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「宿り木の双子」
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ミーム王国マレリーナ辺境伯領。
その最果てに、ぽつんと佇む小さな宿がある。
石造りの壁に、木の香りがする梁。赤い瓦屋根が目印のその宿は、「宿り木」と呼ばれていた。
季節は春。
山々の雪解け水が川を満たし、草花が目を覚ます頃――
宿り木の店主夫婦、アベルとミーナの元に、二つの命がやってきた。
ひとりは、真っ赤な産毛がくしゃりと跳ねた元気な男の子。
もうひとりは、栗色のふわふわした髪に、落ち着いた瞳の男の子。
「……双子、か」
アベルがぽつりと漏らし、ミーナはその腕の中で眠る二人に目を細めた。
「名前、どうする?」
「そうだな……長男には、“透き通る目”という意味を込めて、“トウマ”はどうだ?」
「じゃあ、弟は……“優しい真実”って意味で、“ユウマ”にしましょう」
こうして――赤毛のトウマと栗毛のユウマは、「宿り木」の新しい住人となった。
* * *
生まれてからしばらくして、不思議なことが起こり始めた。
ある夜のこと。ミーナが赤ん坊たちの寝息を確認しに部屋へ向かうと、薄明かりの中で――誰かが、ベッドのそばに立っていた。
老人のような、旅人のような、影のような……はっきりとしないその姿。
「……あなた、誰?」
ミーナの声にその影は一歩下がり、静かに頭を下げた。
『……この宿は、変わらずあたたかいですね。新しい命が、まるで春風のようです』
ミーナが目を瞬く間に、その姿はふっと消えた。
「……夢、だったのかしら」
けれどそれ以降、トウマは時々、誰もいない方向に笑いかけたり、手を伸ばしたりするようになった。泣き止まない夜も、ふと静かになり、まるで誰かと話しているかのように目を動かす。
「きっと、あの子には見えてるのね」
ミーナは微笑み、そっとトウマの髪を撫でた。
一方のユウマはといえば、よく小鳥たちに囲まれていた。庭に出れば、スズメやリスが近寄ってくる。まだ言葉も話せないのに、彼らと何かを分かち合っているように見えた。
ある日、アベルが笑いながらこう言った。
「おいおい、ミーナ。まるでこの双子は、“目に見えないもの”と仲良くする才能でもあるみたいだな」
「……きっと、この宿が呼んだのよ。トウマとユウマを」
ミーナの声は優しく、確信に満ちていた。
その日、春の風が吹いた。
――そして「宿り木」に、新たな伝説が、静かに芽吹いた。
その最果てに、ぽつんと佇む小さな宿がある。
石造りの壁に、木の香りがする梁。赤い瓦屋根が目印のその宿は、「宿り木」と呼ばれていた。
季節は春。
山々の雪解け水が川を満たし、草花が目を覚ます頃――
宿り木の店主夫婦、アベルとミーナの元に、二つの命がやってきた。
ひとりは、真っ赤な産毛がくしゃりと跳ねた元気な男の子。
もうひとりは、栗色のふわふわした髪に、落ち着いた瞳の男の子。
「……双子、か」
アベルがぽつりと漏らし、ミーナはその腕の中で眠る二人に目を細めた。
「名前、どうする?」
「そうだな……長男には、“透き通る目”という意味を込めて、“トウマ”はどうだ?」
「じゃあ、弟は……“優しい真実”って意味で、“ユウマ”にしましょう」
こうして――赤毛のトウマと栗毛のユウマは、「宿り木」の新しい住人となった。
* * *
生まれてからしばらくして、不思議なことが起こり始めた。
ある夜のこと。ミーナが赤ん坊たちの寝息を確認しに部屋へ向かうと、薄明かりの中で――誰かが、ベッドのそばに立っていた。
老人のような、旅人のような、影のような……はっきりとしないその姿。
「……あなた、誰?」
ミーナの声にその影は一歩下がり、静かに頭を下げた。
『……この宿は、変わらずあたたかいですね。新しい命が、まるで春風のようです』
ミーナが目を瞬く間に、その姿はふっと消えた。
「……夢、だったのかしら」
けれどそれ以降、トウマは時々、誰もいない方向に笑いかけたり、手を伸ばしたりするようになった。泣き止まない夜も、ふと静かになり、まるで誰かと話しているかのように目を動かす。
「きっと、あの子には見えてるのね」
ミーナは微笑み、そっとトウマの髪を撫でた。
一方のユウマはといえば、よく小鳥たちに囲まれていた。庭に出れば、スズメやリスが近寄ってくる。まだ言葉も話せないのに、彼らと何かを分かち合っているように見えた。
ある日、アベルが笑いながらこう言った。
「おいおい、ミーナ。まるでこの双子は、“目に見えないもの”と仲良くする才能でもあるみたいだな」
「……きっと、この宿が呼んだのよ。トウマとユウマを」
ミーナの声は優しく、確信に満ちていた。
その日、春の風が吹いた。
――そして「宿り木」に、新たな伝説が、静かに芽吹いた。
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