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第五章「お見合いの行方」
第179話 門前払い回避
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双魔がホテルの前に到着する数分前、イサベルはエレベーターの中でソワソワとしていた。
(か、髪型が決まらなくて遅くなってしまったわ!そ、双魔君、もう来てるかしら?ま、待たせたら悪いのに……ああ!もう私の馬鹿!)
心の中で自分を叱責する。最初はいつも通りの髪形でいいと思っていたのだが、折角双魔に普段と違う自分を見せる機会が訪れたのだ。やはり少し変えてみようと思い弄りはじめてしまったのが良くなかった。
やっと纏まったと思い時計を見れば時刻は既に約束の時間だった。
「…………」
イサベルの焦りが伝わったのか緑の制服を着た若いエレベーターガールが機嫌を伺うようにちらちらと視線を送ってきている。
やがて、チーンと軽快な音が鳴り響き、フロントのある一階に到着した。
「一階に到着いたし……」
「ありがとう!」
「……ました…………」
扉が開くや否や、イサベルはエレベーターガールの言葉が終わる前に飛び出した。
カツカツカツカツと聞きなれないヒールが床を打つ音を耳にしながら玄関へと急ぐ。
(早く……早く!)
この恰好では走れないのがもどかしい。少し時間が掛かったがやっと玄関が見えてきた。
(双魔君は……いた!)
ガラス張りの扉の向こうに立っている双魔が見えた。
(っ!?)
そこで一瞬、イサベルの足が緩まった。理由は勿論、瞳に映った双魔の姿だ。
(…………か、恰好いい……)
双魔の姿はいつもと全く違っていた。無論、イサベルは普段から双魔のことは好ましいと思っているが、いつもと異なった想い人の姿はより一層イサベルの拍動を激しくさせた。
何やら入り口の衛兵と話している双魔はローブを羽織っているがその中に覗いているのは普段の簡素なシャツとスラックスではなく、正装と言って差し支えないスーツだ。
髪型も可愛げのあるぼさぼさ頭ではなく、ぴっしりとオールバックに整えられている。
まさに、イサベルが長年夢に見ていた”王子様”がそこに立っていた。
「…………」
自然と足の進みが穏やかになり、やがて止まってしまう。
頬が少し熱を持つのを感じながら、ガラスの向こうの双魔に見惚れてしまった、が、すぐに我に返る。
(はっ!み、見惚れてる場合じゃなかったわ!それに……どうしたのかしら?)
何やら双魔は渋い表情を浮かべている。何か問題があったに違いない。
イサベルは止まっていたすぐに足を動かしはじめ、双魔の下へと急いだ。
自動ドアの扉が開き終わる前に突き抜け、大理石の敷石の上を半分は知っているような状態で玄関に向かう。
「ごめんなさい!はぁ……遅くなってしまって……はぁ…………ふぅ……」
慌てて来たせいで呼吸が激しくなってしまったがすぐに整える。
そして、耳の前に垂らした遊び毛を数度撫でて心を落ち着けると今できる命一杯の笑みを双魔に見せた。
「迎えに来ましたよ、じゃなくて!来たわ!今日はよろしくね!」
まだ少し慣れずに敬語を使ってしまったがすぐに言い直す。
「…………」
イサベルに声を掛けられた双魔は目を丸くして普段は見せないような驚いた顔をしていた。心なしか双魔と話していた衛兵も自分のことを見て固まっているような気がする。
(……ど、どこかおかしいのかしら?)
「……どうしたの?双魔君?」
不安に思いながらも頑張って表情には出さず、なるべく自然に双魔に訊ねてみた。
「……ん?い、いや!何でもない!」
双魔は一瞬、サッと目を逸らしてそう答えた。何か慌てているように見えたが次の瞬間にはいつもの冷静な双魔に戻っていたのでイサベルの気のせいだろう。
「そう?あら、衛兵さん?何か双魔君とお話していたみたいですけど……どうかしましたか?」
今度は衛兵の顔を見上げながら声を掛ける。
イサベルに声を掛けられた衛兵は数瞬間を空けたがガシャリと鎧を鳴らしてすぐに居住まいを正した。
「は、はい……実はですね……」
屈強な衛兵はその身からは意外なもごもごと少しはっきりしない声をヘルメットの奥から出して説明をはじめた。
衛兵によるとこのホテルは招待状か会員証、または身分証を提示したうえで会員の紹介があれば敷地に足を踏み入れることが出来るとのことだった。
これは完全にイサベルのミスだ。
突然場所が変わったので招待状は用意できなかったとしてももう少し早く双魔を迎えに来ていれば、衛兵に止められることもなかっただろう。
「ごめんなさい!私の手抜かりです。私は昨日から宿泊しているイサベル=イブン=ガビロールといいます」
「は、はい!存じております!昨日もここでお迎えさせていただきました」
「あら、そうだったんですか?気づかなくてごめんなさい。彼は私のお客さんよ」
「そうでしたか……分かりました。それでは何か身分を証明できるものを見せていただいてもよろしいでしょうか」
イサベルの言葉で双魔への態度が柔らかくなった衛兵は、向き直ると双魔に礼儀正しく身分証明書の提示を求めた。
「ん……これでいいか?」
「拝見いたします」
双魔が財布から取り出した学園の学生証を衛兵に手渡す。
衛兵は重厚なガントレットを嵌めた手で学生証を受け取ると、ヘルメットのバイザーを上げて、双魔の学生証をよく確認した。
数秒経つと頷いたのか首の辺りで鎧がカシャッと音を立てた。
「ありがとうございます、結構です。お入りください……お引止めして申し訳ない」
学生証を返しながら衛兵が謝罪の言葉を伝えると、双魔はそれを受け取って微苦笑を浮かべた。
「謝ることはないよ、アンタは仕事を全うしただけだからな」
双魔にそう言われた衛兵はヘルメットの中で笑っているように見えた。
「双魔君。少し急ぎましょう!お見合い相手が来る前に……その、お父様に紹介しますから」
自分のせいだが思わぬところで時間を食ってしまい余裕がなくなってしまった。
イサベルは再び慌てて、双魔の手を取った。
「ん、分かった。じゃ、仕事頑張ってくれ」
双魔はニヤリと笑って衛兵に声を掛けるとイサベルに引かれるがままにホテルの中へと飛び込んだ。
(か、髪型が決まらなくて遅くなってしまったわ!そ、双魔君、もう来てるかしら?ま、待たせたら悪いのに……ああ!もう私の馬鹿!)
心の中で自分を叱責する。最初はいつも通りの髪形でいいと思っていたのだが、折角双魔に普段と違う自分を見せる機会が訪れたのだ。やはり少し変えてみようと思い弄りはじめてしまったのが良くなかった。
やっと纏まったと思い時計を見れば時刻は既に約束の時間だった。
「…………」
イサベルの焦りが伝わったのか緑の制服を着た若いエレベーターガールが機嫌を伺うようにちらちらと視線を送ってきている。
やがて、チーンと軽快な音が鳴り響き、フロントのある一階に到着した。
「一階に到着いたし……」
「ありがとう!」
「……ました…………」
扉が開くや否や、イサベルはエレベーターガールの言葉が終わる前に飛び出した。
カツカツカツカツと聞きなれないヒールが床を打つ音を耳にしながら玄関へと急ぐ。
(早く……早く!)
この恰好では走れないのがもどかしい。少し時間が掛かったがやっと玄関が見えてきた。
(双魔君は……いた!)
ガラス張りの扉の向こうに立っている双魔が見えた。
(っ!?)
そこで一瞬、イサベルの足が緩まった。理由は勿論、瞳に映った双魔の姿だ。
(…………か、恰好いい……)
双魔の姿はいつもと全く違っていた。無論、イサベルは普段から双魔のことは好ましいと思っているが、いつもと異なった想い人の姿はより一層イサベルの拍動を激しくさせた。
何やら入り口の衛兵と話している双魔はローブを羽織っているがその中に覗いているのは普段の簡素なシャツとスラックスではなく、正装と言って差し支えないスーツだ。
髪型も可愛げのあるぼさぼさ頭ではなく、ぴっしりとオールバックに整えられている。
まさに、イサベルが長年夢に見ていた”王子様”がそこに立っていた。
「…………」
自然と足の進みが穏やかになり、やがて止まってしまう。
頬が少し熱を持つのを感じながら、ガラスの向こうの双魔に見惚れてしまった、が、すぐに我に返る。
(はっ!み、見惚れてる場合じゃなかったわ!それに……どうしたのかしら?)
何やら双魔は渋い表情を浮かべている。何か問題があったに違いない。
イサベルは止まっていたすぐに足を動かしはじめ、双魔の下へと急いだ。
自動ドアの扉が開き終わる前に突き抜け、大理石の敷石の上を半分は知っているような状態で玄関に向かう。
「ごめんなさい!はぁ……遅くなってしまって……はぁ…………ふぅ……」
慌てて来たせいで呼吸が激しくなってしまったがすぐに整える。
そして、耳の前に垂らした遊び毛を数度撫でて心を落ち着けると今できる命一杯の笑みを双魔に見せた。
「迎えに来ましたよ、じゃなくて!来たわ!今日はよろしくね!」
まだ少し慣れずに敬語を使ってしまったがすぐに言い直す。
「…………」
イサベルに声を掛けられた双魔は目を丸くして普段は見せないような驚いた顔をしていた。心なしか双魔と話していた衛兵も自分のことを見て固まっているような気がする。
(……ど、どこかおかしいのかしら?)
「……どうしたの?双魔君?」
不安に思いながらも頑張って表情には出さず、なるべく自然に双魔に訊ねてみた。
「……ん?い、いや!何でもない!」
双魔は一瞬、サッと目を逸らしてそう答えた。何か慌てているように見えたが次の瞬間にはいつもの冷静な双魔に戻っていたのでイサベルの気のせいだろう。
「そう?あら、衛兵さん?何か双魔君とお話していたみたいですけど……どうかしましたか?」
今度は衛兵の顔を見上げながら声を掛ける。
イサベルに声を掛けられた衛兵は数瞬間を空けたがガシャリと鎧を鳴らしてすぐに居住まいを正した。
「は、はい……実はですね……」
屈強な衛兵はその身からは意外なもごもごと少しはっきりしない声をヘルメットの奥から出して説明をはじめた。
衛兵によるとこのホテルは招待状か会員証、または身分証を提示したうえで会員の紹介があれば敷地に足を踏み入れることが出来るとのことだった。
これは完全にイサベルのミスだ。
突然場所が変わったので招待状は用意できなかったとしてももう少し早く双魔を迎えに来ていれば、衛兵に止められることもなかっただろう。
「ごめんなさい!私の手抜かりです。私は昨日から宿泊しているイサベル=イブン=ガビロールといいます」
「は、はい!存じております!昨日もここでお迎えさせていただきました」
「あら、そうだったんですか?気づかなくてごめんなさい。彼は私のお客さんよ」
「そうでしたか……分かりました。それでは何か身分を証明できるものを見せていただいてもよろしいでしょうか」
イサベルの言葉で双魔への態度が柔らかくなった衛兵は、向き直ると双魔に礼儀正しく身分証明書の提示を求めた。
「ん……これでいいか?」
「拝見いたします」
双魔が財布から取り出した学園の学生証を衛兵に手渡す。
衛兵は重厚なガントレットを嵌めた手で学生証を受け取ると、ヘルメットのバイザーを上げて、双魔の学生証をよく確認した。
数秒経つと頷いたのか首の辺りで鎧がカシャッと音を立てた。
「ありがとうございます、結構です。お入りください……お引止めして申し訳ない」
学生証を返しながら衛兵が謝罪の言葉を伝えると、双魔はそれを受け取って微苦笑を浮かべた。
「謝ることはないよ、アンタは仕事を全うしただけだからな」
双魔にそう言われた衛兵はヘルメットの中で笑っているように見えた。
「双魔君。少し急ぎましょう!お見合い相手が来る前に……その、お父様に紹介しますから」
自分のせいだが思わぬところで時間を食ってしまい余裕がなくなってしまった。
イサベルは再び慌てて、双魔の手を取った。
「ん、分かった。じゃ、仕事頑張ってくれ」
双魔はニヤリと笑って衛兵に声を掛けるとイサベルに引かれるがままにホテルの中へと飛び込んだ。
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