魔剣少女と契約した低血圧系魔術師、実は  の生まれ変わりでした?魔導学園で学生と講師を両立しながら何とか生きていこうと思います。

精神感応4

文字の大きさ
220 / 268
第一章「叡智集会」

第218話 愉快な客人

しおりを挟む
 二月の初旬。ロンドンの大火からおおよそ一月が経過し、被害を受けた街は九割方復興を果たしいつも通りの日常を取り戻していた。

 主に建物や道路といった土木分野の被害が大きかったわけだが、支援をかって出たイスパニア王国における魔術の大家ガビロール宗家当主、キリル=イブン=ガビロールの貢献もあって行政が当初想定した三倍の速さで復興はなった。

 「…………」

 夜の帳が降りて数時間後、ブリタニア王立魔導学園時計塔内の学園長室から部屋の主であるヴォーダン=ケントリスは無言で口元に笑みを浮かべ、自慢の髭を撫でながら街の光を見下ろしていた。

 コンッ!コンッ!コンッ!

 背後から扉を叩く几帳面な音が聞こえてくる。

 ヴォーダンが振り返ったところで部屋の外から声が掛かった。

 「ご主人様、お客様をお連れしました」

 聞こえてきたのはヴォーダンの契約遺物、グングニルの声だ。

 客人を出迎え、ここに連れてくるように言っておいたのでその用事を果たしたのだろう。

 「うむ、入りなさい」

 ヴォーダンは椅子に腰を掛けると入室を許可した。

 数瞬後に分厚い気の扉がゆっくりと開いた。

 開いた扉の向こうには三つの人影があった。

 一人はブリタニアには似つかわしくない東洋、日本の狩衣に身を包んだ長身で狐顔の男。

 年の頃は三十半ばと言ったところだろうか。短く切り揃えた黒髪には少々白髪が交じっている。

 ヴォーダンの顔を見ると笑みを浮かべて恭しく首を垂れて見せた。

 もう一人は若い女だ。ハニーブロンドの長く伸ばした髪を豪快にロールさせて両肩や背に垂らしている。

 グラマラスな身体をシースルー袖のエメラルドのブラウスと黒のタイトスカートが包んでいる。

 端正な顔に薄くメイクを施し、赤縁眼鏡を掛け、そのレンズの奥には気の強さを感じさせる吊り目の碧眼が覗いていた。

 表情は不機嫌そのもので豊満な胸を支えるように両腕を組んで仁王立ちしている。

 その対照的な二人の後ろに、メイド服を身に纏ったグングニルが控えていた。

 「フォッフォッフォ!二人ともよう来たの。まあ、掛けなさい」
 「では、遠慮なく……」
 「フンッ!」

 ヴォーダンに席を勧められると狐顔の男は静かに、赤縁眼鏡の女はドカッと音を立てて乱暴にソファーへと腰を掛けた。

 「お飲み物はいかがいたしましょうか?」
 「ああ、私は後で構いません、ヴィヴィアンヌ殿は……」
 「私も後でいい!」
 「…………かしこまりました」

 つっけんどんに返されたにもかかわらず、グングニルは気にした素振りも見せず、ソファーに座る二人に頭を下げるとヴォーダンの後ろに下がった。

 「さてさて、晴久よくこちらに来れたの……忙しかったのではないか?」

 ヴォーダンは狐顔の男の方を見てそう言った。

 「いえ、大きな儀式、追儺は済ませてきましたので後は各一門の当主たちに任せても大丈夫ですよ、帝のお許しも頂きました」

 そうにこやかに答えたこの男こそ、土御門晴久つちみかどはるひさ。魔術協会が定めた序列の第四位の席に座す世界で五指に入る大魔術師であり、”叡智ワイズマン”の称号を持つ大日本皇国の要であり、”史上最強の言霊使い”と称される。

 「そうかそうか……ところで、ヴィヴィアンヌや、お主は珍しく来たと思ったら偉くご機嫌斜めじゃのう?なんぞあったか?」
 「…………はあぁーーー!」

 ヴォーダンにヴィヴィアンヌと呼ばれた赤縁眼鏡の女が盛大な溜息をついた。

 女の名はヴィヴィアンヌ=ウィスルト=アンブローズ=マーリン。

 ブリタニアの英雄アーサー王を導いた大魔術師マーリンの血を引く魔術師で”花幻の魔女”と畏れられる聖フランス王国最強の魔術師だ。

 魔術協会が定めた序列は第七位、こちらも”叡智”の称号を得ている。

 見た目と違わず苛烈な性格をしており、接する際には細心の注意を払うべき危険人物とされている。

「不機嫌に決まってるでしょ!?貴方たちも聞いてると思うけどル=シャトリエの無能クズ息子がやらかしたせいで父親のクロヴィスは宮廷魔術団長を辞任!私にお鉢が回ってきたのよ!?面倒だから絶対にやりたくなかったのに!しかもブリタニアに来た第一目的は謝罪よ!?謝罪!?どうして私が頭下げなくちゃいけないのよ!全く、やってられないわ!?」

 キーっと喚いて、文句をまくしたてる割に頼まれたことはしっかりとやる辺り律義者であるヴィヴィアンヌを見て晴久は目を細めて笑っている。

 それに気づいたヴィヴィアンヌに睨まれてもどこ吹く風と言った様だ。

 「思い出したら腹立ってきたわ!赤ワイン持って来て!ガツンと来るのがいいわ!」
 「かしこまりました」

 ヴィヴィアンヌの注文に応えるべくグングニルは静かにミニキッチンへと下がっていった。

 「まあ、落ち着きなさい」
 「フンッ!」

 ヴォーダンに窘められたヴィヴィアンヌはソファーの背を預けるとプイッと子供のようにそっぽを向いた。
 その様子を見たヴォーダンと晴久は顔を見合わせて微苦笑を浮かべた。

 「お待たせいたしました。フランスのワインは慣れていらっしゃると思いましたので日本ワインをご用意致しました。日本固有のブラッククイーン種を使用した信州ワインです、香りと度数はやや控えめですが、ご要望にはお答えできるかと…………」

 ミニキッチンから出てきたグングニルはヴィヴィアンヌの前に静かにグラスを置くとそれに向かって瓶を傾ける。

 ドボンッドボンッ!豪快な音を立ててグラスのがワインレッドに満たされる。

 「どうぞ、ご賞味ください」

 瓶の口を布で拭くグングニルを横目にヴィヴィアンヌはグラスを手に取った。

 「…………フーン…………んっ…………」

 グラスの口を形のいい鼻に近づけて香りを確かめる。

 そして、真紅のルージュを引いた唇を付けるとゆっくりとグラスを傾け、瞼を閉じて味を吟味しているようだった。

 数瞬、室内には沈黙が訪れる。

 「……フフッ……なかなかいい味ね」
 「ありがとうございます」

 ヴィヴィアンヌの少々悪そうな笑みにグングニルは頭を軽く下げた。

 並大抵の魔術師は神話級遺物のグングニルにこのような態度は取ることはないだろう。

 見た目、言動、態度の全てから滲み出るヴィヴィアンヌの強者たる余裕が自然とそのような態度を取らせているのだ。

 「気に入ったわ、取り寄せるから後で詳しいことを教えなさい!」
 「かしこまりました」

 余程ワインの味が良かったのか先ほどと打って変わってヴィヴィアンヌの表情からは不機嫌さがほとんど消えていた。

 「晴久、貴方もどう?」
 「いや、私は葡萄酒は嗜まないから……」
 「あら、そうなの?つまらないわね…………」
 やんわりと晴久に断られたヴィヴィアンヌはまた子供のように頬を膨らませた。
 「ヴォーダン殿、そろそろ…………」
 「うむ、そうじゃのうはじめるか…………フォッフォッフォ!今回は何人顔を見せるかの?」

 晴久に促されたヴォーダンは髭を撫でてウキウキとした様子で何やら準備を始めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

霊力ゼロの陰陽師見習い

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。 鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。 だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。 その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。 俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。 ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。 なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

処理中です...