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第五章「お見合いの行方」
第181話 傀儡姫の爆弾宣言
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双魔に目配せをされて先にサロンに入ったイサベルは双魔のことが心配で父の待っている奥の部屋には行かず、入り口から少し離れたところで様子を窺っていた。
(双魔君が大丈夫って言ったんだから大丈夫なんだろうけど……それでも……大丈夫かしら)
今回のことに関してはつくづく詰めが甘いことをイサベルは歯痒く思った。
まさか、このサロンが入場証一枚につき一人しか入れないとは知らなかった。
初めてくる場所と言うのもあったが、これより下の階にあるサロンは一枚の入場証で数人入れるようだったのでこちらもそうだと思っていたのだ。
(…………私の馬鹿っ!)
こうして自分を攻めている間にも双魔は先ほどの衛兵の時と同じように受付の男性と話をしている。
受付の男性の背中に隠れて双魔の表情は見えないが、どうにも険悪な雰囲気になっているようだ。
(やっぱり、私からもお願いした方が……)
自然と足が一歩踏み出した時だった。
「…………?」
何やら受付の男性の姿勢が今までの威圧的な前傾から、直立不動に様変わりした。
それから半身になり、右手で双魔をサロンに入るように案内するとそのまま深々と頭を下げた。
イサベルが目を白黒させているうちに双魔が静かにサロンに入ってきた。そのまま真っ直ぐにイサベルの傍にやってくる。
「ん、待たせたな」
「そ、双魔君?その、大丈夫だったの?」
「ん?まあな」
驚いた顔をしているイサベルに双魔は悪戯っぽい笑みを浮かべて見せた。
「そ、そう…………」
「まあ、気にするな。それより時間はいいのか?」
双魔に言われて時刻を確認すると確かに余裕はなくなっていた。
早く父のところに行って、お見合い相手が来る前に双魔を紹介しなくてはならない。
「そうね、急がなくちゃ!こっちよ!」
イサベルは双魔の手を取ると父が待っている個室へと足を向けた。
「ん」
双魔は自分に身を任せて引かれるがままについてきてくれる。
ふと、自分の心中の冷静な部分が働き、今の状況を再確認させる。
(わ、私、自然に双魔君と手を繋いでるわ……し、しかも、自分から手を取って……)
数日前まではこんなことは恥ずかしくて出来なかったはずだ。いつもと雰囲気が違うからなのか、それとも一世一代の大芝居を前に高揚しているのか、それとも、仮初とは言え長年の思い人と心を通わせているような状況からなのか、理由は断定できずともなんだか嬉しかった。
「…………」
「?……」
足を止めずに視線だけをチラリと双魔に向けるとそれに気づいた双魔は微笑み返してくれる。
「…………」
またまた頬が熱くなるのを感じた。こんな感じで父を欺くことが出来るのかやや不安だが母は「あの人は本当に奥手で……プロポーズだって私からしたようなものだったのよ?」と言っていて、色恋には疎いと思われるのでどうにかなるだろう。
色々と考えているうちに目的の部屋の前にたどり着いた。
「ここか?」
「ええ……まずは私が紹介するから双魔君は何も言わなくても大丈夫」
イサベルはそう言ったがどう見ても体の動きが先ほどより硬い。緊張しているのだろうが、それを指摘してしまうと事態が悪化しそうなので双魔は喉元まで出かけた言葉を飲み込んだ。
「ん、わかった」
短く返事を返すと、イサベルはゆっくりと一度頷いて扉の前で握りこぶしを作った。
その握りこぶしはどう見ても力が入りすぎている。
部屋の中にいるのは自分の肉親のはずなのだが…………もしやかなり怖い人なのだろうか?
しかし、そんな話は聞いていない。双魔は少し首を捻った。
コンッ、コンッ、ゴンッ!
その間にもイサベルは扉を三回叩いた。やはり力が入りすぎていたのか最後の三回目のノックはかなり強かった。
「イサベルよ」
緊張を押し殺しているのか妙に低い声で扉の向こうに名乗った。
(…………おいおい、大丈夫なのか?)
ここ最近、特に先週や今日のイサベルは双魔の知っているイサベルとはかなり違っていた。
(……こんなに色々と緊張するタイプだったとは…………)
普段は凛としたしっかり者で皆から頼られているイメージだったが、目の前にいるイサベルはそうではない。が、かと言って双魔が幻滅することなどこれっぽっちもない。
もし、こちらが素のイサベルであるならば、女の子に無防備な姿をさらされているのは信頼の証だ。むしろ嬉しいことだ。
しかも、イサベルが目の前でカチコチになっているおかげで双魔はほとんど緊張しないで済んでいる。
「どうぞ、お入り」
扉の奥から男性の声が聞こえてくる。男性が無意識に放ってしまう威圧感を感じさせない穏やかな声だ。
「失礼します」
イサベルが扉を開ける。すると、双魔は丁度、扉の影に隠れて部屋の中からは見えない形になった。
「な!?な!?」
そして、扉を開けた次の瞬間、イサベルは素っ頓狂な声を上げた。
「あら?ベル、はしたないわよ?女の子がそんな声を出して?」
部屋の中からイサベルを窘める声が聞こえてくる。凛とした女性の声だった。
(ん?父親だけだと聞いてたんだが……)
「サラ……ベルも緊張しているだけさ、そう叱らなくとも……」
最初に聞こえてきた男性の声が女性を宥める。
「そうかしら?兎も角、立ってないでお部屋にお入りなさい」
「は、はい!」
会話の内容からして女性はイサベルの母親だろう。そして、ここで問題が起きた。イサベルが母親と思われる女性に言われるがままに部屋に入ってしまったので双魔が入るタイミングが分からなくなってしまったのだ。
(…………どうする?この状況?)
双魔が片目を瞑ってこめかみに手をやろうとした時だった。
「誰かいるのかね?用があるのならば入ってきても構わないよ」
運良く、イサベルの父と思われる男性が双魔のことを遠慮して入ってくることが出来ないサロンの従業員か何かと勘違いしてくれたのか部屋に入ってくるように誘導してくれた。
(…………)
双魔は一瞬、いつものやる気がない感じになっていた表情を引き締め直すと堂々と部屋に足を踏み入れた。
室内にはそわそわしながら立っているイサベルの他に声の主、男性と女性が一人ずつソファーにゆったりと腰掛けていた。
「おや?」
「…………」
男性は茶髪を少し長めに伸ばし、鼻の下に髭を蓄えた穏やかな雰囲気の紳士だ。
年齢は自分の両親やハシーシュよりは少し上だろうか。
グレーストライプのスーツに赤一色のネクタイ、アイボリーのスラックスを身に着け、シャツの襟には魔術協会から与えられた”枢機卿”の称号を保有していること示す竜の紋様の金バッチを着けている。
疑いようもなく、彼がイサベルの父であり、現ガビロール家一門当主でもある。キリル=イブン=ガビロールその人だろう。
姿を現した双魔を見てきょとんと不思議そうな魔術師からぬ表情を浮かべている。
一方、女性は紫黒色の髪を肩口で切り揃えた若いかつ落ち着きのある美女だ。年の頃はいくつぐらいだろうか、女性の年齢に関しては見た目で判断できないところだが、察するにキリル氏と同じくらいだろう。
凛とした雰囲気と顔のパーツ、特に眼がイサベルそっくりで色も同じだ。間違いなく、彼女がイサベルの母親だろう。
隣りに座るキリル氏と違って、その切れ長の眼で警戒するように、また、値踏みするように双魔のことを見つめている。
「君は……ここの従業員ではないようだがどちら様かな?」
不思議そうな顔のままキリルが双魔に訊ねてきた。
「自分は……っとっと!」
双魔が名乗ろうとした瞬間、落ち着かない様子で立っていたイサベルが急に動き、双魔の左腕に抱き着いてきた。
中々の勢いだったので身体がぐらつかないようにしっかりと踏ん張る。
「なっ!?」
その光景を見たキリルは不思議そうな表情を一変させ、声を出して驚愕した。
「……ふーん」
変わって紫黒色の髪の女性は興味深そうに笑みを浮かべている。
何となく、この流れは急すぎる気がする。
「…………おい」
双魔はイサベルに小声で呼び掛けるが望んでいた反応は返ってこない。逆に双魔の腕を抱く力が強くなった。
視線だけイサベルの顔に送ると顔は真っ赤で、紫紺色の瞳は理性を失ってぐるぐると渦のように回って見える。
「お、おおお父様!お母様!しょ、紹介するわ!こ。この人は伏見双魔君!わ、私!この人とお付き合いしてるの!」
イサベルが大声で放ったその一言で部屋の中が静まり返った。
(双魔君が大丈夫って言ったんだから大丈夫なんだろうけど……それでも……大丈夫かしら)
今回のことに関してはつくづく詰めが甘いことをイサベルは歯痒く思った。
まさか、このサロンが入場証一枚につき一人しか入れないとは知らなかった。
初めてくる場所と言うのもあったが、これより下の階にあるサロンは一枚の入場証で数人入れるようだったのでこちらもそうだと思っていたのだ。
(…………私の馬鹿っ!)
こうして自分を攻めている間にも双魔は先ほどの衛兵の時と同じように受付の男性と話をしている。
受付の男性の背中に隠れて双魔の表情は見えないが、どうにも険悪な雰囲気になっているようだ。
(やっぱり、私からもお願いした方が……)
自然と足が一歩踏み出した時だった。
「…………?」
何やら受付の男性の姿勢が今までの威圧的な前傾から、直立不動に様変わりした。
それから半身になり、右手で双魔をサロンに入るように案内するとそのまま深々と頭を下げた。
イサベルが目を白黒させているうちに双魔が静かにサロンに入ってきた。そのまま真っ直ぐにイサベルの傍にやってくる。
「ん、待たせたな」
「そ、双魔君?その、大丈夫だったの?」
「ん?まあな」
驚いた顔をしているイサベルに双魔は悪戯っぽい笑みを浮かべて見せた。
「そ、そう…………」
「まあ、気にするな。それより時間はいいのか?」
双魔に言われて時刻を確認すると確かに余裕はなくなっていた。
早く父のところに行って、お見合い相手が来る前に双魔を紹介しなくてはならない。
「そうね、急がなくちゃ!こっちよ!」
イサベルは双魔の手を取ると父が待っている個室へと足を向けた。
「ん」
双魔は自分に身を任せて引かれるがままについてきてくれる。
ふと、自分の心中の冷静な部分が働き、今の状況を再確認させる。
(わ、私、自然に双魔君と手を繋いでるわ……し、しかも、自分から手を取って……)
数日前まではこんなことは恥ずかしくて出来なかったはずだ。いつもと雰囲気が違うからなのか、それとも一世一代の大芝居を前に高揚しているのか、それとも、仮初とは言え長年の思い人と心を通わせているような状況からなのか、理由は断定できずともなんだか嬉しかった。
「…………」
「?……」
足を止めずに視線だけをチラリと双魔に向けるとそれに気づいた双魔は微笑み返してくれる。
「…………」
またまた頬が熱くなるのを感じた。こんな感じで父を欺くことが出来るのかやや不安だが母は「あの人は本当に奥手で……プロポーズだって私からしたようなものだったのよ?」と言っていて、色恋には疎いと思われるのでどうにかなるだろう。
色々と考えているうちに目的の部屋の前にたどり着いた。
「ここか?」
「ええ……まずは私が紹介するから双魔君は何も言わなくても大丈夫」
イサベルはそう言ったがどう見ても体の動きが先ほどより硬い。緊張しているのだろうが、それを指摘してしまうと事態が悪化しそうなので双魔は喉元まで出かけた言葉を飲み込んだ。
「ん、わかった」
短く返事を返すと、イサベルはゆっくりと一度頷いて扉の前で握りこぶしを作った。
その握りこぶしはどう見ても力が入りすぎている。
部屋の中にいるのは自分の肉親のはずなのだが…………もしやかなり怖い人なのだろうか?
しかし、そんな話は聞いていない。双魔は少し首を捻った。
コンッ、コンッ、ゴンッ!
その間にもイサベルは扉を三回叩いた。やはり力が入りすぎていたのか最後の三回目のノックはかなり強かった。
「イサベルよ」
緊張を押し殺しているのか妙に低い声で扉の向こうに名乗った。
(…………おいおい、大丈夫なのか?)
ここ最近、特に先週や今日のイサベルは双魔の知っているイサベルとはかなり違っていた。
(……こんなに色々と緊張するタイプだったとは…………)
普段は凛としたしっかり者で皆から頼られているイメージだったが、目の前にいるイサベルはそうではない。が、かと言って双魔が幻滅することなどこれっぽっちもない。
もし、こちらが素のイサベルであるならば、女の子に無防備な姿をさらされているのは信頼の証だ。むしろ嬉しいことだ。
しかも、イサベルが目の前でカチコチになっているおかげで双魔はほとんど緊張しないで済んでいる。
「どうぞ、お入り」
扉の奥から男性の声が聞こえてくる。男性が無意識に放ってしまう威圧感を感じさせない穏やかな声だ。
「失礼します」
イサベルが扉を開ける。すると、双魔は丁度、扉の影に隠れて部屋の中からは見えない形になった。
「な!?な!?」
そして、扉を開けた次の瞬間、イサベルは素っ頓狂な声を上げた。
「あら?ベル、はしたないわよ?女の子がそんな声を出して?」
部屋の中からイサベルを窘める声が聞こえてくる。凛とした女性の声だった。
(ん?父親だけだと聞いてたんだが……)
「サラ……ベルも緊張しているだけさ、そう叱らなくとも……」
最初に聞こえてきた男性の声が女性を宥める。
「そうかしら?兎も角、立ってないでお部屋にお入りなさい」
「は、はい!」
会話の内容からして女性はイサベルの母親だろう。そして、ここで問題が起きた。イサベルが母親と思われる女性に言われるがままに部屋に入ってしまったので双魔が入るタイミングが分からなくなってしまったのだ。
(…………どうする?この状況?)
双魔が片目を瞑ってこめかみに手をやろうとした時だった。
「誰かいるのかね?用があるのならば入ってきても構わないよ」
運良く、イサベルの父と思われる男性が双魔のことを遠慮して入ってくることが出来ないサロンの従業員か何かと勘違いしてくれたのか部屋に入ってくるように誘導してくれた。
(…………)
双魔は一瞬、いつものやる気がない感じになっていた表情を引き締め直すと堂々と部屋に足を踏み入れた。
室内にはそわそわしながら立っているイサベルの他に声の主、男性と女性が一人ずつソファーにゆったりと腰掛けていた。
「おや?」
「…………」
男性は茶髪を少し長めに伸ばし、鼻の下に髭を蓄えた穏やかな雰囲気の紳士だ。
年齢は自分の両親やハシーシュよりは少し上だろうか。
グレーストライプのスーツに赤一色のネクタイ、アイボリーのスラックスを身に着け、シャツの襟には魔術協会から与えられた”枢機卿”の称号を保有していること示す竜の紋様の金バッチを着けている。
疑いようもなく、彼がイサベルの父であり、現ガビロール家一門当主でもある。キリル=イブン=ガビロールその人だろう。
姿を現した双魔を見てきょとんと不思議そうな魔術師からぬ表情を浮かべている。
一方、女性は紫黒色の髪を肩口で切り揃えた若いかつ落ち着きのある美女だ。年の頃はいくつぐらいだろうか、女性の年齢に関しては見た目で判断できないところだが、察するにキリル氏と同じくらいだろう。
凛とした雰囲気と顔のパーツ、特に眼がイサベルそっくりで色も同じだ。間違いなく、彼女がイサベルの母親だろう。
隣りに座るキリル氏と違って、その切れ長の眼で警戒するように、また、値踏みするように双魔のことを見つめている。
「君は……ここの従業員ではないようだがどちら様かな?」
不思議そうな顔のままキリルが双魔に訊ねてきた。
「自分は……っとっと!」
双魔が名乗ろうとした瞬間、落ち着かない様子で立っていたイサベルが急に動き、双魔の左腕に抱き着いてきた。
中々の勢いだったので身体がぐらつかないようにしっかりと踏ん張る。
「なっ!?」
その光景を見たキリルは不思議そうな表情を一変させ、声を出して驚愕した。
「……ふーん」
変わって紫黒色の髪の女性は興味深そうに笑みを浮かべている。
何となく、この流れは急すぎる気がする。
「…………おい」
双魔はイサベルに小声で呼び掛けるが望んでいた反応は返ってこない。逆に双魔の腕を抱く力が強くなった。
視線だけイサベルの顔に送ると顔は真っ赤で、紫紺色の瞳は理性を失ってぐるぐると渦のように回って見える。
「お、おおお父様!お母様!しょ、紹介するわ!こ。この人は伏見双魔君!わ、私!この人とお付き合いしてるの!」
イサベルが大声で放ったその一言で部屋の中が静まり返った。
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