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第八章「邂逅」
第210話 銀閃の裁き
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「…………ティルフィングっ……!」
眼を閉じた双魔が感じたのは、自分を拒む黒いオーラが跡形もなく消え失せる感覚と、眼を瞑っていてもなお、強烈に視覚へと訴えてくる眩い銀色の輝きだった。
「………………ん?っ!?」
双魔は恐る恐る固く閉じた瞼を開こうとしたが、その前に胸に抱き着かれ、そのまま身体が少し浮き、凄まじい速さで動いたのか風を切る音を耳に感じた。
ズシーーン!!!
離れたところから重量感のある衝突音が聞こえてくる。炎の巨人が双魔のいた場所に腕を叩きつけたのだろう。遅れて空間内に衝撃が広がる。
着地したのか浮遊感はなくなった。
「ソーマ!」
そして、聞き慣れた明るい声に双魔は今度こそ閉じた瞼を開いた。
「ティルフィン……グ!?」
「うむ!」
安堵の声でティルフィングを抱きしめようとした双魔だったが、その目に映ったものに声が裏返った。
「む?」
双魔の様子がおかしいことに気づいたティルフィングがいつものように首を傾げている。自分では何も感じていないのだろうか。
双魔が驚くのは当然だった。ティルフィングの姿が様変わりしているのだ。
夜を織ったような純黒の髪は冬の朝日に煌めく細雪のような銀に、紅玉の如き左眼は髪に隠れルーンを刻まれた右眼と同じく金色に輝いている。身に纏う衣も黒から白へと違う服に着替えたかのように変わっている。
(……まさか)
双魔はこの変化に心当たりがあった。似ている。自分がティルフィングに込められている謎の力で白銀の乙女へと姿を変えるのと変化の内容が酷似していた。
「……ティルフィング、さっきのことは……いや、何か覚えていることはないか?」
双魔は炎の巨人の意識が自分たちに向いていることなど忘れてティルフィングに訊ねた。
ティルフィングは双魔の聞いていることが分からないのか右へ左へ頭を揺らしたがやがて口を開いた。
「むー……女に会ったような気がするぞ?銀色の髪が綺麗な女が花畑の中に立っていた!」
「っ!?……そうか……」
(アイツか…………正体の見当はある程度ついているが……)
間違いなく、双魔がはじめて変身した時に誓文を唱えたあの女性だろう。
(まあ、今は後回しだな……)
深みに潜りそうになった思考を一旦振り払うと双魔は立ち上がった。
(ッツーーーー!!)
それだけで全身が悲鳴を上げるがティルフィングに心配をかけまいと言う一心だけで痛みに耐える。
「………………」
炎の巨人は腕を上げて体勢を整えるとゆっくりとこちらに身体を向けた。その双眸が双魔とティルフィングを目標に据える。
いつの間にか真っ白な空間は白銀のティルフィングを振るう時と同じように紅の氷原へと変わっていた。
双魔はティルフィングへと手を差し出す。
「ティルフィング、行くぞ!」
「うむ!」
ティルフィングは満面の笑みで自分の手より大きい双魔の手をギュッと強く握りしめた。
今日、何度目にしたか分からない強い輝きが、銀の輝きが二人を包み込む。
「………………」
そして、一瞬で収まった輝きの後、炎の巨人の虚ろな眼孔が捉えたのは白銀の乙女だった。
陽光に煌めく細氷の如き白銀の髪を靡かせる蒼眼の乙女が黄金の柄と白銀の刃煌めく一振りの剣を手に嫋やかに立っている。
「……オオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッンンーーーーーーー!」
はじめて、巨人が咆哮した。両の眼と同じく虚ろに空いた巨大な口から炎の息吹を吐き出した。
その様はまるで求めていた本当の相手を前に狂喜しているようだ。
されど、双魔がそれをまともに受け入れる義理はない。
「……出でよ”黄金と白銀の裁定宮”!」
紅の氷原に、黄金の柱と白銀の屋根が輝く荘厳な宮殿が姿を現した。
双魔がティルフィングの切っ先を炎の巨人に差し向けると音もなく宮殿から数十本の黄金の鎖が飛び出し、燃え盛る巨大な四肢と首に巻きつき、巨人の動きを戒める。
「オオオオ……オオォォォ……」
それでもなお巨人は足を前に進め、掌で白銀の乙女を握り潰そうと手を伸ばそうとするがそれも最早叶わない。
双魔はティルフィングの柄を両手に持ち替えると刃が頭の左後ろに下がるように頭上に掲げた。
「暴虐の炎よ、ここに裁定を与える。消え去るがいい!”真実の剣”!」
神々しく、より強い輝きを発するティルフィングを袈裟懸けに振り下ろした。
「………………」
「…………」
数瞬、紅の氷原から音という概念が消失した。そして、巨人の身体に双魔がティルフィングを振り切った筋と同じ軌道の切れ目が入り、その線を起点に炎の巨人は一切の反応見せず、まるで幻のようにそこに元々は何も存在しなかったかのように、その巨大な豪炎を纏った体躯を失った。
戒める対象を失った黄金の鎖も形をとどめず、砂金のように散り、虚空に溶けて消えた。
眼を閉じた双魔が感じたのは、自分を拒む黒いオーラが跡形もなく消え失せる感覚と、眼を瞑っていてもなお、強烈に視覚へと訴えてくる眩い銀色の輝きだった。
「………………ん?っ!?」
双魔は恐る恐る固く閉じた瞼を開こうとしたが、その前に胸に抱き着かれ、そのまま身体が少し浮き、凄まじい速さで動いたのか風を切る音を耳に感じた。
ズシーーン!!!
離れたところから重量感のある衝突音が聞こえてくる。炎の巨人が双魔のいた場所に腕を叩きつけたのだろう。遅れて空間内に衝撃が広がる。
着地したのか浮遊感はなくなった。
「ソーマ!」
そして、聞き慣れた明るい声に双魔は今度こそ閉じた瞼を開いた。
「ティルフィン……グ!?」
「うむ!」
安堵の声でティルフィングを抱きしめようとした双魔だったが、その目に映ったものに声が裏返った。
「む?」
双魔の様子がおかしいことに気づいたティルフィングがいつものように首を傾げている。自分では何も感じていないのだろうか。
双魔が驚くのは当然だった。ティルフィングの姿が様変わりしているのだ。
夜を織ったような純黒の髪は冬の朝日に煌めく細雪のような銀に、紅玉の如き左眼は髪に隠れルーンを刻まれた右眼と同じく金色に輝いている。身に纏う衣も黒から白へと違う服に着替えたかのように変わっている。
(……まさか)
双魔はこの変化に心当たりがあった。似ている。自分がティルフィングに込められている謎の力で白銀の乙女へと姿を変えるのと変化の内容が酷似していた。
「……ティルフィング、さっきのことは……いや、何か覚えていることはないか?」
双魔は炎の巨人の意識が自分たちに向いていることなど忘れてティルフィングに訊ねた。
ティルフィングは双魔の聞いていることが分からないのか右へ左へ頭を揺らしたがやがて口を開いた。
「むー……女に会ったような気がするぞ?銀色の髪が綺麗な女が花畑の中に立っていた!」
「っ!?……そうか……」
(アイツか…………正体の見当はある程度ついているが……)
間違いなく、双魔がはじめて変身した時に誓文を唱えたあの女性だろう。
(まあ、今は後回しだな……)
深みに潜りそうになった思考を一旦振り払うと双魔は立ち上がった。
(ッツーーーー!!)
それだけで全身が悲鳴を上げるがティルフィングに心配をかけまいと言う一心だけで痛みに耐える。
「………………」
炎の巨人は腕を上げて体勢を整えるとゆっくりとこちらに身体を向けた。その双眸が双魔とティルフィングを目標に据える。
いつの間にか真っ白な空間は白銀のティルフィングを振るう時と同じように紅の氷原へと変わっていた。
双魔はティルフィングへと手を差し出す。
「ティルフィング、行くぞ!」
「うむ!」
ティルフィングは満面の笑みで自分の手より大きい双魔の手をギュッと強く握りしめた。
今日、何度目にしたか分からない強い輝きが、銀の輝きが二人を包み込む。
「………………」
そして、一瞬で収まった輝きの後、炎の巨人の虚ろな眼孔が捉えたのは白銀の乙女だった。
陽光に煌めく細氷の如き白銀の髪を靡かせる蒼眼の乙女が黄金の柄と白銀の刃煌めく一振りの剣を手に嫋やかに立っている。
「……オオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッンンーーーーーーー!」
はじめて、巨人が咆哮した。両の眼と同じく虚ろに空いた巨大な口から炎の息吹を吐き出した。
その様はまるで求めていた本当の相手を前に狂喜しているようだ。
されど、双魔がそれをまともに受け入れる義理はない。
「……出でよ”黄金と白銀の裁定宮”!」
紅の氷原に、黄金の柱と白銀の屋根が輝く荘厳な宮殿が姿を現した。
双魔がティルフィングの切っ先を炎の巨人に差し向けると音もなく宮殿から数十本の黄金の鎖が飛び出し、燃え盛る巨大な四肢と首に巻きつき、巨人の動きを戒める。
「オオオオ……オオォォォ……」
それでもなお巨人は足を前に進め、掌で白銀の乙女を握り潰そうと手を伸ばそうとするがそれも最早叶わない。
双魔はティルフィングの柄を両手に持ち替えると刃が頭の左後ろに下がるように頭上に掲げた。
「暴虐の炎よ、ここに裁定を与える。消え去るがいい!”真実の剣”!」
神々しく、より強い輝きを発するティルフィングを袈裟懸けに振り下ろした。
「………………」
「…………」
数瞬、紅の氷原から音という概念が消失した。そして、巨人の身体に双魔がティルフィングを振り切った筋と同じ軌道の切れ目が入り、その線を起点に炎の巨人は一切の反応見せず、まるで幻のようにそこに元々は何も存在しなかったかのように、その巨大な豪炎を纏った体躯を失った。
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