウエストミンスター寺院の近くのホテルの上層階にあるラウンジに変わったわ。この後、地図を送っておくわね。直前にごめんなさい…………』
「ん、別に構わない。時間は?変わらないのか?」
『ええ、時間は伝えた通り、明日はホテルの玄関で待ってるわ』
「ん、分かった。じゃあ、また明日な……親父さんの話、しっかり聞いてやれよ?」
『はい、じゃなくて!え、ええ、それじゃあ、明日はお願いね…………おやすみなさい』
「ん、おやすみ。また明日な」
『あ、少し待って!』
「ん?どうした?」
会話が終わる流れだったのだがイサベルが双魔を呼び止めた。
『その……双魔君は白と青と緑と……それから桃色の中ならどの色が好きかしら?』
「…………その、中なら青……だな」
『青……青ね……青、分かったわ!それじゃあ、今度こそまた明日!』
「ん……ああ、明日な……」
通話を切った双魔は、イサベルの質問と双魔の答えの何か決心したような声に首を傾げるのだった。
ただ、気温は嫌に低くテムズ川の水面は凍りつき、船の行き来はないようだった。
陽が昇って数時間後の午前十時半過ぎ、ウエストミンスター寺院の傍の細い路地を一人の少年が歩いていた。
今日の主役の片割れと言って差し支えない人物、我らが伏見双魔だった。
(……昨日はあの騒ぎが気になって余り眠れなかったからな……少し頭が痛い…………)
「…………ふぁぁ……ぁふ…………」
あくびを噛み潰し、フラフラとした足取りで歩いている一方、身だしなみは完璧と言っていいほど整っていた。
皺ひとつないワイシャツにスラックス、ベストを着込みスーツを羽織りぴっしりときめている。
トレードマークの黒と銀の入り混じった髪も普段とは違いぼさぼさではなく、整髪剤でオールバックに整えられて、表情を差し引けばかなり凛々しい。
正装の方が良いだろうと言う見立てから外套には魔術科のローブを選んだ。
「…………約束は十一時前だったか……少し急ぐか」
双魔は首を左右に軽くひねり、こめかみを親指でグリグリと刺激すると背筋をしゃんと伸ばしてスタスタと約束の場所まで足を早めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
言い方はあまりよろしくないがお見合いを台無しにするため、恋人を演じることを了承した際に詳しいことは改めて連絡すると言っていたイサベルは、約束通り一度、時間や場所を書いたメッセージを送ってくれた。のだが、昨晩、そのイサベルから電話が掛かってきたのだ。
その時、双魔はいつもより早めに風呂を済ませ、丁度、着替えて脱衣所を出たところだった。
バスタオルで頭をガシガシと拭きながらリビングにやってくると食卓の上に置いておいたスマートフォンが明滅して着信を知らせていた。
画面を見ると開けてきた相手はイサベルだった。
「もしもし?」
『あ、双魔君、こんばんは』
電話の向こうからはもちろんイサベルの声が聞こえてくるのだが、何やら慌てているような、申し訳なさそうな感じの声だった。
「ん、こんばんは……何かあったのか?」
『そのことなんだけど…………』
「明日はなくなったとかだったりするか?」
『い、いえ……そう言うことではないのだけど……その、お父様は明日到着する予定だったのだけど』
「何だ?早く着いたのか?」
『え、ええ……その、すっかり明日私の結婚相手が決まると思ってるみたいで…………愛娘とゆっくりと二人で話したいとか言って……』
双魔の脳裏には以前、両親と合った時に酔っ払った母が「双ちゃんも、いつかはお嫁さんのものになっちゃうのね……そんなの嫌―!」と訳の分からない駄々をこねられた記憶が蘇る。
世の中の親と言うのは得てして子煩悩な者が多いようだ。
イサベルの父の気持ちは最もだろう。
「まあ、それは仕方ないな……それで?」
『その、お見合い相手には既に伝えたらしいんだけど、場所がウエストミンスター寺院の近くのホテルの上層階にあるラウンジに変わったわ。この後、地図を送っておくわね。直前にごめんなさい…………』
「ん、別に構わない。時間は?変わらないのか?」
『ええ、時間は伝えた通り、明日はホテルの玄関で待ってるわ』
「ん、分かった。じゃあ、また明日な……親父さんの話、しっかり聞いてやれよ?」
『はい、じゃなくて!え、ええ、それじゃあ、明日はお願いね…………おやすみなさい』
「ん、おやすみ。また明日な」
『あ、少し待って!』
「ん?どうした?」
会話が終わる流れだったのだがイサベルが双魔を呼び止めた。
『その……双魔君は白と青と緑と……それから桃色の中ならどの色が好きかしら?』
「…………その、中なら青……だな」
『青……青ね……青、分かったわ!それじゃあ、今度こそまた明日!』
「ん……ああ、明日な……」
通話を切った双魔は、イサベルの質問と双魔の答えの何か決心したような声に首を傾げるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
霊力ゼロの陰陽師見習い
三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。
……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」
その言葉は、もう何度聞いたか分からない。
霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。
周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。
同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。
――俺だけが、何もできない。
反論したい気持ちはある。
でも、できない事実は変わらない。
そんな俺が、
世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて――
この時は、まだ知る由もなかった。
これは――
妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。
鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる
書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。
鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。
だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。
その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。
俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。
ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。
なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる