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第八章
集荷
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「あー…やあ、クレイ。今日もいい天気だね。埃はどう?たくさん集まった?」
クレイの視線が、虹色のトゥインクルに注がれていることに気が付いたラーグは、何とか興味を反らせないものかと焦りの色を浮かべた。
「どんなに掃除しとったって、家から埃はなくならん。集めるのは簡単じゃ。しかし、埃がたくさん集められるかというのは問題ではない。いかにさりげなく、埃を残せるかが問題じゃ」
「そ、そうなの?」
「それに、今日は曇っとる」
クレイは開け放たれた窓を指差した。窓の外には、クレイの言う通り、どんよりとした灰色の空が広がっている。
「あー…でも、ほら。夏は暑いから……曇ってた方が、いい天気…かも」
「向日葵が頭を垂れておる。夏に敬意を払っているんじゃ。そろそろ、夏も終わりじゃろうて」
「あー…そう。えっと……」
ラーグは他の話題を探したが、虹色のトゥインクルに気を取られ、頭が上手く回転しなかった。
「そんなことより、それをどうやって隠すか、ほかに名案はあるのかの?」
ラーグの背後で輝く、虹色のトゥインクルを指差しながら、クレイが言った。
「え?あ、こ、これは…あの、このトゥインクルの事、皆には…」
ラーグが言った。あまりの緊張に、自分でも声が震えているのがわかった。
「心配無用じゃ。その輝きを見ればわかる。それは、ちびちゃんが始めて笑った時のトゥインクルじゃろ?」
「え?そう。そうだよ!クレイってばすごい!輝きだけで見分けがつくなんて!」
ラーグは尊敬を込めた眼差しでクレイを見た。
「あまりに長過ぎる時を生きているからの。さすがにそれくらい見分けがつく。それより、どうするんじゃ?他の妖精達に見つけられたくないんじゃろ?」
「あー、うん。クレイにばれたら集荷妖精に渡されちゃうだろうし。パープおばさんは若返りたいみたいだから、きっと欲しがると思うんだ。それに、ソフィとミモルになんて見つかったら…きっと食べられちゃうよ」想像しただけで、ラーグは恐ろしい気分になった。「首から下げるって、つまりネックレスにするって事だよね?良い案だとは思うけど。でも、パープおばさんに糸を何本か貰って来ないといけないし」
「それなら、心配いらん」
クレイはふさふさの眉毛を上げ、得意気に微笑んだ。
「何か、紐みたいな物でも持ってるの?」
ラーグの問いかけに、クレイはただ首を横に降った。そして、隣で跳び跳ねている、フルグを両手で素早く捕まえると、片手をフルグの埃だらげの体へと突っ込んだ。体と言っても、埃で出来た丸い塊のフルグは、何処が頭で、何処が体なのかわからない。はっきりと分かるのは、開いたり閉じたりする大きな口だけだ。
「ふむ。ん?これか…よし。捕まえたぞ」
クレイが言った。
ラーグは、クレイがフルグの体から取り出したものを見て目を丸くした。
「そ、それ、ハエトリグモ……だよね」
ラーグが身震いしながら言った。
クレイの手にしっかりと握られたハエトリグモは離せとでも言わんばかりに、もじゃもじゃと毛の生えた細長い八本の足を頻りに動かしている。お腹を見せてもがく蜘蛛の姿といったら、とてもじゃないが、ラーグにとっては好感の持てるものではなかった。
「シラヒゲハエトリグモだそうじゃ。フルグの埃のダニを食べてもらうのに、デュモルから借りたんじゃが…」
「あー、そうなの?ところで、そろそろ降ろしてあげた方が良いんじゃないかな……何だか、怒ってるみたい」
クレイの手の中で、蜘蛛が怒ったように小さな鳴き声を上げるのを聞いて、ラーグが脅えたように言った。
「おお、そうじゃな。すまんかったの」
クレイが蜘蛛を床に降ろすと、蜘蛛は喜びを表すかのように小さく跳び跳ねた。
「お前さんは埃集めを続けておくれ。ただし、とりすぎはいかんぞ」
続けて、クレイはフルグをレールの上に降ろした。フルグは返事をするかの様に口をパクパクさせると、そのままレールの上をコロコロと転がっていった。
「えっと、それでその蜘蛛、どうするの?」
「蜘蛛の糸はとても綺麗なんじゃ」
「蜘蛛の糸?まさか、それを使おうって言うんじゃないよね」ラーグが、嫌悪感を露にして言った。「あんな、ベトベトする糸を?」
「ベトベト?そんなものは使えん。使うのは頑丈で粘着性のないものじゃ」クレイが怪訝な顔で言った。「さぁ、蜘蛛さん。話は聞いていたじゃろ?頼むぞ」
クレイの言葉に、蜘蛛は前方に付いた、四つの目を輝かせた。クレイはラーグに一度だけ微笑んで見せると、両手を蜘蛛の方へ差し出した。それが合図だったかの様に、蜘蛛は前足を大きく上げ、腹を見せたかと思うと、クレイの両手に細長い糸がピュンっと飛び出してきた。クレイはそれを手に巻き付けながら、糸を引っ張り続けた。
「ああ……」
ラーグはその様子を見守りながら、どんどん気分が沈んでいった。自分があの糸を首から下げるだなんて。ラーグの脳裏に、蜘蛛の糸でベトベトになった自分の姿が浮かんだ。
蜘蛛の後頭部に付いた丸い四つの目が、ラーグをじっと見つめている。それに気が付いたラーグは、苦い笑みを浮かべ、片手を上げて挨拶をした。
「よしよし。そろそろいいじゃろ。ありがとさん」
クレイの言葉に、蜘蛛はプツンと音を立てて糸を出すのを止めた。ラーグは、それをただ呆然と眺めているだけだった。クレイは切れた糸を巻き取りながら、不思議そうにラーグを見つめた。
「何?」ラーグが言った。
「お前さん、礼を言わんのか?この蜘蛛は、お前さんの為に貴重な糸を分けてくれたんじゃぞ」
クレイが言った。
クレイの隣で、ラーグに背を向けていた蜘蛛はクルリと方向転換すると、正面についた四つの目でラーグを見据えた。そして、クレイに賛同するかの様に、小さな鳴き声を上げた。
「ああ。うん。そうだね。ごめん。ベトベトかどうかは置いといて……僕の為に糸を分けてくれたんだもの」ラーグは蜘蛛の目前まで飛んでいくと、礼儀正しくお辞儀をした。「ありがとう」
蜘蛛は前足を器用に折り曲げると、ラーグの真似をするかの様に、お辞儀をして見せた。
ラーグはつい最近まで、ハエトリグモと一緒に仕事をすることがあったが、ハエトリグモを可愛いと思うことは一度もなかった。だが、この時だけはさすがに蜘蛛が可愛く思えた。
「よし。じゃあ、蜘蛛さん。お前さんはフルグの所に戻ってやってくれるかの?」
蜘蛛は縦に大きく頷くと、八本足で素早く壁を伝い、いつの間にか別のレールに移動していたフルグの体に潜り込んでいった。
「えっと、それで?」
ラーグが言った。
「お前さん両手を前に出してくれ」
「はい」
ラーグはクレイに言われた通り、素直に両手を差し出した。
「ふむ。もうちぃっと、開いた方がいいな。肩幅より少し広めに…おお。そのくらいじゃ。次は、この糸の端を持って……しっかりと持っとるんじゃぞ」
「分かったよ」
ラーグは二つ返事で答えた。蜘蛛の糸を使うのはごめんだと、クレイに言ったところで、結果が変わるだろうとは到底思えなかったのだ。
クレイはそんなラーグの心境などお構い無しに、ラーグの両腕の間を何度も行き来して、器用に糸をラーグの腕に巻き付けていった。
「巻き終わったぞ。わしが支えておくから、そっと腕を抜くんじゃ。いいか?そっとじゃぞ」
「はーい。でも、ベタベタで取れないんじゃないかな」
ラーグは糸から慎重に腕を抜き取った。
「あれ?なんで?綺麗に抜けた」
ラーグは口をポカンとあけた。ラーグの腕を離れた糸が、クレイの両手に、綺麗に折り重ねられてのっていたのからだ。
「獲物を捕らえるための糸ではないからの。蜘蛛は賢い生物じゃ。さてさて、次は……」
クレイは糸を慎重にレールの上に置くと、もじもじゃした髭の中から紫色のトゥインクルの欠片を取り出した。グラファが使っていた物と同じものだったが、それよりも二回り程、ラーグには小さく見えた。
クレイはトゥインクルの欠片を両手で挟むと、糸の真上で両手を擦り始めた。すると、紫色のキラキラした砂粒のようなものが、糸の上に満遍なく降り注いだ。
「固くなっちゃうんじゃない?」
ラーグが言った。
「大丈夫じゃ。使い加減を間違えなければな。ほれ」
クレイは無造作に糸を片手で持ち上げた。糸はしなってクレイの手から垂れていたが、一本の丈夫な紐になっていた。
「恐怖のトゥインクルのお陰で頑丈じゃ。今日はあいにくの曇で、残念ながら見せられんが…太陽の光にあたると、とても美しいぞ。ほれ、お前さんの大事なトゥインクルをさっさと持ってこんか」
「ああ、そうだね。ごめん」
ラーグは大急ぎでハンモックに戻ると、虹色のトゥインクルを手にクレイの元へ戻った。
「これ、どうやってくっつけるの?」
「まっとれ。粘着性のやつがある。こっちじゃないの……ふむ、これか?いや、違う…お!これじゃ」
クレイは髭に手を突っ込むと、小さな箱を取り出した。クレイが箱を開けると、なにやらベタベタした白いものが箱一杯に詰まっていた。
「うげっ、何それ?」
「粘着性の蜘蛛の糸じゃ」
「まさか、それでくっつけるの?」
「そうじゃ」
クレイはラーグに有無を言わせる暇も与えず、虹色のトゥインクルを取り上げた。そして、粘着性の糸を使って、手際よく紐とトゥインクルとをくっ付けた。
「これにも恐怖のトゥインクルじゃな」 クレイは先程と同じように、紫色のトゥインクルを振り掛けた。「これで完成じゃ。ほれ」
クレイは完成した首飾りを、ラーグの首に優しく掛けた。
「うわぁ。思ってたより、全然良いよ」
ラーグは掛けられた首飾りを手に取り、まじまじとそれを見た。糸は、トゥインクルの効果で全くベタつかないし、長さも服に隠れる程度で調度よかった。何よりも、大事なトゥインクルを肌身離さず身に付けていられる。
「僕、本当は、蜘蛛の糸を使うなんて、どうかしてるって思ってたんだ。でも、想像していたより、ずっと良いよ。ありがとう!」
ラーグが嬉々として言った。
「何でも見かけだけで判断すると、損をするぞ」
クレイの表情は、もじゃもじゃの髭と眉毛で見えなかったが、ラーグには不思議と微笑んでいるように感じられた。
「さて、さて。そろそろベッドの埃集めといくか」
クレイは愉快そうに笑い声を立てながら、軽快なステップでベッドに向かっていった。
「あ、そうだ!」
取り残されたラーグは、首から下げたトゥインクルを、丁寧に自分の服の下に隠した。
「これで大丈夫。絶対誰にもバレないぞ」
ラーグはリビングへと続く階段を、恐る恐る慎重に降りた。ティエラが昨夜の出来事を、ガレナに言っているはずだ。きっとガレナはカンカンに怒って、何かしらの罰を与えてくるだろう。そう思うと、ラーグの足取りは(といっても飛んでいるのだが)ますます重いものへと変わっていった。
が、ラーグの予想とは反対に、リビングから妖精達の楽しげな話し声が聞こえてきた。
「本当に素晴らしいですわ。女王様も、きっとお喜びになられることでしょう」
「それはもう…その通りでしょうな」
「こちらの坊ちゃんかしら?こんなにたくさん、虹色のトゥインクルをわけてくださったのは」
「ええ、そうです。この子ですよ」
ラーグは階段からそっとリビングを盗み見た。
ソファの上で、ママが横になって眠っているのが見えた。その横に設置された白いベビーベッドを取り囲むように、四人の妖精が飛んでいる。クレイ、ティエラ、パープおばさん、そしてもう一人、ラーグの知らない妖精だ。
ラーグは話が聞こえるよう、ゆっくりと慎重にソファの影へと移動した。
「なんて優しいお顔の坊っちゃんかしら」見知らぬ妖精は、ベビーベッドへ軽やかに降り立った。「とっても可愛いわ。貴方には、ご褒美をあげなくてはね」
「そうでしょうとも。、こんな可愛い子は他に…ん?何です?褒美?今、褒美と?」
クレイが言った。
「ええ。そうです。こちらの坊っちゃんが、生後千九十六日目を迎え、二番星が空に輝いた時、とても素敵な事が起こるように」
「千九十六日?それっていったい何歳なのかしら?」
パープおばさんが言った。
「生後だから、生まれた次の日が一日目で…」
ティエラが言った。
「二歳の最後の夜の事です!」見知らぬ妖精が、声を少し荒げて言った。「もっとも、それまで妖精が見えていたらの話ですが」
「いったい何が起こるんですか?」
クレイが言った。
「静かに!気が散ってしまうじゃありませんかっ」見知らぬ妖精が憤慨した。「あらあら!まあ、まあ!ごめんなさい!起こすつもりじゃなかったのよ」
見知らぬ妖精が喚いたかと思うと、 今度は坊やの激しい泣き声が響いた。
ソファの上で眠っていたママが飛び起き、素早くベビーベッドに駆け寄ると、坊やを優しく抱き上げた。
「どうしたの?授乳の時間じゃないし、おむつかな……否、違う。怖い夢でも見たのかな?大丈夫だよ、ママがいるからね」ママは焦りの色を浮かべながらも、坊やを抱いて、ゆっくりと揺りかごのように左右に揺れだした。「大丈夫。大丈夫だからね」
ラーグは居ても立っても居られず、ママの腕に抱かれた坊やの元へ飛び寄った。
「坊や!大丈夫?」
だが、ラーグの心配は無用だった。坊やはすでに泣き止み、ママの腕の中でうとうとと微睡み始めたのだ。
「ママってば、流石だね。君はもう、すっかり一人前のママだよ」
ラーグは嬉々として言った。
「あら、ラーグ」
ラーグを見つけたパープおばさんが、ラーグの側に飛び寄ってきた。
「貴方、ティエラ一人に子守りを押し付けたんですって?そんなことしちゃ駄目よ。ティエラが可哀想じゃない」
パープおばさんの少し後ろの方で、ティエラが満足げに頷くのが見えた。
「僕、わざと押し付けたわけじゃないんだ。パパの様子を見に行ったら、そのまま部屋から出れなくなっちゃって」
「どうしてパパの様子なんて見に行ったの?交代でやるって言ったんだから、その場を離れちゃ…」
「あの、ちょっとよろしいかしら。失礼 。そこの緑の服の…」パープおばさんがを押し退けて、見知らぬ妖精がラーグに近づいてきた。「あら。まあ、こんなに若い子なんですの?貴方がラーグ?」
見知らぬ妖精は品定めでもするかのように、ラーグをじろじろと頭から爪先まで見回した。
ラーグは不快感を隠すことなく、その妖精を見返した。
肩まで伸びた巻き毛に、紺色のワンピース。何とも品の良さそうな女性だったが、妙に利発的で、丁寧な言葉遣いからは想像ができない程、きつい印象の顔つきだ。
「わたくし、タリアンと申します。今後、虹色のトゥインクルはわたくしが集荷いたしますので、どうぞよろしく」
タリアンに押し退けられたパープおばさんが、顔を真っ赤にして怒っているのが見えた。
「え?前のおじさんは?」
「わたくしが集荷するのは、貴重な虹色のトゥインクルだけです。以前から来ている方なら…ほら、あちらの椅子の片隅で、呑気に寝ていらっしゃいますわ」
タリアンが険しい顔つきで、反対側にあるソファを指し示した。
見ると、一人掛け用のソファの上に、胡座をかいて眠りこける、中年の男妖精の姿があった。タリアンとは正反対で、茶色いボロボロの服装をしている。手入れのされていない無精髭が、ただでさえだらしない雰囲気の彼を、よりだらしないものへと強調していた。
「よかった。集荷の妖精が変わっちゃうのかと思ったよ」
「あら。わたくしでは、何か不都合でも?」
タリアンが刺々しく言った。綺麗に手入れされていた巻き毛が、獣のように逆立ったのを見て、ラーグは息を呑んだ。
「あ、いえ、そういうつもりじゃあ…」
口ではそう言ったものの、いつもの集荷のおじさんの方が、ラーグにとっては好感の持てる妖精だった。少なくともおじさんは、こんなくだらないことで怒ったりはしないだろう。
「ちょっと、貴女。ラーグに用があったんじゃないの?私の事を突き飛ばしてまで話したかったのは、そんな話しなのかしらね」
パープおばさんが嫌味たらしく言った。
「そう、そうですわ。こんな話をしている場合ではありませんでした。わたくしは女王様から、とても大切な任務を授かっているのです。わたくしは、特別選ばれた妖精ですから。ええ、そうですとも。あのだらしない妖精とは、女王様からの信頼の厚さが違います」
「そ、れ、で!それがなんだって言うの!」
痺れを切らせたパープおばさんが、強い口調で言った。
「少し黙っていて下さいます?」
パープおばさんとタリアンの間で、激しい火花がバチバチと飛び散った。
「あの、僕に何か話したいことが?」
ラーグは意を決したように、二人の間に割って入った。
タリアンはハッと我に返ると、ポケットから小さな櫛を取り出し、逆立った髪を丁寧に直した。
「貴方がラーグ。間違いないわね?」
「はい、僕がラーグです。あの、僕、何か…」
「質問の回答だけすればよろしいのよ」
タリアンがぴしゃりと言った。
「え?あ、ごめんなさい」
「それでは、あの虹色のトゥインクルを集めたのは、貴方って事でよろしいのね」
タリアンはベビーベッドの片隅に置かれた麻袋を指差した。少し開いた麻袋の口から、虹色のトゥインクルが顔を除かせている。
ラーグはドキリとした。もしかするとタリアンは、あの虹色のトゥインクルをどうやって手にいれたのか、クレイから聞いたのかもしれない。女王様からの大切な任務とは、規則を破った妖精に厳しい処分を下すことなのかも。考えれば考える程、ラーグの顔からはみるみる血の気が引いていった。
「聞いてますの?貴方でよろしいんですのよね?それとも、別のラーグがいらっしゃるのかしら?」
「あー…えっと……」
「ラーグ、どうして返事をしないの?この家で、ラーグは貴方しかいないでしょう?」
パープおばさんが言った。
「パープおばさん……」
ラーグはうなだれた。
「貴方で間違いないようですね」
タリアンが威厳のある声で言った。
「えっと、あー……そうです」
ラーグが歯切れ悪く言った。
タリアンが口を開こうとしたところで、大きな咳払いが下の方から聞こえてきた。上空に飛び上がっていた妖精達が、一斉に下を見た。いつの間に眠ったのか、坊やがベビーベッドの上で寝ている。その頭の横で、明らかに不機嫌な表情をしたクレイが突っ立っていた。
「どうかなさいまして?」
話を邪魔されたタリアンが、不服そうに言った。
「ラーグの事よりも、坊やへの褒美はどうなったんですか?」
クレイの言葉に、ラーグはほっとした。
「あら、そうでしたね。わたくしとした事が。坊っちゃんが先でしたわ」
タリアンはラーグに目もくれることなく、あっという間に坊やの元へ戻った。
「ほら、ラーグ。一緒に見に行きましょう」
胸を撫で下ろしたラーグの背中を、パープおばさんが促すように叩いた。
「あいたっ……う、うん」
ラーグは気の進まない思いで、パープおばさんに続いた。途中でティエラも合流したが、ティエラの様子はとても退屈そうだった。昨夜の件で未だに自分が叱られていないのが、きっと面白くないのだろうと、ラーグは思った。
ラーグ達がベビーベッドに降り立ったのを合図にしたかの様に、タリアンはどこからともなく輝く光の塊を取り出した。光の塊は、夕焼けのように輝いたかと思うと、今度は優しい月の光のように、その次は、眩い昼間の太陽のように、次々に光の色と輝きを変えていった。
その場に居合わせたタリアン以外の妖精が、皆、塊の放つ光の美しさに息を呑んだ。
タリアンは眠る坊やの上にそれを掲げると、徐に口を開いた。
「貴方が生後千九十六日目を迎え、二番星が空に輝いた時、貴女を妖精界へと招待する事を、妖精の女王に代わり、このタリアンが約束致します」
「なんと!それは誠ですか!」
ガレナが嬉々として言った。
「但し、それまで貴方が妖精の友であり、清き心を忘れぬ人間である事が条件です」 タリアンはガレナを無視するように話し続けた。「どうか、虹色のトゥインクルを生み出す程の、その純粋無垢な心が失われませんように」
タリアンは光の塊を、慎重に坊やの胸元に運んだ。すると光は、まるで坊やの体に吸い込まれるかのようにゆっくりと消えていった。
ラーグは開いた口が塞がらないままだった。人間が妖精界に招待される所を、この目で見ることが出来るなんて、夢でも見ている気分だった。
「なんて素敵な事かしら!私達の可愛い坊やが妖精界に招待されるなんて!」
静寂を破ったのはパープおばさんだった。
「めでたい、これはめでたい!本当に。いや、なんて光栄な。ありがとうございます」
ガレナは今にも抱き付きそうな勢いで、タリアンに迫った。
「その年に産まれた子の中で、トゥインクルを多く出して下さる子を、毎年何人か選抜させて頂いているんです。今年はこの子で二人目ですわ」
タリアンが落ち着き払った声で言った。
「じゃあ、坊やの他にも妖精界に行く子がいるって事?楽しみだなー」
ラーグが浮かれた声で言った。
「あんたって、ほんと馬鹿。どうせ、妖精界になんて誰も招待されないわよ」
ティエラが冷たい声で言った。
「なんでさ」
ラーグは目を丸くした。
「三歳まで、妖精の姿が見えてなきゃ駄目って事よ?そんな子、滅多にいないわ」
「そうですわね。貴女の言う通り、滅多に居ませんわ。ここ何十年かは、一人も招待出来ていませんもの」
「え、そうなの?なんだ。期待して損したよ」
ラーグは肩を落とした。
「否、坊やは三歳になっても妖精を見ることが出来る」
ガレナが言った。
「そうね。私も、坊やは大丈夫だと思うわ」
パープおばさんが言った。
「おーい、もう終わったかー」
ソファで寝ていた中年妖精が、大きな欠伸をしながら飛んできた。寝起きのせいか、やけにふらふらしていて危なっかしい。
「あっ、おじさん!」
ラーグが言った。
「よう、ラーグ。お前さん、大手柄だったそうじゃねぇの」
「えっ…手柄?手柄って何の事?」
「フリント、彼にあれを渡して下さる?」
タリアンが冷めた声で言った。
「はっはー。言われなくとも、既に準備してあるぜ」 豪快に笑うフリントの横で、タリアンがみるみる内に機嫌を損ねていった。「ほいよ。虹色のトゥインクルをたんまり集めてくれたお前さんに、女王様からのご褒美だ。っても、誰に渡すかは、俺が勝手に決めてんだけどな。はっはー」
フリントはラーグの手を取ると、何かを固く握らせた。
「これは何?」
ラーグが掌を開くと、そこには、夕日色に輝く美しい宝石がのせられていた。宝石の中で、頭に冠をのせた金色の妖精の影が優雅に飛び回っている。
「うわぁ、すごいや!こんなの始めて見たよ!僕が貰っていいの?…この妖精、本物じゃないよね?」
「本物なわけねぇだろ。特別な魔法がかけられてる。どんなトゥインクルを使ってるかは知らねぇが。これがありゃ、妖精界は何処にでも行けるぞ!」
「例えば何処よ?」
ティエラが言った。
「そーだなー…火の妖精がいるベンヌ洞窟とか、星の妖精がいるディアスティマ洞窟とか」
「洞窟ばっかりねぇ」
パープおばさんが呆れた声で言った。
「女王様に謁見することも出来ます」
タリアンが誇らしげに言った。
「なんと!女王様に?」
ガレナが目を丸くしていった。
「なんでもありな通行書って所だな」
「でも、家妖精には使い道がないんじゃないかしら」
パープおばさんの言葉に、皆が目をぱちくりさせた。
「はっはー、そうだな。ラーグが隠居でもして、妖精界に帰りでもしない限り、使い道はねぇかもな」
「でもこれ、僕、すごく気に入ったよ。だって、とっても綺麗だもの。この妖精、女王様なのかな……」
ラーグはうっとりしながら、手の中の宝石を眺めた。宝石の中の妖精は、羽をぱたつかせ、長い髪を両手でとかしている。
「ええ、女王様をモデルにしたものです。わたくしが作らせましたの」
タリアンが胸を張って言った。
「へー。兎に角、ありがとう。僕、大事にするよ」
ラーグは嬉々としてそう言うと、思い立ったように、ガレナとティエラに視線を向けた。
ガレナは目を輝かせ、物欲しそうな顔で、ラーグの手にある宝石を見つめている。
一方、ティエラはあからさまに腑に落ちない顔をしていた。
ティエラの表情をみて、ラーグは宝石ののった掌をギュっと握りしめた。
「あの、でも、僕……僕、実は家を抜け出して、病院までママに付いていったんだ。だから、あの、虹色のトゥインクルがたくさんとれたのはそのお陰で…」
ラーグが消え入りそうな声で言った。
「あ?何?それがどうしたってんだ!規則は破るためにあらぁ」
フリントが笑い飛ばした。
「いいえ、規則は守る為にあります」タリアンが厳しい口調で言った。「ですが、貴方が今回破った規則は、妖精自信を守る為に作られた規則です」
「どういう意味?」
ティエラが言った。
「家妖精が住みかを離れるという事は、様々な危険に合う可能性が極めて高くなると言うことです。人間の家というものは、家妖精にとって、他のどこよりも安全な場所なのですよ。もっとも、狂暴な動物がいない限りはですが。まあ、大抵は動物妖精が礼儀を教えているので、問題になるようなことは……時々ありますが……」
「あー、まどろっこしい!ようは、迷子にもならなければ、他の生き物にも襲われなかった。特にあの物凄い速さで走る車ってやつだ!あいつは妖精の言葉が通じない上、俺達の事も見えてない。あんなのとぶつかりでもしたら、妖精といえどお陀仏だ」
「そうです。あの恐ろしい生き物。動物妖精ですら、手に負えないのですから。ですが、一番怖いのは、なんと言っても、何でも食べてしまうという生き物、コラプサー」
「コラプサー?」
ラーグが言った。
「コラプサーはな、ある日突然、宇宙から落っこちてきたんだ。真っ黒な体に、目はギラギラと輝き、その目に一度睨まれたら、次の瞬間には何でも丸のみにされちまう。さすがに大型の動物や人間までは食べないらしいがな。妖精なんかも食べちまうらしいぞ。」
フリントのおどろおどろしい声に、ラーグとティエラは顔を真っ青に染めた。
「ちょっと、若い子達を脅かすのはやめてちょうだい。そんなのただの古いお伽話じゃない」
パープおばさんが声を荒げた。
「お伽話なんかじゃありませんわ。現に、毎年必ず行方不明になる妖精が居りますもの」
「コラプサーは、薄暗い場所や茂みなんかに隠れてるって話だぜ。家妖精には縁のない話かも知れねぇが、妖精界や自然を管理する妖精達の間じゃ有名な話だ」フリントはラーグの肩をポンポン叩くと、豪快な笑顔を浮かべた。
「規則破りは問題ですが、今回の行動は、人間を思っての事。その勇気を咎める事は、女王様もなさらないでしょう」
「ま、お前さんが無事で何よりだ。規則はどうあれ、そいつはお前さんの物だ。虹色のトゥインクルは、それだけ妖精界にとって貴重な物ってことだな」
「タリアンさんとフリントの言う通りだ。有り難く受け取りなさい、ラーグ」
ガレナの言葉に、ラーグはちらりとティエラを見た。が、ティエラは話を聞くのに飽きたのか、坊やの回りをくるくると旋回しているだけだった。
「ありがとう。使う事はないと思うけど、大切にするよ」
ママと坊やを思っての行動は、たくさんの非難を浴びせられたが、勇気ある行動だと認めてくれる人もいる。何かを貰えるよりも、認めてもらった事自体が、ラーグには何よりの褒美に思えた。
「ただ、人間に深入りするのは、とても危険な事です。あまり情を移さないように」
タリアンが忠告するように言った。
ラーグは一晩中、その言葉を思い出しては、危険な事など絶対にないと強く思った。病院で出会った埃妖精のお婆さんも似たようなことを言っていたが、二人が心配性なだけなのだと。
クレイの視線が、虹色のトゥインクルに注がれていることに気が付いたラーグは、何とか興味を反らせないものかと焦りの色を浮かべた。
「どんなに掃除しとったって、家から埃はなくならん。集めるのは簡単じゃ。しかし、埃がたくさん集められるかというのは問題ではない。いかにさりげなく、埃を残せるかが問題じゃ」
「そ、そうなの?」
「それに、今日は曇っとる」
クレイは開け放たれた窓を指差した。窓の外には、クレイの言う通り、どんよりとした灰色の空が広がっている。
「あー…でも、ほら。夏は暑いから……曇ってた方が、いい天気…かも」
「向日葵が頭を垂れておる。夏に敬意を払っているんじゃ。そろそろ、夏も終わりじゃろうて」
「あー…そう。えっと……」
ラーグは他の話題を探したが、虹色のトゥインクルに気を取られ、頭が上手く回転しなかった。
「そんなことより、それをどうやって隠すか、ほかに名案はあるのかの?」
ラーグの背後で輝く、虹色のトゥインクルを指差しながら、クレイが言った。
「え?あ、こ、これは…あの、このトゥインクルの事、皆には…」
ラーグが言った。あまりの緊張に、自分でも声が震えているのがわかった。
「心配無用じゃ。その輝きを見ればわかる。それは、ちびちゃんが始めて笑った時のトゥインクルじゃろ?」
「え?そう。そうだよ!クレイってばすごい!輝きだけで見分けがつくなんて!」
ラーグは尊敬を込めた眼差しでクレイを見た。
「あまりに長過ぎる時を生きているからの。さすがにそれくらい見分けがつく。それより、どうするんじゃ?他の妖精達に見つけられたくないんじゃろ?」
「あー、うん。クレイにばれたら集荷妖精に渡されちゃうだろうし。パープおばさんは若返りたいみたいだから、きっと欲しがると思うんだ。それに、ソフィとミモルになんて見つかったら…きっと食べられちゃうよ」想像しただけで、ラーグは恐ろしい気分になった。「首から下げるって、つまりネックレスにするって事だよね?良い案だとは思うけど。でも、パープおばさんに糸を何本か貰って来ないといけないし」
「それなら、心配いらん」
クレイはふさふさの眉毛を上げ、得意気に微笑んだ。
「何か、紐みたいな物でも持ってるの?」
ラーグの問いかけに、クレイはただ首を横に降った。そして、隣で跳び跳ねている、フルグを両手で素早く捕まえると、片手をフルグの埃だらげの体へと突っ込んだ。体と言っても、埃で出来た丸い塊のフルグは、何処が頭で、何処が体なのかわからない。はっきりと分かるのは、開いたり閉じたりする大きな口だけだ。
「ふむ。ん?これか…よし。捕まえたぞ」
クレイが言った。
ラーグは、クレイがフルグの体から取り出したものを見て目を丸くした。
「そ、それ、ハエトリグモ……だよね」
ラーグが身震いしながら言った。
クレイの手にしっかりと握られたハエトリグモは離せとでも言わんばかりに、もじゃもじゃと毛の生えた細長い八本の足を頻りに動かしている。お腹を見せてもがく蜘蛛の姿といったら、とてもじゃないが、ラーグにとっては好感の持てるものではなかった。
「シラヒゲハエトリグモだそうじゃ。フルグの埃のダニを食べてもらうのに、デュモルから借りたんじゃが…」
「あー、そうなの?ところで、そろそろ降ろしてあげた方が良いんじゃないかな……何だか、怒ってるみたい」
クレイの手の中で、蜘蛛が怒ったように小さな鳴き声を上げるのを聞いて、ラーグが脅えたように言った。
「おお、そうじゃな。すまんかったの」
クレイが蜘蛛を床に降ろすと、蜘蛛は喜びを表すかのように小さく跳び跳ねた。
「お前さんは埃集めを続けておくれ。ただし、とりすぎはいかんぞ」
続けて、クレイはフルグをレールの上に降ろした。フルグは返事をするかの様に口をパクパクさせると、そのままレールの上をコロコロと転がっていった。
「えっと、それでその蜘蛛、どうするの?」
「蜘蛛の糸はとても綺麗なんじゃ」
「蜘蛛の糸?まさか、それを使おうって言うんじゃないよね」ラーグが、嫌悪感を露にして言った。「あんな、ベトベトする糸を?」
「ベトベト?そんなものは使えん。使うのは頑丈で粘着性のないものじゃ」クレイが怪訝な顔で言った。「さぁ、蜘蛛さん。話は聞いていたじゃろ?頼むぞ」
クレイの言葉に、蜘蛛は前方に付いた、四つの目を輝かせた。クレイはラーグに一度だけ微笑んで見せると、両手を蜘蛛の方へ差し出した。それが合図だったかの様に、蜘蛛は前足を大きく上げ、腹を見せたかと思うと、クレイの両手に細長い糸がピュンっと飛び出してきた。クレイはそれを手に巻き付けながら、糸を引っ張り続けた。
「ああ……」
ラーグはその様子を見守りながら、どんどん気分が沈んでいった。自分があの糸を首から下げるだなんて。ラーグの脳裏に、蜘蛛の糸でベトベトになった自分の姿が浮かんだ。
蜘蛛の後頭部に付いた丸い四つの目が、ラーグをじっと見つめている。それに気が付いたラーグは、苦い笑みを浮かべ、片手を上げて挨拶をした。
「よしよし。そろそろいいじゃろ。ありがとさん」
クレイの言葉に、蜘蛛はプツンと音を立てて糸を出すのを止めた。ラーグは、それをただ呆然と眺めているだけだった。クレイは切れた糸を巻き取りながら、不思議そうにラーグを見つめた。
「何?」ラーグが言った。
「お前さん、礼を言わんのか?この蜘蛛は、お前さんの為に貴重な糸を分けてくれたんじゃぞ」
クレイが言った。
クレイの隣で、ラーグに背を向けていた蜘蛛はクルリと方向転換すると、正面についた四つの目でラーグを見据えた。そして、クレイに賛同するかの様に、小さな鳴き声を上げた。
「ああ。うん。そうだね。ごめん。ベトベトかどうかは置いといて……僕の為に糸を分けてくれたんだもの」ラーグは蜘蛛の目前まで飛んでいくと、礼儀正しくお辞儀をした。「ありがとう」
蜘蛛は前足を器用に折り曲げると、ラーグの真似をするかの様に、お辞儀をして見せた。
ラーグはつい最近まで、ハエトリグモと一緒に仕事をすることがあったが、ハエトリグモを可愛いと思うことは一度もなかった。だが、この時だけはさすがに蜘蛛が可愛く思えた。
「よし。じゃあ、蜘蛛さん。お前さんはフルグの所に戻ってやってくれるかの?」
蜘蛛は縦に大きく頷くと、八本足で素早く壁を伝い、いつの間にか別のレールに移動していたフルグの体に潜り込んでいった。
「えっと、それで?」
ラーグが言った。
「お前さん両手を前に出してくれ」
「はい」
ラーグはクレイに言われた通り、素直に両手を差し出した。
「ふむ。もうちぃっと、開いた方がいいな。肩幅より少し広めに…おお。そのくらいじゃ。次は、この糸の端を持って……しっかりと持っとるんじゃぞ」
「分かったよ」
ラーグは二つ返事で答えた。蜘蛛の糸を使うのはごめんだと、クレイに言ったところで、結果が変わるだろうとは到底思えなかったのだ。
クレイはそんなラーグの心境などお構い無しに、ラーグの両腕の間を何度も行き来して、器用に糸をラーグの腕に巻き付けていった。
「巻き終わったぞ。わしが支えておくから、そっと腕を抜くんじゃ。いいか?そっとじゃぞ」
「はーい。でも、ベタベタで取れないんじゃないかな」
ラーグは糸から慎重に腕を抜き取った。
「あれ?なんで?綺麗に抜けた」
ラーグは口をポカンとあけた。ラーグの腕を離れた糸が、クレイの両手に、綺麗に折り重ねられてのっていたのからだ。
「獲物を捕らえるための糸ではないからの。蜘蛛は賢い生物じゃ。さてさて、次は……」
クレイは糸を慎重にレールの上に置くと、もじもじゃした髭の中から紫色のトゥインクルの欠片を取り出した。グラファが使っていた物と同じものだったが、それよりも二回り程、ラーグには小さく見えた。
クレイはトゥインクルの欠片を両手で挟むと、糸の真上で両手を擦り始めた。すると、紫色のキラキラした砂粒のようなものが、糸の上に満遍なく降り注いだ。
「固くなっちゃうんじゃない?」
ラーグが言った。
「大丈夫じゃ。使い加減を間違えなければな。ほれ」
クレイは無造作に糸を片手で持ち上げた。糸はしなってクレイの手から垂れていたが、一本の丈夫な紐になっていた。
「恐怖のトゥインクルのお陰で頑丈じゃ。今日はあいにくの曇で、残念ながら見せられんが…太陽の光にあたると、とても美しいぞ。ほれ、お前さんの大事なトゥインクルをさっさと持ってこんか」
「ああ、そうだね。ごめん」
ラーグは大急ぎでハンモックに戻ると、虹色のトゥインクルを手にクレイの元へ戻った。
「これ、どうやってくっつけるの?」
「まっとれ。粘着性のやつがある。こっちじゃないの……ふむ、これか?いや、違う…お!これじゃ」
クレイは髭に手を突っ込むと、小さな箱を取り出した。クレイが箱を開けると、なにやらベタベタした白いものが箱一杯に詰まっていた。
「うげっ、何それ?」
「粘着性の蜘蛛の糸じゃ」
「まさか、それでくっつけるの?」
「そうじゃ」
クレイはラーグに有無を言わせる暇も与えず、虹色のトゥインクルを取り上げた。そして、粘着性の糸を使って、手際よく紐とトゥインクルとをくっ付けた。
「これにも恐怖のトゥインクルじゃな」 クレイは先程と同じように、紫色のトゥインクルを振り掛けた。「これで完成じゃ。ほれ」
クレイは完成した首飾りを、ラーグの首に優しく掛けた。
「うわぁ。思ってたより、全然良いよ」
ラーグは掛けられた首飾りを手に取り、まじまじとそれを見た。糸は、トゥインクルの効果で全くベタつかないし、長さも服に隠れる程度で調度よかった。何よりも、大事なトゥインクルを肌身離さず身に付けていられる。
「僕、本当は、蜘蛛の糸を使うなんて、どうかしてるって思ってたんだ。でも、想像していたより、ずっと良いよ。ありがとう!」
ラーグが嬉々として言った。
「何でも見かけだけで判断すると、損をするぞ」
クレイの表情は、もじゃもじゃの髭と眉毛で見えなかったが、ラーグには不思議と微笑んでいるように感じられた。
「さて、さて。そろそろベッドの埃集めといくか」
クレイは愉快そうに笑い声を立てながら、軽快なステップでベッドに向かっていった。
「あ、そうだ!」
取り残されたラーグは、首から下げたトゥインクルを、丁寧に自分の服の下に隠した。
「これで大丈夫。絶対誰にもバレないぞ」
ラーグはリビングへと続く階段を、恐る恐る慎重に降りた。ティエラが昨夜の出来事を、ガレナに言っているはずだ。きっとガレナはカンカンに怒って、何かしらの罰を与えてくるだろう。そう思うと、ラーグの足取りは(といっても飛んでいるのだが)ますます重いものへと変わっていった。
が、ラーグの予想とは反対に、リビングから妖精達の楽しげな話し声が聞こえてきた。
「本当に素晴らしいですわ。女王様も、きっとお喜びになられることでしょう」
「それはもう…その通りでしょうな」
「こちらの坊ちゃんかしら?こんなにたくさん、虹色のトゥインクルをわけてくださったのは」
「ええ、そうです。この子ですよ」
ラーグは階段からそっとリビングを盗み見た。
ソファの上で、ママが横になって眠っているのが見えた。その横に設置された白いベビーベッドを取り囲むように、四人の妖精が飛んでいる。クレイ、ティエラ、パープおばさん、そしてもう一人、ラーグの知らない妖精だ。
ラーグは話が聞こえるよう、ゆっくりと慎重にソファの影へと移動した。
「なんて優しいお顔の坊っちゃんかしら」見知らぬ妖精は、ベビーベッドへ軽やかに降り立った。「とっても可愛いわ。貴方には、ご褒美をあげなくてはね」
「そうでしょうとも。、こんな可愛い子は他に…ん?何です?褒美?今、褒美と?」
クレイが言った。
「ええ。そうです。こちらの坊っちゃんが、生後千九十六日目を迎え、二番星が空に輝いた時、とても素敵な事が起こるように」
「千九十六日?それっていったい何歳なのかしら?」
パープおばさんが言った。
「生後だから、生まれた次の日が一日目で…」
ティエラが言った。
「二歳の最後の夜の事です!」見知らぬ妖精が、声を少し荒げて言った。「もっとも、それまで妖精が見えていたらの話ですが」
「いったい何が起こるんですか?」
クレイが言った。
「静かに!気が散ってしまうじゃありませんかっ」見知らぬ妖精が憤慨した。「あらあら!まあ、まあ!ごめんなさい!起こすつもりじゃなかったのよ」
見知らぬ妖精が喚いたかと思うと、 今度は坊やの激しい泣き声が響いた。
ソファの上で眠っていたママが飛び起き、素早くベビーベッドに駆け寄ると、坊やを優しく抱き上げた。
「どうしたの?授乳の時間じゃないし、おむつかな……否、違う。怖い夢でも見たのかな?大丈夫だよ、ママがいるからね」ママは焦りの色を浮かべながらも、坊やを抱いて、ゆっくりと揺りかごのように左右に揺れだした。「大丈夫。大丈夫だからね」
ラーグは居ても立っても居られず、ママの腕に抱かれた坊やの元へ飛び寄った。
「坊や!大丈夫?」
だが、ラーグの心配は無用だった。坊やはすでに泣き止み、ママの腕の中でうとうとと微睡み始めたのだ。
「ママってば、流石だね。君はもう、すっかり一人前のママだよ」
ラーグは嬉々として言った。
「あら、ラーグ」
ラーグを見つけたパープおばさんが、ラーグの側に飛び寄ってきた。
「貴方、ティエラ一人に子守りを押し付けたんですって?そんなことしちゃ駄目よ。ティエラが可哀想じゃない」
パープおばさんの少し後ろの方で、ティエラが満足げに頷くのが見えた。
「僕、わざと押し付けたわけじゃないんだ。パパの様子を見に行ったら、そのまま部屋から出れなくなっちゃって」
「どうしてパパの様子なんて見に行ったの?交代でやるって言ったんだから、その場を離れちゃ…」
「あの、ちょっとよろしいかしら。失礼 。そこの緑の服の…」パープおばさんがを押し退けて、見知らぬ妖精がラーグに近づいてきた。「あら。まあ、こんなに若い子なんですの?貴方がラーグ?」
見知らぬ妖精は品定めでもするかのように、ラーグをじろじろと頭から爪先まで見回した。
ラーグは不快感を隠すことなく、その妖精を見返した。
肩まで伸びた巻き毛に、紺色のワンピース。何とも品の良さそうな女性だったが、妙に利発的で、丁寧な言葉遣いからは想像ができない程、きつい印象の顔つきだ。
「わたくし、タリアンと申します。今後、虹色のトゥインクルはわたくしが集荷いたしますので、どうぞよろしく」
タリアンに押し退けられたパープおばさんが、顔を真っ赤にして怒っているのが見えた。
「え?前のおじさんは?」
「わたくしが集荷するのは、貴重な虹色のトゥインクルだけです。以前から来ている方なら…ほら、あちらの椅子の片隅で、呑気に寝ていらっしゃいますわ」
タリアンが険しい顔つきで、反対側にあるソファを指し示した。
見ると、一人掛け用のソファの上に、胡座をかいて眠りこける、中年の男妖精の姿があった。タリアンとは正反対で、茶色いボロボロの服装をしている。手入れのされていない無精髭が、ただでさえだらしない雰囲気の彼を、よりだらしないものへと強調していた。
「よかった。集荷の妖精が変わっちゃうのかと思ったよ」
「あら。わたくしでは、何か不都合でも?」
タリアンが刺々しく言った。綺麗に手入れされていた巻き毛が、獣のように逆立ったのを見て、ラーグは息を呑んだ。
「あ、いえ、そういうつもりじゃあ…」
口ではそう言ったものの、いつもの集荷のおじさんの方が、ラーグにとっては好感の持てる妖精だった。少なくともおじさんは、こんなくだらないことで怒ったりはしないだろう。
「ちょっと、貴女。ラーグに用があったんじゃないの?私の事を突き飛ばしてまで話したかったのは、そんな話しなのかしらね」
パープおばさんが嫌味たらしく言った。
「そう、そうですわ。こんな話をしている場合ではありませんでした。わたくしは女王様から、とても大切な任務を授かっているのです。わたくしは、特別選ばれた妖精ですから。ええ、そうですとも。あのだらしない妖精とは、女王様からの信頼の厚さが違います」
「そ、れ、で!それがなんだって言うの!」
痺れを切らせたパープおばさんが、強い口調で言った。
「少し黙っていて下さいます?」
パープおばさんとタリアンの間で、激しい火花がバチバチと飛び散った。
「あの、僕に何か話したいことが?」
ラーグは意を決したように、二人の間に割って入った。
タリアンはハッと我に返ると、ポケットから小さな櫛を取り出し、逆立った髪を丁寧に直した。
「貴方がラーグ。間違いないわね?」
「はい、僕がラーグです。あの、僕、何か…」
「質問の回答だけすればよろしいのよ」
タリアンがぴしゃりと言った。
「え?あ、ごめんなさい」
「それでは、あの虹色のトゥインクルを集めたのは、貴方って事でよろしいのね」
タリアンはベビーベッドの片隅に置かれた麻袋を指差した。少し開いた麻袋の口から、虹色のトゥインクルが顔を除かせている。
ラーグはドキリとした。もしかするとタリアンは、あの虹色のトゥインクルをどうやって手にいれたのか、クレイから聞いたのかもしれない。女王様からの大切な任務とは、規則を破った妖精に厳しい処分を下すことなのかも。考えれば考える程、ラーグの顔からはみるみる血の気が引いていった。
「聞いてますの?貴方でよろしいんですのよね?それとも、別のラーグがいらっしゃるのかしら?」
「あー…えっと……」
「ラーグ、どうして返事をしないの?この家で、ラーグは貴方しかいないでしょう?」
パープおばさんが言った。
「パープおばさん……」
ラーグはうなだれた。
「貴方で間違いないようですね」
タリアンが威厳のある声で言った。
「えっと、あー……そうです」
ラーグが歯切れ悪く言った。
タリアンが口を開こうとしたところで、大きな咳払いが下の方から聞こえてきた。上空に飛び上がっていた妖精達が、一斉に下を見た。いつの間に眠ったのか、坊やがベビーベッドの上で寝ている。その頭の横で、明らかに不機嫌な表情をしたクレイが突っ立っていた。
「どうかなさいまして?」
話を邪魔されたタリアンが、不服そうに言った。
「ラーグの事よりも、坊やへの褒美はどうなったんですか?」
クレイの言葉に、ラーグはほっとした。
「あら、そうでしたね。わたくしとした事が。坊っちゃんが先でしたわ」
タリアンはラーグに目もくれることなく、あっという間に坊やの元へ戻った。
「ほら、ラーグ。一緒に見に行きましょう」
胸を撫で下ろしたラーグの背中を、パープおばさんが促すように叩いた。
「あいたっ……う、うん」
ラーグは気の進まない思いで、パープおばさんに続いた。途中でティエラも合流したが、ティエラの様子はとても退屈そうだった。昨夜の件で未だに自分が叱られていないのが、きっと面白くないのだろうと、ラーグは思った。
ラーグ達がベビーベッドに降り立ったのを合図にしたかの様に、タリアンはどこからともなく輝く光の塊を取り出した。光の塊は、夕焼けのように輝いたかと思うと、今度は優しい月の光のように、その次は、眩い昼間の太陽のように、次々に光の色と輝きを変えていった。
その場に居合わせたタリアン以外の妖精が、皆、塊の放つ光の美しさに息を呑んだ。
タリアンは眠る坊やの上にそれを掲げると、徐に口を開いた。
「貴方が生後千九十六日目を迎え、二番星が空に輝いた時、貴女を妖精界へと招待する事を、妖精の女王に代わり、このタリアンが約束致します」
「なんと!それは誠ですか!」
ガレナが嬉々として言った。
「但し、それまで貴方が妖精の友であり、清き心を忘れぬ人間である事が条件です」 タリアンはガレナを無視するように話し続けた。「どうか、虹色のトゥインクルを生み出す程の、その純粋無垢な心が失われませんように」
タリアンは光の塊を、慎重に坊やの胸元に運んだ。すると光は、まるで坊やの体に吸い込まれるかのようにゆっくりと消えていった。
ラーグは開いた口が塞がらないままだった。人間が妖精界に招待される所を、この目で見ることが出来るなんて、夢でも見ている気分だった。
「なんて素敵な事かしら!私達の可愛い坊やが妖精界に招待されるなんて!」
静寂を破ったのはパープおばさんだった。
「めでたい、これはめでたい!本当に。いや、なんて光栄な。ありがとうございます」
ガレナは今にも抱き付きそうな勢いで、タリアンに迫った。
「その年に産まれた子の中で、トゥインクルを多く出して下さる子を、毎年何人か選抜させて頂いているんです。今年はこの子で二人目ですわ」
タリアンが落ち着き払った声で言った。
「じゃあ、坊やの他にも妖精界に行く子がいるって事?楽しみだなー」
ラーグが浮かれた声で言った。
「あんたって、ほんと馬鹿。どうせ、妖精界になんて誰も招待されないわよ」
ティエラが冷たい声で言った。
「なんでさ」
ラーグは目を丸くした。
「三歳まで、妖精の姿が見えてなきゃ駄目って事よ?そんな子、滅多にいないわ」
「そうですわね。貴女の言う通り、滅多に居ませんわ。ここ何十年かは、一人も招待出来ていませんもの」
「え、そうなの?なんだ。期待して損したよ」
ラーグは肩を落とした。
「否、坊やは三歳になっても妖精を見ることが出来る」
ガレナが言った。
「そうね。私も、坊やは大丈夫だと思うわ」
パープおばさんが言った。
「おーい、もう終わったかー」
ソファで寝ていた中年妖精が、大きな欠伸をしながら飛んできた。寝起きのせいか、やけにふらふらしていて危なっかしい。
「あっ、おじさん!」
ラーグが言った。
「よう、ラーグ。お前さん、大手柄だったそうじゃねぇの」
「えっ…手柄?手柄って何の事?」
「フリント、彼にあれを渡して下さる?」
タリアンが冷めた声で言った。
「はっはー。言われなくとも、既に準備してあるぜ」 豪快に笑うフリントの横で、タリアンがみるみる内に機嫌を損ねていった。「ほいよ。虹色のトゥインクルをたんまり集めてくれたお前さんに、女王様からのご褒美だ。っても、誰に渡すかは、俺が勝手に決めてんだけどな。はっはー」
フリントはラーグの手を取ると、何かを固く握らせた。
「これは何?」
ラーグが掌を開くと、そこには、夕日色に輝く美しい宝石がのせられていた。宝石の中で、頭に冠をのせた金色の妖精の影が優雅に飛び回っている。
「うわぁ、すごいや!こんなの始めて見たよ!僕が貰っていいの?…この妖精、本物じゃないよね?」
「本物なわけねぇだろ。特別な魔法がかけられてる。どんなトゥインクルを使ってるかは知らねぇが。これがありゃ、妖精界は何処にでも行けるぞ!」
「例えば何処よ?」
ティエラが言った。
「そーだなー…火の妖精がいるベンヌ洞窟とか、星の妖精がいるディアスティマ洞窟とか」
「洞窟ばっかりねぇ」
パープおばさんが呆れた声で言った。
「女王様に謁見することも出来ます」
タリアンが誇らしげに言った。
「なんと!女王様に?」
ガレナが目を丸くしていった。
「なんでもありな通行書って所だな」
「でも、家妖精には使い道がないんじゃないかしら」
パープおばさんの言葉に、皆が目をぱちくりさせた。
「はっはー、そうだな。ラーグが隠居でもして、妖精界に帰りでもしない限り、使い道はねぇかもな」
「でもこれ、僕、すごく気に入ったよ。だって、とっても綺麗だもの。この妖精、女王様なのかな……」
ラーグはうっとりしながら、手の中の宝石を眺めた。宝石の中の妖精は、羽をぱたつかせ、長い髪を両手でとかしている。
「ええ、女王様をモデルにしたものです。わたくしが作らせましたの」
タリアンが胸を張って言った。
「へー。兎に角、ありがとう。僕、大事にするよ」
ラーグは嬉々としてそう言うと、思い立ったように、ガレナとティエラに視線を向けた。
ガレナは目を輝かせ、物欲しそうな顔で、ラーグの手にある宝石を見つめている。
一方、ティエラはあからさまに腑に落ちない顔をしていた。
ティエラの表情をみて、ラーグは宝石ののった掌をギュっと握りしめた。
「あの、でも、僕……僕、実は家を抜け出して、病院までママに付いていったんだ。だから、あの、虹色のトゥインクルがたくさんとれたのはそのお陰で…」
ラーグが消え入りそうな声で言った。
「あ?何?それがどうしたってんだ!規則は破るためにあらぁ」
フリントが笑い飛ばした。
「いいえ、規則は守る為にあります」タリアンが厳しい口調で言った。「ですが、貴方が今回破った規則は、妖精自信を守る為に作られた規則です」
「どういう意味?」
ティエラが言った。
「家妖精が住みかを離れるという事は、様々な危険に合う可能性が極めて高くなると言うことです。人間の家というものは、家妖精にとって、他のどこよりも安全な場所なのですよ。もっとも、狂暴な動物がいない限りはですが。まあ、大抵は動物妖精が礼儀を教えているので、問題になるようなことは……時々ありますが……」
「あー、まどろっこしい!ようは、迷子にもならなければ、他の生き物にも襲われなかった。特にあの物凄い速さで走る車ってやつだ!あいつは妖精の言葉が通じない上、俺達の事も見えてない。あんなのとぶつかりでもしたら、妖精といえどお陀仏だ」
「そうです。あの恐ろしい生き物。動物妖精ですら、手に負えないのですから。ですが、一番怖いのは、なんと言っても、何でも食べてしまうという生き物、コラプサー」
「コラプサー?」
ラーグが言った。
「コラプサーはな、ある日突然、宇宙から落っこちてきたんだ。真っ黒な体に、目はギラギラと輝き、その目に一度睨まれたら、次の瞬間には何でも丸のみにされちまう。さすがに大型の動物や人間までは食べないらしいがな。妖精なんかも食べちまうらしいぞ。」
フリントのおどろおどろしい声に、ラーグとティエラは顔を真っ青に染めた。
「ちょっと、若い子達を脅かすのはやめてちょうだい。そんなのただの古いお伽話じゃない」
パープおばさんが声を荒げた。
「お伽話なんかじゃありませんわ。現に、毎年必ず行方不明になる妖精が居りますもの」
「コラプサーは、薄暗い場所や茂みなんかに隠れてるって話だぜ。家妖精には縁のない話かも知れねぇが、妖精界や自然を管理する妖精達の間じゃ有名な話だ」フリントはラーグの肩をポンポン叩くと、豪快な笑顔を浮かべた。
「規則破りは問題ですが、今回の行動は、人間を思っての事。その勇気を咎める事は、女王様もなさらないでしょう」
「ま、お前さんが無事で何よりだ。規則はどうあれ、そいつはお前さんの物だ。虹色のトゥインクルは、それだけ妖精界にとって貴重な物ってことだな」
「タリアンさんとフリントの言う通りだ。有り難く受け取りなさい、ラーグ」
ガレナの言葉に、ラーグはちらりとティエラを見た。が、ティエラは話を聞くのに飽きたのか、坊やの回りをくるくると旋回しているだけだった。
「ありがとう。使う事はないと思うけど、大切にするよ」
ママと坊やを思っての行動は、たくさんの非難を浴びせられたが、勇気ある行動だと認めてくれる人もいる。何かを貰えるよりも、認めてもらった事自体が、ラーグには何よりの褒美に思えた。
「ただ、人間に深入りするのは、とても危険な事です。あまり情を移さないように」
タリアンが忠告するように言った。
ラーグは一晩中、その言葉を思い出しては、危険な事など絶対にないと強く思った。病院で出会った埃妖精のお婆さんも似たようなことを言っていたが、二人が心配性なだけなのだと。
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